6G-A4シングルパワーアンプの製作~その5・改良編~5極管ドライバの高周波特性の改良 [オーディオ]
2016年7月2日の日記
前回でひとまず完成としましたが,宿題が残りました。
どうにも高域のf特が悪く,10kHzで-1dBとなっています。
原設計は武末数馬氏ですが,モノラルアンプということからも設計年代としては1950年代と思います。実際,"パワーアンプの設計と製作" 上巻の巻末にある出典を見ると,ラジオ技術 '59.5月号のようですから,ステレオのLPが出始めた直後ですが,まだモノラルのLPが主流だった時代です。もちろん,当時としては広帯域で,LPの再生帯域から考えても十分です。ただ,現代のCDやそのほかのデジタルソースの再生を考えるともっと広帯域にしたいところです。
と言う次第で,最低でも30kHzくらいまでフラットなアンプにしたいと思います。と言って,もちろん,もとの設計のままでも十分な音質であると思います。仮に10kHzで1dB落ちているからと言って,耳で聴いてわかるものじゃないことくらい,十分にわかってはいるのですが,一度,f特を見てしまうともっとよくしたいと思いました。
原因は武末氏も書いていますが,ドライバ管の6AU6の出力インピーダンスが高い上,入力の6G-A4が3極管のため,入力容量が大きく,この2つの要素で構成するローパスフィルタのカットオフ周波数が低くなってしまうためです。
ちょっと試算してみましょう。
まず,今回のアンプのドライバ~出力管の回路は次のようになります。
5極管は出力インピーダンスとしては内部抵抗rPのほか,プレートの負荷抵抗RPと次段のグリッド抵抗Rgの並列抵抗となりますが,内部抵抗rPが高いので,後の2つの並列抵抗と考えてよいです。また,この図にあるように,3極管の周りには3つ,コンデンサがついている格好となります。これはもちろん,5極管や半導体も同じで,すべての素子には必ず電極間の容量があります。
一方,3極管の等価入力容量Cin’ はもとからあるグリッド~カソード間の容量Cin に加え,グリッド~プレート間の容量Cg-p の和になります。
ところが,単純に和になるだけならいいのですけど......。
増幅素子なので,3極管のゲイン倍の容量も加わってしまうのです。結局,グリッド~プレート間の容量は(1+A)・Cg-pとなります。悪名高いミラー効果ですね!!
このせいで周波数特性が悪くなります。
5極管ドライバの出力回路の等価回路
結局5極管で増幅させると,等価回路は▲のようになり,出力電圧には等価入力容量Cin’ が入ります。出力インピーダンスとこの容量でローパスフィルタを形成するので,高域が低下します。
実際,6G-A4の各電極間容量は東芝の規格表から,
Cg-p 6.5PF
Cin 5.0PF
であることがわかります。シングルA1級増幅回路ではゲインA=8なので,結局,6G-A4の等価入力容量Cin’ は63.5pFと求められます。
ところが,多極管だと小さくて,Cg-p は6BQ5だと0.5pFで,6V6だと0.7pFです。これは,グリッドとプレートの間にスクリーングリッドがあり,直流的には数百Vかかっていますが,交流的には接地して使うので,グリッド~プレート間が容量結合しないためです。だから高域特性の面からは多極管の方が有利です。
これだけじゃなく,実装上はソケットや配線の容量も加わりますので,6G-A4の場合はトータル100pFくらいとなるはずです。
一方,武末氏の回路で使用されている6AU6の負荷抵抗RPは270kΩ,次段の6G-A4のグリッド抵抗は500kΩですので, 6AU6の出力インピーダンスは175kΩです。となると,このローパスフィルタのカットオフ周波数は1/2πC・Rで表されますから,9.0kHzとなります。
iruchanは前段に6SH7を使用し,RP=270kΩ,Rg=360kΩですから,出力インピーダンスはカットオフ周波数は10.3kHzとなり,実測とほぼ合います。
で,これをどうしようか,と言うと......。
出力管のCg-p は真空管固有の値なので変えることはできません。が,何らかの方法でキャンセルできればよいので,よく高周波回路では中和コンデンサというのを使用します。実際,高周波回路だとカットオフが10kHzなんてことじゃ使えませんのでね。
ただ,この方法はオーディオのアンプじゃ使えません。高周波回路だと同調増幅回路となっていて,負荷はコイルとコンデンサを使った単同調回路になっています。このコイルの一端から逆相の信号をグリッドに戻すのですが,コイルを使わない低周波回路では使えません。
と言う次第で,結局,プレート負荷抵抗とグリッド抵抗を下げるしか,方法はありません。
仮に,RP=100kΩ,Rg=100kΩにしてみると出力インピーダンスは50kΩですからカットオフは31.8kHzとなり,十分な値です。
これを目指すことにしますが,いろいろ問題が出てきます。
そもそも,6SH7がこの負荷に耐えられるか,と言うことがまず第一です。直流的には100kΩの負荷ですが,交流的には50kΩというかなり低い抵抗値となってしまいます。
