ソニーのパワーアンプTA-N86の整備~アンプ部~ [オーディオ]
2016年9月18日の日記
ようやく涼しくなってきましたね~。さすがに夏の間はiruchanも工作はお休みです。
さて,涼しくなってきたので,今日は前回に引き続いてアンプ部を整備します。
アンプ部は初段2SK97(ソニー),2段目2SC1890(日立),3段目2SB646A(日立),2SA733(NEC)の3段差動アンプで,ドライバは2SB647A(日立)/2SD667(日立)→2SA706(ソニー)/2SC1124(ソニー)で,出力2SA1028/2SC2398の3段ダーリントンになっています。出力の石はもちろん,ソニーの自社開発のHI fTトランジスタです。
3段目の差動アンプが少し変わっていて,左右のペアが異なる品種になっています。それどころか,メーカも違います。普通,こんなことしないんですけどね~。また,3段目はカレントミラー負荷になっています。
その上,初段はデュアルなんで大丈夫ですが,2段目以降はいずれも熱結合されていません。メーカ製のDCアンプって大体こうですね。ということは自作アンプでも熱結合しなくてもいいんじゃないかと思っちゃいます。 実際,本機も修理後,オフセットを長時間,見ていましたが,全然ずれませんでした。
また,ドライバ段も2SC1124なんて昔懐かしいTrを使っていますが,相棒の2SA706は同じソニー製だけれど,これのコンプリじゃありません。もともと,2SC1124はコンプリメンタリペアがないので,自社製の特性の似た石を組み合わせているのでしょう。
あとはA級/AB級の切り替えのためのバイアス切り替え回路やプロテクタ回路がついていて,回路としては比較的簡単な部類だと思います。
DCアンプ構成になっていて,初段はデュアルFETを使っています。2SK97なんて金田式DCプリアンプの定番ですね~。高くてちょっと買えませんでしたけど。
DCアンプ構成のため,アンプ部のコンデンサ類が少ないのが特長です。それでもデカップリング用の電解コンデンサや古いマイラコンがありますので取りかえておきます。位相補正には安価なセラミックが使われているので,速攻でディップマイカに交換します。この辺はコストの問題があったのでしょう。
ついでに,パワーTrはシリコングリスが乾いた歯磨き粉みたいになって固まっているのできれいに外して掃除しておきます。これじゃ,まるでポリデントだな~。
固まったポリデントシリコングリスはホワイトガソリンできれいに落ちます。なお,ホワイトガソリンは普通のガソリンが灯油などと間違えないよう,色がついているのにこれは洗浄用のため無着色で,普通のガソリンと同じです。だから,間違っても頭からかぶって火をつけたりしてはいけません。
やはりTO-3型のTrはかっこい~~~!!!。ほれぼれしちゃいますね。それに,ソニーのTO-3型は初期の2SC42とかV-FETの2SK60とか,なぜかフランジ部が薄いのが特徴ですが,このTrはフランジはNECの2SA627とか2SD555みたいにかなり分厚くなっています。
でもさすがに30年以上経っていて表面は錆が目立ちます。少しピカールで磨きました。でも,やり過ぎると表記が消えちゃいますので,ほどほどにしておきました。なぜか2SC2398の方が錆がひどいです。プラスに帯電するからかな?
まあ,錆びていると言っても日立の2SJ49/2SK134みたいに最初から白錆だらけ,と言う訳じゃないのでいいですけどね。どうして日立のMOS-FETやほかのTO-3型のものはこう,最初から錆だらけで汚いんでしょうか。どうもiruchanはMOS-FETが嫌いなのもこの辺からかも。
シリコングリスを再度,塗布して放熱器に取り付けました。絶縁のマイカは剥離したり,割れたりしていなければ再利用します。デンカシートじゃかっこわるいし,マイカは真空管でも使っているのでiruchanのお友達ですからね~。
固定用のねじは捨てて,非磁性体の真鍮製ねじに交換しました。
なお,自作マニアの人はよくご存じだと思いますが,TO-3型のTrを取り付けた際は必ず放熱器との絶縁を確認してください。うっかり接触しているとフューズが飛びます。ついでに,iruchanは基板の裏からテスターで各電極間の電圧をチェックしました。半導体なのでP→Nの方向に電流が流れると0.6Vくらいの電圧になります。これを確認しておきました。
コンデンサ類は100μF以上のものはオーディオ用電解,それ以下はOSコン,マイラは積層フィルムコンデンサ,セラミックはディップマイカに交換しました。まあ,マイラコンデンサは品質もよいので,全部取りかえなくてもよいと思います。カップリングに1μFの巨大なフィルムコンが使われていますが,WIMAに交換しました。当時のフィルムコンはこんな大きさなんでしょうが,カップリングコンデンサも大きすぎると誘導をひろってノイズの原因になります。
