2014年11月30日の日記

先週,設計が完了しました。3連休だったので,試作までしたかったのですがプリント基板の設計に手こずり,今週に持ち越しとなりました。それに,やはり設計していたときは気づかなかったミスがあり,試作段階でかなり修正する羽目になってしまいました。

試作後,一応テストに合格した回路を示します。

 

ちょっと複雑で見にくくて申し訳ありません。クリックすると拡大します。なお,出力部分に入っているメータやコイル,コンデンサはメータをつけなければ不要です。コイルとコンデンサは本機はパルス式のため,電圧計を使用すると指示がおかしくなるため,パルスの平滑回路としてつけています。 

回路は3つに分かれています。

一番上の部分が走行電流を制御する部分で,実物の電車なら"主回路" ですね.....(^^;)。

制御素子は普通のバイポーラTrを使っています。実車で使われているサイリスタとか,最近はIGBT(ゲート絶縁型バイポーラトランジスタ)も小型のものが市販されているので,こういうのを使えば本物の電車と一緒ですね.....。でも,何事も古いものが大好きという変なオヤジなのでわざわざ30年以上前の素子を使っています。MOS-FETなんてあり得な~い! IGBTもオーディオのアンプでも使われたTO-3Pのパッケージのものが売られていますし,ルネサスのRJH60D5DPKなんてのがマルツでも売られていて,こんなの使うとぴったり,と言う気もするんですけどね。驚いたことにこんなに小さなパッケージなのに37Aも流せます。なんか技術の進歩に驚かされますね。それと,PWM=チョッパ制御なので,サイリスタを使う,と言うことも考えられますが,サイリスタはドライブ電流が大きく,主回路電流の数分の1くらいになってしまい,数100mAの電流が必要です。これがサイリスタの欠点ですね。最近の電車でGTOサイリスタじゃなく,IGBTが使われる理由のひとつがこれです。東芝のSF2B41とか小型でよく使われたサイリスタがありますが,定格は100V,3Aで鉄道模型にぴったり,と言う気がしますが,これもドライブ電流は100mAも必要で,ドライブ回路が難しくなります。

使ったのはいつも通り普通のバイポーラTrで,松下の2SD317Aです。もう40年くらい前の素子だと思います。表面に錆が出ていて古ぼけていますが,使ってやろうと思っています。ずっと長い間,保存してきたものですしね。なお,これは試作段階だけで,本格的にケースを作ったらUFOみたいな形をしたメタルキャンのTO-3型Trに取り替えるつもりです。この形のTrも好きで,昔から集めています。

0.56ΩとQ3 2SC3198の回路は過電流制限回路です。

ここは今はポリフューズ(ポリスイッチ)を使うことが多いと思います。たった1個のセラミックコンデンサみたいな部品で保護ができちゃうなんてすばらしいと思います。実際,私もTomix5001改PWM式コントローラのときに使ってとても具合がよかったので,これでもよかったと思います。

でも,まだ何か信用できません。その昔,中学生の頃,半導体でA級アンプを作りましたが,当時のアンプの製作記事には必ず出力の回路には保護用のフューズが入っていました。でもたいていはマーフィーの法則 "半導体に保護回路を入れると,半導体が壊れて保護回路を保護する"  のとおり,先にTrが飛んでしまいました。このときのトラウマでどうもフューズと名のつくものは信用できません.....。

この過電流制限回路は半導体を使っているので応答が早く,しかも自動復帰するので信用できます。なお,この保護回路は過電流になっても設定した電流を流し続けますので,ショートしたらすぐに車両を取り除いてください。本当は過電流を検知したら自動的に出力電流を絞り込む,ホールドバック型保護回路にしたかったのですが,負荷電流が1Aと低すぎ,電源回路の教科書を引っ張り出してきて実際に設計してみたらうまく定数を決められませんでしたのであきらめました.......orz。

その下の回路は "ゲートアンプ" です.......(^^;)。

この部分は555 ICで三角波を発振させ,コンパレータでPWM波を作って2SD317Aをドライブします。サイリスタと違ってトランジスタなのでドライブ電流は主回路電流の数百分の1になります。ダーリントン接続していますから,実際のドライブ電流は数10μAのオーダーです。

