金田式DCアンプ用Spiceモデルの作成 [電子工作]
2020年8月24日の日記
電子回路シミュレータはとても長い歴史があり,今は無料で使えるLTspiceを使っておられる方が多いと思います。
iruchanも鉄道模型用コントローラやアンプ設計など,基本的な回路設計はLTspiceを使うことが多くなりました。
ただ,やはりたくさんの問題が.....。
シミュレーションと実際の回路の動作はどうしても違いますし,思ったように動作しないのはもちろんです。
まあ,実際作ってみると,理想状態であるシミュレーションに近い動作をすることも多いし,逆に,Spiceで動かない回路が実際に作ってみると動く,なんてことはないので,まずは設計が正しいかどうか,確認するのに使うのは非常に便利なツールだと思います。また,最近はiruchanはうまく動作しない原因を探るのに使ったりしています。マニアの皆さんには,MJの回路図の誤記を調べるのに使ったりしておられる方もいらっしゃるようです.....。なんか,本末転倒という気もするんですが,編集部が悪いんですよね~。iruchanも金田氏のWE真空管DCプリのレギュレータで誤記を見つけました。
ちょっと脱線しちゃいましたけど,LTspiceでなにより,一番困るのは必要とする部品のモデルがないことですね~。
以前,ゲルマニウムTrのSpiceモデルを作成しました。ゲルマニウムTrのspiceモデルなんて,マニアが作らない限り,世の中に存在しません。
それに,何より国産の半導体のモデルなんてほとんどありません。
1980年代にはそれこそ,世界を支配したと言っていいくらい,日本製の半導体は幅を利かせていたんですけどね.....。
LTspiceをインストールすると,デフォルトでstandard.bjtというファイルがあり,そこにバイポーラTrのモデルが入っています。ホルダは,デフォルトだと,マイドキュメントの中にあります。
C:¥Users¥(ユーザー名)¥Documents¥LTspiceXVII¥lib¥cmp
残念ながら,入っているものは2NやBCなどの頭文字がついた欧米系のものばかりです。ごくわずかに2SAなどの頭文字のついたものもありますけど.....。
基本的に,LTspiceでトランジスタをシミュレーションするなら,デフォルトのPNPやNPNのTrモデルがありますので,デフォルトのままで十分だと思います。
でも,アナログ回路だとそうはいきませんよね.....。単なるスイッチとして使っている回路ならともかく,活性領域で使うアナログ回路じゃ,そういうわけにはいきません。実際,世の中のTrの99.99....%は単なるスイッチとして使われているんでしょうけど.....。
ということで,前回,ゲルマニウムTrのモデルを作りましたが,改めて今回はシリコンTrのモデルを作りたいと思います。
国産のバイポーラTrについては,会員制ですけど,トランジスタ技術の姉妹誌だったエレキジャックのWEBに国産Trのモデルが出ています。iruchanも,以前,ダウンロードして使っています。▲のstandard.bjtに書き加えるだけですので,簡単です。
ただ,残念ながら,国産Trといっても東芝だけです。ほかに,トランジスタ技術の付録のCD-ROMに国産Trのモデルがついていた号があったと思います(何号だったか思い出せません....どうもすみません)。
でも,その付録のモデルだって,ほとんどが東芝だし,松下となぜかROHMのモデルがあるだけで,あまり当てになりません。オーディオじゃ,これらの会社のTrは使いませんよね~。
さいわい,接合型FETは国内じゃ,ほとんど東芝なので,エレキジャックのWEBにあるFETで用は足ります。2SK30もあるのでラッキーです。
iruchanはこれらを先ほどのstandard.bjtにコピーしたので,2SC1815や2SA1015などのモデルを使ってシミュレーションできます。オーディオ用も,かろうじて2SA872と2SB716があったので使うことができます。
ところが,2SA606や2SC959などのいわゆる金田石はモデルがありません。せめて,このTrくらいあれば,いろいろできるんですけどね......。
ということで,今日はこれらの金田式DCアンプで使われているTrのモデルを作りたいと思います。
☆ ☆ ☆
まずは準備から.....。
最低限,VCE-IC特性の図が必要です。真空管ではEB-IP特性ですよね。これがなきゃ,モデルの作成はおろか,作ったモデルが正しいかどうか,検証できません。
最初に,TrのVCE-IC特性はこんな感じです。
一番左側に飽和領域があり,アナログ回路ではここは使いません。ICが平行になっている,活性領域で使うのがアナログ回路です。MOS-FETの場合はここを飽和領域と言いますし,今度はTrの飽和領域を線形領域と言ったり,挙げ句の果て,非飽和領域などと言ったりしますから,非常にややこしいです。
一番右は降伏領域で,ここも使ってはいけません。Trが壊れます。もっとも,それ以前にPcの制限……がありますけどね。シリコンTrになってからは丈夫になったので,ゲルマニウムはともかく,シリコンではごく初期のTrを除いて,この領域はほとんど記載されていません。
LTspiceの各パラメータがどのように影響するか,簡単に書いておきました。
この特性図がないと,モデルは作れません。例えば,活性領域の平行になっている部分の傾きはアーリー電圧VAFで決まります。
と言う次第なので,CQ出版の "トランジスタ規格表" のような,表だけの規格表じゃ,モデルは作れません。それだけで作れれば簡単でいいんですけどね.....。
といって,実は,2SA606や2SC959の特性図は入手難です。
iruchanも散々探したのですが.....。
金田氏の "最新オーディオDCアンプ" (1978)に規格は載っているのですが,残念ながら,特性図は載っていません.....orz。
三菱の2SA726は載っているんですけどね......。
しかたないので,やはりNECの半導体データブックを探すよりほかありません。
NECは毎年,"エレクトロニクス・データ・ブック" というのを発行していて,iruchanも'64~65年度版を持っているんですが,さすがに古すぎてゲルマニウムばかりです。
シリコンTrは1960年頃の開発ですが,日本では本格的に量産がはじまるのは70年代に入る頃のようです。2SA606や2SC959も1971年頃の開発のようです。
ということで,1970年代以降のNECデータブックを探せばある,と思いました。
ようやく,1977年版を見つけたので,特性図をスキャンしました。
あのぉ~~,縦軸の単位が違うんですけど.....。
エミッタ-コレクタ電圧対コレクタ電流特性
これはさすがにたいていのTrの規格表にはこの特性が載っています。でも,2SA606/C959の場合はこれすら探すのが大変でした.....。
どうも通信用の○にSのマークのついた2SA606/C959もありますが,通信というのは国家が管理していて,放送は民間にも開放されている,というのはどこの国も同じで,法や規制はこの考え方で決められています。日本でTVのネット配信が遅れているのはこういう事情もあります。ネットは昔は電話線でやっていたから,通信の範疇なんですね。
どこの国も,通信=電話という時代が長くて,日本では逓信省⇒電電公社だったので,通信用というと主として,電電公社用というのが実際なんですけど,2SA606/C959の特性図はひょっとして国家機密だったのか.....。
ちなみに通信用じゃない普通の真空管は受信管といいますが,半導体の場合は受信用半導体なんて,言い方はありませんね.....。
ベース-エミッタ間電圧対コレクタ電流特性です。
こちらもspiceモデルを作るのに必要なのですが,こちらは2SA606/C959にかぎらず,あまり載っていません。
☆モデルの作成
モデルについては,前回,ゲルマニウムTrの時に書きましたが,次のパラメータが必要です。
