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FM/AM ステレオチューナ製作記 [ラジオ]

2011年7月16日の日記

前回に引き続いて,AMステレオ第2弾です。

今日はFMステレオ付のAMステレオチューナ製作記です。2004年に作り始めました。やはりFM付はかなりむずかしく,途中で興味を失ってしまったこともあり(おぃ),久しぶりに取り組みます。

やっぱ,FMはむずかしいですね。それに,AMステレオのデコードに使用した,東芝のTA8124PというICもモトローラのMC13020P同様,やはりかなりご機嫌ななめで,快調に動作させるのはむずかしいです。

AMステレオは前回も書きましたが,直交変調を使っているため,搬送波の0゜と90゜に同期して検波しないといけません。モトローラが開発した,C-QUAM方式AMステレオはモノラル受信機と完全な互換性があり,エンベロープは正規のモノラル信号となっているため,0゜の信号(inphase: I)は通常のAM受信機同様,エンベロープ検波でOKです。で,問題はL-Rの差信号が乗っている90゜(quadrature: Q)の同期検波です。L-Rが復調できたら,マトリクス回路でモノラルのL+Rの信号と和,差を取り,LとRに分離します。

Q信号の同期検波をするためには搬送波と周波数が同じで,位相だけが90゜ずれた信号を作り,それと搬送波の積を取れば検波できます。こういう信号を作るのはPLL技術が必要です。

PLLというのはphase lock loopの略で,日本語では位相同期ループと訳されます。このような,ある信号に同期した一定周波数,一定振幅の信号を作るのに用いられます。VCO(電圧制御発振器)と位相比較器,フィードバック回路を組合せ,アナログ回路の最高峰とも言われますね。「PLLがマスターできればアナログは卒業」なんて言われます。もとは1940年代の理論なので,結構,歴史は古く,おそらく最初は軍用の通信関係のS/N改善などの目的で開発されたと思いますが,今ではラジオや携帯電話など,通信関係の機器には必須の技術となっています。真空管式のPLLシンセサイザチューナと言うのも実はありまして,米NationalのFRR-59というのが有名ですね。

真空管では無理で,PLLは基本的に半導体の仕事....なのですが,真空管の時代には民生用としてはカラーTVで使われていたのが唯一の例ではないでしょうか。カラーTVは日本では1960年の開始です。米国だと1953年で,その年に日本では白黒のTV放送が始まっています。もとはTVは白黒で始まっていますので,従来の白黒TVと互換性を保たないといけないので,カラーTVは映像信号は従来通りAMで,検波したあとの3.58MHzに色信号が直交変調で乗っています。この色信号を取り出すため,APC(自動位相制御)と呼ばれるPLLを使っています。その昔,真空管式のカラーTVはしょっちゅう故障し,電器屋さんをよく呼びましたが,ほとんどの故障はこの色信号復調部分だったと思います。画面がまっ赤になってしまったり,色がずれたり,よくこういう故障がありました。今から思えば,APC回路の不調だったんですね。こんなこと覚えている私はジジイ?

それに,昔のTVは同期がはずれて画面が上下や左右にパラパラと移動するなんて故障もありましたが,半導体式になってこんな故障はなくなりました。これもPLL技術のおかげで,水平と垂直同期信号が正確に作れるようになったからです。もうじきTVも完全にデジタルになりますが,こんな故障は昔話ですね。

ちょっと脱線してしまいましたが,PLLをAMラジオの検波に用いると大きな問題があります。

いわゆるボタン式の,PLLシンセサイザ式チューナに応用する分には問題ないのですが,バリコンを使ったアナログチューニング? のラジオに使うと問題が生じます。

というのは,VCOの発振周波数が搬送波と完全に一致しないと,周波数の差がビートとなって,音になってしまうからです。

MC13020Pを使った前回のラジオもそうなのですが,完全に同調するまで,ピーッと音がします。AMステレオのICは3.6MHzのセラミック発振子を使って,3.6MHzを発振し,それを1/8分周して,450kHzの信号を作っています。フロントエンドもIFを450kHzにして,同期検波をします。ラジオの中で,IFと同じ周波数の信号を作るのは危険なことで,安定に同期検波するのは大変です。

ちなみに,昔のラジオのIFを取り出す場合はIFが455kHzなので,セラミック発振子を3.64MHzとするか,ラジオのIFを450kHzにしないといけません。

この東芝のTA8124Pなど,AMステレオ復調用ICは完全にVCOが搬送波に同期するまで,マトリクス回路をonにせず,AMステレオに切り替わりません。

と言うことで,MC13020Pも規格表には完全無調整などと書いてあり,デコーダ部分は無調整としても,AMステレオになるように,フロントエンドの調整をするのはなかなか大変です。

結局,アナログチューニングのラジオにAMステレオを搭載するのはむずかしく,ユーザもきちんと同調を取らないとステレオにならないので,「AMステレオは聴きにくい」 ということで普及を妨げた,と言う気がします。PLLシンセサイザ式にすればいいですが,値段が高くなりますからね。

NHK出版が出していた,"エレクトロニクスライフ" にPLLシンセサイザ式AMステレオチューナの製作記事が出ましたが,アマチュアがPLLシンセサイザ式のフロントエンドを作るのは無理でしょう。ひょっとして,書いたのはNHK技研の人だったかもしれません。

