2008年6月の工作

前から本物の電車のように自動的に加速し,ノッチオフすると惰行する鉄道模型のコントローラがほしいと思っていました。ボリウム1個で制御し,ボリウムの角度で速度が決まるだけで,ボリウムを0にすると急停止,という普通のコントローラには大いに不満を持っていました。ところが,自動加減速するコントローラは実際に買おうとするとどれも非常に高いですし,何より工作派としてはお金を出して買うのもなんだし,と言うわけで自作を検討していました。ところがこれ,意外に難問なんですね。途中でやる気をなくしたりして,放ったらかしてしまったので,結局,完成までに10年もかかってしまいました。

まず,設計要目として,

(1) 自動加減速+惰行可能なものとする

(2) HOゲージでも使えるよう,最大容量3Aとする

(3) 最大出力電圧を負荷によらず,12Vで固定する

(4) 従来通りのボリウム1個で制御する普通のコントローラとしての機能も持たせる

といったものです。(1)はトラコン(トランジスタコントローラ)とか言って昔から回路は発表されていますし,自動加減速ができると惰行もできるので,何とか実現させたいです。市販のものでも問題は(2)と(3)ですね。実は「大は小を兼ねる」式にHOゲージで使えるような何Aも出せる大容量のものをNゲージのような小負荷のもので使うと,最大出力電圧が17Vとかになってモータを焼き切ってしまいます。実際,KATOのDD51が目の前で焼き切れるのを見たことがあります。これは,大容量のパワーパックはHOゲージのような大電流負荷時に12Vとなるように設計してあるためで,Nゲージのような小負荷の場合,最大出力電圧が上がってしまうためです。これはちょっとあまりに無神経な設計だと思います。今回,3Aという比較的大容量なパワーパックを作るにあたり,この点,十分配慮して設計します。

さて,まず問題の自動加減速と惰行についてですが,鉄道模型がなぜ惰行しないのかというと,当たり前すぎますが,ウォームギヤを使っていて,しかもイナーシャが小さすぎるから,と言うことですね。ウォームギヤもねじり角を4゜以上にすれば受動側からの負荷に対しても回転するのですが,鉄道模型ではこのようなことがなく,絶対に,手で転がしたりしても車輪が回転しません。これでは惰行するわけがないのですね。最近はフライホイールが入っていて,多少は惰行するようになっていますが,ほんの数cmと言ったところで,ぜんぜんダメです。もし,将来,非常に小型のDCモータが開発され,客室の両端に1個ずつモータを配置し,平歯歯車で動力を伝達するようになると惰行できると思いますが,こんなモータ,作ってくれませんかね。

と言う次第で,やはり電気的に惰行を模擬してやることくらいしか手はありません。ただ,これを使うと自動加減速もできます。

さて,惰行あるいは自動加減速ですが,これはコンデンサの充放電を利用して,コンデンサの端子の電圧を使ってやればできます。電子工学の教科書に典型的な過渡現象の説明例として,下記のCR充電回路の説明が出ています。この場合,端子の電圧は

で表されます。TはC×Rで,次元として時間となりますので,この値は時定数と呼ばれます。時定数分の時間が経つとほぼ最大出力電圧の6割(正確には1-1/eで63.2%)くらいの電圧になる,と言うのが目安になります。これを使って自動加速ができます。放電する方も同じで,こちらは減速となります。

今回,放電側は定電流回路として,一定の電流で放電させ,ブレーキとしました。単に抵抗で放電させると,電圧が小さくなるほど,時間がかかるためです。加速の方はいいのですが,ブレーキでこれやるといつまで経っても停まらないと言うことになりますので...。

惰行するときは放電の電流を0にし,時定数を大きくしてやればよいわけです。

さて,(3)の最大出力電圧の問題ですが,電源を定電圧電源にすればよいのです。簡単にやるにはスイッチングレギュレータを使うのが一番手っ取り早いです。要はトランスを使ってブリッジダイオードで整流,なんてことをやっているからこんな問題が生じるのです。12Vのスイッチングレギュレータが安いところでは1,000円ほどで売っていたりしますから,これを使えば無問題です。ところが,本機を設計したのは10年前で,当時はこんなスイッチングレギュレータが簡単に手に入らなかったので,従来通りトランスで設計しています。

