残念ながらこのような読んでいる方が不快に思われるようなことを書かないといけなくなってしまいました。 

最近,当ブログの記事を見てNゲージ車両にスナバ回路を搭載する改造をし,顧客から料金を取っている業者さんを見つけました。私には全く事前にお断りはありませんでした。

当ブログはあくまでも個人の方を対象としており,個人の方はご自由に当ブログの記事の内容に基づいて製作,改良をしていただいても結構ですが,商用目的でのご利用は固くお断りします。 

2011年6月5日の日記

先日,KATOのDD54を買いました。とてもかっこよく,お気に入りの機関車になりました。

前回,内部の逆向き点灯防止用のコンデンサを撤去して,停車中にも前照灯が点灯するようにしました。こうしておかないと,PWM式のコントローラを使っても,停車中に前照灯を点灯させることができません。

LEDを前照灯に使用した場合,電球より熱的な時定数が小さく,レールのギャップを通過したときなど,モータへレールから供給する電流が途絶えると逆起電力により逆向きの電流が流れ,反対側の前照灯が点灯します。電球の場合は熱的な時定数があり,逆向きの電流の通過時間が短いので,点灯しませんが,LEDの場合は点灯してしまいます。

これを防ぐ目的で,各社,LEDにパラにコンデンサを設置し,点灯しないようにしていますが,このせいで,停止中に前照灯を点灯させることができなくなっています。

オリジナルの回路

ちょっと,駅に停まっているときなど,前照灯が点灯していないのも変で,反対向きの前照灯がチラチラと点灯するより,停車中に前照灯が点灯しない方がいやなので,いつもこのコンデンサを撤去しています。

しかし,このせいで,確かに反対側の前照灯がチラチラと点灯します。EF65やEF81など,普通の国鉄電機の場合は,運転台より上に前照灯があり,そんなに気になるものじゃありませんが,このKATOのDD54は4次形と言うこともあり,EF66のように運転台より下に前照灯がついています。このせいで,運転している最中に,次位の貨車の妻面がチラチラと明るく照らされる,と言うことに気づきました。結構,気になります。

と言うことで,長年の懸案だった,常点灯と逆向き点灯防止の両立を考えないといけないなと思いました。

まず,逆起電流について考えてみます。

モータは誘導性(インダクタンス)なので,電磁誘導の原理から,供給される電流の変化を抑える向きに電流が発生します。供給電流が切れると,その電流を維持する向きに電流が発生します。ですから,大型の直流モータを停止させる場合,ナイフスイッチやNFBで直接切れる電流は限られます。うっかり,大電流の直流回路をスイッチで切ると大きな火花が出て,下手をすると火傷をするので注意が必要です。電車の場合も同じで,断流器などには火花吹き消し機構が設けられています。

模型の場合,レールと接触が悪く,電流が切れると,行き場のなくなった電流が後ろ向きのLEDを流れ,モータに還流します。このせいで反対側の前照灯が点灯します。

これを防ぐ目的で,↑ のように,コンデンサがLEDにパラに挿入されています。

しかし,このコンデンサは抵抗Rとローパスフィルタを構成しますので,PWM式のコントローラを使うと,このパルスを平滑化してしまい,電圧が下がってしまうので,LEDがなかなか点灯しません。

 コンデンサがある場合の電圧VLED

LEDの順方向電圧は2.8V程度ですが,以前,KATOのDF50のところで調べたように,モータの起動電圧VM は1V台なので,動き出してから前照灯が点灯します。

コンデンサがないと,PWM式のコントローラを使えば,モータはパルスのデューティ比に応じて回転し,前照灯回路にはダイレクトに12Vのパルスが印加されるので,モータが回転する前に前照灯が点灯します。これが常点灯の原理です。PWM式じゃない,単に電圧制御のみのアナログ式? のコントローラの場合は,出力電圧がパルスじゃなく,平坦な電圧なので,モータ起動前に前照灯を点灯させることができません。ということで,このコンデンサをいつもは撤去してしまいますが,逆起電流を吸収できなくなってしまいますので,反対側エンドの前照灯がチラチラと点灯してしまいます。

停車中にも前照灯や室内灯を点灯させるにはPWM式のコントローラが必要ですが,メーカが反対側の前照灯が点灯する対策を優先しているところを見ると,まだまだ皆さん,アナログ式? のコントローラをお使いなのでしょうか。