BF 順方向DC特性。いわゆるhFEのことですが,実際のLTspiceのモデルには規格表に載っている値の倍から3倍くらいの数値を与えないといけないことが多いようです。
VAF アーリー電圧。飽和領域のICを決めます。デフォルトは∞です。VCE-IC特性でいうと,活性領域(ICが水平となる部分)の傾きを決めます。最近のシリコンTrはこの部分がかなり水平ですから,この数値はデフォルトのままでもよいと思います。
そのほか,
RC コレクタ直列抵抗。飽和領域(ICの立ち上がり部分。VCE-IC特性の縦軸IC=0付近の領域です。)の特性を決めます。デフォルトは0なんですが,飽和電圧の大きい古いTrだと結構重要です。一応,▲の2つの特性図から,VCE(sat)/IBで計算しますが,試行錯誤して決めます。最近のTrだと無視してもよいくらいです。
RB ベース直列抵抗。デフォルトの10ΩでOKです。
ということなんですが,やってみるとBFとVAF,RCのみでほぼVCE-IC特性は決まってしまうようです。面倒ならVAF以下はデフォルトのままでもよく,結局,必要なのはBFだけ,ということになっちゃうんですけど......。本当は温度特性などのパラメータも決められれば,温度補償の計算もできるのですけどね。一応,ISは温度に依存しますので,温度も計算に入れておきました。
以上で,直流的な特性は決められますが,スイッチング回路など,過渡特性を見るだけならともかく,オーディオではf特を見ないといけないので,次の電極間容量は極めて重要です。
CJC 0バイアス時のCB-C。CJC=1.2~2.4×Cob
CJE 0バイアス時ののCB-E。CJE=1.5~2.0×CJC
TF 順方向通過時間 TF=1/2πfT
なお,物性値として,
EG バンドギャップ電圧。シリコンTrは1.11(eV),ゲルマニウムTrは0.67(eV)という定数です。
を入力します。
このセルに規格表の数値などを入れて各パラメータを計算します。別途,LTspiceのシミュレーション結果をグラフ化するマクロも作ってあります。ボタン1発でグラフを表示して検証できます。
☆特性を求めるspiceシミュレーション
以上で,各パラメータを決めたら,LTspiceでシミュレーションします。
適当にエミッタ接地回路をシミュレーションし,パラメータとしてIBとVCEを変化させてICをプロットしてみます。
回路はこんなのです。問題はスイープで,NPNのときはどちらも0から増やしていけばよいですが,PNPの時は厄介で,0から減らすんじゃなく,-の方から増やすように設定しないと,あとでグラフデータを読み込むときにX軸用のデータがIBになっちゃうので要注意です。LTspiceの結果を見ているだけじゃ,わかんないんですけどね。
こんな回路でシミュレーションします。これのコレクタ電流をグラフ化します。
本当はTrのモデルはさっきのstandard.bjtファイルに書き込んで使うのですが,このように回路図中にモデルを記述しておいてもシミュレーションできますし,仮にstandard.bjtファイル中に同じTrがあっても,こちらが優先されますので試行錯誤するのに便利です。
さて,これでVCE-IC特性が求められるわけですが,これをiruchanはExcelのVBAマクロを使ってExcel上にボタン一発で表示できるようにしました。これ,結構面倒なんですよね~~~。そもそもLTspiceのグラフ出力データがCSV形式じゃなく,tabがデリミタになっているし,IBの各ステップごとにラベルが出てきて,マクロで読むのに苦労します。
でも,これをやっておくと,上記のパラメータを変化させながら,特性の変化を見ることができます。
何度もシミュレーションを繰り返して各パラメータを決めていきます。
☆2SA606,2SC959のLTspiceモデル
LTspiceでのシミュレーション結果
━━ や ━━が規格表の値で,‥‥や‥‥はLTspiceによるシミュレーション結果です。
ICの大きな領域で乖離していますけど,小電流領域では割に合っているでしょ
まさか,2SA606や2SC959でIC=50mAなんて動作をさせる人はいないと思いますので,小電流領域だけ合っていれば十分ではないかと思います。
求めたパラメータとLTspiceのモデルは下記の通りです。各パラメータは ","で,区切りますが,スペースでもOKです。
.model 2SA606 PNP (IS=9.39370961721484E-15, BF=80, EG=1.11, VAF=255, RB=10, RC=1, TF=3.18309886183791E-09, CJC=90pF, CJE=105pF, MFG=NEC)
.model 2SC959 NPN (IS=3.54129817885565E-16, BF=70, EG=1.11, VAF=255, RB=10, RC=1, TF=3.18309886183791E-09, CJC=90pF, CJE=105pF, MFG=NEC)
コンプリのTrなんですから,どちらか1個のモデルを作っておいて,PNPかNPNかを変えればOK,ということもあり得るんですが,意外にコンプリメンタリーと言ってもPNPとNPNじゃ,特性が違うことが多いので,今回,iruchanはまじめに別々に求めました。
そもそもキャリアがPNPとNPNじゃ,違うわけで,当然,質量が大きく違うので,高周波特性は異なるはずなんですが,NECの規格表は2SA606も2SC959もfTは同じ値になっています。これってなんかおかしくない?,っていう気がするのですが.....。これらのTrは官需が主だったようなので大本営発表とちゃうか.....,という気がするんですけど.....。といって,自分でfTを測ってみる,なんて気はしません。
NPNの方がキャリアが電子で軽いため,高周波特性が優れているのが普通で,こちらで書いたように,普通はNPNの方がfTが高いです。
一番ゲインが高く,音も決めてしまうので低ひずみで広帯域が要求される2段目の差動アンプに,初段用のJ-FETがNチャンネルしかないことからPNPを使わざるを得ない,というのがDCアンプに限らず,オーディオアンプの悲劇なんですが......。金田氏も書いていますけど,初段に2N5465を使って,2段目にソニーの2SC1124をつかったパワーアンプなんて作ったらよさそう,という気がします。
☆2SB716,2SD756のLTspiceモデル
次に日立のオーディオ用Trのモデルを作ってみます。2SA872/C1775のコンプリTrのモデルはトラ技の付録についていましたが,こちらはありませんでしたので作ってみます。iruchanも定電流回路などに2SD756が多用されているのですが,spiceモデルがないので困っていました。
カラーがLTspiceモデルでのシミュレーション結果です。●や●は規格表から読み取った値です。
モデルは次の通りです。
.model 2SB716 PNP (IS=4E-14, BF=420, EG=1.11, VAF=65, RB=50, RC=100, TF=1.06103295394597E-09, CJC=3.24pF, CJE=3.78pF, MFG=Hitachi)
.model 2SD756 NPN (IS=3.97281491040095E-14, BF=680, EG=1.11, VAF=90, RB=10, RC=470, TF=4.54728408833987E-10, CJC=2.88pF, CJE=3.36pF, MFG=Hitachi)
普通,RCは1Ω程度なんですが,これくらいの値にしないと飽和領域の立ち上がりが表現できませんでした。
それに,コンプリと言っても,▲の規格表の特性図を見ても,かなりずれていますね。
ちなみに,トラ技の付録に2SB716のモデルが載っています。同じようにLTspiceでVCE-IC特性を描いてみると.....