まあ,一応,SYLVANIAやNECなど真空管メーカが発表しているC-R結合増幅データにはEbb=250Vのときのデータがあり,RP=100kΩ,Rg2=270kΩという場合のデータが発表されているので,おそらくは問題ないと考えられます。
次に,ちゃんと次段の出力管をドライブできるだけの電圧を出力できるか,と言うこともチェックしないといけません。6G-A4のバイアスは-18Vなのでドライブ電圧はこれの1/2√2ということで6.36Vrmsで十分ですが,能力として30Vrmsくらいはほしいところです。 こちらも実測で確かめないといけませんが,先のSYLVANIAのデータからは50V以上出力できるようなのでこちらも問題ありません。
ということで実際に抵抗を取りかえ,実測してみます。
まずは出力電圧は6SH7で最大64.8V,6SJ7で33.4Vということで十分です。
懸案の周波数特性も測ってみました。予想どおり,30kHzまでフラットなのでOKのようです。
ところが......。
うっかり6SJ7のときの電極電圧を測定し忘れていました。なんと,プレート電圧EP=25.1Vなのに対し,スクリーングリッド電圧Esg=51.6Vとなっています。 こりゃあかん......orz。
6SH7のときはそれぞれ60.2V,63.2Vなのでいいや,と思って6SJ7のときに測定するのを忘れていました。
普通,5極管はEP≧Esgで使用します。この逆だと特性がでたらめになります。 フッターマンのOTLアンプなどは大量にプレート電流を流すため,スクリーングリッド電圧の方がプレート電圧より大幅に高い電圧で使っていますが,普通の電圧増幅管ではこのようなことはしてはいけません。
どおりでオシロで波形を見ていたら波形がひずんでいて,これはあかんな.....と思っていました。
結局,RP=100kΩ,Rg2=270kΩという組み合わせはダメで,Rg2=560kΩにしました。これだと,6SH7/6SJ7で,プレート電圧131.6/109.5V,スクリーングリッド電圧77.0/57.4Vとなりました。
これでようやく試聴ができます。
ところが.....。
なんとも音が力強くないのです。
どうにも力の強さなんて,科学的じゃない表現なんですけど.....。でも,実際にそんな感じなんです!!
原因としてはダンピングファクタが小さいんだと思いました。だから低音が弱くて力強く聞こえないんだと思いました。
実際,ダンピングファクタを測ってみると5程度です。前回だと8くらいはありましたから。
原因はドライバの負荷抵抗を下げたことにより,ドライバのゲインが不足し,NF量が減ったからですね。
NF量は今回,8dB程度になってしまいました。前回は14dBもありましたから,6dBほど低下したことになります。
まあ,事前にこんなことは予想していたわけで....。以上の検討中に,7dBくらいNF量が低下するだろうと考えていました。
さすがに本機はMLF回路になっているので,もっとNFBをかけたいところです。8dB程度の負帰還ならMLF回路にする必要もないくらいですし,ダンピングファクタも8くらいはほしいところです。
と言う次第で,まずはNFBを取っているのが16Ω端子からでしたが,H-5Sは32Ω端子もありますので,ここから取ればNF量は3dBほどupするはずです。
残り3dBは外側ループのNF抵抗を減らすことで対処しました。原設計は8.2kΩでしたが,これを4.3kΩにしました。
ただ,これでいいや,と思ったのですが,スピーカをつないでみてびっくり。6SH7のときだけ,ハムが出るんです。6SJ7のときは問題ありません。残留電圧を測ってみると4~5mVの値になっています。もっとも,ハムが出るのは手持ちのRaytheonの軍用のもので,国産のNECや東芝のものは出ません。
Raytheonの6SH7GT(米国製の6SH7のガラス管は珍しいです)
どちらもハム防止のため,カソードの上部に覆い被さるようにマイカが設けられています。それで,本来ならハムなんて出ないはずなんですが.....。
ゲッターはマグネシウムなど,導電性の物質なので,ヒータに付着すると電子を放出してハムの原因になるので,カソードスリーブの中に入り込まないよう,低雑音管はこのような配慮がなされています。松下の12AX7(T)とか,TENの6AU6Lなどがそうですね。 なんでRaytheonだけハムが出るのかわかりません。
実は,設計段階でGEの規格表を見て,このことは気がついていました。GEの規格表にだけ,"The 6SH7 is not recommended for use as a high-gain audio amplifier, because undesirable hum may be encountered." とあり,6SH7をハイゲインの低周波増幅に使用するとハムが出ることがある,という記述があるのです。
6SH7を前段に使ったアンプというのは数は少ないですが,上杉佳郞氏の "管球式ステレオアンプ製作80選" に載っている300Bシングルアンプなどでも使用例がありますし,普通に使えるものだと思っていました。
