サブミニチュア管DCプリアンプの製作~その8・ノイズ対策~ [オーディオ]
2022年12月25日の日記
いよいよ年も押し詰まってきました。例年になく,去年もそうでしたが,年末に大雪でびっくりです。やはり地球はおかしくなっているようです。
さて,前回,ほぼ調整を終えたので,いよいよ実際に音を聴いてみたい,と思っています。
ところが....。
もう,気がついているのですが,結構ノイズが多いです。特に,少しハムが出ます。
まあ,ネットを見ても,金田式真空管DCプリアンプはハムが出る,というのは半ば常識なんですけどね......
オシロで出力波形を観察してみると120Hzなので電源のリップルが原因のようです。
また,phonoの時はかなりのホワイトノイズが出ます。VRが12時くらいの位置で,結構,シャーッと大きな音が出ます。
半導体プリアンプでもVRを最大にするとやはりシャーッという音がするので,それほど問題ではない,と思いますが,12時くらいの位置でこれほどノイズが出るとマズいです。
と言う次第で,ホワイトノイズとハム対策を考えます。
☆ハム対策
金田式真空管DCプリはハムが出る,というのは某掲示板にも出ていて,常識のようです。
確かに,特にEQアンプは407Aや717A,EF86といった5極管を使っていますが,スクリーングリッドの使い方が特異で,直接,+Bに接続するようになっていて,Esg>Epという状態になっています。
普通,5極管のスクリーングリッドはEsg≦Epという状態で使うものです。逆にして使うのは,意図的に真空管に大電流を流そうとした,FuttermanのOTLアンプなど,特殊なアンプです。また,パスコンで接地して使うもので,スクリーングリッドは直流的には高圧,交流的には0Vという状態で使いますが,金田氏のような使い方だと交流的に浮いてしまう可能性があります。
電源の出力コンデンサに2.2μFが入っているので,交流的には接地されている,っていえば,そうなんですけどね....。
配線中のインダクタンスや直流抵抗分があるので,必ずしも実際には交流的には接地されません。また,パスコンと直列抵抗の時定数でフィルタを形成してスクリーングリッドにリップルが行かないように設計するのですが,金田氏の設計ではこれができません。
スクリーングリッドは,グリッドなので,当然,増幅作用があり,スクリーングリッド用電源は厳重にリップル対策しておかないと,リップルを増幅しちゃいます......。
ということですが,金田氏の設計はスクリーングリッドに時定数を入れられないので,EQアンプ用レギュレータを2重にし,リップルを減少させています。
ただ,レギュレータ2段は必要ない,とiruchanは考えました。
さすがに,大げさですよね~。
と言うことで,iruchanは一段目はリップルフィルタで代用し,ついでに,フラットアンプにもリップルフィルタ経由で給電しています。
これなら大丈夫,と思ったのですけれど.....。
実は,何のことはない,ハムが出るのはphonoだけじゃなく,CDやAUXなどでも出ます。ということは原因は電源ですけど,EQアンプに問題があるのではない,と言うことがわかりました。
本機の電源回路は前回のWEのMT管を使ったDCプリアンプを踏襲していて,金田氏は整流に412Aを使っていますが,そこに2200μFもの大容量コンデンサを投入していて,ちょっと整流管がかわいそう,ということでiruchanは定石通り,47μFにしました。その後にリップルフィルタを投入し,大容量のフィルタ回路にしています。
本機はセレン整流器を使ったので,もっと大容量のものでいいはずですが,共通の基板を使ったので,47μFです。
やはりこれが少し少なすぎたようです。残念ながら,リップルフィルタは優れた回路だと思いますが,入力のコンデンサはやはり大きめの容量のものが必要です。このコンデンサである程度,リップルを低減しておいてやらないと,あとのフィルタも十分に機能しません。
ということで,今回,47μFだった入力のコンデンサをスペースが許す限り大容量のものにしよう,ということでニチコンの160V,330μFにしました。φ18mmなのでギリギリですけどね。
と言うことで,実際に調べてみます。
オシロで47μFの電圧波形を見てみると.....。
47μFの端子電圧です。
なんと,やはり11Vp-pくらいのリップルが出ています。
これだけリップルが残っていると,あとでリップルフィルタで平滑化しても多少,リップルが残ってしまいます。
LTspiceで確認してみます。
iruchan版真空管DCプリアンプ電源部です。
EQアンプ用レギュレータは100Vレギュレータのみにしています。その代わり,前にリップルフィルタを入れて,フラットアンプもそこから供給するようにしています。
