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ABCD型差動アンプ採用CR型イコライザアンプ(EQアンプ)の製作 [オーディオ]

2024年1月30日の日記

今日は久しぶりにオーディオネタです[晴れ][晴れ]

コロナ禍で,ずっとiruchanも引きこもって工作をしていました。そのため,いろいろ資料が必要になるのですが,たまたま近所の図書館が耐震補強工事に入ったんですけど,予約すれば本が借りられるので,何冊も借りて読んでいました。

その中にラジオ技術があり,在架しているのは直近の2年分だけなのですが,何冊か借りてきて興味のある記事をPDFにしました。

残念ながら,ラジオ技術は何年か前に定期購読のみとなり,1冊ずつ買うことはできなくなりました。

秋葉やamazonで1冊ずつ買える,と言うのを知ったのは随分後のことで,すっかり縁遠くなっていました。

コロナ禍のおかげ(?)で久しぶりにラジオ技術を読みました。

その中で,2022年2月号に,"橋本式ABCD回路採用MC用フォノ・イコライザの製作" (室井清氏)と言う記事が載っていました。

最初は,ふ~~ん,変わった回路だな.....って言うくらいにしか思っていなかったのですが......。

なんとイコライザはCR型だし,回路は非常にシンプルで,極めてS/N比が高く,音もよいそうなので,ちょっと調べてみることにしました。

iruchanはメタルキャンのOPアンプ,LME49720Hを使った,イコライザアンプを作って以来,CR型しか作らないと決めたので,ちょっとこの回路にも惹かれました。

もとの回路は,ラジオ技術'74.7月号の,"ABCD形アンプの設計と製作" で,橋本順次氏が発表したパワーアンプの回路です。

そういえば,この方はiruchanも記憶があり,昔,OPアンプの回路なんかで勉強させてもらった記憶があります。

ABCDというのは氏の命名で,AB級コンプリメンタリ差動アンプの略だそうで,まあ,AB級というのは普通としても,コンプリメンタリ差動アンプ(complementary differential amplifier),と言う変わった回路です。

普通,差動アンプはPNPなり,NPNなり,同じ素子を2つ,エミッタを接続して使用する回路ですが,ABCD回路は,PNPとNPNのコンプリメンタリ素子を使い,エミッタ共通で使う回路です。PNPとNPNの両方を使っているので,コレクタはそれぞれ-Vccと+Vccに別々につながっていて,-Vccか,+Vccのどちらか一方にだけつながっている通常の差動アンプとは異なります。


もちろん,差動アンプですので,双方の素子の特性が揃っている必要があるんですが,コンプリメンタリならば問題ない,という考え方です。

回路の動作については,1974年の同氏の記事に載っているのですが,2022年5月号に復刻記事が載っています。

また,入力は各素子のベースに個別に加えるのに対し,ベースを接続してそこに加えます。ベース電流もエミッタ電流もコンプリメンタリ素子なので,相殺して流れません。
 
コンプリメンタリ・ディファレンシャル回路1.png
   差動アンプ      コンプリメンタリ差動アンプ

同氏が発表したプリアンプもあるはずなのですが,そちらの記事は見たことがありません。

室井氏はその回路をリファインし,現代によみがえらせたものです。MJでも最近,同様の回路のMOS-FETのアンプの記事が出ていますね。

iruchanはもう,パワーアンプには興味がないのと,フォノEQアンプで,CR型,と言うので,作ってみようか,と思いました。

それに.......ちょっと悪魔のささやきがありました[台風]

音がよいのだったら,オールメタルキャンTrで作ってみてはどうか,という悪魔のささやきです.....[台風]

う~~ん,これはいいかもしれません。古いTrで,電電公社などの納入品でメタルキャンの通信用Trというのがまだ探せば手に入る状況ですしね。もちろん,2SA6062SC959といったTrも手持ちがありますしね[晴れ]

早速,LTspiceで検証してみます。

それに,ちょっとこのラ技の記事には疑問点がいくつかありますので......。

そもそも,ラ技の記事は初段がバイポーラTrで,2SA992/2SC1845になっています。

これでMC用,と言うのはちょっと疑問があります。また,そもそも,初段がバイポーラだとDCアンプにならないはずです。バイポーラTrは電流制御素子なので,必ずベース電流が流れます。そのため,接続する機器により,初段のベース電位が狂い,出力にDCが出ます。

また,MCカートリッジは直流磁化するのを避けるため,流せる直流に限界があります。

いくらくらいなら許容できるのか,と言うのが問題で,何Aなのか不明なので,調べてみました。

 "オーディオ用FETの活きた使い方" (誠文堂新光社1981年刊)を読むと,5nAと書いてあります。

これ,初段がバイポーラだとかなり厳しい数値です。FETだとpAオーダーなので,問題ないですけど,それでも,Vccが高いとゲート漏れ電流が流れるので,DCアンプでは,初段FETをカスコード接続して,VDを下げて使うことが多いのはよくご存じの通りです。

ABCD型差動アンプだと,PNPとNPNのTrを使うので,ベース電流が相殺され,0になる,と言うのですが,現実はそう甘くありません。

実際,DCアンプの初期の頃,金田氏が嫌う,上下対称回路にして,初段にPNPとNPNのデュアルTrを組み合わせ,ベース電流を打ち消して0にしたという回路も出ていましたが,やはり無理で,結局は初段にカップリングコンデンサを入れて,Direct ConnectアンプでDCアンプ,と言う記事も多くありました。

