ゲルマニウムトランジスタ スーパーヘテロダイン方式FMラジオの製作~その3・IFTとFM検波回路について~ [ラジオ]
2018年5月6日の日記
前回でようやく局発が動作するようになり,泥沼の西部戦線を脱してパリに向けて進撃中のiruchanです。今日から調整に入りました。
さて,ようやく本格的に調整,と行きたいところですが,まだ未設計の箇所があります。
実は,検波段をまだ設計していないのです。
というのも,第1回にも書きましたけど,まずはIFTが問題なのです。そもそも,今どきTrラジオ用のFM IFTを入手しようとすると手に入らないのも問題なのですけど,特に,FM用の場合,検波段用のIFTが特殊で,これを入手できないと組み立てられないのです。
ラジオ部品のお店でも,もう売ってはいないと思います。まだAM用は手に入るのですけどね。と言って,FM用は昔も簡単に手に入ったか,と言うと昔でも売っている店を見かけたことがありません。やはりFMは難しすぎて,作る人もいないので売っていなかったのだと思います。
でも,熊本のFCZ研究所が最近まで10.7MHzのIFTを作っていました。iruchanも大変ありがたくそれを使わせていただいています。
ただ,このIFTは1種類しかありません。
厳密に言うと,IFTは4種類必要なのです。FMは特に,最後の検波段用が面倒で,専用のIFTが必要となります。また,前回も書きましたように,初段用は同調コンデンサがないので,これも特殊です。
そんなこと言うと,AM用も同じで,真空管で2種類,Tr用で3種類あるのです。
これらは使用する位置で決まっていて,AMだと変換管に使うものと,中間周波増幅管に使用するものの2種類があり,たいていはA,Bという記号がついています。Tr用は中間周波2段ですから,A, B, Cの3種類が必要です。コアに色がついていて,それぞれ黄,白,黒となっています。順番に,コンバータからこの色のコアのIFTを使います。
ついでに,局発コイルも同じ形状ですが,コアが赤に塗られています。もちろん,これはIFTじゃありませんが,2次巻線があるのが普通です。
だから,AMのTr用IFTは4種類セットで売られていることが多いです。
とはいえ,真空管もそうですが,今どき全種類のIFTを入手することは難しく,特に真空管だと455kHz用として1種類しか売られてないことも多いです。
で,これらを2ヶ所に使っても問題ないのか,ということですが,ほとんど問題ないと思います。Tr用だって,1種類しか手に入らなくて,全段に同じものを使っても問題になることはないと思います。
なんでこのように種類があるのかというと,微妙に使用するTrにあわせてインピーダンスが変えてあるためで,さらに検波段用の真空管のBとTr用のC(コアは黒)は2次側のインピーダンスも下げてあって,2極管やダイオードの低いインピーダンスに整合するようになっているからです。
ところが,FMの場合はそれだけじゃありません。
真空管用は2種類,Tr用は3~4種類あります。特に最後の検波段用が特殊で,AM用と違ってほかとまったく違う巻線構造になっているのでほかの色のコアのやつを流用することはできません。また,前回も書きましたように,初段(コンバータ)用は同調コンデンサがありません。
検波用が特殊なのは検波回路がAMと違って当たり前ですけどねいるためです。
FMはレシオ検波を使うことがほとんどですが,レシオ検波は巻線構造がほかと違い,3次巻線まで必要な特殊な巻線構造になっています。それに,そもそもTr用のIFTはAM用のも含めて,単同調になっているのが普通ですが,FMの検波段用だけ複同調になっているのでコアが2個必要です。これを1個の箱にまとめて,長方形になっているものもありますし,バラバラで2個になっているものも多いです。
☆ ☆ ☆
ということで,やはりFM用のIFTは大変なのです。
それと,もう一つ,iruchanには大きな疑問が.....。
FM用のIFTのコアの色がわからないのです。
確か,ピンクとか,青とか,AMとは異なる色だったのですが,何色が何用なのか,わからないのです。
当然,AM/FMの2バンドラジオだと調整時に間違えると危険なため,AMとは違う色が使われているのですが,それが何を意味するのかわかりませんでした。
