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PWM式自動加減速コントローラ(パワーパック)の製作~設計編~ [模型]

2014年11月25日の日記

過去,何度もパワーパックと呼ばれる鉄道模型のコントローラを作っています。今まで,主としてPWM式のものを作っていますが,まだKATOやTomixなどメーカ製のPWM式のコントローラが少ない,と言うこともあります。ちなみにPWMとはPulse Width Modulationの略でパルス幅変調方式のことです。パルス式とかデューティ幅コントロール式なんて表現もあります。直流モータの回転制御に従来の電圧制御に代わってパルス幅で制御する方法です。今では産業用のブラシ付DCモータの制御はほとんどこれでしょう。実物の電車ではチョッパ方式と呼ばれています。営団地下鉄の6000系が最初で,国鉄だと201系が最初ですね。回生ブレーキが可能で力行時も抵抗による損失がなく,省エネというメリットがあり従来の抵抗制御に代わって普及しましたが,制御器が高価なので私鉄は界磁制御のみチョッパを用いる界磁チョッパ,国鉄は界磁添加励磁に移行しました。これははっきり言って退化だと思いましたが,今はインバータ方式に取って代わられ,直流モータを使用することはなくなりました。 

鉄道模型におけるPWM式のメリットはなんと言っても低速時にスムーズに動くことで,これは従来のシリーズレギュレータ式(リニア式)のものにはない良さです。PWM式はチョッパ電車と同じ原理で,方形波を出力して,そのパルス幅を可変してモータの回転を制御するシステムです。瞬間的に12Vの電圧がかかりますので,低速でもトルクが大きく,スムーズに動くのが特長です。ついでに,前照灯や室内灯が明るく点灯し,かつ,車両側の改良が必要ですが,停車中にも前照灯を点灯することができる,いわゆる常点灯にも対応できます。

昔は鉄道模型の動力の性能も低く,従来のシリーズレギュレータ式のものでも常点灯に対応? できたのですが,その場合は停車中や起動直後は電圧が低い状態での点灯となるため,とても暗く,走行するとどんどん明るくなる,と言うものでした。なんかこれはとても不自然で,乗っているお客さん? からこれじゃ本が読めん,と苦情がくると思います(そんなもん,来いひんて)。PWM式だと瞬間的に12Vフルにかかっているので室内灯は明るく,走行中とそんなに明るさは変わりません。本当言うと,パルス幅が小さいので暗いはずなのですが,残像現象のせいか,かなりデューティが低い状態で明るく見えます。これもPWM式の特長です。

一方,鉄道模型のコントローラというと,ツマミの位置と列車の速度が1対1で対応し,ツマミ位置を動かすとそれに連動して模型の速度も変動する,と言うのが普通です。まあ,鉄道模型なんだからそんなもの,といえばそうなんですが,実際の電車はこうじゃありませんね。 運転士さんは起動時にいきなり最大ノッチに投入し(安全上,最初に1ノッチに入れてしばらくしてから最大ノッチに入れると思いますけど),後は電車が自動的に加速していきます。加速度は電車固有のもので電車の性能に依存し,ノッチ位置には普通依存しません。

もっとも,最近の電車はソフトで制御するので,1ノッチや2ノッチは加速度を低めに設定する,なんてこともできるようになっていて,E231系などの最近の電車は大体こうなっています。昔はノッチごとに加速度は変わらなかったんですけどね。

また,最高速度に達すると運転士さんはノッチオフし,しばらく惰行し,ある程度速度が下がると再度,ノッチを入れて加速します。そのうち,駅が近づくのでやおらブレーキをかけて停車する,と言うことをくり返すわけです。

残念ながら,鉄道模型では普通はこういう運転はできません。そんなの当たり前だ,と言われればそうなんですけどね....。

と言う次第で,以前,普通の電車のようにマスコンとブレーキハンドルをつけて,自動的に加速し,惰行してブレーキをかけて停車する自動加減速コントローラも作っています。とてもうまく動作し,実際,1ノッチに投入し,しばらくしてスーッと電車が動いたのは感動しました。また,ノッチオフして惰行することももちろん可能で,最大90秒惰行しました。本機はとてもうまく動作したのですが,ただ残念ながらPWM式ではないし,常点灯にも対応していません。また,HOゲージ用に大容量で作ったので,ケースも大きく,電源もトランスを用いて作ったので重く,今度は軽くて小型のものを作ろうと思いました。そこで小型の常点灯対応PWM式にしようと考えました。

