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実験用定電圧電源の設計と製作~その2:トラッキングレギュレータの製作~ [電子工作]

2021年9月20日の日記

トラッキングレギュレータ.jpg 現在テスト中です。

さて,今回は最終的に設計を完了し,プリント基板を作ってテストしてみたいと思います。

前回,LTspiceでシミュレーションをして,回路の定数を決めました。最終回路は下記の通りです。

トラッキングレギュレータ回路2.jpgトラッキングレギュレータ全回路

基本的にはシリーズレギュレータなんですが,±電圧が出力できるよう,トラッキングレギュレータとしています。また,整流は両波倍電圧整流とし,平滑用コンデンサの中点で接地し,±出力としています。よく,真空管のOTLアンプで用いられる回路ですが,一般的なブリッジ整流とすると2次側巻線が倍になり,トランスが大きくなるので止めました。

トラッキングレギュレータについては,前回の解説をご覧ください。

今回,出力電圧は5段階+可変出力とし,出力電圧範囲は3V~22Vとしました。3Vや5VはC-MOSやTTLのテスト用,9Vは006Pの代わり,15VはOPアンプ用,可変出力はDCプリアンプの実験用です。これだけ広範囲に電圧可変ができて,±出力できるものはないと思います。

最大電流は200mAくらいにしようかと思いましたが,小型化のため,100mAで保護回路が動作するようにしました。まあ,OPアンプの実験用なら十分すぎる容量ですし,もし,被測定回路に誤配線があっても,最大でも流れる電流は100mAで制限されるので,助かる確率が高いと思います。前回紹介した,中国製の大容量可変電源は5Aとか,10Aのものも多く,かえって危険だと思います。

また,単なる可変定電圧電源としてではなく,DCプリアンプの実験用にノイズ対策も考えてあり,整流はファーストリカバリ,また,基準電源はテキサスのTL431を使い2.5Vとしました。これは最低出力電圧を3V以下にするためです。かつ,この前紹介した本の通り,出力にπ型フィルタを入れてみました。

さて,いつものようにプリント基板を作って試験します。本では万能基板を使っていますけど......これだけ複雑な回路なのに,万能基板を使う人が特に特注測定器を作るプロの方には多いようなんですが,よくやるよな~~って,いつも思います。iruchanは正直,失敗や故障のもとだと思っています。金田氏も昔から万能基板なんですけど.....。

トラッキングレギュレータ基板 .jpg 完成したプリント基板。

 感光フィルムを使った自作基板です。きれいにできました。

制御素子は部品箱に眠っていた,東芝の2SB7532SD634にしました。同じTO-220ですが,コンプリじゃありません。どちらも定格はVCEO=80V, Ic=7A, Pc=40Wと大きなものです。あらためて規格表を見てみると今ごろ見てるんかい2SD634はダーリントンです。特に問題ないと思います。

2SB753, D634.jpg 2SB753/2SD634

東芝のPチャンネル素子が緑色だった頃のもので,懐かしいです。昔はよかったな~~~[雨]

さて,基板をチェックしたあと,慎重にスライダックで加圧しました。特にケミコンがパンクしたり,抵抗から煙が出たりすることもなかったのでまずはひと安心

すぐに出力電圧を調べてみますが,12Vくらいが出ており,-側も同じ値なので,問題なさそうです。VRを変化させると電圧もスムーズに変化するので,成功のようです。

ただ,最大出力電圧は22Vくらいになるはずなのに,12Vしか出ません。ちょっとまずいです。

調べてみると,VRに50kΩを使っていました。103と書かれていないといけないのに,503と書いてあり,部品箱から取り出すときに間違えたようです.....orz。

気を取り直して10kΩにして正常に動作しました。

      ☆          ☆         ☆

ケースはタカチのSYH-110Bを使いました。サイズは110(W)×76(H)×140(D)mmで,やはり少し小さすぎました。トランスは東栄のJ2403にしました。24V,0.3Aの容量があります。

可変出力もあるので,メータをつけようと思い,秋月で売っている,台湾DER社製のDE-2645を使いました。有効数字3桁なので,6.35Vなどと表示してくれるのはありがたいです。

ただ......。

電源は電圧測定端子から取るので,測定する電圧によってLEDの輝度が変わります.....[雨][雨]

まあ,輝度が変わると言ってもそれほど変化は大きくないのですが,さすがに3VくらいではLEDの輝度が低く,見にくいです。また,2.5V以下だと完全に消えてしまいます。

一体,なにを考えて設計しているのか......。

と言う次第ですけど,一応,試験もOKそうなので,次回はケースに収めて完成,としたいと思います。


2021年9月29日追記

しばらくテストしていたんですけど.....30分ほどしておかしなことになりました。

出力電圧が22Vくらいになり,調整できません。

う~~ん,何か壊れたな......[雨][雨]

まあ,普通,こんなことはあまりなくて,壊れるならすぐに壊れるものですけど....。

OPアンプを触ってみるとあっチッチ[雨]