まあ,初段に使えるようなJ-FETはもちろん,デュアルのFETがほとんどなかったので,バイポーラで代用した,と言う時代ですね。

それと,CR型EQアンプの場合,f特がフラットなアンプを2台作り,間にCRのフィルタをかませる,と言う構造ですが,2段目のアンプの入力インピーダンスが重要で,初段がTrだと入力インピーダンスが低く,EQカーブがおかしくなりますし,使用するTrにより,定数が変わってしまうのも問題です。

そういう意味でも,やはり入力はFETでないとまずいですし,むしろ,CR型EQアンプは真空管アンプこそふさわしいんですよね。

と言う次第なんですが,iruchanは製作する前に必ずLTspiceでシミュレーションしてから製作することにしていますので,まずはシミュレーションしてみます。

それに,金田氏の記事によくありますけど,最近の雑誌の記事には必ずどこかにミスプリントがありますので......[雨]

下記のオリジナル回路でシミュレーションしてみました。

回路(ラ技 '22.2).pngラジオ技術 '22.2月号の回路

まずは過渡解析をして,初段のベースから流れ出る電流を見てみます。

初段ベース電流(ラ技 '22.2).png  初段ベース電流

やはり,初段はベース電流が流れ,107nAもあります。

使用するTrのhFEによっても変わるんですけど,いずれにせよ,5nA以下にすることは絶対無理,と思います。

これじゃ,MCカートリッジには使えません。

また,AC解析をしてf特を見てみると,低域のローリミットが高すぎ,60Hzくらいになります。

f特(ラ技 '22.2).png f特

       変なカーブですね......[雨]

これ,回路を見たときに気がつきましたが,DCサーボ回路の時定数が小さすぎ,動作周波数が高くなって,100Hzくらいまで効いているためで,そのため,60Hz付近にピークがあります。フィルタ用のコンデンサか,抵抗を大きくする必要があります。2μFでは小さすぎるな,と思っていました。

金田式の電流増幅プリアンプのSAOCの回路も時定数が足りず,▲みたいな特性になることがありますので,ご注意ください。

と言う次第で,回路をモディファイし,初段をJ-FETにし,DCサーボ回路の時定数を10倍にしてみます。

初段のJ-FETは本当は2SJ74/2SK170にしたかったのですが,入手難だし,あっても高いので,2SJ107/2SK366にします。|Yfs|が30mSもあるので,十分でしょう。なお,これらは2SJ104/2SK364の小パッケージ版で,チップは同じですので,こちらでもOKです。

それにしてもなんで同じチップでパッケージが違うのか.......[曇り]

回路(iruchan).pngiruchan版

ゲート電流はわずかに4pAでした[晴れ]

 初段ゲート電流(iruchan)1.png ゲート電流

FET入力OPアンプのLF356Hなどでも30pAですので,MCカートリッジも問題ありません。

次に,DCサーボ回路の抵抗を10MΩに修正してシミュレーションしてみます。別に,コンデンサの方を22μFにしてもいいんですけど,こうなると電解コンを使わないといけなくなりますので......[曇り]

f特(iruchan).png こんなカーブです。

これなら低域の周波数特性も十分です。

また,1kHzのゲインも60dBありますので,MCカートリッジ用としても適切です[晴れ]

            ☆          ☆          ☆

さて,部品集めです。

Trはすべてメタルキャンにすることにしたので,かき集めました。初段のFETは2SJ107/2SK366ですが,これは今でも入手可能です。

さすがにパワーアンプじゃないので,以前作ったスーパー・ストレートプリアンプみたいに2SA606/2SC959は電圧増幅段には使わず,最終の出力段のみにします。

Trは2段目にNECの2SA603/2SC1010,終段は日立の2SA565/2SC968を起用しました。フラットアンプは東芝の2SA1090/2SC2550とNECの2SA606/2SC959にしました。

別に全部一緒でもいいんですけどね.....。

どれもこれも音がよい,とされるエピタキシャルメサ型の構造をしています。それにどういうわけか,いずれも通信工業用で,NECは規格表にそのように書いてありますし,日立のはにHのマークがあり,通信用であることを示しています。

NECの2SA603の相棒は本当は2SC943なんですけど,入手できませんでした。また,東芝のメタルキャンはなかなか評判いいので,起用してみました。

日立の2SC968は金田式DCプリアンプの出力として,最初に起用されています。その後,音沙汰ないんですけど,金田式の定電流回路に2SC959の代わりに使うとよいらしいという話があるので起用しました。

相棒の2SA565は金田式のマイナス側レギュレータの定番で,2SA566と同じグループで,同じエピタキシャルプレーナー構造のため,音もよいはずです。2SA566は入手難で有名で,iruchanも20年ほど前,欧州で購入したものがあります。そのとき,コンプリの2SC680や,2SC968も一緒に買いました。

どういうわけか,2SA566のコンプリの2SC680はまったく使われたことがありません。2SA5652SC680も金田氏にフラれていて,一度も起用されていませんけど,なぜか,フラれたのがPNPとNPNが逆なのが面白いです......[曇り]

2SC680は,逆に,2SC1161の代わりにプラス側のレギュレータで使ってみようか,という気がしています[晴れ]

VCE=120Vというのは国産Trは高耐圧のものが少ないので,魅力ですよね。

と言う次第で,基板も作ってみました。今度,テストします。

ABCD型EQアンプ基板.jpg EQアンプ基板。まだ未テストです.....[曇り]

フラットアンプはオールバイポーラで製作中です。

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