入力コンデンサを47⇒330μFにしてシミュレーションしてみます。整流はシリコンDiを使ってみます。
整流直後はほぼ実測値通り,13.7Vp-pものリップルが残っています。また,フィルタ直後にも2mVp-pくらいのリップルが残ります。EQアンプ用には,18μVp-pくらいなので問題ないレベルだと思います。だから,phonoの時だけハムが出る,ということがなかったようです。
今度はさすがにかなりリップル電圧が下がり,フィルタ直後で150μVp-pとなり,EQアンプ用は半分になりました。
今回,iruchanはSiemens製のセレンブリッジを使っています。ちょっとLTspiceで遊んでみました。セレン整流器のモデルもネットに出ていました。
セレンを使うとやはり出力電圧が低下します。リップルフィルタ出力で30Vくらい下がってしまいますが,残留リップルは1/3になります。実際には,出力電圧は120Vくらいでしたから,Siemensのセレンは効率がよいようです。
ちなみに時間軸全体を見てみるとこんな感じです。
リップルフィルタを使っているので,立ち上がりは非常に遅いです。実際にはレギュレータ出力は真空管6J1B-Vを使っているので,さらにもっと遅くなります。LTspiceは真空管の立ち上がりまでシミュレーションしていません。
それにしても,セレンを使うと音がよい,なんて言われますけど,残留リップルの値を見ても,その通りかもしれません。なお,レギュレータ出力の残留リップルは差はありませんでした。
iruchan版の電源でも,リップルフィルタを使っているので,これなら問題ない,と思います。
ちなみに,金田氏のオリジナルの回路でもシミュレーションしてみました。
整流管412AのSpiceモデルはこちらです。
こちらはさすがで,2200μFもの入力コンデンサを入れると,リップル電圧は109mVp-pです。これをフラットアンプに給電しています。ただ,これだと,ちょっとフラットアンプ用としても,リップルが大きすぎる気がします。iruchan版はこのあとにリップルフィルタを入れて,フラットアンプに給電しています。
EQアンプの方は,コンデンサインプット整流⇒105Vレギュレータ⇒100Vレギュレータと2段階でレギュレータを経由して給電していますが,最終的なリップル電圧は1.05mVp-pあります。
ちょっとおかしいので,調べてみたのですが,2段目レギュレータの入力と出力の電圧差が小さすぎるようです。
リニアレギュレータは入出力の電圧差はある程度,大きく取らないとリップルが残りますのでご注意ください。3端子レギュレータでも,低電圧ドロップタイプというのがありますけど,リップル除去性能が劣りますので,注意が必要です。
ちなみに,2段目レギュレータの出力電圧を90Vに変更してみると,リップル電圧は7.6μVp-pとなり,iruchan版と同等になりました。
もし,phonoだけハムが出る,と言う場合は2段目の出力電圧を下げて,90Vくらいにするとよいと思います。その場合は,▲の回路の分圧抵抗R13を12kΩにすればよいです。
ほかに,ネットを見ると,レギュレータの誤差増幅管5702のヒータ電源をACではなく,DC点火するとハムが消えた,という話もありますので,念のため,iruchanも6N17B-Vなどの点火用の-12V(h-k耐圧を考慮してマイナスで点火しています)のDC電源から抵抗で電圧ドロップさせてDC点火してみました。
☆ホワイトノイズ対策
残念ながら,原因として考えられるのは抵抗や真空管の熱擾乱雑音や電源ラインがノイズを拾っている,ということです。
前者は低雑音抵抗,すなわち金属皮膜抵抗にするとか,抵抗値をできるだけ小さくするとかの対策や真空管の選別がありますけど,いずれもそう簡単にできることではありません。抵抗値なんて決まってしまっていますしね。昔はできるだけ抵抗の温度を下げるようにして,1Wとか2Wとかの大型の抵抗を使う,なんてことが本に書いてありました。
真空管については,残念ながら,同じ形式のものを大量に丸1日くらい,通電してチェックすればよいのでしょうけど,そんなこと,やっていられませんしね.....。昔はソニーのC-37AやNeumannのU-87など,真空管式マイクロホン用の真空管はそのようにして選別された真空管を使っていました。TELEFUNKENの◆マークのECC83なんかは心電図用で,そのリジェクト品が秋葉原で出回っていたという話です。
後者は対策としてはシールド線にするくらいしかなさそうなので,シールド線に交換しました。
