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三栄無線SA-523型パワーアンプキット(6BX7シングル)について [オーディオ]

2016年5月22日の日記

三栄無線SA523Kit.jpg 三栄無線SA-523アンプ

実家に置いてあった,6BX7シングルのアンプを修理しました。東京の三栄無線が1970年代に販売していたものです。純3極管の6BX7をシングルで使い,最大出力は2Wほどです。そんな小出力じゃ,話にならない,という人もいるかもしれませんが,家庭用なら十分な出力で,3極管らしい,柔らかな音のするアンプです。

当時,三栄無線は初心者向けのこういったアンプから熟練者向けの高級アンプまで,幅広いキットを販売していました。大手のラックスやケンウッドをはじめとして,中小の会社まで,幅広いキットが売られていて,今から思えばいい時代だったな~と思います。 

そんな中で,三栄無線は主として真空管のアンプのキットを扱い,初心者向けのものから211シングルと言った高級品までありました。このSA-523のほかには6BQ5シングルのSA-530,6CA7シングルのSA-560などがあり,初心者向けでした。

私は中二の時に自分で部品を集めて作った6G-B8シングルのアンプが最初の第1作で,次はぜひ3極管のアンプを作ろう,と考えていました。そんな中で,このアンプは6BX7を使い,ステレオで小型だし,しかも値段は2万円しない価格だったので,これを組み立てたいとずっと思っていました。

でも,所詮,中学や高校生の小遣いじゃ買えないし,こちらも受験があったりして結局買わずじまいでした。ようやく入手したのは10年ほど前のことです。Yahoo!オークションで落札しました。もちろん,どこかの知事さんのように公金じゃなくて,ちゃんと私費で購入してますけどね......(^^;)。

調べてみると,2005年9月に購入しています。こうやってちゃんと記録も残っていますので,第三者機関の調査にも十分答えられます......(^^;)。 

ただ,残念ながら,キット組み立て品を購入する,というのはやはりリスクがあります。市販のアンプやキットでもメーカで組み立てたものならいいのですが,ユーザが組み立てたものは組み立てた人の力量で出来,不出来があり,ひどいものだと組み立てに失敗していたり,その後故障したりするようなものが多いです。

私が落札したのはあまり出来がよくなく,まあ,見たところ,初心の方が実体配線図を見ながらそれなりに上手に配線したような感じなのですが,どうにもラグ板の使い方がおかしく,電線を上の端子穴に配線し,部品を下の穴に差し込んであったり,電線もおそらく太く短い方が音がよいと思ったのか,かなり太いAWG#18くらいの電線で配線してあります。シールド線も使うと高域が落ちると信じたのか,シールド線は使っていませんし,肝心のハンダも大量に盛ってあったり,ちょっとびっくりするような状況でした。まあ,ハンダは大量に盛ってある方が天ぷらハンダになっているよりマシですけど。部品も位置や向きがそろえていなくて,あとで修理するのに苦労する状態です。

三栄SA-523内部.jpg 買ったときの内部の状態 

と言う次第で,買ったときにそれなりに手を入れているのですが,あれからでも10年ほど経っているので,再度,整備します。実際,久しぶりに通電してみると音が出ない状況でしたので,それも修理したいと思います。

前回,6BX7のパスコンはELNAのセラファインに交換しています。このコンデンサ,私のお気に入りだったんですけどね。 半導体用のみならず,管球用の高圧のものもあり,重宝していました。そのほか,カップリングは日通工のフィルムコンだったのを米ASCのフィルムコンに交換しています。日通工のはフィルムコンなので問題ありませんが,古いので一応,交換しておきました。なお,ペーパーコンやMPコン,オイルコンなどの紙系コンデンサは長年の間に吸湿して絶縁性能が落ちていますのですべて交換しましょう。詳しくはこの記事をご参考になさってください。

一方,電源のフィルタに使われている47μF 350Vのコンデンサはオリジナルのままです。日本製なので問題ないと判断していました。

ただ,さすがにあれから10年経っていますし,実際の製造から考えると経年40年というところですので,この際,交換しておきたいと思います。実際,外したものをチェックしたら18~27μFと言ったところで,やはり容量が減っています。でも,40年経ってもこれだけ残っているのは優秀だと思います。海外製だと0μFになってもおかしくありません。

