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遠距離受信用鉱石ラジオの製作~その2~ [ラジオ]

2019年5月25日の日記

さて,前回,ちょっとご紹介しましたが,iruchanは何を今,作っているかというと.....こんなものを作っています。

ハワイ在住のMike Tuggle氏が設計・製作したLyonodyne 17という遠距離受信用のゲルマニウム・ラジオです。

バスケットコイルがとても美しく,最初に見たのは,10年ほど前,iruchanも入っている,米Antique Wireless Association(AWA)の会報に載ったときです。なんて美しいんだろう,と思いました。

小林健二氏の "ぼくらの鉱石ラジオ" というすばらしい本がありますね。カラーの写真を見ても,氏の鉱石ラジオはとても美しく,魅了されますが,ちょっと工作レベルが高すぎ,素人には難しい感じです。でも,Lyonodyne17なら何とかなりそう,と思いました。なにより,遠距離受信用,とうたっていることからもわかるとおり,かなりの高感度ラジオで,米国でよくやってる,遠距離受信コンテストで2位になったそうです。

これを作ってやろう,と思った人は世界中にいるようで,結構,WEB上にも作った人がいるようです。

と言う次第で,iruchanもこれを10年ほど前から部品を集めて作っています。

なんで,10年もかかんだよ,と思われちゃいそうですけど.......実はこのラジオ,部品集めが大変なのです。

なお,Tuggle氏は感度最優先で最新の設計と称していて,鉱石検波器は使っていません。そういう意味で,本機を鉱石ラジオというのは誤りなのですが,英語ではGermanium radioとは言いません。普通はCrystal RadioまたはCrystal Setという用語を使います。なんか,ゲルマニウム・ラジオとか,ゲルマ・ラジオというのは日本だけ,という気がします。iruchanは方鉛鉱なんかの鉱石検波器もテストしてみるつもりなので,鉱石ラジオと称します。それに,ゲルマニウム・ダイオード・ラジオというのだったらわかりますが,ゲルマニウム・ラジオってなんか変,という気がします。でも,鉱石ラジオ,と言うのも変ですね~。鉱石検波器ラジオと言うべきでしょう。そういや,電気機関車でシリコン整流器って変じゃない,と言う人がいました.....(^^;)。

☆リッツ線について

なにより,印象的なバスケットコイルは昔からリッツ線を使うのが高級品で,特に1920年代,ラジオ放送が始まったばかりの頃,やはり真空管式は高いので,鉱石ラジオで我慢した人が多かったのですが,それだと感度が足りないので,リッツ線でコイルを作ったものが多いのです。と言って,いくら真空管式より安いと言っても,リッツ線を使ったものは高級品だったと思います。実際,後で書きますけど,リッツ線は今でも非常に高いのです。

で,なんでAMラジオのコイルにリッツ線を使うのか,というと.....そこが問題なのです。

もちろん,鉱石ラジオやゲルマニウム・ラジオは真空管やトランジスタなど,一切の能動素子を使わないので,高感度なラジオを作ろうとすると,大きなアンテナが必要なのは当然なんですが,米国ならともかく,日本ではそんな長いアンテナは張れないので,やはりコイルのQが問題となります。Qが高いほど,高感度なわけです。

と言う次第で,Qってなんや? っていうことなんですけど.....。

ラジオマニアの皆さんはよくご存じでしょうが,QはQuality Factorの略で,文字通り,コイルの品質を表す指標で,コイルの抵抗分とリアクタンスの比です。具体的には,

              Q.jpg

となります。つまり,Qが高いコイル,というのは抵抗分が低く,リアクタンスが大きい,つまりインダクタンスが大きなコイル,と言うことになります。

インダクタンス自体は使用するバリコンの容量で一意に決まっちゃうので,結局,いかに抵抗分の小さなコイルを作るか,と言うことにつきます。

ところが,やっかいなのはこの抵抗分R。実は周波数により変動するので,直流抵抗分とは異なります。実際,単に直流抵抗が低いコイル,と言うことだったら太い電線でコイルを作ったらええやん,と言うことになるのですが....。