早速,設計します。エラそーに設計といっても以前製作した,自動加減速式コントローラPWM式コントローラを組み合わせただけなんですけどね.....(^^;)。 

まずはごく簡単に自動加減速の原理について説明しておきます。

その前に少しコントローラ(パワーパック)の歴史から....。

大昔のコントローラは単にレオスタットと呼ばれる大型の巻線式の可変抵抗器をモータと直列に入れて,モータを電流制御していました。大昔の黄色い香港製トミーナインスケールのコントローラや青いボディのKATOのNo.200とか(懐かし~!),私がPWM式に改造したTomix 5001パワーユニットもレオスタット式です。113系など昔の直流電車と同じですね。直流直巻(ちょっけん)電動機は回転数とトルクが反比例し,また,電流は電機子コイルに逆起電圧が生じるため,回転数に比例して下がってきます。電車は加速度一定で加速していくのが一番乗心地もよいのですが,直流直巻電動機では電流一定とすると加速度(トルク)一定となるので制御がしやすく,一定電流(抵抗制御車では限流値といいます)となるよう制御します。モータの電流がこの限流値まで下がってくると1個進段して抵抗値を減らして,最後は抵抗を0にします。まあ,一定とは言っても,抵抗の段だけ加速度は間欠的に急変し,カクカクと加速します。これは乗心地悪化の原因になりますし,機関車の場合は空転の原因にもなります。いまはインバータ電車ばかりになり,スムーズに加速するのでだいぶん乗心地も改善されました。直流直巻電動機を使ったシステムでも電機子チョッパ車は無段変速で,201系などはスムーズに加速しましたね。

レオスタット式パワーパック.jpg レオスタット式コントローラ

鉄道模型もレオスタット式は電車の抵抗制御と同じで,可変抵抗の値を大きいものから小さくしていき,モータの回転数を上げていきます。非常に構造が簡単で,また,しかもうまく動作するので初期のNゲージのコントローラとしてよく用いられましたが,レオスタットが高価なのと,モータの特性により走行性能が大幅に変わり,特に最近の高性能の動力をこういったコントローラで運転しようとするとビュッと電車が飛び出してラピッドスタートになります。これは最初に投入する抵抗の値が小さすぎて最初から大きな電流がモータに流れているためで,レオスタット式の欠点です。こういったことから,しばらくして次のトランジスタ式に変わります。KATOのパワーパックスタンダードなどがこのタイプです。

トランジスタ(Tr)を用いたいわゆるトラコンと呼ばれるトランジスタ式コントローラはモータを電圧制御します。

この図のように可変抵抗はポテンショメータとして使用し,その摺動子の電圧をTrの制御電圧とします。Trのベース~エミッタ間の電圧VBEはコレクタ~エミッタ間の電圧VCEに関係なく,ほぼ0.6~0.7Vの範囲で一定なのですが,ここに▼の図のようにダーリントンTrを使うことが多く,2×VBE分だけ電圧低下します。この出力電圧は ベース電位-(1.2~1.4)V となります。電子工学的にはシリーズレギュレータの一種です。 

トランジスタコントローラ.jpg トランジスタ式コントローラ

このとき,ボリウムはポテンショメータモードで使用するので,ブリーダ電流IVRはTrに流れるベース電流IBより十分大きくないといけません。使用されるボリウムは1kΩ~10kΩと言ったところでしょう。また,IBが小さいほどよいと言うことは,言い換えるとベース電流はIC/hFEですので,直流電流増幅率hFEはできるだけ大きい方がよいのです。ということでダーリントンTrが使われることが多いのですが,KATOのパワーパックスタンダードでは普通の2SD613(三洋)が使われています。 

