コンデンサチェッカーの製作 ~その1・設計編~ [オーディオ]
2015年11月22日の日記
このところ,古い真空管アンプを修理しています。現在はラックスのA3600とKMQ60を修理しています。いずれも1970年代に製造されたもので,経年40年と言ったところです。
これらの古いアンプを修理する際に,まず必要なのがコンデンサの交換です。特に,カップリングに使用されているオイルコンやペーパーコン,MPコンは必ず取り替えましょう。電解コンデンサも容量抜けやリークが発生しますから,極力交換します。ただ,カップリングコンほどは重要ではないと考えています。
私は何でも古いものが好きで,ラジオや真空管,半導体など古い部品を使うのも好きなのですが,ことコンデンサに関する限り,最新の物を使うことにしています。やっぱ,いつも思うんですけど,コンデンサと女房は新しい方がよい,と思います。どちらも数年から10数年で劣化して危険物になりますからね........(^^;)。
古いオイルコン,ペーパーコン,MPコンは取り替えましょう。 上2つは未使用です。
なぜカップリングコンデンサの交換が必要かというと,リーク電流により真空管のバイアスが狂うからで,特に出力管のカップリングコンデンサがリークすると最悪の場合,バイアスがプラスになって出力管を傷めるばかりでなく,出力トランスの断線を引き起こします。前回修理したKMQ60はこれが原因で,故障していました。出力管は放電した跡があり,OPTが断線していました。カップリングコンデンサがリークするとこうなる,という見本のようなものです。使っていた人は "バリバリというノイズが出ていた" と言っていましたが,真空管内部で放電しているんですね。こんな風に,劣化したカップリングコンデンサはきわめて危険です。
ラックスのこれらのアンプはOPTが断線しやすく,これらのアンプの故障の原因となっています。この断線を引き起こす原因のひとつがカップリングコンデンサの不良です。
電解コンデンサの場合も,リークを起こしますが,幸いにも電解コンデンサはカップリングコンデンサには使用されませんし,電源部やデカップリングコンデンサに使用されるので,もしリークしてもリーク電流はグランドに逃げるだけで,真空管の寿命を縮めたりするわけではないので,緊急性としてはカップリングのコンデンサよりは低いと思います。
ただ,リーク電流が増えると発熱して最悪の場合,爆発しますので,電解コンデンサも交換した方がよいと思います。特に古い電解コンデンサの場合,防爆弁がないものが多いので,本当に爆発することがあります。
カップリングコンデンサについては,最近製造されたフィルムコンに交換する分には全く問題ないと思います。
ところが,私もそうでしたけど,どうしても昔ながらのオイルコンにこだわる人がいて,特に古い米国製がよいとかいうことで古い未使用品を使う人が多いと思います。やっぱり,魅力的なんですよね~。
こういうのを海外のお店などではN.O.S.という表現をしています。
N.O.S.とは "New Old Stock" の略で,正直言って,"新しくて古い在庫" って変な英語~っ!? という感じで意味不明な用語ですが,要は日本語で言う,"新品未使用" のことです。日本のお店でも最近はこの表現をしている店があるようです。
アメリカは軍が大量に資材を購入する都合上,そこから保管期限切れとなった部品類が放出されるし,大陸のそこかしこに倉庫があって,セットメーカなどが廃棄するつもりだったのを忘れていたり,倒産したりしてそれが放出されることがあります。これらがN.O.S.として流通するのですが,さすがに保管期限切れなわけですからメーカの保証はありません。こういったコンデンサを使う場合はあくまでも自己責任,と言うことになると思います。私は出力管を飛ばしたくないので使いません。
ただ,アメリカ製がダメだからと言って,日本製は大丈夫かというと,これもまた全然そんなことはありません。
10年ほど前,6AR5のウィリアムソンアンプを作ったことがありますが,真空管が古いのでそれにあわせて▲の写真にあるような日本製のオイルコンを使いました。もちろん,中古じゃなく,日本の大手メーカ製の新品未使用のもので,製造は1980年代のものです。
まあ,そんなに古いわけじゃなし,日本製だから大丈夫だろう,と思っていたのですが,いざ配線が完了して通電してみると様子がおかしいのです。
ウィリアムソンアンプはプッシュプルなので上下の出力管があるのですが,どうにもバランスが取れません。
おかしいな~と思って配線をチェックしてみてもミスはありません。バイアスも通常通り出ています。
でも, よく考えてみるとバイアスを計ったつもりで,実はウィリアムソンアンプは自己バイアスなので単にシャシーとカソードの間の電圧を測っていただけでした。それで改めてカソードとグリッドの電圧を測ってみると+90Vくらいになっています!!!!!!!!
