2017年5月20日の日記

先週,PFM式の鉄道模型コントローラを試運転しました。

残念ながら,かすかですが音がして,かなり甲高い音を出しますし,当然ですが,つまみを回していくとどんどん周波数が高くなります。チョッパ電車なら一定の音なのでそれほど気になりませんが,初期のインバータ電車みたいに音の周波数が変わるので非常に感じが悪いです。まぁ,機関車が走り出すと気にならないレベルですけど。

すっかり泥沼にはまってしまいました。これじゃ,ウクライナの湿地帯にはまってしまって身動きが取れなくなったドイツ軍,という感じです......orz。

しかたないので,なんとか冬将軍が来る前に無事撤退,という具合に行きたいものです。

先週は,スタート時点のスイッチング周波数を500Hzと想定して設計しました。やはりこれはダメで,もっと高い周波数にしておかないと耳に聞こえてします。

ただ,そうしなかったのは,先週も書いておきましたが,PFM式は当然,周波数がどんどん変わるので,最終的にはかなり高い周波数になってしまいます。実際,先週の測定では610Hz~63kHzというものでした。つまり,大体100倍くらいの周波数になります。

こうなってくると,仮に20kHzでスタートすると最終的に2MHzにもなることが予想されます。

そうなると使用しているタイマIC555の発振可能周波数がいくらまでか,と言うのが問題になります。

555の発振可能周波数は大体,500kHzというのが相場です。iruchanもそう思っていました。

でも,テキサスインスツルメンツが出しているNE555の規格表を見ると,もっと上まで出そうです。

 TI社NE555データシートから

たしかに,100kHzまでしか表示されていませんが,RA+2RB=1kΩの線を伸ばすと1MHz以上は出そうです。

ということで,C,Rをまた変更してテストしてみることにします。

まずはSpiceでのシミュレーションから。LTspiceは幸いなことに,NE555のモデルが標準でついています。

シミュレーション回路

 スタート時点の最低デューティ。

最低デューティは約1%で,周波数もほぼ20kHzとなっています。

 最終段階です。

最終的にはデューティ100%となる直前の状態です。初段の非安定マルチの出力は1.6MHzで,波形も崩れてきていますが,まだちゃんと出力しています。

ということで何とかなりそう.....,という雰囲気です。

それに,波形が崩れてきていますが,そもそもデューティが90%以上になっている段階でのことなので,ここで波形が崩れても,単にデューティが90何%かから100%に飛ぶだけのことで,問題ありませんね。

PWM式の場合,波形が崩れるのは第4回にも書いておきましたとおり,デューティが低いときです。

ここで波形が崩れてしまうと,低いデューティのパルスが出てこなくなり,ラピッドスタートになっちゃうので大問題ですが,PFM式は低デューティは大得意ですから,問題ありません。

ということで,ここまで来たら基板上の部品を取り替えてテストしてみます。

今回,555の発振周波数を決めるCとRのほか,2段目の単安定マルチの555の充放電コンデンサの放電用の2SA1015を1ランク上の2SA1020に取り替えました。Spiceのシミュレーションで120mAくらい流れることがわかったためです。

 現時点での回路図です。

 プリント基板です。

ご注意プリント基板上に2SD686を取り付けていますが,本格的にコントローラとして使用する際には,金属製のシャシーにネジ止めするか,放熱器をつけてください。Nゲージの場合,動力車1両くらいなら放熱は不要なくらいですが,念のため,放熱してください。また,2SD686はコレクタが露出しているので,ネジ止めの際は絶縁シートと絶縁ワッシャを使ってケースと絶縁してください。

ICは初段は通常の555ですが,2段目はあとでLMC555に変更しています。また,2段目の555の横にあるジャンパー線は試作時のもので,下記のパターン図は修正後のものです。

 出力波形です。

▲のオシロの波形は最低デューティの時です。残念ながら周波数は11.5kHzと予想より低めですし,最低デューティも6.6%になっています。さんざん原因を考えたのですがよくわかりません。初段に使っている555のコンデンサが150pFと異常に小さいですし,セラミックコンデンサなので誤差も大きいからか,と考えていますがよくわかりません。まあ,これで動かなければOKなので,とりあえずテストしてみます。