こちらの方が本来,直流モータの制御には適していて,トルクもスムーズに変化できるので好ましいのですが,本物の電車で言えば直流電化区間では架線電圧は1,500V一定でモータの端子電圧を変えることができず,パワーエレクトロニクスなき時代は直流電車は抵抗制御するしかありませんでした。おまけにモータ1個ずつに抵抗を入れると大きくなりすぎ,また,損失もきわめて大きいので何個か直列にしたものに抵抗をつないだり,また途中で直列→並列につなぎ替えたりして接続方法の切り替えも利用して速度制御を行いました。一方,交流電化区間ではトランスで電圧を変化させたり(タップ切替制御),古くは水銀整流器(水銀ガス入りの整流管です)で格子(グリッド)位相制御したり,磁気増幅器(マグアンプ)やサイリスタで位相制御したりしてモータの端子電圧を自由に変えることができました。特に,格子位相制御はED70などの黎明期の機関車でも可能で,早くから交流電気機関車はパワエレを使い,粘着性能を高くとることができました。

鉄道模型でも初期のものはトランスに端子がついていて,端子を替えることによりモータを電圧制御していました。カツミのKP-13なんかがそうです。実車だと先のED70や新幹線の0系がこれですね。といって,これでも模型の場合,亜酸化銅整流器やセレン,ダイオードなどの整流素子が必要ですし,米国では国が広いので電気が来ていないと言うところも多く,鉄道模型には自動車用のバッテリを使っていました。最近読んだ,この本に書いてありましたけど,米国では1930年の時点でも全米の農家の1割しか電気が来ていなかったそうです。そのためレオスタットを用いた抵抗制御しかありませんでした。そういえば,米国ではラジオも当時は真空管式なので高圧の直流電源が必要ですが,電気が来てないところでは自動車のバッテリーとバイブレータを組み合わせ,高圧直流を得てラジオを鳴らしていました。バッテリーが切れると,クルマで近くのガソリンスタンドへ行き,充電していました。電気は来ていなくてもクルマや鉄道模型はあった,なんていかにもアメリカですね~。

米国や日本では電気の来ているところではタンガーバルブを使って整流し,バッテリーを充電していました。タンガーバルブは電球とそっくりの形状をしていて,内部にガスが入った放電管です。 

タップ式パワーパック.jpg 

        タップ式コントローラ(これが一番古い)

一方,欧州では独メルクリンが戦前から鉄道模型を発売していますが,同社が交流のシステムだったのは戦前はこれらの有効な整流素子がなかったからです。当時は整流管(2極真空管)しかありませんね。民生用の最大の5AR45U4GBでも300mAが最大ですから,鉄道模型には使えません。しかもこれらは戦後のものですしね。戦前で一般に手に入る整流管は80でしょうか。80だと最大電流は125mAなのでとても無理です。

実を言うと,界磁に電磁石を使用した直流モータは交流でも回るので,電源が直流でなくても動くのでこういうことが可能でした。メルクリンの交流式システムの初期のコントローラは単にトランスのタップを切り替えるのみで,▲の回路図でセレンがないものです。

でも,これで速度の制御はできても逆転はどうするんじゃ? と言うことになりますね。

メルクリンの交流システムは2本のレール(パラ接続になっていて,同電位,同位相)と帰線としてレールの中央に第3軌条を設け,逆転時には界磁コイルのみ左右どちらかのレールに電流を帰して流れる向きを反転させていました。電機子コイルの方まで電流の向きを変えてしまうと回転方向は変わりません(だから交流でも回るわけです)。界磁コイルの電流の向きを変えるには車両に搭載したリレーを用い,逆転時はコントローラから瞬間的に24Vくらいの高電圧を流してリレーを動作させました。

実物の抵抗制御式の直流電車も同じで,界磁のみ電流の向きを変えて電車の進む向きを変換していました。発電ブレーキも同様で,運転士がブレーキハンドルを操作してブレーキを作用させると界磁のみ電流の向きを変えて発電機にしました。

さて,普通の直流を使った鉄道模型に戻ります。

自動加減速とするには先ほどのトラコンで用いられているポテンショメータの出力電圧に時定数を接続し,制御Trのベースに接続すれば,緩慢に電圧が上昇,下降するので可能です。これがトラコンの原理です。