さて,このFM/AMステレオチューナです。

問題は,TA8124PMC13020P同様,入力の450kHzのIF信号の品質がよくないとステレオにならないことにあります。特に,MC13020Pは規格表にIF信号が0.1V以上と書いてあるように,普通は電圧が大きくないとダメなのですが,TA8124Pは逆に,IF信号は小さい方がよいようです。

TA8124Pは一般向けに開発されたものではなく,セットメーカ向けの製品だったようで,規格表は簡単なものしか入手できませんでしたので,推定でしかありませんが,"ラジオの製作" などにいくつか出た製作記事から推定すると,IFアンプを内蔵しているため,入力のIF信号の電圧が大きいと,サチってしまってステレオにならないようです。

ということで,前回はフロントエンドに使用した,TA7687APの2nd. IFの出力(#11ピン)から信号を取り出していましたが,1st. IF(#14ピン)から取り出しました。2nd. IFの出力だと,きれいなモノラルは聞こえますが,どうしてもステレオになりませんでした。

また,同調方向を指示するLEDが2つ,ついているのがこのICの特徴なのですが,これは必須です。いらないか,と思ってつけないと,うまく同調が取れず,ステレオになりません。この点,MC13020Pの方はビートが聞こえなくなる位置に合わせれば,2,3秒してステレオになるので,こちらの方が使いやすい感じです。

FMの方はフロントエンドのTA7358APとステレオデコード用のTA7343APが2個追加となります。IF部はTA7687APを使います。もちろん,バリコンはFM付の大きなものが必要です。FMフロントエンドはグランドパターンを大きく取れば特に問題はないと思います。コイルは空芯のものを使う(と言うより作る,ですね)と調整が大変なので,コア入りのものが便利です。東光やミツミのは秋葉などで売っていないので,FCZ研究所のものを使いました。やっぱ,非常に便利でした。空芯コイルだと,FMラジオと言うより単なるVHFの受信機になってしまって,とんでもない周波数で動作していて,調整するのに苦労しますからね。

さて,ようやく動作するようになりました。ナイターをステレオで聞けて,非常にご機嫌です。

FM/AMステレオチューナ正面.jpg 正面。ステレオLEDも点灯中。 

パイロットランプ用のLEDはマルツで買ってきたピンク色のLEDを使っています。おしゃれでしょ。でもどう見ても紫色だなぁ。ステレオLEDは2つの同調指示LEDが消灯してから点灯します。 

FM/AMステレオチューナ内部.jpg 内部

ケースはタカチのCH6-29-14を使いました。中央のスペースはMC13022や別のステレオデコーダを組み込むつもりで開けてあります。    

FM/AMステレオチューナ回路図.jpg回路。クリックすると拡大します

電源は3端子レギュレータを使いましたが,整流にはファーストリカバリDiをおごっています。IFには初めてセラミックフィルタを使いました。ムラタのAMステレオ用広帯域SFU-450Dを使いました。とうに製造中止になっていますが,10kHzまで再生できるので,とてもHiFiです。それに,フィルタを使わないと,IFTの調整時に450kHzの信号を流して調整しないといけませんが,フィルタがあれば,単に放送を聞いて(別にノイズのままでもいいですが)音量が最大になる位置に固定すればよいのでGood!です

FM/AMステレオチューナ基板1.jpg

プリント基板。さすがにFMステレオ付だと大変です。バリコンはつまみ取付のため,シャフトを延長しました。なお,つまみに金属製のものを使うときは,ボディエフェクトを避けるため,このようにポリカーボネートの延長シャフトを使ってバリコンと絶縁してください。こうしないと,バリコンのつまみに触れただけで,同調がずれたり,ステレオのロックが外れてしまいます。

チューニング指示のLEDが2つついています。TA8124Pはこの前のアイワのCR-35のほか,PanasonicのRF-HS90にも使用されています。特に,ラジカセに使用されることが多かったように思います。ソニーもSRF-M100ではCX857など,独自のICを使っていましたが,ラジカセにはこれを使っていることが多かったようです。

一応,東芝の規格表を見ると,この同調指示LEDは,上か,下に同調がずれた場合にどちらかが点灯し,完全に同調すると消灯するように作られています。でも,これはなんだか変。そういえば,アイワのCR-35の動作を見てみると,完全に同調すると2つとも点灯し,その後,真ん中のステレオ指示用LEDが点灯します。

やっぱ,こっちの方がユーザとしてはわかりやすいですね。単に論理を反転するだけなのですが,面倒なので,東芝の規格表の通りにしました。

FM/AMステレオチューナLED'.jpg 離調時

同調指示LEDとステレオインジケータ。同調指示はKATOの電機から取り外したオレンジ色のものです。余っちゃって使い道に困っていますので....(^^;)

FM/AMステレオチューナ背面.jpg

    背面。AMのバーアンテナはよいものでした。

ところで,このラジオはめっちゃ感度がよいです。前回のMC13020Pを使ったものは感度が低く,外部アンテナが必要なくらいですが,これは非常に感度がいいです。やはりバーアンテナが非常に効きます。AMラジオはこの選択が重要だと思います。見つけたのはきれいなリッツ線を用いて,基板用の端子がついていましたが,感度がよく,いいものでした。あとでまた買いに行って,買いだめしました。

さて,久しぶりにうまくいったので,今度はモトローラのMC13024を使ったポータブルAMステレオラジオとナショセミのマグナボックス方式用AMステレオデコーダLM1981を使ったAMステレオチューナをつくろうと思っています。

 


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