そこでいろいろ調べたのですが,わかりません。JISで決められているのかと "JIS C6421 放送受信機用中間周波変成器" を見ても色の規定はありません。
そこで,国内某2社にメールで問い合わせてみました。
1社は "型番を特定していただかないとお答えできません" の一点張り,もう1社は ”コアの材質によるものです” とのこと。どちらも答えになっていませんね。
特に前者はどうも若い人らしく,端末を叩いているだけの人のようでした。横のベテランのおじさんに一言聞くか,図書室で古いカタログでも見てくれれば,何かわかるんではないかと思ったのですけど.....。
世界的にどのIFTもこのような色が使われいるので,何か決まりがあるはずだと思ったのですけどね。
それにしても今,日本のメーカに何か問い合わせをしてみると,どこもこのような対応です。めんどくさいことを聞いてくれるな,と言わんばかりの応対ですし,完全に無視で返事が来ないこともきわめて多いです。この2社は答えが来ただけマシ35なのかもしれません。
それどころか,半導体などの規格表をダウンロードしようとしたらいちいち登録しないとダウンロードできないのはもちろん,JIS規格や特許など公的な資料を調べようと思ってもネットには出ていません。JISや公開特許公報くらいはPDFでダウンロードできないといけないと思うのですが,実際,米国特許庁USPTOだと1790年からの公報が見られます。どうやら,日本の場合,これらの資料を販売している業者さんがいるので,無料でPDFで公開できない,と言うことらしいのですが,一体何だかな~って感じです。これじゃ,日本でビジネスをしてみたい,と言う外国企業は日本をパスしてしまうと思います。
ちょっと脱線しちゃいました。
結局,いつも大変お世話になっている河童さんに伺ったところ,1971年発行の東光のカタログをいただきました。
ようやく,FMのIFTは紫,オレンジの順でIF1,IF2となっていて,レシオ検波用のは2個あって,入力側がピンク,出力側が青と言うことがわかりました。また,前回も書きましたとおり,紫はコンバータ用で,これには同調コンデンサが接続されていません。ほかにシリコン用はIF段共通で黒色のものがあるようです。それと,おそらく後述のクォドラチャ検波用のコイルもあるはずで,それはまた別の色に塗られているはずですが,そこまではわかりませんでした。
これでようやく謎が解けました。部品屋さんで見つけたり,ジャンク基板から取り出す際などにご参考にしてください。
ただ,これは必ずしも全社統一されていたわけではなさそうで,検波段は青と緑という組み合わせもあるようです。と言う次第で,下手すると今どきディスクリートでFMラジオを作ろうとすると,ジャンクのFMラジオの基板から取り外した方が早い,と言うことなのかもしれません。
☆ ☆ ☆
さて,ここまで来たところで,やはり問題は検波段用のIFT。ピンクと青のコアのIFTが入手できればレシオ検波ができるのですけれど.......。
eBayや海外の部品屋さんやサープラスショップも探してみましたが,無理なようです。
といって,iruchanは実はレシオ検波用のIFTの入手が無理なのは先刻承知で,別の方法を考えていました。
ひとまず,FMの検波についておさらいしておきましょう。
最初のFM検波回路はスロープ検波でしょう。
中心周波数をIFとは少しずらしたIFTを用意します。その中心からずれたところの傾斜したカーブを利用し,その領域にIF信号を通すと周波数に応じて振幅の変わる波に変化します。これをAMみたいにDiで整流してやれば周波数に比例した直流が得られることになりますね。これがスロープ検波です。以後のFM検波はこの方式を踏襲して,やはりFM波を周波数に比例したAM波に変換するのが目的です。周波数弁別器なんていかめしい日本語がありますが,英語ではdiscriminatorで,日本語でもディスクリなんて言ったりします。
スロープ検波の場合,やはり傾斜したカーブが非線形なのでどうしてもひずみが発生するのでHiFi向きじゃありません。
次に考えられたのが,IFTの2次側に2つ,やはり中心周波数のずれた同調回路を設けるものです。複同調検波回路とか,発明者の名前を取ってトラビス回路とか言います。
これも2つの中心周波数がうまく配置されていないとひずみを生じますのですぐに廃れました。