トランジスタコントローラ(自動加減速).jpg いわゆるトラコンです。

この場合,コンデンサを充放電することが利用されています。コンデンサに一定抵抗Rを接続し,電源から充電すると,コンデンサの端子電圧は下式で表され,C×Rは次元として時間T(sec.)を持ちます。電源電圧V0の約60%に達するまでの時間がこの時間です。本機はT=10(kΩ)×2,200(μF)=22,000(msec.)となり,22秒の時定数を持たせています。もっと長くてもよいかもしれません。

            時定数過渡現象式.jpg

一方,コンデンサに充電された電荷は負荷電流といっしょに,Trのベースから流出していきます。hFEが小さいと,ベース電流(流出電流)が大きく,コンデンサの端子電圧が早く下がってしまいます。この意味で,制御Trにはベース電流で制御するバイポーラトランジスタではなく,ゲート電圧で制御するMOS-FETを使うとゲートには電流が流れませんので都合がよいのです。

ブレーキをかけるときはコンデンサの放電を早くしてやればよいので,コンデンサにパラに接続した可変抵抗の値を小さくしてやります。 この可変抵抗は値が大きいほどよいのは言うまでもありません。力行のボリウムの摺動子に入っているダイオードはコンデンサの放電電流が逆流するのを阻止する目的で入れてあります。

一般に,TrのhFEは100~200くらいなので,これではちょっと不足気味で,普通はこの制御Trは2個のTrをダーリントン接続して使用します。そのためTrが2個必要で,私が作った自作の加減速コントローラでは3段ダーリントン接続しています。もっとも,最初から2個のTrを内蔵してダーリントン接続した素子もあり,ダーリントントランジスタと言います。NECの2SD560や東芝の2SD686が鉄道模型のパワーパックの定番でした。ちなみに2SD560のhFEは4000もあります。まだ探せばこれらは入手可能なので見つけたときに買っておくとよいでしょう。何かちょっと工作するのに便利ですしね。もっとも,わざわざこんな古いTrを探す必要はありません。現行品だとサンケンの2SD1785(VCEO=120V, IC=6A)とか,2SD1796(VCEO=60V, IC=4A)がマルツなどで売られています。ただ,それにしても最近は半導体の製造中止が相次ぎ,最近はディスクリートの半導体の入手が非常にむずかしくなってきています。本当に残念です。

2SD317, 560, 634, 686.jpg 今回使用した制御Tr

部品箱をひっくり返して古いTrを引っ張り出してきました。使ったのは松下の2SD317Aです。これはダーリントンTrではありませんので2SC1815と組み合わせてダーリントン接続で使います。こうすると直流電流増幅率hFEは2個のTrのhFEの積になります。いずれもTO-220と呼ばれる形状で,急速に入手困難になりつつあります。形状も小さいし,扱える電流も大きいので鉄道模型のコントローラに適した特性を持っています。各Trの規格を書いておきます。 NECの2SD560は比較的最近まで製造されていたらしく,ロゴも新しいNECのロゴです。コレクタの金属板に切り込みがあるのがTO-220の特徴ですが,2SD560も昔のタイプには切り込みがありましたが,これはありません。そもそも何のために切り込みがあったのか,私もわかりませんが意味がないのでやめたのでしょう。最近は金属板もやめてしまい,フルモールドと呼ばれる,周囲が全部プラスチックになっているものがほとんどです。さっきの2SD1785もそうです。これは絶縁用にシートが必要だったのをコストにシビアな自動車業界がやめてくれ~,と言ったためのようです。

VCEO IC PC        hFE

2SD317A 松下 60V 3A 25W 60(Ic=1A)

2SD560 NEC 100V 5A 30W 2000~15000, typ6000(Ic=3A)

2SD634 東芝 100V 7A 40W 2000~15000(Ic=3A)

2SD686 東芝 80V 4A 30W min.2000(Ic=1A)

