金田式CR型超シンプルプリアンプの製作~その5:EQカーブと録音用バッファアンプ~ [オーディオ]
2022年9月19日の日記
ようやく完成です。
前回から半年が過ぎました。ようやく電源もテストが終わり,ケースに基板を収めて完成させたいと思います。
もとは,MJ '97.3月号のスーパー・サーキット講座No.15に掲載された回路です。一応,単行本にも転載されていますが,DCアンプシリーズとしては発表されていません。
よほど金田氏はCR型がお嫌いなのでしょうね。本機も回路や特性は掲載されていますが,完成した写真が載っていませんし,試聴会でも公開されたように思えません。
また,最近のIVC型イコライザでも,途中でしばらくCR型無帰還タイプを発表しておられましたが,再び,最近は2段差動NF型に戻っています。
と言う次第なんですけど,iruchanはCR型の音のよいことに気がついたのと,また,MJ '91.9月号掲載のNo.122 "オールFET スーパー・ストレートプリアンプ" の回路(NF型)がほとんど同じなので,CR/NF型切り替え式で作っています。うまくいけば,1台のプリアンプでCR型,NF型EQの音の違いが確かめられますね.....
ところが......。
前回までに基板をチェックし,f特なども測定し,無事に動作することを確認したのですが......。
よくあることなんですけど,いざ,ケースに収めて入出力のシールド線を配線するとうまく動かない,なんてことがあるんですけど,やっぱり今回もしっかりドツボにはまってしまいました......
CR/NF型の切替は6回路2接点のロータリーSWで配線しましたが,やはり非常に面倒。どこかで間違えているようです。イコライザアンプなのに,オシレータの信号周波数を高くすると,どんどん振幅が大きくなったり,フラットだったり,信号が出たなかったりして大変でした。
ピンクはオリジナルとの変更点です。
まあ,しっかり配線チェックしてない方が悪いんですけどね。
でも,ロータリーSW回りの配線はゴチャゴチャで,配線するだけでも大変なので間違えてしまったようです。
と言う次第で,なんとか,CR型,NF型ともにきちんとイコライザーカーブが出るくらい,ちゃんと周波数が高くなると振幅が小さくなって,10kHzで-13dBくらいになることをオシロで観測するところまで来ましたけど......。
ところが,どういうわけか,ch.Rとch.Lで10dBくらいゲイン差があります。ch.Rが1.6Vくらいの出力が出るのに,ch.Lは1Vくらいにしかなりません。
おっかし~~~な~~~
なかなか原因がわからず,2週間が過ぎてしまいました。
ようやく原因判明。
初段のソースには,2N5462の定電流回路を入れてあり,ゲート~ドレイン間に抵抗を入れて初段FET 2SK43の電流を決めています。
金田氏のオリジナルはここには抵抗が入っていなくて,0Ωになっています。
ところがこれではどうしてもオフセットが0にできなかったので,iruchanは47Ωを入れていましたが,ch.Lのほうは0Ωのままでした。
これに気がついて47Ωを入れたのですが,どうもパターンがショートして0Ωのままだったようです。
見つけてみれば,なぁんだ,という不具合ですけど,見つけるまで大変でした。
ようやくこれで正常動作。
☆ ☆ ☆
今度は,EQアンプの出力にバッファアンプを入れたいと思います。
この頃の金田氏のプリアンプはMC専用プリということなので,CDを聴くことは考えていません。
iruchanはCDやFMも聴きたいし,ハイレゾも聴きたいので,入力を切り替えたいのですが,金田氏の原設計のままでは無理です。
というのは,普通,CR型イコライザアンプは,アンプを2台用い,1台目と2台目の間にCRのフィルタ(EQ素子)を入れる構造になっていますが,金田氏の設計はこちらにあるとおり,2nd.アンプを省略し,フラットアンプと兼用する回路になっています。これはそもそもMC専用だからできる構造ですよね。
この場合,EQアンプとフラットアンプの間に切替SWを入れることも,録音出力を入れることもできません。
なんとか,レコード以外の場合は,ロータリーSWでイコライザとは切り離せるので,何とかなるのですが,ただ,この場合,2段目(フラットアンプ)のバイアス設定用の抵抗を挿入する必要があります。これがEQアンプの負荷になってはマズいので,EQアンプの負荷とは別に,個別に入力端子に抵抗を入れる必要があります。▲の回路図で100kΩがそれです。なお,これがない場合,2段目のバイアスが加わらず,大きなオフセットが出ます。
しかし,録音出力はどうしても無理です。
