2015年4月14日の日記

 Lepai LP-2020A+アンプ

先日の土,日にバックロードホーンスピーカを組み立てました。 今日はアンプの整備です。

値段が3,000円ほどと格安なのにもかかわらず, 中国製のLP-2020と言うアンプがネットや雑誌で評判ですね。実は私も一昨年末に同僚がクリスマスソングを鳴らしていて音がよいのにびっくりした記憶があり,いずれ買ってみようと思っていました。正直なところ,「これじゃアナログアンプはおしまいだ。」と思ったくらいで,自作マニアを辞めようと思ったくらいでした。

でも,まあ,私がアンプを自作するのは音のためばかりじゃなく,工作するのが好きだからで,気を取り直してアンプを作ったりしていましたが,引っ越した際に小型のシステムが必要となり,買うことに決めました。

中国のLepai社が出しているアンプのシリーズで,今年からブランドが変わり,Lepyとなりました。一時はアマゾンでLepaiのにせ物という話がありましたが,箱にも書いてあるように,米国ではLepyとブランドを変更したようです。おそらく,彼の地ですでに商標登録されていたとか,アメリカ人はYou Tubeを見ても ”リーパイ” と発音せずに ”ルパイ” と発音するので,いっそのことブランド名ごと替えてしまえ,と言うことになったのかもしれません。

 Lepyは米国でのブランドのようです

中身は米Tripath社製のデジタルパワーアンプIC TA2020を使っています。初期のデジタルパワーアンプ用のICですが,Tripath社は2007年2月に連邦破産法11条の申請をして倒産してしまっています。と言う次第で,もうこのICは製造されていません。Lepaiのアンプのは中古品で,抜き球ならぬ抜き石だ,と言う話もあります。

ところで,今回,Lepaiのアンプを買おうとしたら何種類かのアンプがでていますが,メインはLP-2020というのとLP-V3の2機種のようです。ほかに,LP-808というLP-2020同様,出力20Wのアンプや大出力版のLP-168HA,最近ではTA2020が品薄になったのか,TA2024を使ったLP-2024と言うアンプもでています。ただ,▼にあるようにLP-168HAはSTマイクロエレクトロニクスのTDA7266を使っていますが,規格表を見ると出力7W×2(8Ω)のアナログBTLアンプで,40Wというのは誇大広告ですね~。

最初,どちらもデジタルアンプだし,LP-V3はBOSE製ICを使用と書いてあるので,新しい方でこっちがいいや,と思ってアマゾンに注文してしまいました。ネットでもどっちもデジタルアンプ,なんて書いているブログがあり,うっかり信用してしまいました。

結論から言いますと,LP-V3は従来通りのアナログアンプで,デジタルアンプじゃありません。もちろん,音も違うはずで,LP-2020とは同じ音はしないと思います。

  IC  出力   形式

LP-2020 TA2020 20W×2 デジタル

LP-V3 TA8245BHTDA8566 25W×2 アナログ

LP-168HA TDA7266 40W×2+8W(2.1ch) アナログ

ネットで使用されているICを見て気づきました。LP-V3は東芝のTA8245BHが使われています。 ものによってはPhilipsのTDA8566を使っているようです。東芝のTAで始まるICはアナログICの型番です。

TA8245BHはカーステ用に開発されたパワーアンプICで,Vccが12Vと低い電圧でも大きな出力が得られるよう, 出力回路はBTL回路となっていて,PhilipsのTDA8566も同様です。

ただ,東芝のBTL ICはあまりいい印象がしません。かつて,このようなBTLアンプのICでTA7240という定番のようなICがあり,一度,アンプを作ったことがあります。 "ラジオの製作" などの雑誌にもよく登場していました。外付け部品が少ないので作りやすく,出力も大きいので,製作記事にうってつけだったのでしょう。

ところが,私も作ってみましたが,ゲイン過剰なのが災いし,使いにくいことこの上もありません。規格表を見てみるとゲインが52dBもあり,普通にCDプレーヤなんかをつなぐとボリウムを絞っていてもかなりの音量で鳴ります。おまけに,一応,ゲインを可変できるよう,外付け抵抗で調整できるのですが,最低でもゲインは40dB以上にしなさい,と規格表に書いてあります。40dBでもゲインは過剰です。100倍という訳ですからね。

普通,パワーアンプのゲインは20dB(10倍)もあれば十分です。TA7240は高ゲインなのが災いの元で,ノイズを拾いやすく,私が作ったアンプもビ~という音がして,おまけにアナログアンプなので発熱もすごく,ケースが熱くなってくるのですぐに使うのをやめてしまいました。