ついでに,今回,iruchanはEQアンプの6J1B-Vのスクリーングリッドを0.1μFのフィルムコンで接地してみましたけど,そう効果はないようです。ちなみに,Raytheonの5702も持っているので,ノイズも調べてみたい,と思います。でも,余り出来がよくなさそうな感じで,旧ソ連製の方がノイズは少ないんじゃないか,という気がしますけどね。
ただ,電源のシールド線化は効果があるようで,12時の位置でもホワイトノイズは聞こえなくなりました。さすがにVR最大だとシャーッと音がしますけどね。ずいぶん小さくなりました。
☆ ☆ ☆
これでようやくノイズ退治ができました。新年はこのプリアンプでこけら落とし,といきませう
2022年12月29日追記
☆セレンの整流特性
ネットを探してみるとセレン整流器のSpiceモデルが載っていましたので利用してみました。RCAの6枚フィンの#752652というセレンのモデルのようです。
.SUBCKT seleniumrectifier P K
BP P K I=(12.42276354/1.0e4)*uramp((V(P,K)*0.55)+(-2.938702085))**2.4
.ENDS
これをサブサーキットとして登録しました。
ついでに,オンセミのWEBにiruchanがいつも使う,ファーストリカバリのUF4007のSpiceモデルが出ていたのでありがたく利用させていただきました。
.MODEL UF4007 D (N=3.97671 IS=3.28772E-006 RS=0.149734 EG=1.11 XTI=3 CJO=2.92655E-011 VJ=0.851862 M=0.334552 FC=0.5 TT=1.84973E-007 BV=1000 IBV=0.2 KF=0 AF=1 mfg=Vishay)
412Aは先ほどのiruchan自作モデルです。
それにしてもUF4007の優秀なことに驚き。思わず,氏ね! と思いました.....
驚いたのはセレンには不感帯がある,ということ。
もちろん,よく知られているとおり,半導体はP-N接合面で0.6Vほどの不感帯があり,その間の電圧では動作しませんが,セレンの場合は,数Vもあります。本モデルだと5.5Vくらいのようです。
それは知っていたので,少し不感帯の電圧が高すぎるような気もしますが......まあ,セレンだと2~5Vくらいの電圧範囲は動作しません。
もちろん,半導体としてはこれは不利で,この分,損失となって発熱しますので,それでセレンはフィンがついています。発熱が大きいとセレンは破裂し,有害なセレン蒸気を発生しますので,もし,動作中に破裂したらすぐに部屋の窓を開けて換気してください。
こういうこともありますが,不感帯が数Vもある,と言うことは逆に言えば,ノイズに強いわけで,オーディオには適しているのかもしれません。
WEの555レシーバーの励磁電源にセレンを使う人がいますけど,アンプのB電源だけじゃなく,フィールドスピーカの励磁電源としてもよいのかもしれません。
2022-12-26 20:10
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コメント(2)
初めまして、えふと申します。
真空管アンプ(KMQ60)レストアの検索でこちらへ辿りつきました。
当方も金田式アンプの製作を細々と続けてきましたが、ネット上でもそれなりに製作している方を多くは見掛けないので、本ブログを拝見して心強く思いました。
当方の場合、Spiceなどの解析スキルは有りませんので、ただひたすら作りたいものを作っているという感じです。ただ、プリアンプについては、現在製作中のオールNutubeプリアンプが最後になると思います。
駄文を長々と連ねて失礼しました。出来れば、今後とも情報交換などが出来たら幸いです。サブミニチュア管プリアンプのインプレッションも期待しております。当方の場合は、真空管プリはWE管しか作ったことがありませんので。
それでは。
by えふ (2022-12-29 18:15)
えふさん,どうもいつもご覧いただきありがとうございます。
ご指摘の通り,金田式アンプのファンはたくさんいらっしゃるようですが,ネット上に製作記事を書いている方はそう多くはなさそうです。
私の場合は製作記事と言うより,備忘録みたいに書いています。そうしないと忘れてしまいますので....。
Nutubeよさそうですね。私も昨年,共立電子がバーゲンやったときに4個買いました。IVC型EQアンプを作ろうかと思っていますが,私もそれが金田式プリの最後になるか,と思います。もう,NF型は作らないつもりですしね。
WEプリをお作りになったのですか。素晴らしいですね。私も作りましたがハムが出たのと,シャシーが小さすぎてまだ未聴です。412A使ったのも失敗で,発熱がすごいです。
では,またよろしくお願いします。
by iruchan (2022-12-30 09:38)