と言いながら手持ちに先日,修理したPhilipsのCD104(日本ではマランツCD-34)の修理の際に,部品屋さんで見つけたPhilips BC componentsの47μF 385Vがありますので,これに交換しました。一応,警戒して容量を計ったらちゃんと47μF以上ありました。

整流ダイオードもウルトラファーストリカバリに交換します。使用されていたのは日立のV08Jと思われます。一般用ですが,trr=200nsと比較的高速なDiです。結構高速なやつなので交換しなくてもよいのですが,このところよく使っているVishayのUF4007(1kV,1A)に交換しました。trr=75nsと高速です。ちょっとサイズが小型すぎるので,心配なくらいなんですけど。でも,やっぱり整流はファーストリカバリです。ノイズも少なく,音もよいです。

三栄無線SA-523型アンプ3.jpg回路図です。

回路自体は12AX7 1本で単段増幅し,6BX7をドライブします。電源はチョークコイルを用いたπ型フィルタとなっています。安価なアンプだと抵抗で代用していることもありますが,ちゃんとチョークコイルをおごっています。出力管が3極管のため,内部抵抗が低く,電源のリップル分の影響が大きいので,電源のフィルタは厳重にしておかないといけません。チョークコイルかTrによるリップルフィルタは必須です。その点,6BQ5などの多極出力管だと内部抵抗が高いので,多少,フィルタの時定数は小さくてもOKなんですけどね。

6BX7, 12AX7.jpg 使われていた真空管

使用されていた真空管は12AX7は松下製で,6BX7はWestinghouseでした。おそらく,私が買ったキットが販売されていたときは東芝製でしょう。あとで差し替えられたのだと思います。6BX7は小さなガラスエンベロープに2つも電極を詰め込んでいるので,寿命が短いのでは,と想像します。私も東芝の6BX7を持っているのでたまには差し替えてみたいと思います。もっとも,普段使うのはこういうアメ球なので,これで十分です。といって,この頃のアメ球はもはや米国の工場では採算がとれず,日本製の真空管のOEMであることが多く,この球も日本製の可能性がありますが,この球は作りから見て米国製のようです。ちなみにWestinghouseやRaytheonなどの1960年代の球は日本製です。そういや,Westinghouseは今は東芝の子会社だな~。 

トランス類はすべて特注品で,サイズもぴったりです。現在,秋葉でこのような小型トランスを見かけますので,回路も簡単だし,同じ回路で再現してみてもよいかと思います。

さて,修理については上記のコンデンサとDiを交換したほか,音が出ないというのはボリウムに原因があるようなのでボリウムを交換しておきました。

VR交換1.jpg  もとのボリウム

どうしても日本は湿度が高いせいか,可変抵抗は長年経つと導通不良となります。使われていたのはごく普通の可変抵抗で,端子部に隙間がありますので,一番簡単な修理法としてはここから接点復活材をシューッとやればたいてい直ります。

でも,接点復活材はあとで周囲が腐食したり,結局はまた導通不良になったり,いろいろ問題を起こすことが多いので,私は使いません。やはり根本的には新しいボリウムに交換しちゃうのが一番いいと思います。もし,どうしても代わりがない特殊なボリウムの場合は分解して接点グリスを塗るのをおすすめします。

真空管アンプでいつも使うのは密閉タイプのRV24YNです。JIS規格になっているので標準品で品質が安定しているのも魅力です。 これの100kΩのが手元にあったので交換しました。

ただ,軸の開口部が若干大きいので,リーマーで拡大しました。鉄のシャシーなので,ここから錆びるかもしれないので,ミッチャクロンで下塗りしたあと,茶色の塗料を塗っておきました。

VR交換.jpg ちょっと穴を錆防止のため塗っておきます。 

改良後内部1'.jpg 部品の交換状況

そのほか,スイッチやねじ,パイロットランプなどの鉄製部品が錆びていたので交換しています。パイロットはネオンランプ仕様のものは製造中止で,LED仕様のものに交換しています。 

