メタルキャントランジスタを使ったスーパー・ストレートDCプリアンプの製作~その3・電源編~ [オーディオ]
2020年8月3日の日記
前回から3ヶ月が経ちました。その間,モノラルレコード用のEQアンプを作っていましたが,無事に完成し,ただいまテスト中です。もちろん,こちらの方はステレオLP専用なので,イコライザカーブはRIAAのみですけどね.....。モノラルLP用金田式EQアンプ,というのも面白いかもしれません......(^^;)。
さて,前回は基板製作まででしたが,今回はケースを加工して電源のテストをします。
ケースは,実は,昔から本機を作るときは1Uのケースにしよう,と思っていました。
EIAの規格で標準のケースがあり,高さを1 3/4インチ(44.45mm)の倍数で表します。幅は19インチ(482.5mm)ということで決まっています。日本では幅が広すぎで邪魔,ということでステレオのアンプはだいたい430mmくらいのものが多いです。
また,これらはプロ用のオーディオ機器でよく採用されたサイズで,今は使われていないのでは,と思ったらラック型サーバーや業務用のスイッチングハブがこの規格ですね。うっかりしていました。今でもたくさん使用されているわけですね。
ということですけど,今回のアンプは1Uなので,一番薄いケースなんですけど......。
昔,中坊の頃買った,初歩のラジオ別冊の "ステレオ・アンプ製作集" という本にDCプリアンプの記事が載っていて,筆者はもちろん金田氏じゃないのですが,同様の2段差動アンプで,使っていたケースが1Uでとてもかっこよく,憧れました。
それにしても,初歩のラジオの別冊,ということなので対象は中学生以降のはずですけど,自分でプリント基板を作ったりできるよう,感光基板用パターンもついていたり,実体配線図やイラストで作り方が説明してあったり,昔はいい本がたくさんありました。でも,UV-211Aシングルアンプなんてのが載っていたりして,とても中学生で作れるレベルじゃないんですけど......。
でも,結局その本の回路では製作せず,結局,このスーパー・ストレートプリアンプになっちゃったんですけどね.....。
ケースはEIA規格の1Uケースと言うことだとタカチのERH44-16Sがあるのですが,やめました。
何より,タカチのケースだとアルミ押出形材仕様なので,皆さん,すでに体験済だと思いますけど,よほど事前にCADなんかでしっかり検討したりしておかないと,いらないところに型材の出っ張りがあって,部品が取りつけられない,ということで泣かされますのでパス! それと,今回は1Uということで内寸が厳しいんですよね.....。タカチのケースだと,高さ32mm(内寸)しかありません。
ということで,今回は奥澤のRE-1U-15を使いました。従来のプレス加工タイプのケースなので,内寸は少し余裕があり,38mmです。この6mmの差は大きいです。特に,電源の平滑用電解コンとEQアンプの出力のカップリングコンが最大の問題になりそうですから,少しでも内寸が大きい方がいいです。おまけにお値段はタカチの半分以下なので助かります。
一応,電源はこの前のEQアンプでも使ったルビコンの小型の3,300μF,35Vを使いますし,カップリングは旧ソ連軍用のスチコンを使う予定なのですが,なんとか収まりそうです。タカチのだと無理です。
金田氏は平滑コンは日ケミのCEW 4,700μFが指定部品なんですが,さすがにでかすぎてこれは収まりません。それに,このようなラグ端子型ブロック電解コンデンサはとうに製造中止です......orz。
ということで,CADで図面を描いて,それから加工しました。
☆ ☆ ☆
さすがに1Uということで裏のRCAピンプラグはベーク板に固定されたタイプは使用できず,千石で買った,クロームメッキ品にしました。金メッキ品は中国製ばかりなんですけど,クロームメッキのものは日本製でした。クロームメッキと言ってもきれいなメッキがされていますし,何より安心の日本製なのはとてもありがたいです。中国製の金メッキ品をWEの真空管式DCプリアンプで使用しましたが,バカでかい上に,コールドのラグが簡単に折れてしまうので,もう使わないことにしました。
さて,加工が終わったらトランスを取りつけて,まずはトランスの配線チェック。さすがにパイロットLEDくらいはつけておきますけどね......。
トランスはAC電源の場合,金田氏指定のものはRコアなのですが,TK-P1だと収まりそうにありません。iruchanは共立電子のHDB-8というトロイダルトランスを使いました。トロイダルだとほぼ漏洩磁束は根絶できて,前回のモノラルレコード用のEQアンプもハムは皆無でした。2次側に9V,15Vの巻線が出ています。驚いたことに,前回のEQアンプはインド製のRSコンポーネンツのやつを使いましたが,同じ7VAなのに,RSコンポーネンツの方はずっと小さいです。まあ,トランスのサイズは大きい方が音がよいように思えるので,こちらでいいと思います。
なお,電源の試験のとき,レギュレータ基板をつないでから試験する方も多いとは思いますが,うっかりトランスの配線を間違えてレギュレータを壊してしまってもしょうもないので,まずは2次側のAC出力電圧のテストを兼ねてトランスだけで試験します。もちろん,それだけじゃつまらないのでパイロットのLEDだけ,配線しておきました。
ところが......。
なんとパイロットが点灯しません!!