iruchanモデルの方がよく合っていますね......(^^;)。
☆2SA726のLTspiceモデル
三菱の名石2SA726のLTspiceモデルを作りました。金田氏は "特有の色がつくが,音楽的に最も優れたTr" と評していますね.....。
特性図は "最新オーディオDCアンプ" に載っています。iruchanは三菱の小信号用トランジスタの規格表を持っているので,またコピってきます。
でも,これ,LTspiceモデルを作るのは大変でした.....汗。
困ったのは,金田氏の本に小電圧領域の図が載っていて,これにあわせればいいや....と思ったのですが,どうしても合いません。
確かに,Trは大電流域と小電流域で特性が異なり,そのため,2つ,特性図を載せている親切な会社もあるのですが....。
どうしても小電流域でLTspiceのモデルを作ると,BFが25くらいの数値になってしまい,2SA726は高hFEのTrなのでおかしいです。
また,2SA726は,真空管でもよくありますけど,各特性曲線の間隔が上に行くほど詰まってきてしまっています。
真空管の場合だとこれは0バイアス付近で,グリッドエミッションの影響です。Trの場合は何でだったか,思い出せないのですが....。
どちらにしろ,この特性は正弦波のピーク値を抑える作用をしますから,偶数次のひずみを発生して,好ましくないのですが,真空管も半導体も避けられません。武末数馬氏の "パワー・アンプの設計と製作" にも,ロードラインを引いて最大出力電圧を求める際に,Eg=0Vの線との交点ではなく,Eg=ー1Vの線との交点で求める,と書いてあります。
この場合のLTspiceモデルはIKFを変更してモデル化します。普通は無視してもいいパラメータだと思います。
IKFは順方向高電流のパラメータで,高電流領域でhFEが低下するのをシミュレーションします。
何度もシミュレーションしてみて,IKF=60mAで決定しました。
.model 2SA726 PNP (IS=2.78097043728067E-14, IKF=60e-3, BF=470, EG=1.11, VAF=30, NF=1, RB=10, RC=20, TF=1.59154943091895E-09, CJC=5.4pF, CJE=6.3pF, MFG=Mitsubishi)
いかがでしょう? 割にIBが大きな領域でも合っているでしょ。
ところで,2SA726のコンプリはなかったんでしょうか? デュアルは2SA798なのはよく知られていますし,それのコンプリは2SC1583なんですが,シングルのがわかりません。たいてい,コンプリのTrはPNPが先に亡くなっちゃって,NPNが後家さんで残っちゃうのですけど.....。2SC1161なんかそうですよね.....。上記のNECデータブックでも,2SC1161は保守品種(新規採用を控える。製造はまだしているか,在庫がある)なのに対し,2SA653は廃品種(製造中止)に指定されています。
そのせいで,2SA653/C1161の特性図は未発見です。LTspice用のモデルはまだ作れていません。
逆に,NPNの方が需要が大きいので,製造中止前にたくさん作っておいてもPNPが残っちゃうパターンもあるのでしょうか。2SC959はほとんど入手不能なのに,2SA606がまだ入手可能,というのはこちらでしょうか。
金田氏も2SA726のペアはメーカが違うのに2SC1400を選んでおられましたが,そもそも,2SA726は後家さんだったのじゃなくて,もともと独身だったのか.....。
☆2SC1400のLTspiceモデル
2SA726の旦那さん? がこの人(Tr?)でした。残念ながら,岩崎家(三菱)の人じゃなく,住友家(NEC)の人でしたけど.....。
結局,2SA726が早々に市場から消え,2SC1400も後を追うように市場から消えると,日立の2SA872/2SC1775が後釜になるんですけどね.....。
LTspiceモデルは下記の通りです。
.model 2SC1400 NPN (IS=7.94562982080191E-14, IKF=0.012, BF=60.1, EG=1.11, VAF=128.5, NF=1, RB=10, RC=2, TF=1.59154943091895E-09, CJC=4.62000000079578pF, CJE=2.31000000159155pF, MFG=NEC)
☆2SA566のLTspiceモデル
レギュレータ用の名石,日立の2SA566のモデルです。残念ながら,コンプリの2SC680は出番がなく,継子扱いされています。iruchanもとうに会社じゃ,いらない子ですし,同じ立場の2SC680も使ってあげたいのですが......。
そもそもレギュレータ用ではそれほど,LTspiceのモデルを作っておいても意味はないのですけど....。
でも,一応,リップルフィルタなどでiruchanは使っているので,出力電圧を求める際に必要ですので作っておきます。
モデルは下記の通りです。
.model 2SA566 PNP (IS=1.87688803479349E-16, IKF=0.8, BF=77.7, EG=1.11, VAF=150, NF=1, RB=10, RC=7, TF=1.59154943091895E-09, CJC=45pF, CJE=52.5pF, MFG=Hitachi)
☆2SA640のLTspiceモデル
NECのオーディオ用ローノイズTrです。コンプリは2SC1222ですが,’77年版のデータブックにはその記述がありません。CQ出版の "トランジスタ規格表" には書いてあります。なんとも不思議.....。
金田氏は2段目の差動アンプに,無線と実験 '73.8, 9月掲載の第1号プリでは,東芝の2SA493GRを使っていて,'74.1月号には2SA640が使用されています。3号機は初段のFETが代わっただけで,引き続き2段目は2SA640です。今,iruchanはその2号機を作っています。