最大出力電圧については,上記のコンデンサの充電電圧を13~14Vほどに抑えればOKで,これにはツェナーダイオードを使います。電圧がばらついているのは,出力のトランジスタをダーリントン接続にするので,ダーリントン段数×VBE分だけ高くしないといけないのと,出力TrのVCEsatとよばれるコレクタ~エミッタ間の損失電圧が存在するためです。でも,たった1本のツェナーダイオードを入れるだけで最大出力電圧を抑えられるのですが,案外,市販のコントローラはこんなことすらしていなくて,困ったものです。

    

   Nゲージってこれくらいの負荷なんですね...これでもフルノッチにしても最大12Vで停止します

と言う次第で,設計した回路を下記に示そうと思ったのですが,so-netブログはPDFなんかを添付するようにできていません。回路図がほしい方はコメント欄でご連絡下さい。

制御Trは何も古くさいTO-3形のパワートランジスタを使う必要なんてないのですが,やはりトラコンというとTO-3形というイメージがあるので,2N3055を使いました。2N3055以外でもNPNのパワートランジスタならほぼ何でもOKですが,TO-3形は今は非常に高くなっているので,ジャンクを買う以外は2N3055を使うのが一番安いです。実はこれ,モトローラがオリジナルで,アルミケースのペラペラのTO-3形で面白いのですが,オーディオ用に使うと音がよいらしく,当方も持っていますが,もったいないので,モトローラはオーディオ用にすることにし,使ったのは仏伊合弁のSTマイクロエレクトロニクスのやつです。探すと東芝製も売っています。ところで,2N3055はモールドのTO-3P形もあるんですね。びっくりしました。「これ何?」って最初は思いました。なお,パワートランジスタならNPN(2SC××か2SD××)でIc>5Aくらいの規格のものなら何でも使えます。モールド形の方が基板に直付けできて使いやすいでしょう。ところで,国産のTO-3形の2SCxxとか2SDxxという名称のものは2N3055とエミッタとベースの接続が逆なのでご注意下さい。

 今回のご本尊,TO-3形の2N3055

加速の時定数と減速の定電流回路の定数は試行錯誤で決めるしかなく,一応設計してみましたがやはり電車を走らせてみて実感的な数値にしました。ついでに,電流と電圧の監視用のメータもつけました。これがあるとやはり非常に便利です。

さて,一応定置で試験して,いよいよ試運転です。AUTO(自動加減速)とmanual(手動)の切替もつけたので,従来のコントローラみたいな運転もできます。よく考えてみると,鉄道模型って運転を楽しむのと見るのを楽しむのと,2通りありますね。延々とだらだらと低速で運転させ,それを見ているだけって楽しみもあるんですね。そういうときのために手動モードをつけています。HOゲージのファンはこちらの方がいいって言うかもしれません。

       西鉄2000形を運転中。

ノッチをフルにしてもすぐにびゅっと飛び出すことはせず,ゆるゆると加速していくのは感動です。最大速度くらいになってノッチオフをしても,いままでだとガクンと急停止,だったのにそのまま普通の電車みたいにず~っと走っていくので正直言ってこれも感動です。試しにフルスピードになった時点でノッチオフするとだらだらと惰行し,最終的に停止するまで,1分半走行しました。駅に近づいたらやおらBRAKEボリウムを右に回し,ブレーキをかけます。電圧メータが急に下がり始め,停止となります。ちゃんとBRAKEボリウムを左右に回すと減速のスピードも変わるので,運転士さんみたいに停止位置を調整することができます。

と言った次第で,やはりトラコンはいいなと実感できるコントローラが完成しました。駅発車時に「ちょいノッチ」(旧国鉄がよくやっていましたが,発車時に1Nへ入れたあと,すぐにノッチオフし,ブレーキ不緩解をチェックする。私鉄ではやってませんね。JRでも西さんはやめたようです)をやることもできます。