えぇ~~~って感じなんですけど....。こんな簡単なところでつまずいちゃうようじゃ,先が思いやられます......orz。
念のため,トランスの出力電圧を確認しますが,問題ありません。ちゃんとAC15Vが出ています。
ただ,LEDの端子電圧を見ると0Vになっていて,これじゃ,点灯しませんね。
散々,回路をチェックしてもなんでLEDが点灯しないのかわかりません。
あきらめてLEDを外してみて,LED単体でチェックしてみますが,壊れているようではありません。
う~~~ん,なんでや~~~??????
それで,LEDをもう一度,パネルから外した状態で配線してみると,点灯するではないですか! また真夏の夜の怪談かぁ~~って思っちゃいました。
ようやくここまで来て,パネルに取りつけると消える,ということに気がつきました。すぐに,昨年末に自作したPCのLEDでも同じ現象が出たことを思い出しました。そのときは原因がわからなかったんですけど......。
ひょっとして.....たぶん,LEDの不良では....,と気がつきました。
最初はP-N接合部に何らかの圧力が加わると点灯しなくなるのか,そんなことが物理的にあったっけなんて思いましたが,何のことはない,製作不良で,外部に電極が露出しているのでした.....orz。
エッシェンバッハのルーペでよぉ~く見てみると......
▼部分がモールドの外に出ています。テスターでも確認できました。なんか,パイロットにピンク!なんてあわない感じですが,真空管アンプに使ってもいい感じです。昔はオレンジにしていたのですけどね。半導体プリアンプにはどうもオレンジはあいませんしね。
ところでこいつ,なんと,アノード部の電極がモールドの外に露出していました。おもわず唖然としちゃいました....。開いた口が塞がらない.....。
当然,シャシーはGNDなので,アノードが接地してしまうので,LEDが点灯しないんですね。
それにしてもこんな不良ははじめて。φ3mmの砲弾型LEDですが,普通はちゃんとモールドの中に電極やリード線は隠れていて,外部とは絶縁されていますが,さすがのチャイナクォリティ! って思っちゃいました。これ,秋月電子で売っている,OSK5DK3131Aという香港Optosupply社の製品ですが,深圳で作っているようなので中国製ですね。今回,使ったものも,自作PCで使ったものも,ほかにも点灯しなかったものがあり,かなりのものが不良ではないかと思います。
手持ちのピンクのLEDはもうないので,しかたなくシャシーを多少加工して点灯するようにしましたが,今後はマルツで売っている,ピンクのLEDにします。
ようやくパイロットの問題が解決して,レギュレータを取りつけてテストします。
なお,今回,制御TrにはNECの2SC1161のほか,日立の超貴重品2SA566を使うので,保護回路をいろいろ考えましたけど,結局,ポリスイッチを使うことにしました。金田氏のレギュレータ回路には保護回路が入っていないので,うっかりショートするとこれらのTrを飛ばしてしまうので困っちゃうのですが,ポリスイッチが入っていれば安心です。100mAでトリップするレイケムのRXEF010を使いました。
本当言うと,トロイダルトランスは2次側のコモンが接続されていなくて,バラバラに出ているので,金田氏のように,+と-で,別々にブリッジ整流した方が音がよいのですが,30DF2がもったいないので,通常どおり,4個で整流しています。
でも,この+と-で別々に整流する方法,最近亡くなったY氏の発見ではないかと.....。MJで最初に出た記事を覚えています。タンゴのTrアンプ用トランスではできませんでしたが,2次側が独立している巻線のものではやることができました。
出力コンデンサは双信の4端子型V2Aなんですけど,入手は無理なのでWIMAにしちゃいました。
制御Trは+側は日立の2SA566,ー側はNECの2SC1161です。ともにコンプリの2SC680,2SA653はなぜか使われていません。まあ,2SA653はドライバの名石で,初期の金田式アンプで重用されていますが,すぐに入手は絶望的になって2SC960に代わったのはご存じのとおりです。一方,今でも割に入手は容易な,2SC680の方はまるで無かったかのように扱われていてかわいそう。全くの継子扱いですよね~。たしか,何号だったか,金田氏のコメントを見た記憶があるのですけどね。iruchanは2SA566を見つけたときにペアの2SC680も買ってあるし,VCEO=100Vの規格は真空管用としても使えそうなので,いずれ使いたいと思います。iruchanも会社じゃ,とうに継子扱いですしね......orz。
さて,レギュレータをつないで,電圧を確認してみると.....
