2015年1月15日の日記

本当だったら今日は "成人の日" ですね~。こっちの方がよかったと思います。私が子供の頃は今日が共通一次の試験でした。雪が降って寒い日だったな~。

さて,今日はスナバ回路のシミュレーションをしてみたいと思います。

Nゲージで遊んでいますが,どうしても停車中に電車や機関車の前照灯が点灯しないのが気に入らなくて,模型を購入するたびに改造しています。 ところが,簡単にやるには前照灯の基板についているコンデンサを撤去すればよいのですが,そのままだと反対側の前照灯や尾灯が点灯するようになってしまうので,スナバ回路を追加してそうならないように改造しています。

電子回路シミュレーションソフトSPICEを使って,今日はスナバ回路の効果を検証してみたいと思います。SPICEはいろいろバージョンがありますが,リニア・テクノロジー社が無償で提供しているLTspiceはタダで使えて便利です。

まずは模型のオリジナルの状態から.....。

私の逆向き点灯防止回路の解説にあるように,最近のNゲージ車両の前照灯回路は▼のようになっています。前照灯や尾灯は最近はLEDを使うのが普通になりました。

オリジナルの回路

電車の場合は後ろのLEDは赤色LEDになっていて,尾灯を点灯します。また,LEDが1個の時(片運で尾灯がない場合)は普通のシリコンDiになっています。これは保護用のダイオードで,LEDは逆耐圧が低く5V程度なので,点灯しないとき(電流が逆向きの時)は保護するためにもう1個,LEDかダイオードが必要なためです。

ところがこの回路は問題があり,PWM式のコントローラを使って停車中に少しだけつまみを回したり,専用のコントローラで停車中にも点灯させるようにできるコントローラを使っても前照灯が点灯しません。 どちらも原理は同じで,停車中にモータが回転しない程度のごく小さなデューティでパルスを出力しています。

なお,レオスタット式やトランジスタ式などのパルス式じゃない連続式(アナログ式)のコントローラではもとから常点灯には対応していませんのでご注意下さい。これはLEDの点灯電圧(順方向電圧)が3V程度と高く,このくらいの電圧になるとすでにモータが回転してしまうためです。 

そこで,この点の改良のため,私は下記のような回路を提案しています。 LEDにパラについているコンデンサCpを撤去するとともに,モータとパラにCとRを直列にしたスナバ回路を追加するものです。一見,複雑に見えますが,チップコンデンサやチップ抵抗を使うと簡単に改造できます。

このスナバ回路を挿入すると停車中にも前照灯を点灯させることができますし,反対側の前照灯や尾灯が点灯するという現象を抑えることができます。 

スナバ回路をつけた改良版(常点灯対応) 

オリジナルの回路(一番上)の問題はLEDにパラに入っているコンデンサCpです。

これがなぜ必要なのか,考えてみましょう。

まずはシミュレーションした回路です。全部描いちゃっているのでわかりにくいですが,適宜,スナバ回路や件のコンデンサを外してシミュレーションしました。

 シミュレーションした回路

モータはコイルと抵抗を直列にしたもので代用しました。本来なら電機子が界磁の磁束を横切るときに発生する逆起電圧を模擬しないといけませんが,モータ起動前ということでそこはネグりました。インダクタンスは実測値じゃなく,過去の経験からの推測値です。 

シミュレーションで使用したLEDはLTspiceに標準でついていた,日亜のNSPW500BSというφ5mmの白色のLEDです。ご存じの通り,白色や電球色のLEDというのはチップ自体は青色のチップを使っていて,樹脂に封入された蛍光物質で白く色を変えています。電気的な特性は青色LEDと同じです。 

まずはスナバ回路(C2,R6) なし,LEDにパラに入っているコンデンサC1なしの状態です。コントローラはPWM制御でスイッチング周波数300Hzでシミュレートしました。

    

 反対側のLEDがない場合     反対側のLEDがある場合       スナバ回路あり

反対側のLEDもない場合だと,このようにPWM波がoffになった瞬間にオーバーシュートしてかなり大きなマイナスの電圧が出ています。これはインダクタンスによる逆起電圧で,-L・di/dtになることは電子工学の教えるところです。過去の経験だと-12Vくらいにもなることがあります。 

 逆起電圧の拡大

反対側のLEDや尾灯をつけると,そのダイオードの順方向電圧でクリップされます。よく,LEDが2~3VくらいのツェナーDiの代用として使われるのはこのためです。私も自動加減速コントローラなんかで使っていますし,両運の模型の場合,非点灯のLEDにかかる逆方向の電圧が抑えられ,LEDの保護として作用します。

ただし,この状態だと反対側のLEDに電流が流れていて,すなわち点灯してしまっています。これじゃダメですね~。

最後に,スナバ回路を取り付けると一番右の結果となり,逆起電圧は-0.6Vくらいに抑えられていることがわかります。この電圧だと反対側のLEDは点灯しません。

今回のシミュレーションではスナバ回路の定数はC=1μF,R=22Ωです。いつもはC=0.1μFでR=10~100Ωでいろいろ実際にテストして決めていますが,シミュレーションではC=1μFの方がよい結果が出ました。次に実際の模型でも効果を確認してみたいと思います。