ただ,気をつけないと停止位置不良や停車駅通過(実はうちの近所で本物の電車が「通過駅停車」なんて事故もやったことがありますが....),それから赤信号冒進して本線合流直前に安全側線へ入って脱線,本線を支障して後続列車が追突し,三河島事故の再現などの事故も引き起こしますので,十分お気をつけ下さいね。

残念ながら回路自体は簡単ですが,ボリウムやスイッチ類が多く,配線が大変で,やはり今度はPICマイコンを使ってソフト的に制御した方がよいと思います。また,今回はPWM制御(パルス式)ではないので,起動がスムーズではないですし,前照灯も暗いので,次回はPIC+PWMにしたいと思います。

2009年1月追記

とうとう本機を先日,運転会デビューさせました。トランス式なので重くてまいります。今だったらスイッチング電源にするのですが,せっかく作ったのでこのままにしておきました。HOゲージのカツミのED70のようにそれなりに"古い"機関車を運転するのならトランス式がい似合うかと,勝手に思っております。

それにしても本格的に運転会で使ったのは初めてですが,非常にスムーズに動作して,惰行もでき,本当に電車を運転しているみたいで,とても面白いです。ブレーキ操作をしないと止まらないので,やっぱり事故には要注意ですが...。EGSか,非常停止ボタンをつけないといけませんね。EGSでもいいのですが,その場合,レールを短絡することになります。本機では保護回路がホールドバック形でなく,通常の電流制限形なので,最大電流が流れたままになるので,上記の充電用コンデンサをショートするスイッチをつけておけばよいですね。

また,本機の特徴として,ノッチ式になっているわけですが,通常の電車同様,最高速度を決めるために設定してあります。友人によると,有名某社の自動加減速パワーパックはノッチ式だけれど,ノッチは加減速を変化させるためのもので,最高速度は変わらず,放っておくと最高速度で突っ走る,とのこと。 えぇっ?,と思いました。本物の電車ではノッチというのはかつては直列,直並列,並列,弱め界磁とモータの接続法を決めるためのもので,それぞれの段でシリーズに入っている抵抗を徐々に抜いていって,抵抗が完全に抜けた状態になるとそれぞれのモータ接続法での最高速度に落ち着く,と言うものです。さすがにインバータ式になったのでモータは永久直列だったり個別接続だったりするのですが,といってノッチをなくしてしまうと運転士さんが困ってしまうので,やはりある程度の最高速度を決める,と言う目的でつけてあります。

ということなので,加速度が変わるだけで放っておくと最高速度になってしまう,というのはまずいですね。その点,本機は実車同様,1ノッチから4ノッチまで,それぞれの最高速度で落ち着くように設計してあります。 実はメーカ製の自動加減速タイプのコントローラは使ったことがなかったので,メーカ製のがそんなになっているとは知りませんでした。

運転会ではせいぜい2ノッチか3ノッチで実車さながらのスケールスピードで走りました。ただ,ノッチが4段しかないので,車両によっては落ち着くスピードがバラバラで,ちょっと最適値で走らせようとすると粗い感じです。バーニア制御(^^;)ボタンでもつけないといけないかな...。

それに,気づいたのは加速を自動でやっているので,発進が非常にスムーズなこと。普通のパワーパックだと微妙に回転させてもビュッと飛び出してあわててボリウムを絞ってスピードを落とす,なんてことが必要ですが,本機はそんなことやらなくてもゆっくりと発進しました。

と言う次第で,運転会が非常に楽しみになりました。

運転会にて。右はPWM制御の自作小型鉄模コントローラhttp://iruchan.blog.so-net.ne.jp/2009-04-19。非自動加減速ですが,スイッチング電源を使ったので非常に軽く,便利です。

2011年5月3日の日記

最近,so-netブログの写真投稿について設定が変わり,クリックすると拡大することができるようになりました。相変わらずPDFの投稿ができないのが残念ですけどね。

回路図をupしておきます。ご参考にして下さい。クリックすると拡大します。

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