一番下は自動加減速を実現するための基準電圧を作る部分です。

緩慢に電圧が上昇,下降するようにCRの時定数を用いています。キモは2200μFの電解コンデンサです。ここに電流を充電して力行し,放電させるとブレーキになります。

力行時は普通の10kΩのボリウムで加速度を調整しています。

一方,ブレーキ時はLEDとTr(Q5)を組み合わせた定電流回路で放電するようにしました。Trのバイアス電圧を可変して放電電流すなわちブレーキを調整します。

ここは従来のトラコンでは普通の可変抵抗を使うだけです。昔のTMSやNHK出版の "鉄道模型のエレクトロニクス工作" などに出ている回路もこうです。

ところが,これらの回路は力行・ブレーキの切り替えにスイッチが必要です。というのは,ブレーキ用の可変抵抗がコンデンサにパラに入るため,力行時にもコンデンサは放電している状況となってしまうからです。 これは具合が悪いため力行,ブレーキで可変抵抗を入り切りするようになっているのです。

でもこれは不便ですね。いちいちブレーキをかけるときにつまみを回すだけじゃなく,スイッチで切り替えないといけないのは困ります。突然,踏切に自動車やトラクターが現れたり,飛び込みがあったり,Nゲージなんてまったく興味のない嫁はんがレールを引っかけて脱線した,というようなときにスイッチを入れてブレーキをかけないといけないというのはダメですね。おまけに「ちゃんと下を見ろ!」なんて怒ったら逆ギレされますから......怖っ!。

と言う次第で,私はこの部分は定電流回路にしています。2SC3198のバイアス電圧以下にしておくとこのTrがカットオフしてブレーキ回路に電流が流れないので,通常の電車同様,ブレーキ用のツマミを回さない限り,コンデンサは放電しないようになっています。突然飛び込みがあってもツマミを急に回せば急ブレーキがかけられます........(^^;)。 

なお,ブレーキ回路は普通のボリウムを使って連続制御? しています。最近の電車はブレーキまでノッチになっていて,ここをロータリースイッチを使ってそういう風にしてもよいのですが,古いもの大好きなオヤジなので全電気指令ブレーキは嫌いでやはり電磁直通ブレーキにしてあります......(^^;)。

電車のブレーキは80系など旧型電車は気動車や機関車同様,自動ブレーキでしたが,101系以降の新性能電車はセルフ・ラップ弁を用いて電磁直通ブレーキを用いています。ブレーキ制御弁を開け閉めするだけの自動ブレーキと異なり,ブレーキ力の可変が容易で応答速度も速いので,新幹線0系にも用いられています。自動ブレーキはブレーキ制御弁を開けている時間によりブレーキ力が変わり,調整が厄介です。"ブレーキ" 位置と "重なり" や "緩め" 位置に交互に合わせたりして調整します。電磁直通ブレーキは自動車みたいにハンドル角度で自動的にブレーキ力が決まり,運転もしやすいのです。

一方,電空変換弁を用いればすべて電気でブレーキ力を指令することもでき,205系以降の在来線や100系以降の新幹線は全電気指令式になっています。ブレーキ指令線を4本とか7本使って,それぞれの電線が加圧されたことによりブレーキ力を可変します。それでブレーキハンドルもノッチ式になっています。

今回のコントローラもボリウムじゃなく,ロータリースイッチにすれば全電気指令式に変更できますので,ご興味のある方は試してみてください。 

さらに,ブレーキもロータリースイッチにするとマスコンと一緒にしてワンハンドルタイプにもできます。ただ,私はこれも大嫌いで,実際の電車はほとんど今はこうなのですが,運転台の後ろからのぞいてみるとなんか間が抜けているように見えるのでとても好きになれません。慣れない運転士さんが何度も終着駅の車止めに突っ込んだ某私鉄もありましたしね......。それに,いったんブレーキを緩めてから力行する形になるので勾配区間の駅だと一瞬バックしてから走り始めてこわいですね。こうならないよう,"勾配起動" というボタンがついている電車もありますけど。昔の2ハンドルタイプの運転台の方がかっこよく見えるので自作のコントローラでは作らないと思います......(^^;)。

さて,今回は前回のPWM式コントローラにはない常点灯回路をつけようと思っています。もちろん,前回のPWM式コントローラでもPWM式なので常点灯には対応しています。ただ,前回のものはツマミをほんの少し,回転させた状態で止めておかないと常点灯になりません。回しすぎると電車が動き出してしまうので,毎回,微妙な位置で止める必要があり,結構面倒です。今回は,スイッチを入れるだけで自動的に前照灯,室内灯が点灯し,マスコンを完全に戻した状態でも自動的に点灯するようにしたいと思います。