ただ,これは三菱の2SA726が出てくるまでの話で,2SA726が登場するとすぐに2SA640は離縁され,実家に泣く泣く出戻ってきます......。
ちなみに,第1号プリは初段が2SK30,出力が2SC1000のエミッタフォロアーとオール東芝構成です。以後,J-FET以外はNECという歴史がずっと続いていくわけですが,金田氏は東芝製のTrがお嫌いだった.....?。
iruchanは2SA640は最初に作ったA級パワーアンプの初段がこれで,少しなじみがあります。でも,初段がバイポーラであることからわかるとおり,ACアンプで,金田氏の設計でもないし,音もいまいちで,大学生になる頃に解体してしまいました。
それに,半導体のA級アンプって,やっぱダメ,という気がします。どうにも眠い音がしました。半導体はおそらく,熱を持つと音的にもダメなのではないかと思っています。
ACアンプだったためか,2SA640は熱結合していなくて,大丈夫か,と思いましたが,メーカ製のDCアンプは初段以外は熱結合してないことも普通で,問題ないのかもしれません。
2SA640の方がよっぽど2SA726よりきれいな特性なんですけど......。
.model 2SA640 PNP (IS=4.76737789248114E-14, IKF=12m, BF=822, EG=1.11, VAF=59, NF=1, RB=10, RC=3.4114707552527E-03, TF=1.59154943091895E-09, CJC=11.7pF, CJE=13.65pF, MFG=NEC)
☆ ☆ ☆
さて,こうやって金田式DCアンプの半導体のLTspiceモデルを作ってみました。今後,ここで追加していきたいと思います。
なお,誠に申し訳ありませんが,あくまでも個人的な非科学的シミュレーションですので,ご利用になる場合はあくまでも自己責任でお願いします。不都合な点があっても,責任は負いかねますので,ご了承ください。
メタルキャントランジスタを使ったスーパー・ストレートDCプリアンプの製作~その4・調整編~ [オーディオ]
2020年8月13日の日記
前回,電源部のテストをしました。秋月で売っている中国製の欠陥LEDのせいで1日棒に振ったり,やはりトラブル続出でした.....orz。
さて,今日からEQアンプとフラットアンプの2つの基板に電気を通して試験していきます。
EQ素子には双信のSEコンをおごっています。カップリングは旧ソ連軍用の0.4μFのスチコンです。大きいですが,基板にも載ります。オリジナルはSE33000pFです。これより大分小さいのですが,お値段は10倍以上......。
今回使ったのはスチコンなので音はよいですし,なによりスチコンでこんな大容量のものはない,と思います。初段はソニーの2SK97です。懐かし~~~。2SC959は表面に2SC959と書かれた旧ロット品です。1973年の製造と思われます。もう半世紀近く前なのか......。2SA606はA606と書かれていて,新ロットで,1978年製造のようです。
こちらは初段はソリトロンの2N3954です。電源のパスコンは双信のV2Aじゃなくて,シーメンスのMKHにしちゃってます。V2Aはでかくてまいっちゃいます......(^^;)。
トロイダルトランスを採用したり,電源のフィルタコンデンサの高さを抑えたので1Uのケースに収まりました。
もちろん,配線ミスがないか,しっかりチェックします。特に,部品をはんだづけした際に,隣のパターンと接触していたりするので,テスターでよくチェックしておきます。特に,+Vccと-VccがGNDと導通していないかはまずチェックします。
と.....やはり何カ所か,パターンが接触していました。おまけにフラットアンプの-VccがGNDにショートしています。絶対やっちゃいけないのに.....!!
やべ~~~~。
何でか,と思ったら基板をケースに取りつけるスペーサの金属製の埋め込みねじがショートしていました....。
ここまでチェックしたら,電源を入れます。
EQアンプの方は無事に動作完了。
すぐに,トータル電流もチェックしておきます。
前回,レギュレータの制御Trに,エミッタ抵抗として1Ωを追加しました。この両端の電圧を測定すればトータル電流がチェックできます。今回の金田式スーパー・ストレートプリアンプはトータル電流(EQアンプ+フラットアンプ)は45mAくらいのようです。調整中はここまでの間に収まっていることを常に確認します。特に,オリジナルの回路の場合はレギュレータに保護回路は入っていないので,過電流が流れると貴重な2SA566や2SC1161を飛ばしちゃうので,ご注意ください。iruchanは100mAのポリスイッチを入れて保護しています。
オフセット調整用の200Ωの半固定を回してみて,オフセット電圧が変化するようなら成功です。
ただ,それにしても金田氏も書いていますけどEQアンプのオフセット調整はすごくシビア。
±8Vくらいまでのオフセットが出ますが,なかなか0V付近に止められません。-2Vくらいからすぐに+2Vへ飛んじゃいます。3回転タイプのコパルのTM-7Pを使っていてもこんな調子なので,非常にシビアです。なんとか50mV以内に収めて調整終了です。
ついでにテストオシレータから正弦波を入力してオシロで見てみるときれいな正弦波が観測されますし,周波数を変えると振幅がきれいに変化するので,うまくいったようです。
さて,次はフラットアンプ。こちらの方が簡単なはずなんですけど.....。
EQアンプは低周波で50dBくらいのハイゲインなのでオフセット調整が厄介ですが,フラットアンプは今回,iruchanは20dB固定で作ったので,簡単なはずです。
でも,どうしても-8Vくらいに貼り付いてしまい,動きません。
こういうときはやばいです。すぐに電源を切って,パターンをチェックします。
案の定,パターンに1カ所ミスがあり,2段目の2SA606の差動アンプの共通エミッタ抵抗47ΩがGNDにつながっていました......orz。
すぐ隣にGNDのパターンがあるので間違えちゃったようです。
気を取り直して抵抗の配線を直して再びスイッチon!