バランス調整やアイドリング調整用の半固定抵抗はコパルのRJ-13に交換します。iruchanは真空管の固定バイアス回路などに使っています。高信頼の部品で,とても信頼できると思います。
なお,これらの半固定抵抗を取りかえるときは,あらかじめ外した半固定抵抗の抵抗値を測っておいて,その値にセットしてはんだづけしておくとよいです。
では,いよいよ電源を入れます。
まずはバランス調整とアイドリング調整を行います。
バランス調整は2SK97のソースに入っているトリマで,ここを調節して出力につないだ8Ωのダミー抵抗両端の電圧が1mV以下になるようにしました。
次に,アイドリング電流ですが,本機はA級,AB級に切り替えられるようになっているので,それぞれ別々に行います。
出力の2SC2398のエミッタ抵抗0.33Ωの両端にテスト端子があるので,そこの電圧で調べます。基板上にはT.Pの表示があります。A級の場合,350mV,AB級の場合,20mVに設定するよう,マニュアルに記載がありました。 それぞれ,アイドリング電流は1.06Aと60.6mAですね。個人的にはAB級アンプなら100mA以上に設定したいところですが,マニュアルどおりにしておきます。
A級動作時のバイアス設定用可変抵抗はオリジナルは470Ωですが,こんなの今どき売られていないので500Ωで代用しています。
残念ながら初段は貴重な2SK97が使われていますが,半固定抵抗の調整位置固定用に白いペイントがべったり塗られていて,RJ-13に交換するときにはがれてしまいました.....orz。
そのほか,基板上についている位相補正用の1800pFや100pFはディップマイカに交換しました。電解コンデンサもニチコンのオーディオ用に交換してあります。また,初段にはAC/DCアンプ切替用に唯一,大きな1μFのフィルムコンデンサがカップリングコンデンサとして使用してあります。フィルムコンは信頼性が高いし,劣化しにくいので原則,交換しませんが,ここは音質が問題になるところなので,新品の独WIMAの積層フィルムに交換しておきました。
次にオシロで波形を見ておきます。ついでに,f特も測っておきます。ひずみも測ればよいのですけど,めんどいのでやめました.....(^^;)。
それにしても優秀な特性に驚きます。-1dBで,DC~250kHzと言ったところです。トータルゲインは27.6dB(1kHz)でした。いまだともっと小さめでもよいと思います。ちょっと特性がうねっているのは発振器のせいです。
さて,ここから先はしなくてもよいのですけど,古い部品が気になって30年でどれだけ劣化しているか,調べてみたいと思います。
先日,中国製の電子部品チェッカを買ったので,それで調べてみます。特に大容量の電解コンデンサがどれくらい容量減となっているか,興味があります。
と言って自分でやるのはめんどくさいので息子(小5)を強制徴用し,測定させました......(^^;)。
結果は意外。どれも30年も経っているとはとても思えないくらいで,ほとんどのコンデンサは新品の状態を保っていました。やはり日本製のコンデンサは素晴らしい!
少し容量減だったのは電源のフィルタコンデンサで,1000μFが650~910μF程度になっていましたが,それ以外はほとんど新品の状態でした。 タンタルコンデンサも問題ありませんでした。
さて,お楽しみ。 いよいよ音を聴いてみます。
いつも聴いている,ジャクリーヌ・デュプレのバッハの無伴奏はとてもいい演奏です。当時,彼女は弱冠17歳でした。このアンプはノイズもなく,静寂の彼方から静謐なバッハの調べが流れてくるところは感動します。
それにしても,いま常用しているLepy(旧Lepai)のLP-2020A+アンプと音は変わりません。Lepyは3,000円ほどのチープなアンプですけど,こっちは9万円もしたアンプなんですが......。
お次は最近,娘が聴きたいと言ってHMVで買った朝比奈隆の "新世界より" 。
まあ,クラシック初心者の娘が聴くんだし,ということで高くなくても,と思って選んだCDでしたが,聴いてみてびっくり。大変な名演です。
1982年の大阪・フェスティヴァル・ホールのライブ録音ですが,弦の響きの美しいのにも驚かされます。第2楽章の有名な旋律はとても美しく,思わず学校から帰りたくなりました.....(^^;)。
なにより冒頭の静かな開始にはじまって最後のコーダの盛り上がりは素晴らしい!!