回路的にはノッチオフの状態でもごく小さなデューティ比でパルスを出力するようにしておけばよく,制御Tr(Q1)のベースにごく低いデューティのパルス電圧を印加すればよいのです。デューティが大きくなるとそちらのパルスを優先すればよいのですが,意外に電子回路的にむずかしく,最初に設計したものでは動きませんでした。

電子回路的にはこの部分をOR回路にしておけばよいのですが,わざわざ7432などのTTLゲートICを用いるのも大げさだし,何とか簡単にしたいところです。 ここが今回,一番苦労したところでした。

 コンパレータ出力の合成

コンパレータは前回に書いておきましたように,出力はオープンコレクタになっています。出力は抵抗値の変化(スイッチ)として現れ,電圧ではありません。そこでプルアップ抵抗を挿入して電圧の変化として出力するようにしています。

 走行中とノッチオフ時の出力波形

走行中の場合は走行用のコンパレータ出力のQ1がoffになっている時間の方がQ2がoffになっている時間より長く,問題はないのですが, ノッチオフすると(厳密には本機は自動加減速なのでノッチオフしてもパルスが残っていて,完全に停車した状態のことです),常点灯のみパルスを出力するようにします。このとき,Q1がonで,Q2がoffになっています。逆流阻止用ダイオードd1がないと電流がQ1にながれ,パルスが出力されませんが,d1があると電流はのように流れ,パルスを出力します。常点灯しないときもおなじで,d2がないと走行用のパルスがQ2に流れてしまい,出力されません。

こうして結局,2つのコンパレータ出力に逆流阻止用のスイッチングDiを入れて解決しました。LM393の2つの出力に入っている1SS133がそれです。ROHM製の非常に小さなガラス封止のダイオードで,鉄コレの前照灯回路などで使っています。残念ながらROHMさんはリード線タイプの小型ダイオードを製造中止にしてしまったようで,このダイオードも製造中止で,在庫限りのようです。それに,保護回路に入っている0.56ΩはPanasonic製ですが,松下さんは来年3月,リード線タイプの抵抗の製造を取りやめるそうです。ディスクリートの半導体もどんどん製造中止になっており,いよいよリード線タイプの抵抗すらなくなっていきそうで,電子工作もできなくなりそうです。

 保護回路の0.56Ω 2W酸化金属皮膜抵抗

Panasonicはこのタイプの抵抗の製造を来年3月で終了するようです。いつも部品を買いに行く秋葉の部品屋の親父さんから聞きました。残念なことです。 

 感光基板で作りました。 

この基板パターンは後でいろいろ修正しましたので,実際の基板はこの通りじゃありません。どうも申し訳ありません。 

 完成したプリント基板 

プリント基板は100×33mmの大きさです。基板上に全部の可変抵抗を載せてしまいました。こうしないとあとの配線が大変ですので。前回,シリーズレギュレータ式の自動可変速コントローラを作りましたが,回路自体は簡単なのに可変抵抗と基板の間の配線がすごく大変で苦労しましたので,今回はすべて基板上に配置しました。 アルプスなどから基板用のボリウムが出ていて,基板の製作が楽になりました。

なお,制御Trの2SD317には試作段階のため放熱器を取り付けていませんが,本格使用の場合は7805など3端子レギュレータ用の小さなもので結構ですので放熱器をつけてください。 また,TrはNPNでIC>3A位のパワーTrなら何でも使えます。ただ,できるだけhFEが大きいものにしてください。VCEOが大きいTrにはhFEが小さいものがあります。ダーリントンTrが入手できたらダーリントン接続せず1個で済みます。そのほかのTrも入手しやすいもので結構です。2SC3198はこの前,Cherryの6石スーパーラジオのキットについていたものの流用です。2SC372で作ったので,余ったいらない子です。私も会社ではいらない子なので.......orz。まだ入手しやすい2SC1815で十分です。ただ,コンデンサの充電経路にある2SC2383(VCEO=160V, IC=1A)は少しICが大きめのものが必要です。

 テスト中の様子

3つLEDが見えますが,基板上の2つはブレーキ用の定電流回路(赤)とPWM発振モニタ用(ピンク)のものです。わかりにくいですが,右側の出力に負荷用のLEDをつけています。これには昔のKATOの電機から取り外したオレンジ色のLEDを使っています。昔はこんだけ輝度が低かったんですね。点灯しているんだかどうだかわからないくらいです。