今度はオフセットが変化します......。
でも,-4.5V~-2Vくらい,といったところで0Vになりません。
困ったな~~~。
これ,結構遭遇するトラブルですよね~~。初段の2N3954のバランスが悪く,オフセットとなってしまっています。
金田氏は音の悪い半固定をやめて,ドレインの抵抗を調整することで対処しておられます。ドレイン抵抗3.9kΩにどちらかに直列に500Ωの半固定を入れてオフセットを0にし,その後,その半固定に応じた固定抵抗と入れ替える,という手段なのですが,やってみると非常に面倒なので,iruchanは横着して通常のオフセット調整として,共通ソース抵抗を可変するやり方です。
いつの頃かわかりませんが,金田氏はこの方法はやめちゃっています。
今回,この半固定抵抗の調整範囲を超えちゃっていますので,この半固定抵抗を取り替えます。EQアンプだと200Ωどころか,50Ωでも十分調整範囲だったようなのですが......さすがはソニーの2SK97と思っちゃいましたが,ソリトロンの2N3954は200Ωじゃ,ダメなようです。
しかたないので,1kΩに交換してやってみますが,それでもダメ。オフセットは最小でも-1V台になっちゃいます。決してプラスにはなりません。
さらにしかたないので,オフセットが最小の時に,半固定抵抗のスライダーは0Ω位置になっていますが,その反対側に固定抵抗を入れてみます。
ようやく2kΩを追加したらオフセットが0になりましたけど......これじゃダメです。
共通ソース抵抗は電流帰還抵抗となりますので,この場合,反転入力(NFB側)のソースに3kΩもの抵抗がつながっていることになりますから,初段のゲインはほとんど0dBになっちゃいます。
まあ,DCアンプに限らず,初段の差動アンプはゲインが取れませんし,特にDCアンプの場合は初段がFETですから,余計にゲインが取れません。特にローμのNutubeなんて使った日にゃ,減衰器になっちゃっうくらいで,実際にはアンプと言うより,インピーダンス変換器として動作しているようなものですけど....。
ようやくここまで来てiruchanは何かおかしい,と気づきました。今ごろかよ,アホちゃうか.....。
実を言いますと,金田氏の原設計では初段はFD1840です。ここをiruchanは2N3954を使っています。
ご存じのとおり,FD1840は2N3954の選別品で,2N3954とは同特性です。時代的にも2N3954が先に出ていて,iruchanはFD1840は漏れ電流の選別品だ,と思っていました。
ただ,どうやらそうではないらしく,2N3954のIDSSが1mAくらいのものの選別品のようです。
う~~ん,とすると,iruchanが使用している2N3954はIDSSが大きいのでは,と思いました。
規格表を見ると,2N3954のIDSSは0.5~5mAの間のようです。ただ,残念ながら,国産の2SK30や2SK43などの接合型FETはIDSSによりランク付けされていて,ユーザは使用するIDSSのものをチョイスできますが,どうも2N3954は規格表を見てもそんなことは書いていないし,ユーザが選別するもののようです。しかし,選別すると言っても,iruchanが中坊の頃でも1個,3,000円くらいしたと思いますから,選別なんて無理で,回路で調整するしかありません。でも,それじゃさすがに不便だろうから,というので低IDSSのものを選別してFD1840として売っていたようです。
金田氏も最初は2N3954を使っていたのに,あとからFD1840に変わっています。やはり低IDSSのものの方が使いやすいようです。
iruchanは20年ほど前,海外からソリトロンの2N3954をまとめ買いしたのですが,さすがにランクに分かれていませんでしたし,今回,測定してから使用するべきでした。ただ,当時でもFD1840は入手難で,今ではオクの世話にならない限り,入手は無理だと思います。
もっとも,2N3954自体,2SK30で代用できることはよく知られていますし,今回,低IDSSのもの,ということならOランクがぴったりで,IDSS=0.6~1.40mAですから,2SK30A-Oで代用しようか,とも思ったのですけれど......やめました。2SK30はモールドですからね....。手持ちがある限り,2N3954を使おうと思います。
余談ですけど,2SK30は一番IDSSが小さいもの(0.3~0.75mA)がRランクとして売られているはずですが,見たことがありません。
今回,測定し忘れたので,おそらく,規格表から考えてみても,使用している2N3954のIDSSは大きいのだろう,と思いました。
ちなみに,第2回でSpiceでシミュレーションをしていますが,LT社のモデルに2N3954があるので,IDSSを調べてみると,3.8mAのようです。
ということは,初段の差動アンプの動作点はID=1/2 IDSSに選ぶのがよいわけですから,もっとドレイン電流を増やしてやればよいのでは,と思いました。金田氏の原設計ではID=0.23mAのようです。FD1840のIDSSは1mAくらいのようですから,適切な値でしょう。
ところが......。
定電流回路の2SC1775Aのエミッタ抵抗RE(10kΩ)を2.7kΩに小さくして,ID=1.2mAくらいを狙ったのですが.....。
見事に撃沈.......orz。
オフセットは-8.5Vくらいで,しかも半固定VRを回してもびくともしません。-Vccに貼り付いちゃっているんですね.....。
これは,逆だったようです。おそらく,使用した2N3954はIDSSが小さく,もっとドレイン電流を小さくしないとダメなようです。
しかたないので,RE=24kΩにしたらようやくオフセットが+にまで変化し,0Vにすることができました。やれやれ.....。
実測してみると,ID=0.1mAくらいです。小さすぎて不安になっちゃいますが,問題ないようです。ただ,少し半固定VRのスライダーの位置が偏っている感じなので,最終的に18kΩとしました。
部品箱を探したら○にスと書いた,古い抵抗が出てきました。RE55の前身のようです。RE55より少し厚みがあります。一番右はニッコーム。音の点では進の方がよい,と言うことになっていますね。でも,こちらもとうに製造中止。昔はよかったな~~~~orz。
そういえば,初段の定電流回路の設定値によりオフセットが変わるのはWEの真空管式DCプリで経験済みでしたけど,差動アンプの共通ソースに定電流回路を挿入した場合,どうして左右の差動アンプの出力が変化するのか....ちょっとわかりません。
☆ ☆ ☆
ようやくオフセットが0Vになったので,ここまで来たらf特を調べてみます。
まずはフラットアンプから.....。
と思ったのですが,1kHzの正弦波を流してみると,どうにも輝線が太い.....。
どうやら超高域で発振しちゃっているようです。
拡大してみると.....,
ピークの数を数えると,だいたい,200kHz付近で発振しているようです。
2段目の差動アンプに3pFと5pFの位相補正用のコンデンサがついていますが,EQアンプはそれぞれ5pFと10pFなので,ちょっとやばいのでは......と思っていたので,予想どおりでした。
結局,2個の位相補正コンデンサのうち,5pFを10pFにしたら発振が止まりました。ついでに,10kHzの方形波応答を見ておきます。
金田氏に限らず,半導体アンプじゃ,こういうことはやらないみたいですけどね。