あくまでも楽譜に忠実な,外れるところのない,端正な演奏にも感動します。よく,こういう演奏って,教科書的ってバカにされることも多いのですが,あまり奇をてらった演奏というのも困りもの。
"新世界" はiruchanも大好きなので,古くはメンゲルベルク&アムステルダム・コンセルトヘボウのSP録音からフルトヴェングラー? の演奏,クーベリック,フリッチャイなどたくさん持っています。お気に入りはロジンスキーのウェストミンスター盤。常にトランペットが強くて,変わった演奏ですが,実に力強く,とても気に入っています。ただ,残念なのはLP録音なんですけど,モノラルであること。すでにテープで録音する時代だったのでノイズはないし,ひずみもないので聞きやすいのですが,ステレオじゃないと音が広がらないし,面白くありません。
フルトヴェングラーのはCDが出始めた頃,Philipsが出しましたね。ワイヤー録音と思われるノイズの多い演奏でしたが,どうやらフルヴェンじゃなかったようで,今ではフルトヴェングラーじゃない,と言われています。
ステレオ録音だとフリッチャイ&ベルリン放響のがお気に入りでしたけど,朝比奈隆のはもっとすごいと思います!!
そういえば,フリッチャイ盤は最近の雑誌で作家の百田尚樹が特異な演奏と書いてましたが,そんなことありません。ストコフスキーのはともかく,フリッチャイは端正な演奏です。
この朝比奈隆の演奏はラストの哀しげなヴァイオリンの響きも美しく,演奏が終わってからの聴衆の拍手もひと呼吸おいて静かにはじまるのも感動的。なんか,聴衆が感動しすぎて拍手を忘れた,というような印象を受けます。ブラボー!! ってすぐに大声が入るのも困るので,これはなかなかよいです。
朝比奈隆は,生前,ブラ4とブル8を聴いたことがありますが,"新世界" は聴いたことがありませんでした。実演をぜひ聴いてみたかったと思います。十八番のブル8は嫁はんと聴きに行きましたが,嫁はんは横でグーグー寝てました.....orz。
このアンプで聴くこの盤はとても美しく,いい音が聴けました。
さて,最後はちょっとここのところよく聴く井上陽水。よく姉が聴いていました。懐かしくなって最近,ベスト盤を買って聴いています。時代的にも'70年代末なのでこのアンプがぴったりですね~。ベトナム戦争末期の反体制的な歌が結構好きです。あの時代,世の中に旧来の保守的な政治に反発する空気が満ちていました。iruchanはそのとき,子供だったからよくわからなかったけれど,企業優先,弱者切り捨ての今は当時と似ているんではないかと思います。反体制派のiruchanは陽水の反戦の歌にどうも共感してしまいます。
さすがは井上陽水。あらためて聴いてみるといまでも通じるメロディーと音楽性の高さはびっくりです。いまはシンガーソングライターなんてほとんど消えちゃいましたので,昔の歌手はすごかったな~と思います。 いまは単にかわいくて,スタイルがよくて踊れれば誰でもOKですからね......。
息子も幼稚園でピアニカで "少年時代" を演奏していたので,これ知ってる!! なんて言いました。この曲,幼稚園でも演奏するくらいだから大変な名曲だと思います......。
とても懐かしいです。
正面のパネルの緑色のランプは切れていたので緑のLEDに交換しました。
さて,ようやくこれで中学時代にあこがれていたアンプを整備できました。そのうち,本格的なスピーカにつないで大音量で聴いてみたいと思います。いまは小さな借家住まいだからダメですけどね.....orz。
2018年1月9日追記
どうにも音が小さいときに変なので,ミューティング用のリレーを掃除しました。詳しくはこちらをご覧ください。
Iさんへ(個人名でご連絡いただいておりますがネットのため,匿名とさせていただきます)。
故障修理の件ですが,自分のものを直すくらいは自己責任で行いますが,人様のものを預かって直す自信はありません。ネット上に古いアンプの修理専門の業者さんがいらっしゃいますので,ご相談してみられてはいかがでしょうか。
現象としては,とりあえず,数分間はちゃんと音が出ている,と言う状況のようですので,出力のTrなどは大丈夫だと思います。
数分すると異臭がする,というのは抵抗が焼けているか,電解コンデンサが容量抜けで液体が漏れていて,その場合,内部の抵抗値が上がってコンデンサが発熱しているので臭う,のではないかと思います。
とりあえず,私がやったようにすべての電解コンデンサを取りかえるのがよいと思います。さすがに40年も経っているので寿命です。
もっとも,闇雲に取り替えるのも大変ですので,様子をよく観察して,頭が割れていたり,底部に茶色い液体が漏れていないか調べてください。
その後,マニュアル(ネットを探せば入手可能です)に従って再調整すればよいと思います。
と言う次第ですが,やはり電気の知識がある,専門の人にゆだねないと危ないと思いますので,専門の業者の方にご相談ください。
by iruchan (2017-09-22 21:02)