本格的なHiFiのFM用としてはRCAのFosterとSeeleyが発明した,フォスター・シーリー回路が有名です。
ひずみも少なく,本格的なFM用として普及しますが,残念ながら,AM妨害に弱く,どうしてもリミッタが必要なため,この点を改良したのがやはりRCAが開発したレシオ検波です。
これはリミッタ作用があり,安価なセットではリミッタを省略しています。
このレシオ検波はFM検波の主流となり,真空管の時代からTrの時代になっても,さらにはICの時代が来るまで主役でした。チューナーもソニーの名機ST-5000Fがレシオ検波です。このチューナー,Marantzの真空管式10Bを凌駕する,という触れ込みがありました。1971年開発なのでICをまったく使っていないフルディスクリートのチューナーで,とてもあこがれました。う~~ん,昔はよかったな~。
一方,周波数弁別器と異なる原理に基づいたFM検波方式も開発されています。
有名なのはゲーテッドビーム管の6BN6ですね。位相検波と言われます。一種の5極管ですが,グリッドが2種類あり,スクリーングリッドに相当するG2にIFに同調したタンク回路を接続すると,そこに主搬送波と90゜位相がずれた信号が発生し,G1に加えられたIFと積を取ると位相のずれに比例した直流がプレートに出る,と言うものです。
おまけに6BN6はリミッタ作用もあり,また出力電圧は数Vと大きいため,直接出力管をドライブできることもあって,TVで普及しました。TVではトランスレス用の3BN6がよく使われました。ほかにも,6DT6やFM1000などの専用管も開発されていますね。ただ,ひずみが多いので,HiFi用としては用いられませんが,リミッタ作用は強力なので米Scott社のチューナにリミッタとして用いられています。
ICの時代になると,同様の乗算器をIC内部に作り,クォドラチャ検波として多用されることになります。今でもラジオ用のICはこのクォドラチャ検波を採用しているものが多いです。なにより,セラミックディスクリミネータが開発されると,これはLCのタンク回路と違って単なるセラミック共振子ですから調整不要というメリットもあり,現在は主流となっています。レシオ検波はコイルを使っている関係上,どうしても調整が必要で,調整をするおばちゃんかどうかしらないけどの人件費がもったいないと言うよりおばちゃんは怖い,というわけです.......。
ほかにも,ICの時代にはPLLが簡単に実用化できるようになり,PLL検波というのもあります。これはIFに追随したVCO(電圧制御発振器)を作り,その制御電圧が音声そのものとなる性質を利用したものです。
そのほか,通信機で用いられたパルスカウント検波なんてのもあります。
これは,IF信号を一定幅のパルス列に置き換え,そのパルスを積分することにより音声信号を取り出すものです。
1980年代に入ると郵政省が各県に1局,民放の設置を許可するようになり,多局化が進められるとにわかにFMブームとなり,チューナーも売れたので,昔から高周波の得意なトリオがチューナーに採用しました。いかにも高級そうだし,音もよさそうなのでiruchanもとてもあこがれました。KT-9900とかL-02Tなんて,いまでも中古価格が10万円を超えるくらいだし,大変な高級チューナーでしたよね。
ただ,パルスカウント検波はそのまま10.7MHzのパルスでやることはほとんどなく,もっと低い周波数に変換してからやるのが普通です。
その1980年代は各社,差別化を図るため,このように検波方式もバラバラで,競っていました。そんな中,関西の某大手家電メーカがレシオ検波をHiFiにぴったりだと売り出して笑っちゃったことがあります。ラジオはともかく,もう当時すでに使われることはない技術だと思いましたけどね......。
さて,こうやってFMの検波にはいろんな方式があるのですけど,ディスクリート回路に使えて,しかも簡単な方式でレシオ検波以外,と言うことだとフォスター・シーリーだと思います。しかも,フォスター・シーリーだと特殊はIFTは不要で,段間用のIFTを流用できるんです。また,昔からフォスター・シーリーの方が直線性がよく,音がよいとされています。確か,80年代のチューナーブームの時もどこかが出したような.....。
☆ ☆ ☆
さっそく設計してみたいと思います。