ところが,実際に聴いてみるとハムが出るのです。前回はこんなことがありませんでした。GEの6SH7はメタル管しか持っていませんが,今度,試験してみようと思います。おそらく,米国製の6SH7で,ある特定のプレート電圧やスクリーングリッド電圧のときだけ,ハムが出るようです。お気をつけください。なお,国産のものはハムが出ませんが,どうも国産のものはなにか改良してあるのではないか,といつも大変お世話になっている河童さんからご意見をいただきました。
あと,入力の可変抵抗を100kΩに変更しました。原設計では500kΩですし,真空管の時代,500kΩ~1MΩの抵抗を使うのが普通でした。
これは,パワーアンプの入力インピーダンスを大きくしてプリアンプの負荷を小さくするためです。実際,管球式プリアンプの出力は12AX7(ECC83)のプレートから取っているものが多いのですが,12AX7は高出力が得られる代わり,負荷抵抗が大きいのでパワーアンプの入力インピーダンスが低いと合成負荷抵抗が小さくなって,出力電圧が小さくなってしまってまずいのです。歪も増えます。
パワーアンプに真空管を使い,プリに半導体アンプを使っている場合は問題ないのですが,逆をやるときは半導体のパワーアンプの入力インピーダンスは10kΩくらいなのでプリアンプの出力電圧に気をつけてください。どうにも音が小さい,と言う場合は回路のチェックが必要です。そういう意味でも真空管式プリアンプの出力にはカソードフォロアが必要だと思います。
その意味で,真空管式プリアンプもカソードフォロアを入れて出力インピーダンスを下げた方がよいのですが,そういうプリアンプは少ないです。
といって,パワーアンプの入力に500kΩのボリウムをいれ,そのまま初段の12AX7に入れる,と言うような前回の三栄無線のSA-523型パワーアンプのような設計は当時としては普通ですが,現代の広帯域アンプとしては不適です。
可変抵抗は中点のときに出力インピーダンスが最大で,500kΩの可変抵抗の場合,中点だと250kΩの抵抗がパラになっている状態ですので,500kΩの可変抵抗の最大出力インピーダンスは125kΩです。
初段に12AX7を使ったアンプの場合,▲の議論と同じで,12AX7のCg-pは1.6PFで,Cin=1.7PF,A=57ですから等価入力容量はやはり100pFくらいとなります。 こうなると高域のカットオフはやはり12.7kHzとなります。
と言う次第で,入力の可変抵抗は100kΩにしました。これだとカットオフは63kHzだから十分です。
パワーアンプの初段に12AX7のような高μ3極管を使うときはボリウムの値にも気をつけてください。
f特と入出力特性を測定しておきます。
周波数帯域は-1dBで20Hz~50kHzといったところです。予想より広帯域となりました。ただ,引き替えにトータルゲインは8~9dBといったところで,パワーアンプは20dBくらいのゲインはあった方が使いやすいので,トータルゲインは不足気味です。
感度が低下したため,約1Vで1Wの出力です。一般的に1V入力のときにフルパワーが出るように設計しますので,ちょっと感度不足ですね。
でも,最近のデジタル機器は2Vrmsの出力がありますし,実際にはプリアンプを使用しますから問題ありません。プリアンプもこの前修理したパイオニアのC-21プリアンプでは最大出力電圧は12Vもありましたから,十分だと思います。
ダンピングファクタも改善されて7~8と言ったところです。
10kHzの方形波応答は,前回までだと過補償気味で,肩も非常になだらかな特性になっていましたが,今回は少しオーバーシュート気味で,これくらいがベストな状態です。
最終的な回路を▼に示します。いくつか抵抗を取りかえていますし,OPT2次側の配線を変更しています。
電極の電圧はドライバが6SH7のときのものです。
閑話休題。
iruchanは今週,かやうなところへ行つてをりました。
すすき野付近は市電が環状化しました。学生時分からそんな話がありましたが,ようやくです。でも,素晴らしいことですね。お客さんもたくさん乗っていました。
この車両は1960年製です。6G-A4とほぼ同世代だと思います。 この電車も末永く頑張ってほしいと思います。それにしても札幌市電というと非電化区間があってディーゼルカーが走っていた,というのには驚きです。それを知ったとき,仰天しましたけど......(^^;)。
札幌駅のらあめんがんてつの半ちゃんセット
やはり札幌に来たらラーメン。半チャーハンがついて950円とはとても助かります。とてもおいしかったです。今回の一番かな?
こんなお土産を買ってきました。昨年末に旧白滝駅を訪問できたことをうれしく思います。あの駅はもうないんですね.....。
ん!?,自分でリンクをクリックして気づきました。
▲の駅名標はしらたきとしもしらたきが実物と逆です。せっかく,しみじみしていたのに.....。気がつかなきゃよかった~。
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