-側は-9.8V位なのでOKですが,+側は4.5Vくらいしか出ていません!
ありゃりゃ!?
どこかに配線ミスがあるはずなので散々調べてみますが,ミスがわかりません。部品の取り付けミスやDiの向きを間違えたかと調べても間違いはありません。パターンミスや,パターンタッチもないようです。
とりあえず,基準電圧はどうかと,05Z7.5Xの電圧を見ると,やはり3Vくらいしか出ていません。これはおかしいです。7.5Vにならないといけませんね。どうやら原因はこの05Z7.5Xの周辺だ,ということはわかります。
どうしてもわからないので,打つ手としては.......最近はiruchanはこういうときはSpiceで調べることにしています。わざとどこか配線を間違えてみて,同じ現象が出ればそれが原因です。実際の基板じゃ,こんなテストはできませんよね。MJの記事の誤記も多いので,うまく動作しないときはSpiceで確認してみるとよいです。
やはり,すぐに原因がわかりました。
05Z7.5Xから,誤差増幅用の2SC1583とカスコード接続されている,2SC1775Aのベースとの接続がない場合に同じ現象になることがわかりました。▼の×部分です。
早速,実際の基板を調べてみると,確かにこの部分の導通がありませんでした。
ようやく,はんだづけをやり直してテストしてみると,+10.5Vレギュレータは+10.8Vで,-10.5Vレギュレータはー11.9Vくらいの出力電圧となりました。やれやれ......。
と言う次第で,LEDのトラブルとレギュレータのトラブルで1週間かかっちゃいました。
でもそれにしてもこの±10.5Vという電圧は低いですね。OPアンプでも±15Vが普通ですから.....。この当時の金田氏は電池式なので,本機もNational Neo Hi-Top(懐かし~~)を10個ずつ接続して,15Vからレギュレータを通して±10.5Vを得ているのですが,AC電源式ならもう少し高くてもよいはずです。本機が完成したら,±15Vくらいに昇圧してみよう,と考えています。実際,レギュレータを通す前の平滑コンデンサの電圧は±20Vくらいになっていますしね。
いよいよ次週はEQアンプ,フラットアンプを接続してアンプのテストです。
☆ ☆ ☆
2020年8月4日追記
ちょっとおかしなことに気がつきました。
しばらく,レギュレータを無負荷のまま,運転していたのですが,2SA566に触ってみると少し発熱しています。2SC1161も少し温度が上がっています。
まあ,大した温度じゃなく,触ってみると温かい程度なんですけど.....。
でも,シリーズレギュレータの場合,無負荷なら発熱しないはずなのでおかしいです。
最初,発振を疑ったのですが,よく回路図を見てみると,出力段はPPになっていて,そのバイアス電圧は2個のDi(1S1588)をシリーズ接続して,そのP-N接合電圧を利用しています。
つまり,この金田氏の超高速PPレギュレータというのは,出力段はA級動作していて,アイドリング電流が流れているんですね。そのアイドリング電流は2SB716を介してGNDに流れています。
うっかり,通常のシングル出力のシリーズレギュレータと混同してしまっていました。また,金田氏も,このスーパー・ストレートプリアンプのDCアンプシリーズNo.121(MJ '91.6)で,「2SB716と2SD756は......これらのTrは出力コンデンサー(2.2μF)に溜まった余分の電荷を放電させる働きしかしていない」と書いているので油断しちゃいました。
改めて,2SA566と2SC1161のコレクタ電流を調べてみると,それぞれ28.0mA,31.8mAも流れています。これだとコレクタ損失は本機の場合は0.15Wくらいになって,少し発熱するわけです。
それに,ちょっと心配なのはPP出力段のエミッタ抵抗がないことで,これは金田氏の半導体アンプの出力段ではよくあることなんですけど,これはバイポーラTrの温度係数が+であることを考えると非常に危険です。
もちろん,本PPレギュレータでも,制御Trが熱暴走すると+VccをGNDにショートする結果となりますから,オリジナルの回路のままでは保護回路が入っていないので,制御Trを飛ばしてしまいます。まあ,先に2SB716や2SD756が焼けちゃうとは思いますけど....。