松下の2SD317AはダーリントンTrではありません。あとの3種はダーリントンTrで,さすがにhFEが大きいですね。 

こんなこと言うならゲート電流が流れないMOS-FETを使えよ,と言われそうですが,MOS-FETはゲートしきい値電圧Vthが大きく,2Vくらいもあり,ゲート~ソース間電圧VGSはこれ以上の電圧にしないといけないので,本機のような使い方だと出力電圧が下がってしまうので,普通のバイポーラTrを使っています。 その昔,初めてMOS-FETのアンプを作ったとき,バイアス電圧が2Vくらいにならないとドレイン電流が流れず,ビビった記憶があります。Trのアンプだと過電流が流れてフューズが飛ぶ電圧ですからね。もっとも,MOS-FETだとドレイン~ソース間電圧はほぼ0Vですが,Trの場合はコレクタ~エミッタ間電圧VCEsatは1Vくらいあって電圧降下するのでどっちもどっちですけどね。ただ,Trの場合はVCEsat×ICの分だけ発熱しますので,放熱器が必要です。今回,max.1Aで設計していますので,約1W分だけ発熱します。わずかですが,放熱器がないと結構熱くなります。発熱の点ではちょっとTrが不利です。

次に,PWM式についてはちょっと設計が厄介で,速度に応じたデューティ比の方形波を発振する回路が必要です。インバータ電車ではゲートアンプと呼ばれる部分です。PWM式コントローラの場合,要はデューティ比が0%~100%の間で自由に可変できるパルス幅可変発振回路を作ればよいのです。

インバータ電車の場合は出力が交流なので,パルス幅は出力の交流1サイクルの間,1パルスごとに幅を変え,できるだけ正弦波になるようにスイッチングしています。純粋な正弦波に近いほど損失や騒音が小さくなりますので,インバータ出力周波数が低いときほど多くのパルスでスイッチングします。ところがサイリスタはスイッチング速度が低く,せいせい1kHzくらいのため,出力周波数が上がって電車の速度が上がってくるとパルス数を減らさざるを得ず,最後は1パルスになります。ヒュ~ン,ヒュ~ンと音が変わるのはこのパルス数を途中で変えているためです。各パルス数の段階でスイッチング周波数の限界まで来るとパルス数を減らして次のパルスモードでまたインバータ出力周波数を上げていくわけです。最近のインバータ電車はIGBTを使ってスイッチング周波数が上がっているのでこういう音はしなくなりました。 

鉄道模型でモータに交流モータを使うようになったら一度,インバータ式コントローラを作ってみたいと思っています......。そういえばメルクリンは交流式があるから作れるな~。 

PWM式パワーパック1.jpgPWM式コントローラ 

先ほどのボリウムの摺動子の電圧を基準電圧とし,発振回路から得た三角波とコンパレータで比較し,三角波が大きい時間だけコンパレータから+の電圧が出るようにします。ただ,実際にはコンパレータはオープンコレクタ出力のものが多く,+の電圧が出るようにするには▼のように,プルアップ抵抗が1本必要です。 

コンパレータ動作.jpg コンパレータの動作原理 

なお,コンパレータはナショセミの規格表にもあるとおり,差動アンプとバッファを組み合わせた回路になっています。

 LM393等価回路1.jpgLM393の等価回路 

LM393は初段の差動1段アンプにカレントミラーを設け,出力はオープンコレクタになっています。 オープンコレクタというのは早い話スイッチと思ってよく,ここに+の電圧を加えるとコンパレータがonになったときに電流が流れます。厳密なスイッチと違うのは電流は双方向には対応していないことで,ここに-の電圧を加えても電流は流れません。

また,出力信号としてはon,offとなり,見方を変えれば抵抗値が変わるだけです。電圧としては0Vのままで,何ら電圧としては出力されません。そこでプルアップ抵抗をつないで出力電圧を+VCCに張り付けておき,出力TrのQoutがonの時だけ,0Vになるようにします。 どうしても人間,電圧が高いときがonと考えてしまうので,これだと論理が逆転することになり,頭がこんがらがってしまいますので注意してください。

方形波の発振はタイマと呼ばれるICの仕事で,定番はシグネティクスが作った555です。もう開発されてから40年くらい経つと思いますが,いまだに定番としてよく使われています。 