と言う次第で,どうにも東芝のパワーICは使う気がしません。TA8245BHもゲイン過剰なのは同様で,50dB以上もあります。おまけに,TA7240のようにゲインを可変にはできないようです。

そういうわけで,アマゾンの注文は速攻でキャンセルし,LP-2020を注文しました....(^^;)。

まあ,今どきアナログアンプなんて絶滅危惧種だし,LP-V3も貴重なアナログアンプと考えれば,買っておいて損はないと思いますし,私もいずれ買っておこうとは思っています。 

さて,まずはデジタルアンプについて調べてみました。 

 デジタルアンプの原理

デジタルアンプは,入力されたオーディオ信号を高周波のパルスの粗密に変換します。パルス幅変調方式といい,英語ではPulse Width Modulationの略で,PWM変換と言います。

実は,私がいつも自作している鉄道模型用のPWMコントローラも全く同じもので,扱っている信号が直流信号か,オーディオ信号かの違いくらいしかありません。  

PWM波生成には自作のPWMコントローラと同じで,三角波と基準となるオーディオ信号の電圧差をコンパレータで比較して作ることが多いようです。  

使用している高周波は1MHzくらいのものが多いようで,この高周波を搬送波とかキャリアと言います。ちなみに私の鉄道模型のコントローラでは20kHzで設計しています。

 1kHz

とてもきれいな1kHzの出力波形です(出力1W)。が,よく見てみると少し輝線が太くなっているのがわかります。 

 100kHz

太く見えるのは搬送波(キャリア)が残っているせいで,100kHzにするとよくわかります。搬送波周波数は画面から判断すると1MHzくらいのようです。これがデジタルアンプの出力波形です。 

PWM波は単なるonかoffかの信号なのでアンプ内部の半導体はスイッチしているだけで,出力段もMOS-FETを用いたスイッチング回路になっています。回路としてはオーディオアンプと同じSEPP回路となっています。 

ただ,このままだとスピーカを鳴らすことができないので,アンプとスピーカの間にローパスフィルタ(LPF)を入れ,搬送波をカットします。大体,このLPFのカットオフ周波数は50~100kHz前後に選ぶことが多いようです。残念ながらスピーカのインピーダンス特性がばらばらで,本来は使用するスピーカにあわせてLPFを設計しないといけませんが,そんなこと無理なのである程度のところで妥協するしかありません。 

LepaiのLP-2020の出力回路は▼のようになっています。 

 Lepai LP-2020出力回路

アンプは片ch.に2組用意してあり,片方は逆相でドライブされています。アナログアンプのBTL回路と同じです。低いVccでも高出力が得られます。デジタルアンプではフルブリッジアンプと呼ばれるようですが,BTL回路と同じものです。位相反転用のOPアンプを内蔵しています。 

出力のMOS-FETはNチャンネルのみ使っていて,真空管のOTLとか,半導体の準コンプリメンタリみたいな回路になっています。この場合,打ち消し回路(ブートストラップ回路)が必要で,実際,内部の回路には使用されています。これって,なんか50年前の回路じゃない,という感じです......。 

L0,C0,CD0の回路がLPFです。CZ,RZはスピーカのインピーダンスが高周波になるとインダクタンス分により上昇してくるのでそれを抑えるためのもので,アナログアンプにも必ずついています。 

さて,アマゾンから届いたアンプはLepyのブランドの箱になっていました。ところが中の本体にはLepaiと書いてありますし,中の基板にはLepyと書いてありました......(爆)。

 箱

気を取り直して,まずは一度,通電して動作を確認します。アマゾンのカスタマーレビューにはさんざんなことが書いてあり,買ってみたものの音が出ないとか,RCAピンプラグの入力が左右反対に接続されているだとか,数日で音が出なくなったとか,書いてありますので一度チェックしてから改造します。

私のものは何の問題もなく,動作しました。また,ピンプラグの入力も正常で,ちゃんと左右のチャンネルは正常でした。それに,電源on/off時にスピーカからボッと音がするポップノイズの問題もほとんどなく,まったく気にならないレベルです。LP-2020はそれなりに製造が長年月経っていますし,内部の回路も基板も改良がなされているようです。

