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金田式IVCイコライザ搭載プリアンプの製作~その1 Spiceシミュレーション~ [オーディオ]

2021年8月23日の日記

今年の春,双信のSEコンデンサが製造中止になる,と言うニュースがDCアンプマニアの間に駆け巡りました。

このコンデンサはとても高く,WEのオイルコンとか,そういうヴィンテージ品のコンデンサを除けば,オーディオで使われるコンデンサとしては一番高いものだったと思います。

特に,DCアンプには必須の部品で,購入するには多額お布施が必要なんですが,教祖様の教えに忠実な信者の皆さんはせっせとお布施に励んだことと思います。

iruchanはお金もないし,と言ってどうもディップマイカは好きになれないので,昔からスチコンを使っているのですが,さすがにSEコンがもう手に入らない,と思うと最後にEQアンプを作っておこうと思っています。特にレコードの再生特性と音を決めるキモとなるパーツですしね。

と言うことで,現在2つプロジェクトが進行中です。


もうひとつ,IVC型EQアンプを作っておこう,と思います。

といって,実を言うと,この10年ほど,教祖様はすっかり教義を変え,いままでずっと完全対称アンプを基本として,電圧伝送方式のアンプを布教されていたのに,電流で信号を伝送するアンプを開発されていて,iruchanはまったくついて行けていません。

まあ,ちょっと歴史的なことを考えると,半導体アンプに限らず,ずっとオーディオの世界では電圧増幅を基本とする設計をしてきました。

でも,真空管やFETと違い,バイポーラTrは電流で電流を制御する素子だし,FETよりTrの方が歴史は長いので,本来,電流を増幅する回路の技術が進められるべきだったと思いますが,今でもほとんどのアンプは電圧増幅が基本です。

これを抜本的に見直し,MCカートリッジの電圧出力をいきなりVICで電流に変換し,以後,SPに至るまで電流を増幅しよう,と言う考え方は画期的なものだと思います。

とはいえ.....

当然のことですけど,回路まで抜本的に変わってしまい,特に最初の頃こそ,昔ながらの2段差動アンプを使ったものでしたけど,つい最近まで,シングルアンプで,しかもEQアンプも含めて無帰還というアンプになってしまっています。

ぱっと見,1960年代の半導体アンプか,と思ってしまうくらい,単純な回路になってしまっていて,差動アンプが半導体アンプの基本になっていたのに,パラパラとシングルのTr増幅器が並ぶ回路はびっくりです。また,EQアンプはNF型がずっと使われていたのに,CR型になっています。

バイポーラTrが誕生して以来,特に日本では半導体アンプは真空管アンプを基本にした考え方で,1970年代くらいまで,各段ごとにカップリングコンデンサが入ったシングルのTr増幅回路が必要なゲインまで入っている,と言うアンプでした。真空管と違うのはところどころでPNPのTrが入って,直結回路になっていたりするくらいで,真空管アンプと変わらない回路構成でした。

ところが,1970年代半ばに初段に差動回路を用い,大量のNFBを用いて広帯域,低ひずみのアンプが実現できるようになり,大きく回路構成が変わります。

とはいえ,差動アンプを用いはじめた頃はオーディオ用FETがまだ実用化してない頃なので,ACアンプで,初段はTrでした。また,2段目はシングルというアンプ構成で,その後にダーリントン接続のコンプリメンタリ出力段,と言う構成ですね。

日本ではそういう時間軸ですけど,海外ではJBLが1964年に発表したSE400でこそ,トランスで位相反転しているくらいで,電圧増幅段はシングルですけど,1966年発表のSA600パワーアンプでは初段がPNP Trによる差動アンプで,2段目はNPN電流帰還付の2段差動アンプになっています。別に2段差動アンプは金田氏の発明じゃありません。さすがはロカンシーと言う感じです。日本のアンプがこんな回路になるのは1970年代も半ばを過ぎてからです。

シングルのアンプはひずみも多く,iruchanが最初に作った半導体パワーアンプはこういうACアンプでしたけど,音が悪く,半導体のアンプは大したことない,なんて生意気にも思っていました。

そんな頃,金田氏が初段にソリトロンの2N3954デュアルFETを用い,2段差動アンプでパワーアンプを構成し,びっくりしたものです。

もとはハイブリッドOPアンプのナショセミLH0032Hをヒントにしたものと言われていますが,OPアンプはやはり2段目も差動アンプでないとダメで,国産の古いFET入力OPアンプはNECのμPC822μPC832など,2段目がシングル,と言うのが多いのですが,iruchanは敬遠しています。海外でもLF353などは2段目がシングルです。