オーバーシュートとリンギングが少し残っていますが,3波ほどなのでOKとしましたけど.....。やはりあとでf特を見て修正となりました。いつも,真空管のパワーアンプだと肩が丸くなってしまって,オーバーシュートなんてしないのが普通ですけど,Trアンプはやはり優秀ですね。
Spiceのシミュレーション結果 ━ ……と結構一致しているので驚いちゃいます。ただ,10kHz以上は眉唾もので,iruchanが使用している低周波発振器がお粗末で,かなりノイズが乗っちゃっているので,本当にこうなのか,ちょっと疑問です。ただ,Spiceのシミュレーションにも出ていますが,10kHz以上では金田氏の設計は超高域の帰還量増大を警戒して,EQ素子の1500pFに直列に3.6kΩが入っているせいで偏差が大きくなります。撤去するかどうか,悩むんですけどね.....。
一度,高級な発振器を使って確認したいと思います。
概ね,20Hz~10kHzの間で,±0.5dBに収まっています。
ちょっとこちらは問題。なぜか200kHzにピークが来ちゃっています。▲でも書きましたけど,位相補正用に,2段目の差動アンプに5pFの位相補正コンデンサが入っていますが,少し増量して20pFにしてもこんな結果です。
さすがに4dBのピークはまずいよな,という感じなのですが,30pFにしてもピークは変わらなかったので,問題は2段目ではなく,初段に位相補正をしないといけないようです。一番簡単に直すには,帰還抵抗(18kΩ)にパラに47pFのマイカを接続してやればいいのですけどね。でも,それは真空管アンプではよくやる方法ですけど,半導体ではやりませんね。なんでだか,iruchanも素人なのでわかりません。
また,トータルゲインも20dBを狙いましたが,チャンネル間で1.6dBほど差があります。VRのギャングエラーのように思います。
と言う次第で,もう少し,調整が必要なようです。
続きはこちらへ.....。
メタルキャントランジスタを使ったスーパー・ストレートDCプリアンプの製作~その3・電源編~ [オーディオ]
2020年8月3日の日記
前回から3ヶ月が経ちました。その間,モノラルレコード用のEQアンプを作っていましたが,無事に完成し,ただいまテスト中です。もちろん,こちらの方はステレオLP専用なので,イコライザカーブはRIAAのみですけどね.....。モノラルLP用金田式EQアンプ,というのも面白いかもしれません......(^^;)。
さて,前回は基板製作まででしたが,今回はケースを加工して電源のテストをします。
ケースは,実は,昔から本機を作るときは1Uのケースにしよう,と思っていました。
EIAの規格で標準のケースがあり,高さを1 3/4インチ(44.45mm)の倍数で表します。幅は19インチ(482.5mm)ということで決まっています。日本では幅が広すぎで邪魔,ということでステレオのアンプはだいたい430mmくらいのものが多いです。
また,これらはプロ用のオーディオ機器でよく採用されたサイズで,今は使われていないのでは,と思ったらラック型サーバーや業務用のスイッチングハブがこの規格ですね。うっかりしていました。今でもたくさん使用されているわけですね。
ということですけど,今回のアンプは1Uなので,一番薄いケースなんですけど......。
昔,中坊の頃買った,初歩のラジオ別冊の "ステレオ・アンプ製作集" という本にDCプリアンプの記事が載っていて,筆者はもちろん金田氏じゃないのですが,同様の2段差動アンプで,使っていたケースが1Uでとてもかっこよく,憧れました。
それにしても,初歩のラジオの別冊,ということなので対象は中学生以降のはずですけど,自分でプリント基板を作ったりできるよう,感光基板用パターンもついていたり,実体配線図やイラストで作り方が説明してあったり,昔はいい本がたくさんありました。でも,UV-211Aシングルアンプなんてのが載っていたりして,とても中学生で作れるレベルじゃないんですけど......。
でも,結局その本の回路では製作せず,結局,このスーパー・ストレートプリアンプになっちゃったんですけどね.....。
ケースはEIA規格の1Uケースと言うことだとタカチのERH44-16Sがあるのですが,やめました。
何より,タカチのケースだとアルミ押出形材仕様なので,皆さん,すでに体験済だと思いますけど,よほど事前にCADなんかでしっかり検討したりしておかないと,いらないところに型材の出っ張りがあって,部品が取りつけられない,ということで泣かされますのでパス! それと,今回は1Uということで内寸が厳しいんですよね.....。タカチのケースだと,高さ32mm(内寸)しかありません。
ということで,今回は奥澤のRE-1U-15を使いました。従来のプレス加工タイプのケースなので,内寸は少し余裕があり,38mmです。この6mmの差は大きいです。特に,電源の平滑用電解コンとEQアンプの出力のカップリングコンが最大の問題になりそうですから,少しでも内寸が大きい方がいいです。おまけにお値段はタカチの半分以下なので助かります。
一応,電源はこの前のEQアンプでも使ったルビコンの小型の3,300μF,35Vを使いますし,カップリングは旧ソ連軍用のスチコンを使う予定なのですが,なんとか収まりそうです。タカチのだと無理です。
金田氏は平滑コンは日ケミのCEW 4,700μFが指定部品なんですが,さすがにでかすぎてこれは収まりません。それに,このようなラグ端子型ブロック電解コンデンサはとうに製造中止です......orz。
ということで,CADで図面を描いて,それから加工しました。
☆ ☆ ☆
さすがに1Uということで裏のRCAピンプラグはベーク板に固定されたタイプは使用できず,千石で買った,クロームメッキ品にしました。金メッキ品は中国製ばかりなんですけど,クロームメッキのものは日本製でした。クロームメッキと言ってもきれいなメッキがされていますし,何より安心の日本製なのはとてもありがたいです。中国製の金メッキ品をWEの真空管式DCプリアンプで使用しましたが,バカでかい上に,コールドのラグが簡単に折れてしまうので,もう使わないことにしました。
さて,加工が終わったらトランスを取りつけて,まずはトランスの配線チェック。さすがにパイロットLEDくらいはつけておきますけどね......。
トランスはAC電源の場合,金田氏指定のものはRコアなのですが,TK-P1だと収まりそうにありません。iruchanは共立電子のHDB-8というトロイダルトランスを使いました。トロイダルだとほぼ漏洩磁束は根絶できて,前回のモノラルレコード用のEQアンプもハムは皆無でした。2次側に9V,15Vの巻線が出ています。驚いたことに,前回のEQアンプはインド製のRSコンポーネンツのやつを使いましたが,同じ7VAなのに,RSコンポーネンツの方はずっと小さいです。まあ,トランスのサイズは大きい方が音がよいように思えるので,こちらでいいと思います。
なお,電源の試験のとき,レギュレータ基板をつないでから試験する方も多いとは思いますが,うっかりトランスの配線を間違えてレギュレータを壊してしまってもしょうもないので,まずは2次側のAC出力電圧のテストを兼ねてトランスだけで試験します。もちろん,それだけじゃつまらないのでパイロットのLEDだけ,配線しておきました。
ところが......。
なんとパイロットが点灯しません!!