でも,レシオ検波もそうですが,フォスター・シーリー検波の詳しい設計法を書いた資料が見つかりません。原理を書いた本は一杯あるのですけど,具体的に各定数をどうやって決めるか,書いた本がないのです。
ということでやはり困ったときのSpice頼みで回路シミュレータで設計します。
まず,FM変調波は通常の電圧源voltageから変調を選択できますので楽です。
IFTは3個の巻線が必要です。しかも,トランスとして使うので,いずれも結合してないといけません。
これについては,LTspiceの一番右上にあるdirectiveの設定が必要です。
これをクリックして,
K L1 L2 L3 結合係数
と記述すると3つのコイルが結合します。回路中に複数のトランスがある場合はK1,K2....と記述すればOKです。
なお,2次側の51pFはIFに同調しないといけないのですが,L2,L3はもちろん,この結合係数によっても同調周波数が変わるので,▼のSカーブを調べて,ちゃんと中心に10.7MHzが来るように決定する必要があります。
また,シリーズにつながっている2個のコイルは本当は1個で,センタータップが出ているだけなので,向きを合わせないと電圧を打ち消しちゃいますので,コイルの記号を右クリックして,show phase dotをチェックして向きを揃えておきます。
なお,L4は単なる独立のインダクタでいいので,結合の設定は必要ありません。レシオ検波だとこれまで結合しないといけなくて,このせいでIFTが特殊な巻線となってしまいます。
IFTはFCZ研究所の10.7MHzのものを使います。
ただ,問題はこのコイル,同調側の真ん中のピンがセンタータップではありません。
これはTr用のIFTには共通のことで,AM用も普通,センターではなく,ずれたところからタップが出ています。
これは接続するTrが低インピーダンスなので,それにあわせて整合を取っているからですが,FM検波に使うには不都合です。
どうしようか迷ったのですが,とりあえず,Spiceでテストしてみてどうするか決めたいと思います。
FCZのIFTの同調コイルの巻数は4Tと6Tなので,インダクタンスとしてはこの2乗に比例しますので,16:36になるようにインダクタンスを決めます。っていうか,4:9だろ。
結果は.....。
10kHzで変調していますので,10kHzが出てこないといけませんが,ちゃんと出てきます。輝線? が太いのは10.7MHzのIFが漏れているからですが,これは簡単なフィルタで消えますので問題ありません。
また,さっきの独立インダクタは100μHくらいないとダメな感じです。意外におおきなのが必要なんですね。
ただ,実を言うと,教科書にはフォスター・シーリー検波だとここがコイルになっていますが,普通の抵抗でもよく,メーカ製のセットだと抵抗で代用している場合があります。LTspiceでシミュレーションしたところ,50~100kΩでよさそうです。
さて,さっきの2次側非平衡の問題ですが,
IFをスイープして2次側の電圧を見てみますとこんな感じでした。いわゆる,Sカーブが出ていますね。この曲線を利用して,IFからずれた周波数に比例したAM波に変換します。
そんなにひずんでいる感じではないし,しょせん,小さなスピーカをつないで鳴らすだけだし,これで十分ではないかと思います。こんな小さなラジオだとスロープ検波でもいいくらいだし,これでいいんじゃない,と思います。
☆ ☆ ☆
ついでに,レシオ検波もシミュレーションしてみました。
レシオ検波は2次側のコイルは3つ(実物は2個で,1個は真ん中にタップがあるんですけどね)必要で,いずれも結合が必要です。
2つあるDiはフォスター・シーリーと違って逆向きで,また,Diの出力に大容量のケミコンがつながっているのがレシオ検波の特徴です。このコンデンサのおかげでリミッタ作用があります。
出力波形はフォスター・シーリーも同様で,起動後しばらくは▲のようにマイナス側に大きく振れます。ちゃんと出力に10kHzが出てくることがわかりますね。
残念ながら,FM用のレシオ検波用IFTを入手することは古いFMラジオを解体でもしない限り,難しいかと思います。
ただ,問題になる3次巻線はやはりFMなので,ほんの数Tの巻数でよいはずだし,FCZのIFTを改造して作ることもできるのではないかと考えています。
つづきはこちらへ。
2018-05-06 00:00
nice!(13)
コメント(0)
コメント 0