録音出力を入れると,レコードの録音の場合,録音機器の入力インピーダンスがEQ素子のあとに入ることになり,イコライザカーブが狂ってしまうからです。
プリアウトから録音する,と言う手もありですけど,信号レベルが大きすぎるし,ボリウムで音量が変わってしまうのも困りもの。
ということで,しかたなく,録音用にバッファアンプを入れることにします。
とはいっても,オールFETのディスクリートとする元気はありません。
そこで,LF356Hを使ってOPアンプによるボルテージフォロアにしました。残念ながら,ここはやはり入力インピーダンスの関係で,バイポーラ入力OPアンプは不可です。LME49720Hだと音がよいだろう,と思うのですけどね。
LF356Hはiruchanお気に入りのOPアンプで,中国Lepai社のデジアンLP-2024Aの改造の時にも使っています。
やっぱり,メタルキャンのOPアンプは違うんですよね......。1970年代にナショセミが出した,最初のJ-FET入力OPアンプですけど,iruchanもあとでNF型のEQアンプやパワーアンプを作って遊んでいます。
今回,仏SGSトムソン製のTDC0156CMを使いました。ナショセミのLF156Hのセカンドソースです。同社以外のLF356Hをつかうのは初めてですけど,これはLF356Hの広温度領域版で,LF356Hが推奨使用外気温度が0~70℃なのに対し,LF156Hは-55~125℃となっています。
う~~ん,おそらく軍用だろうな.... Aérospatialeのエグゾセミサイルなんかに使っていたのかも.....。いや,エグゾセは空対艦ミサイルだから,そんなに温度範囲は広くなくてもよいはずだから,ICBM用かな.....。成層圏飛んでいるときはこんな温度のはずだし.....。
ICBMで,モスクワ狙っていたんだろうな.....いや,ひょっとしてフランス人のことだから,実はベルリンかロンドン狙っていたんだったりして......。エグゾセミサイルもフォークランド紛争の時にイギリスの駆逐艦沈めて大顰蹙でしたよね.....。
この前,ちょっとLF356Hの在庫が乏しくなってきたので,eBayでフランス人から買いました。10個買ったら,2個,おまけしてくれました
Merci France!
回路はごく簡単なボルテージフォロアです。
やっぱメタルキャンはいいな~~。製造は1984年と思います。
Vccが17Vと高めなので,3端子レギュレータを入れました。+側は東芝のTA78L15にしましたが,ぴったり15.0Vなのに驚き。マイナス側は部品箱から出てきた,モトローラのMC79L15にしましたが,こちらは-15.6Vくらいだし,TDC0156CMをつないだら-14.6Vに低下する始末。まあ,時代が30年ほど違うから,そんなものなのかもしれませんが....。
☆ ☆ ☆
特性を確認しておきます。
特性はch. Lのみ示します。ch. Rも同様の特性でした。
【EQアンプ特性】
EQアンプの出力を▲のバッファーアンプ出力で測定しました。
Spiceのシミュレーション結果も示します。ほぼSpiceの結果に沿っているので,回路上も問題ない,と思います。
CR型はほぼ偏差もなく,OKかと思います。10kHz以上で乖離がありますけど,さすがにテストオシレータの出力が1mVくらいでは波形にノイズが乗っているため,これはネグってもよいかと思います。
ただ,NF型は問題。低域で2dBほどずれています。
う~~ん,これは困りました。
これはEQアンプの裸のゲインが足りないためです。さすがにオールFETのため,ゲインが足りないようです。
バイポーラTrを使っていると,2段差動アンプなら120dBくらいはゲインがありますが,オールFETのため,本機の裸のゲインは80dBくらいです。低域でゲインの余裕が足りないようです。
【フラットアンプ特性】
iruchanはいつもだと,EQアンプとフラットアンプの間にVRを入れて音量調整をしていますけど,今回,バッファアンプを入れたのと同様の理由で,ここにVRは入れられないので,金田氏がずっとやっているNF量可変方式にしました。
この場合,どうしても音量調整範囲が狭くなり,また,完全に音量を0にすることができません。
今回,iruchanは音量調整可変範囲は1.9~33.7dBとなりました。ミュートSWを設けていないので,完全に音量を0にすることができません。実際,使ってみて考えることにします。
なお,f特は-1dBでDC~300kHzとなりました。
と言う次第で,一応,完成したのですけれど,NF型EQは要調整です。また宿題が出ちゃいました......