 ちなみに,最大デューティ時です。

 ただいまテスト中。

やはり驚き.......。

     #58942;#58942; ものすごくスローで動くんです #58942;#58942;

もちろん,常点灯にも対応し,停止した状態で前照灯が明るく点きます。6%くらいのデューティだと機関車は動き出しちゃうんですが,動かずに停止しています。ちょっとなんでだか説明できないんですけど。

それに,PFM式のよいところは最低デューティでも必ずパルスが出ているので,ボリウムを一杯に絞っても必ず前照灯が点灯します。

これはいいことなのか,悪いことなのか,どちらにも解釈できちゃうんですが,いい方としては,いちいち,今回作ったKC-1改PIC式のもののように,調光用のボリウムを調節しなくても前照灯が点灯するし,また,TL494を使った従来のPWM式のようにつまみが1個しかないタイプのものは機関車は動かないけど,前照灯は点灯する,という位置につまみを止めておかないといけませんが,コアレスモータ機はLEDが点灯するデューティと機関車が動き出すデューティの範囲が狭く,そういう状態で止めておくのはなかなか厳しいですが,今回のPFM式だと楽勝でした。それも単につまみを一番絞っておくだけでOK,というのは楽です。

まあ,逆に,前照灯を消したいときはコントローラをoffするしかない,と言う欠点もあるのですが.....。

また,前回,テストしたときに気づいたのと同様,PFM式は非常にスローで動きます。これはKC-1も真っ青と言っていいくらいです。なにより,さっきも書きましたとおり,常点灯する範囲が非常に広く,時計で言うと10時くらいまでは前照灯のみが点灯して,それ以後は機関車がゆっくり動き出す,という感じで,非常に鉄道模型のコントローラとして優秀だと思います。PWM式の場合,今回製作したものも含め,常点灯する範囲というのは非常に狭く,特に,コアレス機は厳しいのですが,今回,製作した一連のものでも常点灯の状態を保つのは非常にクリティカルなのに,PFM式は本当に楽勝,という感じです。

 もちろん,停車中です。

マニアの皆さんを機関区に集めて撮影会するにも楽で,これだと皆さんに喜んでいただけますね......(^^)。

と言う次第で,PFM式は大いに将来有望で,今後,研究していきたいと思います。

ソ連に侵攻したドイツ軍は1815年のナポレオン軍同様,冬将軍に負けちゃうわけですが,こうして無事にiruchanは泥沼から脱出し,キスカ奇跡の撤退ができました。


なお,PICマイコンを使ったソフトウェア方式のも開発しております。ご興味のある方はこちらをご覧ください。


2017年5月29日追記

プリント基板図のご要望がありましたので,upしておきます。まだiruchanはPFMコントローラは未完成と考えていますので,とりあえずの暫定版とお考えいただければ幸いです。

実験しましたが,2段目の555はC-MOSタイプのLMC555をお使いください。最低パルス幅は0.8μsで,最低デューティは1.4%となりました。2段目の単安定マルチバイブレータはより高速タイプのものが必要なようです。

ただ,残念ながら,初段の非安定マルチにLMC555を使用すると動作しませんでした。こちらは通常のTTLタイプの555をお使いください。

 プリント基板(銅箔面)

 プリント基板(部品面)