NE555, TA7555.jpg 

   555 IC(左:シグネティクスNE555,右:東芝TA7555P

ところが,555はもちろんデューティ比が可変できるようになっていますが,残念ながら0%~100%という範囲ではなく,もっと狭い範囲になってしまい,これでは鉄道模型の制御には使えません。C-MOS ICを使った100%フル可変の発振回路もありますのでご興味のある方はこちらも使ってみてください。

しかしながら,555の#6ピンに三角波が出力されているので,コンパレータと呼ばれるOPアンプICを使って,これと基準となる直流電圧と比較することにより,デューティ比を0%~100%で可変する方形波を作ることが可能です。私が作ったPWM式コントローラはこの回路を利用しています。三角波と基準電圧の比較による可変デューティ発振回路は新幹線300系などVVVF方式の電車でもよく使われていました。最近はソフト制御なので使っていないと思いますけど。

次に,今回の課題であるPWM式と自動加減速の組合せですが,どうすれば実現できるでしょう。

三角波と比較する基準電圧が緩慢に上昇,下降するようにすれば実現できるはずです。つまり,基準電圧のところにCRの時定数を入れてやります。

さらに,常点灯を実現するためにはどうすればよいでしょうか。

コンパレータのICはDIP 8pinパッケージのものが多く,2個コンパレータが入っているものがあります。私が使う,ナショセミのLM393なんて一番古い部類のコンパレータですが,これも2個コンパレータが入っていて,普通は1個遊ばせてしまっています。今回,Tomixの5001パワーユニットをPWM化したときと同様,2個目も使用して方形波を作ります。

常点灯はマスコンが0Nの位置でもごく低いデューティ比でパルスを出力すればよく,デューティ比は0%~10%の間だけ出力するようにしました。もっとも,KATOのように動力の性能がよいとこれでも走り出してしまいますので,デューティは可変できるようにしておきます。電車が走り出さずに停止した状態で,前照灯や室内灯が点灯する位置に固定しておきます。もちろん,常点灯の回路の方は時定数は不要ですので,基準電圧を作る部分には時定数が入っていません。

なお,以上の回路では電源はトランスを使い,ダイオードで整流しただけです。このままでは最大出力電圧は15~17Vとかになり,危険です。これは,電源装置の設計の要点として,最大負荷時に12Vとなるように設計するためで,小負荷の時は電圧が上がるからです。よく,HOゲージ用のパワーパックをNゲージで使ってはいけない,といわれるのはこのせいです。本来は負荷によって電圧が変わらない,定電圧電源とする必要があり,私が設計した自動加減速コントローラでは最大電圧が12Vとなるように工夫しています。そのほか過電流保護回路も必要で,コントローラの設計に際してはこれらの点も考慮して設計する必要があります。 

次回,回路を発表します。また,実際にプリント基板を作って試験をします。 

 

2014年12月7日追記

先週,NHKのBSプレミアムで "レッド・バロン" と言う映画をやっていました。第1次大戦中の撃墜王リヒトホーフェンの物語です。 敗戦国ドイツの映画ですので,戦争の無情さ,不条理を描いて,なかなか見応えのある映画でした。

映画の中で主人公が前線の基地で鉄道模型で遊んでいるシーンがありました。ちゃんと交流3線式のメルクリンの模型でした。直流2線式の模型で遊んでいたら監督を叱ってやらないと,と思いましたが,ちゃんと時代考証がしっかりしていました.....。 

 

2014年12月21日追記

昨年,とうとう2SC1815のような汎用Trが製造中止になり,まだ市中の在庫は豊富ですが,すでに中国製と思われるニセ物が出回るようになりましたし,トランジスタ技術などでも2Nではじまる代替品のTrで製作記事が書かれるようになりました。今のうちに東芝の純正品を買ってこようと秋葉に出かけてきました。

2sa1015, c1815.jpg 純正の東芝製2SA10152SC1815

いつも行く,若松通商さんで100個ずつ買いました。TOSHIBAと書かれた細長い段ボール箱から取り出していました。正真正銘の純正品です。思わず,「その箱ごとください」と言ってしまいそうになりました。あの箱って,1,000個入り? いやちょっとそれでは体積が小さいから5,000個入りかな?