さて,これで完成です。 いよいよ再度,通電します。

一応,整流Diを交換したり,フィルタコンデンサを交換していますので,スライダックで徐々に加圧します。まずは直流50~100Vくらいで止め,数時間放置します。フォーミングと言いますが,これでフィルタの電解コンデンサの絶縁皮膜を復活させておきます。 まあ,日本製の電解コンデンサの場合は不要で,いきなり高圧をかけても問題は起きませんが,米国製などの電解コンデンサの場合はいきなり高圧をかけるとフューズが飛ぶことがあります。

AC100Vに加圧したらすぐに各部の電圧を測定します。特に,6BX7のカソード抵抗は20Vくらいの電圧になりますので,これでプレート電流をチェックできます。

f特と出力を測っておきました。ちゃんと音も出ますし,ボリウムもガリはありませんでした。

三栄SA-523特性.jpg 周波数特性です(1W時) 

-1dBで35Hz~30kHzと言ったところで,なかなかこのOPTは優秀であると思います。低域のカットオフは十分低いと言えます。多極管のシングルアンプだと100Hz付近からだら下がり,と言うことが多いですが,これは,多極管はプレート電流が大きく,OPTの1次側インダクタンスが直流磁化により減少するからで,その点,3極管はプレート電流が小さいので,低域のカットオフを低くできます。こういった点からもシングルアンプはやはり3極管が有利です。 

出力はクリップ時点でちょうど2Wでした。45のシングルより大きいですが,2A3よりは小さい,と言ったところでしょう。 

さて,お楽しみ......。 いよいよ音楽を聴いてみます。

今日はジャクリーヌ・デュ・プレを聴いてみましょう。

Du Pre Dvorak.jpg サン・サーンスとドボルザークのVc協

まずはサン・サーンスとドボルザークのチェロ協奏曲です。いつもお世話になっている方からご紹介いただいた盤です(TELDEC 8573-85340-2) 。サン・サーンスは旦那(バレンボイム)の指揮でフィラデルフィアo.との共演で,ドボコンはチェリビダッケ指揮スウェーデン放響です。

出色の出来はドボコン。あまたあるドボルザークのチェロ協奏曲の中で一番の出来だと思います。録音は1967年です。指揮もチェリビダッケですからフルトヴェングラーばりの勇壮な出だしも迫力満点ですが,どうもさすがのチェリもデュ・プレに引きずり回されているような感がして,激しく盛り上がる名演です。

残念ながら旦那と共演した方はあまりなじみのないサン・サーンスのチェロ協奏曲と言うこともあり,あまり聴かないのですが,彼女の引退する理由となった多発性硬化症の初期症状が現れ出した頃の演奏のようです。演奏にはみじんもそのような感じはしませんが,彼女のその後の運命を知ると襟を正して聴く必要があると思います。そういえば,彼女にはお姉さんがいたのですが,彼女との確執は映画にもなっていますね。アナ雪みたいに仲のよい姉妹じゃなかったようですし,どうにも幸せな人生を送ったわけじゃなさそうで,気の毒です。 

Du Pre Dvorak-1.jpg バッハの無伴奏ほか

ドボコンですっかりはまっちゃったので,ついでに買ったのがこの盤。これ,驚きました。実にデュ・プレ17歳の時の演奏だそうです(英EMI 7243 5 86236 2 8) 。

1962年1月,エジンバラフェスティバルの一環として演奏され,放送用にBBCが録音したものをCD化したものです。 

それこそ,チェロの名曲中の名曲であるバッハの無伴奏チェロ組曲の演奏なので名盤がひしめいているのですが,フルニエなどの大家を退けて私の一番のお気に入りです。 

まあ,カザルスは別格としても,フルニエやシュタルケル,ロストロポービチなど大家と呼ばれる人の演奏はどうにももったいぶった感じがして好きになれません。おそらく,チェリストから見てこの曲はヴァイオリンのツィゴイネルワイゼンと同じくらいチェロの名曲なので,何かにつけ演奏してくれ,と頼まれるのが嫌な上に,この曲を若干,誇張したくらいの演奏をしないと大家として満足してもらえないため,"どうだ,俺のはすごいだろう" と言わんばかりの演奏が多くてちょっと閉口します。

その点,弱冠17歳のデュ・プレのこの演奏は初々しくて技術的にはこれらの大家に劣るようなことがあっても(私にはそういうところがあるとは聞こえませんけど),バッハの楽譜に忠実で誇張したり奇をてらったところが全くなく,素晴らしい名演奏だと思います。