NJM2147Dが壊れたか,と思いました。

確かに,規格表を見ると最大定格500mWと書いてあり,LTspiceでも400mWくらいの消費になっているので,ちょっとギリギリです。

でも,NJM2147Dを取り替えても現象は同じなので,OPアンプが壊れたわけではなさそうです。

次に疑うのは制御Trですが,2SB753/2SD634とも問題ありません。

なにが原因かわからなくなってしまいました。

ただ,オシロをつないでみるとOPアンプが不安定で,やはり発振気味のようです。OPアンプの入出力間に入っている100pFを大幅容量upで0.1μFにして発振が止まりました。

と言うことで,なにが原因かわからないのですが,どうもインバーテッドダーリントンに使っている2SC1815が怪しいと思い,交換してみると直りました。

と言う次第で,若干パワーアップして,2SC2655と交換しました。ついでに,2SD634もダーリントンTrなので,もったいないので松下の2SD317Aにしました。

これ,LEDの調光器に使っていたんですが,fTが25kHzと鈍足で,リストラした余りものです。レギュレータなら問題ないでしょう。2SC2655もオリジナルは東芝ですが,部品箱にあった台湾UTC製のいらない子を使いました。

OPアンプはやはり多少発熱するので,何か放熱器を,と考えて秋月で売っているラテパンダ用のヒートシンクをエポキシでくっつけちゃいました。LF356HなどのメタルキャンOPアンプなら,TO-5用の放熱器が使えますが,DIP8ピンのOPアンプだといいものはありませんが,これはなかなかよさそうです。

lattepanda放熱器.jpg ラテパンダ用ヒートシンクをつけました。

と言う次第で,ようやくテスト終了です。制御Trに取りつけた放熱器もほんのり熱くなるくらいで問題ありません。



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実験用定電圧電源の設計と製作~その1:トラッキングレギュレータの設計~ [電子工作]

2021年9月4日の日記

最近,いくつか金田式DCプリアンプを製作中です。

こういう半導体式のアンプの場合,プリント基板で作ることになるのですが,そういうときにいちいちそのアンプ専用の電源を作るのは面倒なので,とりあえずアンプ基板だけ作っておいて実験するのに何種類か電圧の設定がある電源装置を作っておこうと思います。

また,その昔,TTLで回路を組んでいたときなど,5Vの定電圧電源を用意しておく,なんてことをやっていましたよね~~。また,バッテリーの充電なんかにも12Vの定電圧電源があると便利です。

ということで,いつもこういう電源装置を作ろう,と思っていたのですが,なかなかこういうものを作るのは面倒で,元気がいります。でも1台あると便利ですね。

と言ってiruchanもさすがにこういうのを作るのはしんどいので最初は既製品を,と思いました。

でも,金田式DCプリアンプに限らず,オーディオ用の半導体アンプというのは,要はOPアンプなわけですから,±の電源が必要で,既製品にはこういう,+と-の両方の電圧が出力できるものはありません。

と思っていたのですけど......。

amazonを見てみると,中国製のなかなかよさげなのがたくさん出ているではないですか。

値段的にも1万円以下だし,容量的にも5A以上のもあり,まあ,実験用としては大きすぎるくらいですが,バッテリーの充電用にも使えるし,中にはUSBを持っていて,スマホの急速充電ができるものがあります。おまけに,単電源(+のみ)か,と思ったら,+V, ーV,GNDと書いたものがあるではないですか!!

Kungber定電圧電源.pngなんだ,あるじゃん.....?。

でも,これはダメ。他にも結構,出力端子が3つあるものがあるのですが,これはーとあるのはあくまでもこれと+の間で電圧が出力されますよ,と言うだけのことで,GNDは筐体アースのようです。GNDが0Vで,±Vccを出力してくれるものではありません。

それに,まあ,DCアンプやOPアンプの実験用としては,5Aなんて出力は過大。0.1A程度に制限しておいてくれる方がうっかり誤配線していても助かる可能性が高いです。

と言うことで,やっぱり実験用として,自作しないとダメなようです。

回路としては,もちろん,OPアンプ用に±出力が必要ですが,+とーで別々に電圧設定するのは面倒です。

こういうとき,便利な回路があり,+とーでひとつのつまみで設定でき,絶対値は等しく符号が反対の電圧を出力できる電源装置があり,トラッキング電源と言います。

まずは,参考書として,CQ出版の下記の本を持っているので参考に調べてみます。2001年に出版されているので相当前ですけどね....。

作りながら学エレクトロニクス測定器.jpg

本多平八郎著,トランジスタ技術 増刊 ハードウェアデザインシリーズ16 作りながら学ぶエレクトロニクス測定器

です。本当は歪率計を作ろうかと思って買った本ですけど,これに2種類載っていました。

例によって,LTspiceでシミュレーションして動作を確認します。残念ながら,金田氏の記事はもちろんのこと,この会社の出版物も含め,電子回路の本は誤植が多いので,最近は必ずチェックしてから製作することにしています。

と,やっぱり......[雨]

トラッキングレギュレータ(CQ出版).png原回路

出力電圧は15Vに設定したのですが,出力電圧は7Vくらいにしかなりませんし,ー側は-3.4Vくらいです。また,+側と同じように変化するはずですが違います。おまけにリップルまで乗っていて,定電圧電源になっていません。

トラッキングレギュレータ(CQ出版)1.pngシミュレーション結果

原因がちょっとわからなかったのですが,怪しいとにらんだのは制御Trのベースに入っている10kΩ(R2, R13)。

これは,以前,iruchanも鉄道模型用のコントローラを作ったときに入れた抵抗ですけど,普通は100kΩ以上の値です。このときは無負荷時に出力電圧が高くなるのを抑えるために入れていますが,10kΩという値では小さすぎると思います。

調べてみるとビンゴ!!