差動アンプ,と言うのは特性のそろったTrが互いに逆相でプッシュプル動作をするので,偶数次のひずみを打ち消し,非常に低ひずみの増幅ができます。

この対称動作を出力段まで広げたのが完全対称アンプで,今まで金田氏の基本的な回路構成でした。

ちょっと,iruchanは完全対称,と言うアンプには疑問を持っていて,出力段の上側素子はコレクタ接地アンプでエミッタに負荷がつながっているのに対し,下段はエミッタ接地になっているのはどうも理解できません。

また,TrにはPNPがあるのが最大のメリットで,真空管のOTLは完全対称アンプ同様,どうしても出力段がアンバランスになってしまうのを純コンプリメンタリ出力にできるのに,このメリットを捨てちゃっているのは納得できないんですよね。

と言う次第で,実はiruchanは完全対称アンプの頃からすでに教祖様の教えについて行けていないんですけど.....。

でも,IVC型EQアンプの回路を見ていて,あまりにシンプルなのに驚くとともに,音もよいらしいので作ってみよう,と思いました。何よりシングル増幅で無帰還,また,CR型イコライザ,と言うのは魅力的です。

回路方式は,初期の頃は差動増幅でNF型イコライザだったのが,いつの頃からかシングル増幅でCR型イコライザになっているなど,かなり変遷しています。

もっとも,また最近は2段差動アンプ+NF型EQという構成に変わってきているようですけどね。

実際,作ってみようと思ったのはNo.251のダブルアーム対応超多機能プリアンプ(MJ '17.2,3月号)のタイトルがついたプリアンプ。

EQアンプを2台搭載し,次段がミキシングアンプとなっているので,音の比較ができる,と言う代物.....。

     "同時にレコードに降ろすとリアルタイムで比較ができる。"

らしいのですが......こんなことやる人いるんでしょうか。そもそもレコードだから同時に同じ溝に針が下りることは滅多にないし,そもそもダブルアームと言っても数cmは離れているので,同じ溝に入ったとしても音がずれてものすごいエコーになるはずで,リアルタイム比較なんてとんでもないという状況だと思いますけど......。

☆半導体

今回,金田氏の回路では2SA9952SC2291という三菱製のデュアルTrが使われています。2SA798と同じパッケージに入っていますが,普通,デュアルTrは2SA798のようにエミッタ共通が普通ですが,2SA9952SC2291はベース共通なので互換性はありません。ちょっと変わったデュアルTrです。

でも,iruchanはこんなのがあることは知っていました。

というのも.....。

知り合いの電器屋さんから,以前,三菱半導体のデータブックをいただいていて,それに載っていたからです。

'93三菱半導体データブックs.jpg トップは2SA798です.

1993年刊行で,三菱電機のオーディオ用半導体が載っていて,非常に助かります[晴れ]

でも,2SA798は載っていますが,2SA726は載っていませんので,すでにこの時点では名石2SA726は製造中止のようです。2SA7982SA726のデュアル版であることはよく知られていますね。でも......金田氏は2SA7982SA726とは音が異なる,と書いておられて,電源では使用してもアンプでは使用していません。

それに......

2SA995 datasheet.jpg ん!?

2SA7982SA995も同じ表現で書かれているのですが,”特性の良く揃ったトランジスタ2個が樹脂封止型の....組み立てられています” って書いてあります。

2SA798は同じチップ上に2個のTrが作られていて,いわゆるワンチップデュアル,と言う構造だと思っていたのですが......これでは人為的に選別して,特性の揃ったものをひとつのパッケージにした,デュアルディスクリートTrですね。2SJ75などと同じです。

これじゃ,高いはずだ,と思ったのですが,'80年代の某通商会社の広告では1個100円です。もはや2SA798は入手は絶望的,2SA995はまだ入手可能ですが,500円以上するので高いです。伊藤博文の千円札持ってタイムマシンで'80年代の秋葉に行きたい.....(^^;)。

2SA995は定電流回路やカレントミラー用で,2SA798と組み合わせた回路が応用回路例のところに載っています。

2SA995の規格表はネット上に出ていますけど,2SC2291は散々探しても出てこないので,PDFを載せておきます。


なお,どちらも意外に入手が難しいので,金田氏は代替として,2SA9702SC2240で代用できる,と書いておられます。

それで,うっかり,2SA970のデュアルが2SA995か? と思っちゃったのですが,2SA9702SC2240はそもそも東芝製だし,互換品じゃありません。

もっとも,今までは "○○じゃないとダメ" という書き方だったのに,金田氏は,

 "耐圧とコレクター損失が同等なら,ほかのTrでも同様に動作するので,いろいろ実験してみるのもよいだろう。"