ここで出てくるのがあの嫌らしい表皮効果というやつで,電線内部の電流密度は周波数が高くなるほど,電線の表面に移動し,1MHzくらいになると大部分の電流が表面だけで流れています。

なんでか,と言うと結構,物理的な説明は定性的にも難しく,iruchanもMaxwellの方程式を解くとこのような解が出てくるということくらいしか理解していませんけどね......orz。

でも,そのおかげか,表皮効果については割に古くからよく知られていて,ラジオの黎明期からリッツ線が使われている訳です。

ということで,できるだけR分の小さな電線と言うことになると.....とにかく断面積よりも表面積の大きな電線と言うことになります。まあ,断面積は直径の2乗に比例しますが,表面積は1乗に比例するので,表面積を増やそうとするとどんどん太い電線が必要になるわけです。

これでようやくリッツ線が登場します。

リッツ線は非常に細いエナメル線を束ねて絹で外被した電線のことです。非常に細い電線の集合体なので,表面積が非常に大きくなります。

普通は交流抵抗は周波数に比例するので,高周波ほど表皮効果が顕著に影響が出てくるのですが,オーディオ帯域でも多少は影響が出るので,たまにオーディオ用ケーブルと称して,リッツ線を使ったものが販売されますが,まあ,オーディオ帯域だったらLC-OFC電線なんかを使う方が音が良いでしょう。

高周波回路ではリッツ線が重要で,戦前は対欧無線通信基地として,戦時中は潜水艦への通信設備として使われた愛知県の依佐美送信所のコイル類にもリッツ線が使われていました。

で,このLyonodyneですけど,なんと,660/46というリッツ線と,100/44というリッツ線を使っています。iruchanはこの数字を見たとき,絶句しました.....[雨][雨][雨]

Litz wire 660/44.jpg 660/46リッツ線です。

    実際,実物はこんな感じです......。

米国の規格らしく,これらの番号はAWG46の電線の660本撚り,AWG44番の100本撚りと言うことを意味します。

AWGはAmerican Wire Gaugeの略で,よくAWG何番,と言う言い方をします。番号が大きいほど電線径は細くなります。

iruchanはオーディオのアンプなんかを作るときはたいてい,AWG20かAWG22を使います。これくらいがアンプの配線に適しています。ちなみにBS何番という表記もありますが,これは英国規格(British Standard)です。

AWG46番とか44番というと....。

なんと,0.03984mmと0.05023mmという細さです!!

まあ,米国なのでもとの単位がインチですから,こんな半端な数字になりますけど,ものすごく細い電線ですね~。ちなみにJISなどの言い方だと,0.04mm,660本撚りと0.05mm,100本撚りと言うことになりますね。

こんなリッツ線は見たことがありません。普通,日本で売られているものは0.1mm8本撚りくらいのもので,バーアンテナに使われているものはこれくらいのリッツ線です。

しかも,こんなリッツ線でも数mで1,000円くらいの値段で秋葉原では売られていますから,Lyonodyneで使っているリッツ線はいったい,いくらするのでしょうか。

Tuggle氏は値段のことは書いていませんが,米国ではリッツ線はKerrigan-Lewisというメーカのが有名で,ここのを使っていると思います。同社はイリノイ州にあり,1920年代の鉱石ラジオなどでも有名なブランドです。

ところが.....。

この会社,WEBはないし,電子メールもありません。手紙でしか注文受け付けないらしく,当然カード支払いやPayPalは使えません。いまどき郵便為替(Postal Money Order),と言うのもな~という感じです。ちなみに,郵政民営化で銀行協会からクレームがついたのか,米国向けだと郵便為替は手数料500円だったのに,今は2,000円以上の手数料を取られますので,iruchanはもう使っていません。10年前の時点ですが,もう,ネットは当たり前の時代でしたから,iruchanは困ってしまいました。