☆ ☆ ☆
2022年9月24日追記
NF型イコライザですが,改良しました。
低域で,イコライザカーブからずれてくる理由ですが,裸のゲインが不足している場合が多いです。
残念ながら,▲のグラフにSpiceのシミュレーション結果を載せていますけど,2SK43のモデルは2SK117で代用していますし,2N5465や2N5462はLT社のモデルを使いましたが,ネット上に出ているモデルはいろいろあって,どれもバラバラです。
FETなので,IDSSが違うと特性も変わってしまうので当然ですけど......。
と言う次第ですが,一応,またSpiceで調べてみます。
Spiceで開ループゲインを見てみると,91.5dBあるので十分ですが,やはり実測してみると83dBくらいしかありません。
グラフがぐちゃぐちゃで驚いちゃいますけど,iruchanも開ループ特性は初めて測ってみました。オシロの輝線もフラフラと動いて非常に測定しにくかったです。
NF型EQは1kHzでのゲインをMCなので54dBにしましたが,それだと20Hzでは74dB必要なので,実際には10dB弱しか余裕がありません。
ということで,全体の閉ループゲインを下げてもよく,その場合は▼の100Ωを大きくすればいいのですけど,そうするとCR型の方も下がってしまうので,あまり具合がよくありません。CR型の方は1kHzのゲインが43.2dBと,メタルキャンTrを使ったスーパー・ストレートプリアンプ同様,MC型EQアンプとしては最低レベルです。
となると,別の一手として,EQ素子を少しいじって低域のNF量を減らすことにします。
RIAAだと500Hzのターンオーバー周波数を決める820kΩを1MΩにしてみます。幸い,ニッコームだと1MΩがあります
Spiceだと大きく低域が持ち上がり,2dBほど上昇してしまいますが,実機は実測で,-2dBくらいになっているので,実機だとうまくいく,と思います。
NF型イコライザアンプの設計は難しく,特に,素子の値を決める式はいろんなものが提案されていて,簡略式と呼ばれるものもありますが,いずれも問題点として,裸のゲインが∞であることを前提としています。
実際には裸のゲインは無限大ではないし,本機のようにFETを使っていたり,特に,真空管式の場合はゲインがギリギリの場合が多いので,定数の決定は難しいのですが,上記の簡略式で計算を済ませてしまっている場合がほとんどです。なにより,MC型の場合はもっと条件は厳しいわけで.....。そのため,実際には完成後,実験で決めることが多くなり,このあたり,NF型イコライザアンプの難しいところです。
NF型イコライザアンプの設計については,黒田徹著 "基礎・トランジスタアンプ設計法" に詳しく載っています。
うまくいきました。20~10kHzで最大偏差は±0.3dBといったところです。本来なら,ターンオーバーの抵抗はもう少し大きめで,1.1MΩくらいの方がよさそうですが,まあ,これならよいでしょう。
10kHz以上でずれてしまっていますが,数MHzのノイズが乗っているため,です。LF356Hのボルテージフォロアは規格表を見るとカットオフが10MHzにもなってしまい,広帯域過ぎるようです。100kHzくらいのLPFを入れておこうか,と考えています。
また,本機の開ループ特性を見るとカットオフは2kHzくらい。OPアンプとしてはごく普通のカットオフです。特に,本機は2段目にCissが185pFもある2SJ72を使っているので,第1ポールが非常に低くなっています。
OPアンプならば,100%NFBとしても発振はしないのが普通なので,これくらいカットオフが低い方が安定です。
金田氏はNo.122で,"いかに本機の安定度が高く,応用範囲が広いか,計り知れないほどだ。" といつものようにまたものすごく オーバーに書いていますが,これだけカットオフが低ければ安定なのは当たり前です。むしろ,安定している分,帯域が狭くなるわけで,NFBがなかったら実用化できない,半導体アンプの宿命みたいなものです。
2022-09-20 00:00
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コメント(2)
こんばんは。その後楽しみにしておりましたがしっかりアップして頂きどうもありがとうございました。メーカーも霞んでしまうようなきれいな仕上がり。デザイン良く作られ、ご苦労された様々のことと合わせ満足この上ない気持ちでおられるものと存じております。余ほどパネルと内部配置の計画を綿密にされ製作にかかられましたね。音を聴いてみたいととても思います。音の印象をそのうち載せていただければ嬉しく思います。本当に素晴らしく良いアンプの完成誠におめでとうございます。
by tab (2022-09-29 20:13)
tabさん,どうもお褒めいただき,ありがとうございます。
実は,まだ音を聴いていないので,なんとも言えません。プレーヤも修理したばかりです。
ケースは実は安物で,Ali Expressで売っています。〒込でも3,000円くらいです。パネルがt6mmもあって加工が大変なくらいです。
なお,図面は花子で事前に描いてから穴開けするとうまくいく,と思います。
どうもありがとうございました。
by iruchan (2022-09-29 21:23)