サイズは53×37mmです。 はジャンパ線です。


2017年8月3日追記

2SA1020が発熱して壊れた,というご報告がありました。正常に動作する場合は全く発熱しないはずです。そこで,Spiceで調べてみました。

 正常に動作している場合

正常時はピーク電流こそ120mAくらいになりますが,平均電流はごくわずかです。コレクタ損失も230μWくらいですから,全く発熱しないはずです。

ただ,このTrをうっかり,逆向きにはんだづけしてエミッタとベースが逆に配線されているとすると......,

 誤接続した場合

コレクタ損失は5Wを超えてしまい,すぐに2SA1020は壊れてしまうと思います。

ただ,念のため,出力を調べてみたら,この状態でもパルスは出力されるようです。おそらく,模型もしばらくの間は動くと思います。

という次第で,このTrの接続には十分お気を付けください。


2017年8月11日追記

回路を修正しました。

いくつか改良したのですが,まずは2段目の555のRAはもっと大きくしないと電流が大きいので,2.2kΩにしました。ここは時定数RA×Cでパルス幅を決めているのですが,パルス幅を小さくするにはこの時定数を小さくするとよいのですが,RAは電流が流れるため,あまり小さくできません。

次に,どうしても初段の555は普通のTrタイプの555じゃないとうまく動作しなかったので,やはりこちらも2段目同様,C-MOSの555LMC555CN)にしたいと思います。一般的にTrタイプの555は最高500kHzくらいまでですが,C-MOSだと1MHz以上発振できます。

ただ,今まではどうしても初段だけ,C-MOSタイプにすると動かなかったので改良したいと思います。

原因はオシロを見てわかりました。初段のデューティが高すぎるんですね。初段はRAに可変抵抗を用いて,非安定マルチを作り,周波数可変の発振器として使っていますが,デューティが高すぎて発振はしているんですが,2段目の555にトリガをかけるほど,off期間が長くなっていないようでした。

そこで,初段の555周辺の定数もいじりました。

 最低デューティです。

パルス幅は1.4μs,最低デューティは3.5%となりました。少し最低デューティは大きいかもしれません。もし,模型が動いてしまう場合は先ほどの2段目の時定数をいじってください。

 最大デューティです。

きちんと100%になります。直前のパルスの周波数は525kHzでした。

 初段LMC555の最高周波数

驚いたことに1.4MHzを超えています。まさか,555で1MHz以上の発振ができるとは思わなかったので感動です。ただ,ノーマルのTrタイプの555ではここまで出ません。もっとも,出力は1.4μs程度のパルスが隙間なく出力されるようになるとデューティ100%となるので,出力波形はこんな周波数になりません。

 Trタイプの555のとき

今回の定数で,今まで使っていた日立のHA17555の場合です。最大デューティは25%くらいにしかなりませんでした。やはり,発振周波数が低すぎて,100%になりません。今回の回路では初段の555もC-MOSタイプのLMC555をお使いください。

と言う次第で,最終的な回路図を示します。

最終版の回路です。

なお,本機の最低デューティは3%くらいで設計していますが,最近購入したKATOのC12だと起動デューティが2.7%だったので,この定数だと動いてしまうかもしれません。

もし,つまみを0にしても機関車が動いてしまう場合には,初段の555のRBを100Ω,2段目のRAを3.9kΩにしてみてください。これでデューティが2%くらいになって止まるはずです。


2017年8月16日追記

2SA1020が過熱する,というご報告がありました。

いろいろ調べてみると,8月3日の追記にあるように,どうもピン配置が東芝のオリジナルと異なるものが紛れ込んでいるのでは,と思いました。

台湾・友順科技股份有限公司UTC(Unisonic Technologies, co. ltd.)のホームページを見て,ようやくわかりました。驚いたことに,確かにピン配置の異なるものがあるようです。最初はまさかと思いましたけど......。

http://www.unisonic.com.tw/datasheet/2SA1020.pdf

iruchanも使ったのはUTCの2SA1020で,手持ちの10個ほどを確かめましたが,いずれも東芝の2SA1020と同じピン配置でした。しかし,秋葉などで売られているものには電極がECBじゃなく,EBCのものがあるようです。しかも,▲のデータシートを見ても,実物の表記からはどのピン配置か,わからないようですが,EBC配列のものはTO-92パッケージで,東芝2SA1015と同じパッケージのもののようです。オリジナルの東芝製2SA1020と同じパッケージ(TO-92NL。TO-92より長い)のものはピン配置も同じECBのようです。

UTC製のTO-92版2SA1020はピン配置が東芝のものと異なります。お気をつけください。