えぇ~~~って感じなんですけど....。こんな簡単なところでつまずいちゃうようじゃ,先が思いやられます......orz。
念のため,トランスの出力電圧を確認しますが,問題ありません。ちゃんとAC15Vが出ています。
ただ,LEDの端子電圧を見ると0Vになっていて,これじゃ,点灯しませんね。
散々,回路をチェックしてもなんでLEDが点灯しないのかわかりません。
あきらめてLEDを外してみて,LED単体でチェックしてみますが,壊れているようではありません。
う~~~ん,なんでや~~~??????
それで,LEDをもう一度,パネルから外した状態で配線してみると,点灯するではないですか! また真夏の夜の怪談かぁ~~って思っちゃいました。
ようやくここまで来て,パネルに取りつけると消える,ということに気がつきました。すぐに,昨年末に自作したPCのLEDでも同じ現象が出たことを思い出しました。そのときは原因がわからなかったんですけど......。
ひょっとして.....たぶん,LEDの不良では....,と気がつきました。
最初はP-N接合部に何らかの圧力が加わると点灯しなくなるのか,そんなことが物理的にあったっけなんて思いましたが,何のことはない,製作不良で,外部に電極が露出しているのでした.....orz。
エッシェンバッハのルーペでよぉ~く見てみると......
▼部分がモールドの外に出ています。テスターでも確認できました。なんか,パイロットにピンク!なんてあわない感じですが,真空管アンプに使ってもいい感じです。昔はオレンジにしていたのですけどね。半導体プリアンプにはどうもオレンジはあいませんしね。
ところでこいつ,なんと,アノード部の電極がモールドの外に露出していました。おもわず唖然としちゃいました....。開いた口が塞がらない.....。
当然,シャシーはGNDなので,アノードが接地してしまうので,LEDが点灯しないんですね。
それにしてもこんな不良ははじめて。φ3mmの砲弾型LEDですが,普通はちゃんとモールドの中に電極やリード線は隠れていて,外部とは絶縁されていますが,さすがのチャイナクォリティ! って思っちゃいました。これ,秋月電子で売っている,OSK5DK3131Aという香港Optosupply社の製品ですが,深圳で作っているようなので中国製ですね。今回,使ったものも,自作PCで使ったものも,ほかにも点灯しなかったものがあり,かなりのものが不良ではないかと思います。
手持ちのピンクのLEDはもうないので,しかたなくシャシーを多少加工して点灯するようにしましたが,今後はマルツで売っている,ピンクのLEDにします。
ようやくパイロットの問題が解決して,レギュレータを取りつけてテストします。
なお,今回,制御TrにはNECの2SC1161のほか,日立の超貴重品2SA566を使うので,保護回路をいろいろ考えましたけど,結局,ポリスイッチを使うことにしました。金田氏のレギュレータ回路には保護回路が入っていないので,うっかりショートするとこれらのTrを飛ばしてしまうので困っちゃうのですが,ポリスイッチが入っていれば安心です。100mAでトリップするレイケムのRXEF010を使いました。
本当言うと,トロイダルトランスは2次側のコモンが接続されていなくて,バラバラに出ているので,金田氏のように,+と-で,別々にブリッジ整流した方が音がよいのですが,30DF2がもったいないので,通常どおり,4個で整流しています。
でも,この+と-で別々に整流する方法,最近亡くなったY氏の発見ではないかと.....。MJで最初に出た記事を覚えています。タンゴのTrアンプ用トランスではできませんでしたが,2次側が独立している巻線のものではやることができました。
出力コンデンサは双信の4端子型V2Aなんですけど,入手は無理なのでWIMAにしちゃいました。
制御Trは+側は日立の2SA566,ー側はNECの2SC1161です。ともにコンプリの2SC680,2SA653はなぜか使われていません。まあ,2SA653はドライバの名石で,初期の金田式アンプで重用されていますが,すぐに入手は絶望的になって2SC960に代わったのはご存じのとおりです。一方,今でも割に入手は容易な,2SC680の方はまるで無かったかのように扱われていてかわいそう。全くの継子扱いですよね~。たしか,何号だったか,金田氏のコメントを見た記憶があるのですけどね。iruchanは2SA566を見つけたときにペアの2SC680も買ってあるし,VCEO=100Vの規格は真空管用としても使えそうなので,いずれ使いたいと思います。iruchanも会社じゃ,とうに継子扱いですしね......orz。
さて,レギュレータをつないで,電圧を確認してみると.....
-側は-9.8V位なのでOKですが,+側は4.5Vくらいしか出ていません!
ありゃりゃ!?