ちなみにこの盤は気に入って一時期,ずっと聴いていた時期があり,愚息の子守歌代わりにCDをかけていたこともあり,よくこの曲はCMに使われていたりするんですが,ある日,TVからこの曲が流れたら,愚息(当時5歳)はひと言,

    ばっは。

と言いました.......(^^)。 

なお,まだ蛇足ですが,このCD,なぜか第3番が入っていません。そういうものか,と思っていたのですが,どうやら演奏会ではちゃんと3番までやったそうなのですが,なんたることか,BBCがテープを紛失してしまったそうです......orz。

さて,音の方ですが,やはり3極管らしい柔らかい音がいいです。特に低音が豊かでダンピングの効いた音はやはり3極管だな~と思わせます。電源のフィルタがよく効いていて,ハムは全く聞こえません。よく,傍熱3極管は音が悪い,などと言われますが,どうしても直熱3極管はハムが避けられず,特にバッハの無伴奏のような静かな曲だとハムの中でチェロを聴く,と言う状態になりますが,このアンプは傍熱3極管と言うこともあり,とても静かに聴くことができます。バッハの無伴奏聴くならこのアンプだな~と思いました。

6BX7, 12AX7-1.jpg やっぱ真空管だな~~。 

ところで,このアンプ,ネットで画像検索したらシャシーが真っ黒のバージョンもあるようです。そういえば,中学生の頃,三栄無線に頼んで送ってもらったカタログに載っていたのも黒いシャシーのバージョンでした。と言うわけで,私が持っているのは初期のもののようです。 

三栄無線SA523Kit-1.jpg ボンネットをかぶせるとこんな感じです。 

 

2016年5月29日追記

修理したアンプを実家に持って帰りました。いつもの20cmフルレンジ・テクニクスEAS-20PW56で聴いてみました。往年の ”げんこつ” スピーカーです。時代的に真空管にはぴったりです。久しぶりにとてもいい音を聴くことができました。

ついでに,実家の書類棚を探したらやっぱり出てきました........。 

三栄無線カタログ.jpg 三栄無線のカタログです。なつかし~~。

送料として100円を送ると送ってもらえたカタログです。時代的には1979年頃と思います。回路図もついていて,当時,とても勉強になりました。当時は全く何のことかわかりませんでしたけどね。でも,ずっと眺めているとわかったような気になりました。しばらくの間,寝る前に布団に潜り込んでずっと飽かずに眺めていた記憶があります。 

三栄無線カタログ1.jpg SA-523は17,000円でした。

やはり,私の記憶にある通り,SA-523型は黒シャシーでした。正面のスイッチが左右反対になっているのも驚きです。たぶん,何かの都合でシャシーの発注先が変わってデザインも変わったんでしょうね。

説明を読むと,真空管はSYLVANIA製を使用,出力は3W+3Wとのことです。ちょっと6BX7では3Wは厳しいですけどね。 

なお,アンプのキットは上記の6CA76BQ5シングルアンプのほか,8045GシングルのSA-560Aとか,KT-88UV-211シングル,2A3PPなど,盛りだくさんです。8045Gのシングルアンプのキットは珍しいと思います。ちゃんとドライバは6240Gで,カソホロドライブとなっています。スゲェ~。一度,作ってみたい~! それにしても,いい時代だな~~。


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コメント 3

ポロリンガー

楽しく読ませていただきました。
実は今三栄無線のSA-560を整備中です。
回路図を探しているのですが見つかりません。
お手持ちのカタログに掲載されていませんでしょうか?
あればコピーさせていただければありがたいのですが。
突然申し訳ありません。

by ポロリンガー (2018-07-14 12:45) 

iruchan

残念ながら,刊行物は著作権がありますので,無断でネットにupすることは避けていますが,一応,本日のみ,PDFをupしました。本日中にダウンロードください。
by iruchan (2018-07-15 07:26) 

ポロリンガー

ありがとうございました。
早速ダウンロードさせていただきました。
これで整備できます。
どんな音で鳴るのか楽しみです
またご報告いたします。


by ポロリンガー (2018-07-15 16:40) 

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