あと,C-Rのローパスフィルタ,と言うことなので,このPWMコントローラの周波数がカットオフ周波数以下ならコンデンサがついたままの状態でも常点灯可能だと考えられます。しかし,このカットオフ周波数はCとRの値から,KATOの場合で280Hz,マイクロエースの場合で160Hzのようですから,たとえば,コントローラのスイッチング周波数を100Hzなんかにしておけば常点灯可能です。しかし,こんな低い周波数だとガー,ガーと電磁音がひどく,まるで気動車みたいな騒音を立てると思います。

コンデンサがないとき

コンデンサがあるとき 

     レールからの供給電流が切れたときの電流の流れ(点線)

この対策として,まず考えたのはLEDの順方向電圧を上げることです。

実際には,LEDの順方向電圧はP-N接合の電圧なので自由に変えられませんので,LEDに印加される電圧を変えてみます。

LEDに直列にツェナーDiを入れて,LEDに電流が流れ始める電圧を上げてみます。ツェナーDiの電圧分だけ,LEDに電流が流れ始める電圧を上げることができます。ツェナー電圧+LED順方向電圧に達するまで電流が流れません。逆起電圧がこの電圧を超えなければいいわけですね。

ツェナーダイオードを使う場合

ただ,この回路の問題点は,チップタイプのツェナーDiがまだ簡単に手に入る状況じゃないことです。それに,逆起電圧を測定してみると-12Vも出ている場合が多く,ここまで電圧が大きいと対応できません。 正常な向きでも点灯しなくなってしまいますからね。ただ,シリーズにダイオードを入れるというのはそれなりに有効な手段ではあるらしく,この方法で対策を取っておられる人もおられるようです。

う~~ん,うまく行きませんね。いい手だと思ったのですが....。  別の手を考えます。

ということで,学生時代に勉強したスナバ回路を再度,勉強してみます。

スナバ回路というのは誘導性の負荷に対して,電流を切らないといけない場合,上記のように火花が出て危険なので,それを防ぐのと,サイリスタやIGBTなど半導体でPWM制御などでコントロールする際に,半導体でうまく電流が切れるようにするために挿入されます。201系などもスナバ回路が入っています。

一般的に直流回路ではダイオードが使われます。よく,電子回路でもリレーのコイルのパラにダイオードを入れたりするのがこれです。大容量のモータの場合などはダイオードの保護もしないといけないので,直列に抵抗が入っています。

で,これを応用しようかと思ったのですが,すぐにボツ。なんて言っても鉄道模型は極性が反転しますから,レールの極性に応じてダイオードの向きを変える回路が必要です。R-Sフリップフロップと電子スイッチの半導体を組み合わせれば可能ですが,Nゲージに組み込むなんてとてもできません。

とここまできて,交流回路のスナバ回路を応用しようと思いました。

スナバ回路

       直流                   交流

誘導電動機(インダクションモータ)を負荷にした回路では,C-Rを用いたスナバ回路が使用されます。コンデンサは容量性の負荷なので,充電されていない状態では抵抗値は0です。逆起電力が発生すると,このコンデンサを充電しますので,逆起電流を吸収することができます。

実は,KATOやマイクロエースなど,各社の前照灯回路に用いられているコンデンサはこのスナバ回路そのものなのです。しかし問題は,スナバ回路の抵抗をLEDの電流制限抵抗と共用してしまっていることにあります。

これだと思いました。つまり,スナバ回路用にコンデンサと抵抗を追加すればよいのです。すでに,模型にはコンデンサがついていますので,これを外して,別に抵抗を追加し,スナバ回路とするだけです。 実に簡単で,Nゲージにはぴったりですね。

改良した回路

なかなかいい手は思いつきませんでしたが,ようやく解決手段を思いつきました。非常に簡単にできます。

DD54に早速,実装してみます。クリックすると拡大します。

 実装したスナバ回路

コンデンサを撤去してあったのを再度,場所を変えて取りつけます。↑ の写真で言うと,基板の一番上と下のパターンがレールと同じ電位なので,これをつなぐように,コンデンサと抵抗を取りつけます。コンデンサと抵抗の値は厳密に言うといろいろ計算しないといけないのですが,面倒なので,適当に手持ちの270Ωの抵抗をつけました。