えぇぇぇぇぇ~~~~~っ!!!!
と言うわけで,びっくりしたのですが,これがカップリングコンデンサのリークですね。皆さん,こういうことになりますので,古いオイルコンやペーパーコンはカップリングに使わないようにしてください。
もし,どうしても使いたい場合は必ず絶縁特性を調べてからにしてください。
では,なぜ古いオイルコンやペーパーコンがリークするか,と言うと内部のセパレータにフィルムコンはポリエチレンやポリカーボネート樹脂など,プラスチック材料を使っていますが,これらのコンデンサは紙を使用しているからです。長年の間にセパレータが吸湿して本来は不導体なのに徐々に導体になってしまいます。
おまけに,コストダウンのため1970年代に製造技術が革新され,封止にゴムを使用するようになったのがリークの最大の原因だと思います。
ペーパーコンデンサの内部構造(小野勇著 "コンデンサ活用マニュアル" 東京電機大学出版局 '75.12刊行 より)
実際,このような端面になっています。ゴムを使っています。
そういえば,古い円筒形のオイルコンなんかを見てみるとこんな構造です。電解コンデンサもチューブラのものはそっくりです。このゴムが劣化して隙間ができ,そこから湿気が侵入するのですね。
一方,いつも大変お世話になっている河童さんから伺いましたが,1970年代より前にはセラミックの円筒に電極を納め,両端をはんだづけした構造のものがあり,これらのコンデンサの方が新しいものよりリークが少ない,とのことです。やはりコストダウンがいけなかったようです。
今でも絶縁特性が良好な古いペーパーコン(河童さんご提供)
ただ,電解コンデンサは中が液体で満たされていますし,湿気が侵入しにくいのかもしれないと思いますが,本当のところ,どうだかわかりません。
ただ,同じオイルコンでも米スプラグのVitamin Qなどは端部ががっちりエポキシ樹脂? のようなもので固められています。確認していませんが,Vitamin Qだとリークしないのではないかと思っていますが,なんにせよVitamin Qは高いので,いままで使った数が少なく,未確認です。よく,米国製の部品の品質にクレームをつけると,"だったらMILスペックのものにしろよ" なんて言われることが多いですけど,スプラグのもそうなんでしょうね。
フィルムコンだと外周が樹脂で固められていますし,もとからセパレータが非吸湿性なのでリークしにくいと思います。なお,フィルムコンはポリエチレン樹脂(ペットボトルと同じPET樹脂を使っています)のものは安物で,高級品はポリカーボネート樹脂を使っています。実際,お店でもポリカーボのものの方が高いです。ペットボトルは実は微細な穴が開いていて,空気が中に入る,という話を聞いていますので,私もポリカーボネート樹脂を使ったフィルムコンを使うことにしています。ただ,PET樹脂の方が安いし,誘電率が高く,コンデンサのサイズが小さくできると言う特徴があります。
さて,コンデンサのリーク電流を測定する装置を作ろうと思います。
コンデンサの劣化度を見るのにESR(等価直列抵抗)を測定するのも手か,と思いましたが,確かにコンデンサが劣化するとESRが大きくなるのですが,必ずしもESRだけではコンデンサの劣化を判断できない,という話もあるので,直接リーク電流を測定できるものとします。絶縁抵抗を測るわけですからメガーでもいいと思いますが,メガーだと500Vとか1000Vとか電圧が高すぎますし,本来は機械装置の絶縁を見るものなので装置も大きく,電子工作用に簡単にリーク電流が測れるものとしたいと思います。
上述の本にコンデンサの試験装置の回路が載っていますので参考にしました。
でも,これ,原理としては正しいけど,このまま作るわけにいかんよな~という回路です。
なにより直接リーク電流を検流計で測る回路になっていますが,良品のコンデンサならいいですけど,もし不良品にぶつかると過大な電流が流れ,高価な検流計を飛ばしてしまいます。仮に300Vをかけたとして,不良のコンデンサだともろに300Vが検流計にかかるので,一瞬にして検流計が壊れます。実際,先ほどの本に,"異常時に,しばしば検流計の可動線輪がしばしば破損し,試験中断の機会が多い" と書かれています。
と言う次第で,もっとハイテクな回路にしないといけません。なにより電流を直接測るのではなく,いったん,電圧として検出してそれを増幅する,と言うことを考えたいと思います。このままデジタル電圧計をつなげばリーク電流に換算できます。PICマイコンなんかを使ってもいいでしょう。今回はアナログ式にしてメータをつけたいと思います。メータを振らせるには最後にV-I変換すればよいわけです。