まずは周波数特性を測ってみます。8Ωの純抵抗をつないでオシロで観察してみました。結果については改良後のデータと一緒に次回ご報告します。

さて,一応アンプとしては動作することがわかったので早速内部の基板を調べてみます。

と,パネルに使用されているねじがトルクス(ヘックスローブ)ねじで,簡単には開きません。仕方ないので秋葉に行ったときに購入した特殊ねじ回しで開けてみます。

 特殊ねじ回し

秋葉で2,000円ほどで売られています。もっと安いものもあるのですが,ビットの材質が悪く,ねじをなめてしまう代わりにビットがなめられてしまう,という粗悪品も多いようですので気をつけて下さい。これはビットが硬く,そのようなことはありませんでした。また,小さなアルミケースにきちんと収まり,なかなか使いやすいです。

 ねじはTORXで,T-6が適合します。

 

     オリジナルの基板の状態。基板はLepyです。

基板はスルーホール両面基板を使用し,内部の部品も意外に高級そうな部品が使われています。電解コンデンサは中国製ですが,それなりにシールのデザインが高級そうなデザインになっていて,金色の文字で書かれていたりしますし,出力のLPFに使用されていたりするコンデンサはちゃんとフィルムコンデンサになっています。

LP-V3は片面の基板で,抵抗も普通のアキシャルリードタイプで,正直言って,これなら俺でも作れる,というような感じだったのに,LP-2020はチップ部品を多用し,かなり内部の構造も違うようです。もっとも,LP-2020もネットで画像検索すると初期のものは片面基板で,リードタイプの抵抗を使っているようです。製造時期や製造所により,かなりバージョンがあるようです。

後期のものは基板も変わりましたし,ポップ音対策で出力にリレーが投入され,ミューティング回路が追加されています。部品も高級なものに取り替えられているようです。

 ご本尊

ご本尊のTripath製TA2020です。 何かちょっと薄汚れているのが気になりますね。やっぱ抜き石かもしれません。

放熱器が小さいのにびっくり。これで合計40Wの出力を出せるのですが,アナログアンプで40Wのアンプだと巨大な放熱器が必要です。  

 後日,部品屋さんで買った新品のTA2020。 

さて,いくつか気になるところがありますので,部品を交換していきます。

何より出力のLPFを構成しているLとCを交換したいと思います。先に述べたとおり,この部分にはフィルムコンが使われていますが,定数がTripathの規格表にある数値とは違います。Lepaiは4Ω出力用で,普通にオーディオのアンプとして使うには8Ω用にしないといけません。私なんていまだに16Ωなんてスピーカ使っていたりします.....(^^;)。

また,カップリングコンデンサは2.2μFの電解コンです。まあ,コストを考えると電解も仕方ないのですが,やはりカップリングはフィルムコンにしたいですね。

さて,規格表には8Ω時はC0は0.22μF,CD0は0.01μFとするよう,指定があります。Lepaiの定数は4Ω用で,それぞれ0.47μFと0.1μFになっています。また,CD0は0.1μFと記載した資料もあるようで,ちょっと混乱してしまいます。すでにTripathは倒産してしまっているので問い合わせようもありません。

これでどう違いが出るのでしょうか。

早速,spiceでシミュレーションしてみました。やはり違うのです。

spiceのシミュレーション回路

規格表にある,C0はC1,C2で,CD0はC4です。 ▲の図はLepaiのオリジナルの定数のまま,負荷に8Ωのスピーカを接続した状態です。 

 シミュレーション結果

ご覧の通り,4Ω時は何の問題もなく,なめらかに下降していきます。ところが,このままの定数だと8Ωの時は20kHzで,1.2dB位のピークを生じます。規格表にあるとおり定数を変更すると最大でも0.6dBに収まります。まあ,アナログアンプだったらこれでもちょっと大きい気はするのですが,Tripathの規格表にしたがう方がよいようです。あとで実際に実測して比較してみることにします。

さて,ちょっと長くなりすぎましたので,実際の改造は次回報告します。 

 

2016年1月20日追記

最近はスピーカのインピーダンスが6Ωのものが多いです。その場合,LPFの定数をいくらにすべきか,と言う問題ができます。

Spiceでシミュレーションしてみました。

結論として,Tripath社の規格表にある,8Ω用の定数で全く問題ありません。

 シミュレーション回路です。

 シミュレーションによるf特です。

ただ,このシミュレーションはあくまでも6Ωの純抵抗でやっているため,現実のスピーカとは異なります。実際のスピーカは高周波でインダクタンス分によりインピーダンスが上がってきますので,正確なシミュレーションとはいえませんのでご注意ください。