スナバ回路を取り付けるとオーバーシュートした電圧は見事に小さくなり,-0.6Vくらいです。この電圧だと反対側のLEDは点灯しません。効果があることがわかりますね。いろいろRの値を変えてみるとこのオーバーシュートする電圧が変化することがわかりました。

次に,元に戻ってオリジナルの回路でシミュレーションしてみます。LEDにコンデンサCpをパラに入れ,スナバ回路がない状態だとこうなります。 

 コンデンサCpがあるとき

ご覧いただいておわかりのように逆方向へのオーバーシュートが消え,プラス側のみになります。そのため,反対側のLEDは点灯しません。また,コンデンサに充電される時間は電圧がゆっくり立ち上がることがわかると思います。

このコンデンサの容量C1と,LEDの電流制限抵抗R2の積は時定数といい,電源電圧(12V)の約60%まで立ち上がる時間に等しくなります。 今回のシミュレーションでは時定数は560msです。

ただ,このようにデューティが低い状態だと最大の電圧は2Vちょっとで,これじゃ反対側のLEDが点灯しない代わり,正常な向きのLEDも点灯しません。

これはPWM波がデューティ5%でシミュレートした結果ですが,このときモータは回転するかどうか微妙なところです。

どちらにしろ,もっとデューティを大きくしないとLEDが点灯しないことがわかります。結局,モータが回転してから点灯することになります。これじゃいわゆる "常点灯" に対応しないことがわかりますね。

そこで,やはりこのコンデンサが邪魔をすることがわかったので,簡単に常点灯に対応させるためにはこのコンデンサを撤去するとよいのですが,こうすると一番上の結果の左2枚のグラフのようにインダクタンス分による逆起電圧が邪魔をして,反対側の前照灯や尾灯まで点灯してしまう,ということになります。

そこで,私はスナバ回路を使うことにし,ここ数年,模型を買うたびに改造しています。

スナバ回路はモータやリレー,ソレノイドなどインダクタンスを持ったコイルの電流を切るために挿入される回路で,接点の火花を抑制してスイッチやリレーの接点を保護するとともに,半導体でoffする場合は半導体の耐圧を超えないよう,保護する目的があります。それに,モータの場合だと電流がoffできなくてモータの速度制御ができなくなることを防ぐ目的があります。 

 スナバ回路

       直流用                  交流用

直流を断続するときにこの問題が起こることが多いのでスナバ回路は直流回路でよく用いられます。その場合はダイオードと抵抗で構成しますが,鉄道模型の場合は直流を使っていても電源の極性が反転する訳なので,交流用のスナバ回路を使う,と言うのが私のアイデアです。

これでスナバ回路の効果についてご確認いただけたと思います。

さて,ほかの対策として,パラになっているコンデンサの容量を小さくすると効果があります。先ほどの図で,コンデンサの電圧が早く立ち上がればよいわけで,コンデンサの容量を小さくしてみます。

 C1=0.1μF,スナバ回路なし,300Hz 

うまくいきました。コンデンサの電圧が早く立ち上がり,LEDがこれなら点灯します。ツェナーDiのように,約3Vで電圧がクリップされているのがわかりますね。マイナス方向へのオーバーシュートも小さく,これなら反対側のLEDも点灯しません。

ところが,これはうまくいくようなのですが,コントローラのスイッチング周波数が高くなるとうまくいきません。シミュレーションは300Hzで行いましたが,20kHzにしてみるとLEDが点灯しなくなってしまいます。 

 C1=0.1μF,スナバ回路なし,20kHz

今度は周波数が上がるとともにパルスの継続時間が短くなるのでコンデンサの電圧が小さくなり,LEDが点灯しなくなってしまいます。

PWM式コントローラはモータから音がするので,周波数は高い方がよく,私は20kHzで設計しています。人間の可聴周波数は20Hz~20kHzと言われているので20kHzでスイッチングすると音が聞こえなくなります。

実車も同じで,チョッパ電車の201系がプーッと音を出していたのはスイッチング周波数が300Hzと低かったためです。実際,私も自作のコントローラはスイッチング周波数を切替式にして鉄コレの201系を運転するときなんか300Hzにして電磁音を楽しんでいます。

インバータ電車がヒュ~ン,ヒュ~ンと音を出すのも同じ原理で,スイッチング周波数が1kHz以下と低いためです。もっとも,最近のインバータ電車があまりこういう音がしなくなったのはIGBT(ゲート絶縁型バイポーラトランジスタ)を使ってスイッチング周波数を高くしたためです。

と言う次第で,パラに接続するコンデンサの容量を小さくしてもコントローラの周波数が高い場合は効果が低い,と言うことがわかりました。やはりスナバ回路の方が効果があるように思います。

と言う次第で,最後にひと言。

"スナバ回路はあります!" (某美人科学者? の声で!)  

なんか,スナバ回路って,例のニセ細胞と名前も似てますしね......。 

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