と言う次第で設計した回路を▼に示します。
回路は2つに分かれていて,上が測定部,下が高圧発生回路です。
まず,測定部について説明します。
試験用のコンデンサに所要の高圧をかけ,リーク電流を1kΩで検出します。ここに1Vの電圧が出れば,リーク電流は1mAというわけです。
実際に良品のコンデンサの場合は数μA以下の電流になりますから,電圧としては数mVを入力とすることになります。
最初のOPアンプは非反転増幅器で,ゲインを10倍と100倍に設定できるようにしました。なお,メータ指示値はmax.50μAで設計したので,実際の電流レンジは1倍と10倍になります。入力に入っているシリコンDiの1SS133は入力保護用のダイオードです。最悪,300VがOPアンプにかかることになるので,そうならないよう,ダイオードを入れ,OPアンプのVccに接続しておけば,入力電圧はVccを超えることはありませんので安全です。
使用したOPアンプは新日本無線(JRC)のNJM2119Dです。単電源精密OPアンプで,デュアルタイプになっています。普通のOPアンプだと±15Vが必要ですが,単電源なので+4~+36Vの電圧があれば動作しますので便利です。入力オフセット電圧は90μVで,とても高性能です。最初,同50μVのリニアテクノロジーのLT1006を検討しましたが,こちらは入手できませんでした。 NJM2119Dの方が値段も安く,性能も遜色ありません。なお,汎用の単電源OPアンプNJM2904はナショセミのLM358互換ですが,入力オフセット電圧が5mVと高めなので見送りました。
OPアンプの入力オフセット電圧という数字は出力のオフセット電圧をキャンセルするために入力の端子間に加えないといけない電位差なので, NJM2904だと入力に5mVくらいの電位差を与えないと出力のオフセットが0になりません。今回,入力電圧は数mV以下なので使用不可です。
2つめのOPアンプはV-I変換用です。
このようにTrを接続すると,OPアンプは+-の入力電位差を0にするように動作するので出力が入力電圧に比例した電流になります。OPアンプ入力電圧Vin が次式に基づいて電流 i に変換されます。
メータは安価なラジケータを使いました。といって,やはり正規のF.S.500μA~1mAくらいのメータを使うべきでした。ラジケータは誤差が大きく,設計で苦労しました。
高圧発生回路は真空管アンプみたいにトランスを使って作るのが正規だと思います。単純にAC100Vを倍電圧整流して使っている方もおられますが,簡単だけれどきわめて危険なのでやめた方がよいです。なによりテスト端子間にDC280V位出る上に,テスト端子の対地電圧がAC100Vとなりますので,うっかりテスト端子に触れると感電します。 "電気はプラスとマイナスの間で電流が流れるから,2つの端子に同時に触らなければ大丈夫" なんて考えてはいけません。トランスレスの回路では大地がマイナスのため,どちらかの端子に触れただけで感電します。トランスを使っていれば対地電圧は0Vなので安全なのですけど....。
と言ってトランスが大きくて重いので,今回は昇圧チョッパ回路を用いてDC9~12Vから300Vへ昇圧することにしました。
昇圧チョッパ回路はDC-DCコンバータ回路の一種で,各種ICが発売されています。私は新日本無線のNJM2360を使いました。入手も容易だと思います。これを20kHzで動作させ,東芝の高圧Tr2SC3425でチョッピングしてコイル両端に発生する高圧を用います。2SC3425はVCEO=400Vで,真空管アンプの電源にも使用できます。この回路は今度,エルフィン管(ニキシー管の一種)でデジタル時計を作ってみようかと思っていますので,その高圧電源にも活用するつもりです。
出力電圧は真空管用としては200V,300Vがあればいいかと思いましたが,Trアンプ用に昔のマイラコンなんかをチェックしてみたいと思っているので50V,100Vのレンジも追加しました。
NJM2360を使ったDC-DCコンバータについては,詳しい設計法がJRCから出ていますので,ご参考にしてください。
次回はプリント基板を作って実際に作っていきます。
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