もちろん,アンプもPPレギュレータも温度補償のため,2SB716や2SD756にシリコンDi(1S1588)を熱結合して,バイアスが減るようになってはいるのですが.....。
また,iruchanは▲の平滑回路にポリスイッチを挿入したので,制御Trが飛ぶようなことはないのですけど....。
一応,エミッタ抵抗を入れておくことにします。こうするとコレクタ損失も減るはずです。
☆ ☆ ☆
ということで,またSpiceでシミュレーションしてみました。
制御Trの2SA566と2SB716には186mAも流れます。
ちょっとこれは大きすぎで,そもそも2SB716はIc=50mAなので,これじゃ,壊れちゃいます。2SA566のコレクタ損失も1.8Wもあります。
このあたり,Spiceの限界で,制御Trの2SA566のモデルがないので標準Trで代用しちゃっている結果ですが,ともかく,かなり大きなコレクタ電流が流れることは間違いなさそうです。
そこで,エミッタ抵抗として1Ωを入れてみます。□部分です。
こうすると,Ic=72mA,Pc=654mWとなりました。
実測してみると,それぞれ22.3mA,110mWです。これならいいか,と思いました。
☆ ☆ ☆
いよいよ完成し,調整しています。ご興味のある方はこちらへ.....。
2020年9月8日追記
冒頭で,金田式モノラルEQアンプって書いちゃいましたが,ちゃんとMJ '99.5月号にNo.154として発表されています。すっかり忘れてしまっていました。しかもEQアンプ専用ではなく,フラットアンプもついたプリアンプになっています。
回路自体は,金田式DCプリアンプで,EQアンプはWE 310Aを使った,シングル2段の5極管仕様となっています。フラットアンプは3極管のWE 262B×4のはずだったようですが,Eh-k耐圧が低いため,最終的に310A(T)×4となっています。
310Aはiruchanもちゃんと持っているんですけど,300Bのシングルアンプ用なので手持ちの余裕はありません。モノラルとは言っても,さすがに6本も必要なのはかなわんな~~......ってところです。
さすがに,金田氏もコストを気にしていて,6C6でもOK,とはされているんですけど.....。
6C6は逆に安物過ぎて使う気がしません。こんなの,ラジオ球でしょう。これのバリμ管が6D6なのはよく知られています。iruchanも45のシングルアンプで使った球なので愛着はあるのですけど.....あまりにも安物だし,出来もいまいちなので,ちょっと金田式EQアンプには使う気はせんよな.....って感じです。先生自身,"やはりWEは違う" ということをおっしゃっているようですから,なおさらですね。
というところで,とても作る元気はないのですが,どうも中国製? の310Aの同等管があり,しかも,今も製造されているようです。
PSVANEというブランドで,見てみるとものすごくきれいで,仕上がりが素晴らしいです。これなら使ってもよいかな.....という気はするのですが,絶対にWEの球と同じ音はしないでしょうし,何より値段がペアで$200以上,っていうんじゃ,驚いちゃいます。まあ,今どき高品質で真空管を作ろうとすると,こういう値段になっちゃうのでしょうけどね。
もっとも,日本のCZ-501Dもそうでしたけど,各国でWEの310Aの互換球,というのは作られていて,おそらくはWEや米国メーカ製の電話用機器の保守用でしょう。1950年代のソ連でも製造されていたらしく,10Ж12Сというのがそれで,ローマ字表記だと10J12Sです。サンクトペテルブルクの旧Svetlana製のようです。現在,売られているSvetlanaとは関係ありません。ただ,ものすごく古いもののようだし,すぐに製造を打ち切ったようで,あまり市場に出回っていません。
6C6でいいんなら,77や6J7,6SJ7などの真空管が同じ特性ですが,ST管やGT管だとだとハウリングがひどいようだし,6AU6や,もしWEにこだわるなら,408AなどのMT管で作る方がよさそうです。
それにしても現行の互換球ですら,310Aは高いし,オリジナルのWEだと1本,3~4万円位します。昔はさすがに1万円はしなかったし,よかったよな~~~。
2020-08-03 00:00
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