まあ,10年経って検索してみると,今はコロラドのRubadue Wireという会社に買収されちゃっているようですし,この会社のリッツ線がネットで買えるようです。

とはいえ,たぶん,純粋な米国製のリッツ線は高いと思います。

一応,iruchanも当時,入手に結構困ったのですが,なんと,eBayでは今もリッツ線が大量に売られていて,当時,結局,eBayで買いました。

もっとも,売られているのは中国製のものです。値段は安く,660/46のリッツ線が長さ120フィートで〒込86ドルという値段でした。それに,売り手は米加州在住でしたが,やはり中国系の名前でした。

今も売られているので,もし,Lyonodyneを作りたい,と思った方はeBayで買えばいいと思ったのですけど,eBayはやはり10年くらい前にポンと送料が高くなり,小さなものでも30ドルくらいは当たり前になっちゃいました。

なんでや,と思ったのですが,セキュリティのため,一度,北米各地の売り手の荷物はeBayのセンターに集荷され,そこから,UPSなどの民間宅配業者を使って航空便で送られてくるためのようです。一度,親切な売り手に送料まけてんか? もちろん,英語ですけど と聞いて判明しました。

ということで,Ali Expressをお薦めします。Aliだと日本向けの送料はタダか,せいぜい数ドルくらいです。中国なのでいろいろと心配なことが多いのですが,iruchanは今まで詐欺に遭ったことも,ものの品質が悪いこともありませんでした。これらのリッツ線も安くて便利だと思います。

実際,将来作る予定のバスケットコイル用に,追加で0.1mm 45本撚りというリッツ線を100m買いましたけど.....,送料込みでもたった30ドルほどでした。秋葉で買えば,何万円もすると思います。

litz wire 0.1×45.jpg 一度,巻で買ってみたかったんですよね.....。

さあ,リッツ線が届いたらコイルを巻きたいと思います。

普通はソレノイドコイルですが,これはどうしてもQが低くなってしまいます。

どうしてか,と言うと今度は近接効果というまたいやな効果があるせいです。ええ加減にせい!

近接効果とは電線が近接しているとお互いの磁界が邪魔をして,電流を減らす,すなわち抵抗が増える効果を指します。

ソレノイドコイルだと,隣接した電線の電流の向きが同じですが,こうなると電流が発生する磁界が反対向きとなり,電流を減じる方向に作用して抵抗となります。

それに,電線が近接しているので,浮遊容量が増え,これはインダクタンスを減らす方向に作用します。

と言う次第で,本当にラジオ用コイルは矛盾だらけになってしまいます。

要は,いかに密に巻いてインダクタンスを稼ぎつつ,お互いの電線を疎に巻くか,と言うことが必要になっちゃいます。

これを解決するための手段がバスケットコイルやスパイダーコイルです。隣り合った電線をできるだけ離すための巻き方です。Lyonodyneはバスケットコイルを使っています。

もっとも,ソレノイドコイルでもリッツ線を使って,できるだけ巻き径を大きくする,というのがQの高いコイルを巻くコツなんて言われていますね。昔から,コイルを横から見たとき,巻き径とコイルの長さの比が1くらいになると良いとか言われています。

さて,ようやくリッツ線が届いたら巻き枠を作ります。幸い,Tuggle氏は詳細にコイルの径などを書いていますから,何とかなりそうです。もちろん,単位はインチなのでmmに換算しましたけど.....。

巻き枠を作るのは大変で,花子でまず,図面を描いて,それをA4の紙に印刷して,t5mmのポリカ板に穴開けしました。支柱はφ5mmのベーク丸棒にしましたけど,やはり金属製がよいです。あとでφ5mmの真鍮製のものを作りました。

basket coil巻き枠図面.jpg巻き枠図面

完成するとこんな感じです。支柱はやはり金属製の方がよいです。

basket coil巻き枠.jpg バスケットコイル巻き枠です。

あとはこの巻き枠に巻いていきます。

Litz wire 660/44巻き.jpg 手袋をして巻いていきます。

すぐ気づきましたが,手袋をしないと手が切れますので,手袋をしました....(^^;)。

テンションを加えながら巻かないとコイルがユルユルになっちゃいますが,どうしても巻きはじめがユルユルになっちゃってなかなか難しいです。

さて,できあがったらインダクタンスを測定します。もちろん,コイルの共振周波数は

               LC共振.jpg

ですから,仮にバリコンが430pFのものだと205μH,360pFのものだと245μHくらいとなります。

Litz wire 660/44 inductance.jpg インダクタンス測定中。

☆バリコンについて

バリコンについては,2連のものと単連のものが3つ必要です。もっとも,Tuggle氏の設計では単連は2つはトラップ用なので,とりあえず1個あればラジオを聞くことができます。