この抵抗に800mAも流れていて,ビックリ!! 出力電圧が大幅に低下してしまいますし,現実の回路じゃ,焼き切れてしまう値です。この抵抗は不要です。

また,この回路のままだと最低出力電圧は10Vくらいなので,iruchanはTTLのほか,PIC用の電源としても使いたいので,最低電圧は3Vを目指します。

最大電圧は22V程度あれば金田式DCプリアンプのほとんどの回路に対応すると思いますし,別に金田氏の規定電圧でなくても動作する回路は多いので,問題ありません。また,あまり高くすると定電圧出力時に損失が増えますので。

☆トラッキングレギュレータについて

さて,ここで,OPアンプを使った定電圧電源の原理と,トラッキングレギュレータについて,ネットを見ても,いい解説がありませんでしたので解説しておきます。金田氏も最初のDCプリアンプμPC55Aを使ったOPアンプ定電圧電源でしたね。OPアンプが最先端の技術で,もてはやされた頃の技術です。今じゃ,オーディオ用の定電圧電源としては使うことはなくなっちゃいましたけど......。

まず,OPアンプを使った定電圧電源は次のような原理です。シリーズレギュレータのひとつですが,どれも考え方は同じです。最近はスイッチング電源が増えているので,リニアレギュレータ,と言う言葉もあるのですが,どうも違和感を覚えるんですけどね.....。

OPアンプ電源.jpgOPアンプシリーズレギュレータ

ここで,OPアンプの2つの入出力端子(V+,V-)はイマジナリショートと言って,ショートされていると仮定します。とはいえ,もちろん,ショートしているわけじゃなく,電流が流れるわけじゃありませんけどね。ということですが,当然,V+=V-と言うことになります。

OPアンプのシリーズレギュレータはV+にVrefという基準電源をつなぎます。普通はここはツェナーDiを使いますね。

とすると,上記のイマジナリショートの原理で,V-も同じVrefとなるようにOPアンプの出力が出ます。

と言う次第で,出力電圧Voutは,

          レギュレータ出力電圧.jpg

となります。よく言われる,出力電圧は基準電圧の分圧比の逆数,と言うわけです。

別にOPアンプを使わないシリーズレギュレータも原理は同じで,このOPアンプの部分をディスクリートで作っていたりするだけです。

さて,トラッキングレギュレータの方はと言うと,+側はまったく同じです。


トラッキングレギュレータ.jpg

-側は同じ抵抗値で両出力間を分圧してあり,下側のOPアンプの非反転入力(基準電圧)V+はGNDとなっているので,先ほどと同じ原理でOPアンプはこの2つの抵抗の中点が0Vとなるように動作するので,+側と絶対値は同じで符号が反対となる電圧を出力する,と言う動作をします。

☆設計

さて,iruchanは下記の仕様で設計しました。

電圧範囲:3~22V

固定出力:3, 5, 9, 12, 15

可変出力:3~22V

実はこのように広い範囲で電圧可変とするのは難しく,OPアンプも▲の説明をお読みになってご理解いただけると思いますが,普通のOPアンプは電源が±15Vなので,最大電圧22Vという出力のレギュレータは設計できません。

ちなみに,先ほどのCQ出版の本の場合,OPアンプ出力に4.7VのツェナーDiを接続して,出力電圧をかさ上げしています。

その代わり,最低電圧はこの分だけ高くなってしまうので,この方式をやめ,最初から高耐圧OPアンプを使うことにしました。

新日本無線のNJM2147Dを使います。

最初,安価なNJM3404ADが使えるかと思ったのですが,これは単電源で,耐圧は36Vまでで,両電源で使用する場合は±18Vなので使えません。NJM2147Dだと±28Vまで使えるので十分です。高耐圧OPアンプは高価ですが,いつもお世話になっている秋葉原のサン・エレクトロさんで@200円でした。ありがとうございます。

シミュレーションでの回路と結果を示します。

トラッキングレギュレータ(iruchan).pngトラッキングレギュレータ

制御Trは損失低下を狙ってインバーテッドダーリントン接続にしました。

トラッキングレギュレータ(iruchan)1.png シミュレーション結果

出力電圧20Vを狙ったときの結果です。このように絶対値は等しく,上下対称の出力電圧となるのが正しい結果です。

最大負荷電流は100mAとしました。DCプリやOPアンプ電源用としては十分だと思います。制御Trの最大損失は2.3W(出力3V時)でちょっと厳しいですが,放熱器をつけておくこととします。

と言うことで,次回,実際にプリント基板を作って動作確認していきます。


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