どこかに配線ミスがあるはずなので散々調べてみますが,ミスがわかりません。部品の取り付けミスやDiの向きを間違えたかと調べても間違いはありません。パターンミスや,パターンタッチもないようです。
とりあえず,基準電圧はどうかと,05Z7.5Xの電圧を見ると,やはり3Vくらいしか出ていません。これはおかしいです。7.5Vにならないといけませんね。どうやら原因はこの05Z7.5Xの周辺だ,ということはわかります。
どうしてもわからないので,打つ手としては.......最近はiruchanはこういうときはSpiceで調べることにしています。わざとどこか配線を間違えてみて,同じ現象が出ればそれが原因です。実際の基板じゃ,こんなテストはできませんよね。MJの記事の誤記も多いので,うまく動作しないときはSpiceで確認してみるとよいです。
やはり,すぐに原因がわかりました。
05Z7.5Xから,誤差増幅用の2SC1583とカスコード接続されている,2SC1775Aのベースとの接続がない場合に同じ現象になることがわかりました。▼の×部分です。
早速,実際の基板を調べてみると,確かにこの部分の導通がありませんでした。
ようやく,はんだづけをやり直してテストしてみると,+10.5Vレギュレータは+10.8Vで,-10.5Vレギュレータはー11.9Vくらいの出力電圧となりました。やれやれ......。
と言う次第で,LEDのトラブルとレギュレータのトラブルで1週間かかっちゃいました。
でもそれにしてもこの±10.5Vという電圧は低いですね。OPアンプでも±15Vが普通ですから.....。この当時の金田氏は電池式なので,本機もNational Neo Hi-Top(懐かし~~)を10個ずつ接続して,15Vからレギュレータを通して±10.5Vを得ているのですが,AC電源式ならもう少し高くてもよいはずです。本機が完成したら,±15Vくらいに昇圧してみよう,と考えています。実際,レギュレータを通す前の平滑コンデンサの電圧は±20Vくらいになっていますしね。
いよいよ次週はEQアンプ,フラットアンプを接続してアンプのテストです。
☆ ☆ ☆
2020年8月4日追記
ちょっとおかしなことに気がつきました。
しばらく,レギュレータを無負荷のまま,運転していたのですが,2SA566に触ってみると少し発熱しています。2SC1161も少し温度が上がっています。
まあ,大した温度じゃなく,触ってみると温かい程度なんですけど.....。
でも,シリーズレギュレータの場合,無負荷なら発熱しないはずなのでおかしいです。
最初,発振を疑ったのですが,よく回路図を見てみると,出力段はPPになっていて,そのバイアス電圧は2個のDi(1S1588)をシリーズ接続して,そのP-N接合電圧を利用しています。
つまり,この金田氏の超高速PPレギュレータというのは,出力段はA級動作していて,アイドリング電流が流れているんですね。そのアイドリング電流は2SB716を介してGNDに流れています。
うっかり,通常のシングル出力のシリーズレギュレータと混同してしまっていました。また,金田氏も,このスーパー・ストレートプリアンプのDCアンプシリーズNo.121(MJ '91.6)で,「2SB716と2SD756は......これらのTrは出力コンデンサー(2.2μF)に溜まった余分の電荷を放電させる働きしかしていない」と書いているので油断しちゃいました。
改めて,2SA566と2SC1161のコレクタ電流を調べてみると,それぞれ28.0mA,31.8mAも流れています。これだとコレクタ損失は本機の場合は0.15Wくらいになって,少し発熱するわけです。
それに,ちょっと心配なのはPP出力段のエミッタ抵抗がないことで,これは金田氏の半導体アンプの出力段ではよくあることなんですけど,これはバイポーラTrの温度係数が+であることを考えると非常に危険です。
もちろん,本PPレギュレータでも,制御Trが熱暴走すると+VccをGNDにショートする結果となりますから,オリジナルの回路のままでは保護回路が入っていないので,制御Trを飛ばしてしまいます。まあ,先に2SB716や2SD756が焼けちゃうとは思いますけど....。
もちろん,アンプもPPレギュレータも温度補償のため,2SB716や2SD756にシリコンDi(1S1588)を熱結合して,バイアスが減るようになってはいるのですが.....。
また,iruchanは▲の平滑回路にポリスイッチを挿入したので,制御Trが飛ぶようなことはないのですけど....。
一応,エミッタ抵抗を入れておくことにします。こうするとコレクタ損失も減るはずです。
☆ ☆ ☆
ということで,またSpiceでシミュレーションしてみました。
制御Trの2SA566と2SB716には186mAも流れます。
ちょっとこれは大きすぎで,そもそも2SB716はIc=50mAなので,これじゃ,壊れちゃいます。2SA566のコレクタ損失も1.8Wもあります。
このあたり,Spiceの限界で,制御Trの2SA566のモデルがないので標準Trで代用しちゃっている結果ですが,ともかく,かなり大きなコレクタ電流が流れることは間違いなさそうです。
そこで,エミッタ抵抗として1Ωを入れてみます。□部分です。
こうすると,Ic=72mA,Pc=654mWとなりました。
実測してみると,それぞれ22.3mA,110mWです。これならいいか,と思いました。
☆ ☆ ☆
いよいよ完成し,調整しています。ご興味のある方はこちらへ.....。
2020年9月8日追記
冒頭で,金田式モノラルEQアンプって書いちゃいましたが,ちゃんとMJ '99.5月号にNo.154として発表されています。すっかり忘れてしまっていました。しかもEQアンプ専用ではなく,フラットアンプもついたプリアンプになっています。
回路自体は,金田式DCプリアンプで,EQアンプはWE 310Aを使った,シングル2段の5極管仕様となっています。フラットアンプは3極管のWE 262B×4のはずだったようですが,Eh-k耐圧が低いため,最終的に310A(T)×4となっています。
310Aはiruchanもちゃんと持っているんですけど,300Bのシングルアンプ用なので手持ちの余裕はありません。モノラルとは言っても,さすがに6本も必要なのはかなわんな~~......ってところです。
さすがに,金田氏もコストを気にしていて,6C6でもOK,とはされているんですけど.....。
6C6は逆に安物過ぎて使う気がしません。こんなの,ラジオ球でしょう。これのバリμ管が6D6なのはよく知られています。iruchanも45のシングルアンプで使った球なので愛着はあるのですけど.....あまりにも安物だし,出来もいまいちなので,ちょっと金田式EQアンプには使う気はせんよな.....って感じです。先生自身,"やはりWEは違う" ということをおっしゃっているようですから,なおさらですね。
というところで,とても作る元気はないのですが,どうも中国製? の310Aの同等管があり,しかも,今も製造されているようです。
PSVANEというブランドで,見てみるとものすごくきれいで,仕上がりが素晴らしいです。これなら使ってもよいかな.....という気はするのですが,絶対にWEの球と同じ音はしないでしょうし,何より値段がペアで$200以上,っていうんじゃ,驚いちゃいます。まあ,今どき高品質で真空管を作ろうとすると,こういう値段になっちゃうのでしょうけどね。
もっとも,日本のCZ-501Dもそうでしたけど,各国でWEの310Aの互換球,というのは作られていて,おそらくはWEや米国メーカ製の電話用機器の保守用でしょう。1950年代のソ連でも製造されていたらしく,10Ж12Сというのがそれで,ローマ字表記だと10J12Sです。サンクトペテルブルクの旧Svetlana製のようです。現在,売られているSvetlanaとは関係ありません。ただ,ものすごく古いもののようだし,すぐに製造を打ち切ったようで,あまり市場に出回っていません。
6C6でいいんなら,77や6J7,6SJ7などの真空管が同じ特性ですが,ST管やGT管だとだとハウリングがひどいようだし,6AU6や,もしWEにこだわるなら,408AなどのMT管で作る方がよさそうです。
それにしても現行の互換球ですら,310Aは高いし,オリジナルのWEだと1本,3~4万円位します。昔はさすがに1万円はしなかったし,よかったよな~~~。