200個だとその段ボール箱には200個ずつ小分けされているのでそのビニール袋入りになります。その方がよかったかも。2SA10152SC1815のコンプリです。コンプリのものはたいてい先にPNPが製造中止になり,NPNが残ります。といって,やはり需要の関係で,必ずしもNPNの方がいつまでも残るわけじゃなく,PNPの方がいつまでも残ったりします。2SA606/C960だとPNPの方がよく残っていますね。逆に,名パワーTrの2SA649/D218だとNPNの方がよく残っています。実は私も探しているんですが2SA649は持っていません。

代替品は台湾UTC製のものが多いようです。UTCのものは型番が横書きになっています。米Fairchildのものもあるようです。Fairchildって,暴君ショックレーのもとを脱走したゴードン・ムーアやロバート・ノイスがいたFairchild Semiconductorに源流があるのでしょうけど,同社は倒産しているので今,Fairchildと称している会社は単にブランドを買っただけの会社でしょうね~~。 ネットオークションには中国製もよく出ているようですが,買いません。

ついでにNECの2SD560を探しましたが,どこにもありませんでした。どこでも代わりのものを勧められました。まあ,何も2SD560にこだわる必要は何にもありません。

2SD1415A, 2SD2162.jpg 2SD560代替品

東芝の2SD1415Aとルネサスの2SD2162がぴったりです。どちらもフルモールドと呼ばれるパッケージで,ケースに取り付ける際に絶縁は不要です。 

VCEO     IC    PC      hFE

2SD1415(東芝)    100V 7A 25W 2000~15000

2SD2162(ルネサス) 100V 8A 25W 2000~15000  

ついでにこんなのも買ってきました。

2sc2523.jpg 富士通のRET 2SC2523

富士通が'70年代末に開発したリングエミッタTrです。当時,コレクタ遮断周波数fTがパワーTrでは低く,HiFi用にもっとfTの高いTrの方が応答速度も高いし,音もよいだろうと言うことで開発されたものです。小信号用のTrの方がfTが高いことから集積回路の技術を応用して多数の小信号Trのチップを集積した構造になっていて,RETはエミッタがリング状に配置されているのが特徴です。

NECの2SA1007/C2337なんかもオーディオ用に高fTのTrとして有名でした。今も名機の誉れ高い同社のA-10アンプにも高fT2SA1227/C2987が使用されていました。構造的にはRET同様,小信号のTrを多数パラ接続した構造になっています。日立も高fTのTrのシリーズがありましたが,オーディオ用にはMOS-FETを推奨していました。MOS-FETは日立がオリジナルですね。

ただ,MOS-FETも小信号Trのチップを集積した構造になっていて,高fTのTrやMOS-FETはオーディオマニアの間では「眠い音がする」 などと旗色が悪かったのを思い出します。 値段も高かったので,私は買えませんでした。

いずれにしても各半導体メーカがオーディオにも力を入れていた頃で,本当にいい時代だったな~と懐かしいです。いまやオーディオ用どころか,半導体から撤退しようという事態ですから,本当に悲しいです。


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suzuran6

お返事が遅れて申し訳ありませんでした。
私も読んでいるブログに入れさせていただきます!!

その昔、TMSの記事を基にトランジスタコントローラーを作ったのですがその後休鉄期間を経て、また作ろうかなぁ~と思っていたのですが・・・
浦島太郎状態で、昔と全然違い・・・参考にさせていただきます。
by suzuran6 (2014-11-29 19:29) 

iruchan

suzuran6さん。いつもご覧いただき,大変ありがとうございます。

PWMコントローラの次にギースルD51を取りあげますので,そのときリンクをお願いします。

今日,近くの図書館へ行って "鉄道模型のエレクトロニクス工作" を借りてきました。こんな本が出ていたのですね。もっと早く見ておけばよかったと思います。TMSの記事は私の友人も作りました。
by iruchan (2014-11-30 21:38) 

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