上下のパターンの間に,2本,LED用のパターンが見えますが,これにハンダがつかないよう,十分ご注意ください。

ちなみに,もとのKATOの基板には電流制限抵抗として,560Ωがついています。マイクロエースだと1kΩです。DD54には560Ωのままだと明るすぎたので,前回,2.2kΩにつけ替えてあります。

 

      ちゃんと停車中でも前照灯も点灯します。

   反対側の前照灯はまったく点灯しなくなりました。成功です。

たった1個の抵抗の追加と,コンデンサの位置変更で常点灯と逆向き点灯防止ができます。うまく行きました。

ここで格言。

「すべて偉大なるものは単純である。」   (Wilhelm Furtwängler 1886~1954)

BGMはDD54だとドイツ製だから,ワーグナーの"ニュルンベルクのマイスタージンガー" 第1幕への前奏曲なんかかけるとぴったりかな? 。"タンホイザー" 序曲だと佐川急便になっちゃうし。いや,やっぱりDD54は災難ばっかりだったから,"ワルキューレの騎行" 第3幕への前奏曲かな。"地獄の黙示録" かよって?。本当に当時の技術者にとっては "地獄" だったと思います....。

2013年2月4日追記

スナバ回路の設計法が大体わかりました。スパークキラーの製造元である,岡谷電機産業のwebに記載があります。詳しくはまた別のブログにしたいと思いますが,結論から言いますと,

 抵抗はモータの直列抵抗と同じ値にする

 コンデンサはモータのインダクタンスが吸収するエネルギと同じ容量になるようにする

ということなので,大体,抵抗としては100Ωくらい,コンデンサは0.1~1μFくらいとなります。ただ,使用しているPWM式コントローラのスイッチング周波数に依存するようなので,実際には実験してみないと何とも言えない感じです。ボディを載せないで部屋を真っ暗にして試験してみるといいと思います。DD54の270Ωという値は少し大きすぎるようです。コンデンサにエネルギを吸収するとともに,抵抗で減衰させるのですが,C×Rの時定数(単位:sec.)により応答速度が変わります。ある程度,時定数は大きくないとダメですが,大きすぎると応答速度が悪くなり,逆向きのLEDが点灯します。最適な定数の決定にはやはり実験が必要ですので,ご注意下さい。

2019年1月3日追記

KATOのななつ星用DF200の改造についてご質問がありました。残念ながら,iruchanは国鉄形オンリーなのでDF200は持っていません.....(^^;)。

どうも申し訳ありません。

ただ,ネットに出ている基板の写真なんかを見ると,通常のKATOの電機などの基板と同じようです。

スナバ回路の設置については,下記の通りにするとよいと思います。クリックすると拡大します。

 回路の改造

オリジナルはいちばん左で,例によってちらつき防止用のコンデンサがついています。このため,常点灯にはなりません。まずはこのコンデンサを撤去して,スナバ回路を追加します。真ん中がそれです。Rは小さい方が効果が大きいですが,発熱する可能性があるので大きめにします。コンデンサも0.1μF~1μFくらいです。

スナバ回路がなくても常点灯になりますが,この場合,後ろ側の前照灯も点灯しちゃいますので,スナバ回路を追加しています。 

いずれにしても,使用するパワーパックの周波数や出力波形でCとRの値は変わりますので,車体を載せる前に何度か試行錯誤してください。

なお,ご質問の方はテールライトの設置もご検討されているようなのですが.....。 

電車などの場合,テールライトの赤色LEDは前照灯用の電球色LEDと極性が反対なのを利用して,逆耐圧保護のため,お互いに逆向きにパラ接続すればOKですが,機関車の場合,▲の図のいちばん左みたいに前後の前照灯用LEDが同様に逆向きパラに接続されています。

ここに電車と同じように赤色LEDをパラにしちゃうと,今度は前照灯が点灯しなくなっちゃいます。

これは,赤色と電球色LEDの順方向電圧が違うためで,結局,いちばん右の回路みたいに,前照灯の回路と,テール用の回路を別々にする必要があります。

これはおそらく無理です。かなり基板の改造が必要となります。

それに,これだけの改造をしても,DF200は電車みたいに,前照灯(標識灯?)とテールライトが隣接していて,テールだけ点灯させるには導光材の改造や,遮光板などの設置が必要です。

と言う次第で,かなり難しい改造となると思います。