と書かれていて,iruchanもTrの場合は最大定格さえ守れば,どんなTrでも使用可能と思っているので同感です。

教祖様もずいぶん柔軟な教えをされるようになったものです。

う~~ん,それなら,と言う次第で,iruchanは東芝の石は嫌いなので2SA970/2SC2240は使わないとして,名石2SA726を使おうか,ついでに,カレントミラーの方はNECの名石2SC1400を使おうか,と思ったのですけれど.....。

実はパターンを考えてやめにしました。

ディスクリート2個だと左右対称になって,パターンがもともと面倒なんですけど,ベースを共通配線にする,と言うことだと日本製のTrはたいてい,一番右がベースなので,余計にパターンが面倒です。本当に何で日本製のTO-92のTrはこうなのか,毎回腹が立ちます。海外のFairchildなどのTO-92は真ん中がベースというのが多く,合理的だと思います。

と言う次第であっさり諦め,金田氏の指示通り,三菱のデュアルTrを買いました。

三菱デュアルTr.jpg 三菱製デュアルTr

2SA798だけ印字が薄いです。確か,これはレーザー印字のもので,最近,東芝もこちらに変わりました。樹脂表面に気泡を生じさせて印字します。バーブラウンのOPアンプなんかこの印字法で,薄くて見にくいので嫌いなんですけどね~。白いのはシルク印刷だったはずです。とするとiruchanの持っている2SA798はほかのTrより新しいのだろう,と思います。また,2SA9952SC2291のフォントが違うのがちょっと気になります。国内の店で買ったのでニセ物ではないはずですけど.....。

でも,全部,いわゆる丸脚......銅製リードの証拠です。昔はこういうことにまでこだわったオーディオ用素子があったんだな.....いい時代だな~~~orz。

☆LTspiceによるシミュレーション

さて,次は実際にプリント基板を作る前にシミュレーションで動作を確認してみます。Trは2SA970/2SC2240があったので使います。さすがに初段のソニー2SK43のモデルはないので,2SK117で代用しました。

ところが......。

う~~ん,うまく動きません。1kHzくらいから下はRIAAカーブから大きくずれ,とんでもない特性になっています。

IVC EQ回路(LTspice)''.jpgLTspiceシミュレーション回路

IVC EQ f特(LTspice)original''.jpgLTspiceシミュレーション結果

  ▲のEQ_V_outのf特ですが,なんや,これぇ~~~っ[雨][雨]

200Hzくらいから大きくゲインが過大になり,RIAAカーブからずれていきます。また,▲のグラフは1kHzを0dBとして描いているのでわかりませんが,1kHzのゲインは60dBもあり,これならラインアンプは不要です。MCのEQアンプなら50dBくらいで十分です。ちなみに,先日完成したオールメタルキャンTrのスーパー・ストレート・プリアンプは45dBでした。ラインアンプ出力だと80dBくらいのゲインになるので過大です。

低域の大きなピークとEQ偏差は何かが間違っているのですが,原因がわかりません。

Spiceで動かなかった回路が実際作ってみたらちゃんと動く,と言うことはあり得ないので,ここで一旦ストップ。

1914年9月,破竹の進撃を続けてきたクルック将軍率いるドイツ第1軍団はマルヌ川を越えたところでとうとうフランス・ガリエニ将軍に側面を突かれ,兵站線も延びきって疲弊したドイツ軍はパリを目前にして100マイルも戦線を後退せざるを得なくなり,ドイツ必勝の計画だったシュリーフェンプランは破綻しました.....ってところでせうか。う~~~~ん。

iruchanも原因を探ることにします。

    ☆         ☆          ☆

2021年8月24日追記

実はこのシミュレーションは5月に実施していて,どうにも原因がわからないので放ってありました。

30HzくらいのピークはSAOCのせいで,もっとカットオフを低くすれば直ることはすぐわかります。2SK170のドレイン~ゲート間に入っている0.22μF(C4)が小さすぎ,もっと大きくする必要があります。

ただ,それでもダメで,低域のRIAA偏差がとんでもなく大きいです。

ようやくいつもお世話になっている,kontonさんのWEBでシミュレーション結果が出ていました。

EQ素子のターンオーバー時定数がオリジナルではおかしいようです。

iruchanもそうだと思っていろいろシミュレーションしていましたが,15000pFのコンデンサをいじっていました。kontonさんによれば,パラに入っている560kΩ(R10)をいじらないといけないようです。

iruchanのシミュレーションでは200kΩくらいが適当なようです。220kΩだと偏差が大きいです。

IVC EQ f特(LTspice)200kΩ,1μF.jpg修正後。


R10=200kΩ,C4=1μFとしたときのf特です。次回,基板と電源を作って確認してみます。

また,EQアンプのゲインは大きすぎますし,ラインアンプ自体にもSAOCが必要,と言う話もあり,ラインアンプは不要で,そのままミクシングアンプに接続してもよさそうです。

つづきはこちらへ......。

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