 常点灯パルス

ノッチオフして,主回路電流? が0の状態でもパルスが出るようにしました。一応,半固定抵抗で調整できるようにしています。最大デューティは13%くらいです。ただ,少し可変範囲としては大きすぎで,最大位置では電車が動いてしまうと思います。実際の鉄道模型では▲のオシロ波形のように,ほんの数%のデューティでいいと思います。

なお,テスト中は出力電圧が9VのACアダプタを使っていたので,ピーク電圧は9Vほどです。 また,チョッピング周波数は201系にあわせて300Hzと,一般車両用に20kHzに可変できるようにしています。300Hzだと本物のチョッパ電車みたいにプーッと言う音を立てて模型が走行します。ほかの模型だとこれじゃおかしいので,そのときは20kHzにして走行します。このときは可聴帯域外なのでチョッピング音は聞こえません。

なお,ケースに入れるときは12Vのスイッチング電源を搭載する予定です。本当言うと,出力のダーリントンTrと過電流保護回路の電流検出抵抗のせいで,2V程度,電圧降下するので14V程度のスイッチング電源を使用する方がよいのですが,555などの耐圧が16Vなのでこれ以上の電圧のものは使用できません。なお,本機はちゃんとツェナーダイオードで出力電圧が12V以上にならないよう設計してありますので,出力電圧が12Vを超えることはありませんので安全です。

 力行中

力行時はこのようにパルス幅が広がっていきます。自動加減速としたので,このパルス幅はゆっくりと広がっていきます。1~3Nに投入すると一定のデューティのところで停止します。そのまま保持すると一定の速度で走行します。

 最大速度時

4Nに投入し,数十秒経つと完全にデューティが100%近くになり,最高速度になります。このままの状態でノッチオフするとゆっくりとパルス幅が狭くなっていきます。ブレーキ用可変抵抗(VR3)を操作すると急激に低下します。もちろん,減速の度合いは可変することができます。あまり急ブレーキをかけるとお客様から苦情が来ますので注意しませう。それに,最近の電車は運転状態が記録され,あとで助役さんからきつくお叱りを受けますので注意しませう.....(^^;)。

さて,ようやく基板ができましたので格好良いケースに収めて完成としたいと思います。 

 

2014年12月7日追記

NHK出版からこんな本が出ていたのを最近知りました。オーディオアンプの製作記事などでもよく知られている長真弓氏が書かれた本です。氏の執筆したアンプの製作記事や本は持っていますが,この本のことは知りませんでした。早く見つけておけば,と思っています。自動加減速コントローラや自動往復運転装置,DCCについても解説があり,とても貴重な内容です。初版は1984年のようです。

 近くの図書館で借りてきました。

なかなか図書館にもない,と言う話がwebにでていますが,近所の図書館で検索したらありました。ただ,さすがにもう年月が経っているので閉架式書庫に保管されていました。相当汚れていて,よほど貸出があったような感じですが,もう読む人もいないのでしょう。 早速,スキャナを持っているのでpdfにしてしまいました。

 自動加減速コントローラ

何で本を押さえているんだ,と言われそうですね....。▲の記事では制御Trに東芝の2SC2535(VCEO=400V,IC=5A)を使った3段ダーリントン回路になっています。ブレーキは自動ブレーキを模擬しています。 後半に非自動加減速のPWM式パワーパックの記事が出ています。こちらの方は制御Trは前回書いた東芝のダーリントンTr2SD686を使っています。たぶん,元の記事としてはこちらの方が執筆時期が古いのだと思います。

NHK出版の電子工作関係の本だとホビーエレクトロニクスやホビーテクニックというシリーズがあり,私も何冊か買いました。書き下ろしのものや "電波科学" という雑誌の工作記事などをまとめたものが多かったですが,いずれもとても高度な内容で,今この本に載っているような回路を作れる人がどれだけいるのか,というくらい高度な内容でした。その割に初心者向けにやさしい解説もついていて,とてもよいシリーズだったと思います。最近はこういう本がなくなってしまい,非常に残念です。私はこういう本を読んで勉強したし,実際にものを作って遊ぶことができました。今の子はこんな本もないし,部品もないし,勉強できませんねぇ~。昔はよかったな~~.....(泣)。