Tuggle氏はC1は470pF,C2は495pFのものを使っています。C2は周波数直線形となっています。また,なぜか,非常に絶縁抵抗にこだわっていて,どちらも銀メッキで,絶縁抵抗20MΩ以上,なんて指定があります。また,バリコンの固定もセラミック製のインシュレータを介して台に取り付ける,なんて書いてあります。

まあ,周波数直線形のものは非常に入手が難しいですので,iruchanは通常の360pFの単連のものを使いますし,絶縁抵抗についても,通常はこれくらいはあります。また,絶縁も直接,木製の台に固定しました。それに銀メッキって? 感じですけど....。日本製のバリコンの場合は普通はクロームメッキされています。銀メッキだとすぐに硫化銀を生じて黒くなってしまいますから,今まで見かけたことはありません。

lyonodyne variable capacitor.jpg 使用予定のバリコンです。

トラップ用には米国製の安いものにする予定でしたが,CCW(反時計回り)のものだったので,クビにして,国産のものにする予定です。それに,等容量タイプだったのでダメです。

なぜか,20年ほど前,羽根が真鍮でできたとてもきれいな2連バリコンを見つけたので買いました。あまりにもきれいだったので,今回,採用しました。もう何個か,買っておけばよかった......。

☆マッチングトランスについて

コイルのQをダンプしないよう,できるだけハイインピーダンスで受ける必要があります。通常はここにクリスタルイヤホンを使いますが,これはあまりに音が悪いので,鉱石ラジオのマニアの人はハイインピーダンスのマグネチックヘッドホンを使います。これはバランスドアーマチュア形ともいい,通常のスピーカと違って,静止型のコイルに音声電流を流し,中の鉄片が振動して音を出します。

真空管時代はよく使われていて,タイタニック号の無線室や,東京裁判で東条英機などA級戦犯が耳につけていたものです。

ところで,バランスドアーマチュアって,今,ネットで検索するとたくさん出てきてびっくりしました。なんと,ハイレゾ用のカナル型ヘッドホンに使われているらしい。

正直,え~~って感じですけどね.....。バランスドアーマチュア型は1920年代に使われたもので,1925年にGEのRiceとKellogがダイナミックSPを発明して廃れた技術です。それまで,バランスドアーマチュア型ユニットにホーンを組み合わせてSPとして使っていたのを,コーンのみで再生できるシステムを発明し,今に至っているわけです。

まあ,小型のユニットだったらバランスドアーマチュア型の方がHiFiでいいのだ,ということなんでしょうけど,100年も前の技術をいまだに使っているって,びっくりです。

iruchanもそのWEのバランスドアーマチュア型ヘッドホンを1個,持っているんですけど,ヘッドホンは聴きにくいし,非常にクリスタルイヤホンに比べれば音も大きいし,音もいいのですが,今回はオーディオアンプにつないでスピーカで聞くことにします。

なんか,鉱石ラジオなのに,オーディオアンプを使っちゃうなんて,反則! って言われそうですけど.....。

でも,スピーカで聞くと非常に聞きやすいですし,鉱石ラジオの音がよさがよくわかると思います。You Tubeでもゲルマニウムラジオをきちんとしたアンプとスピーカにつないで再生している動画が出ていますが,音が良いですよね~。

といって,このようにアンプをつなぐ場合にしろ,ヘッドホンをつなぐ場合にしろ,やはりインピーダンスは10kΩ程度ですので,コイルのQを完全にダンプしちゃいますから,マッチングトランスをつなぐ必要があります。

Tuggle氏はUTCのA-27を使っています。

これ,1次側は100kΩで,2次側はタップがついていて,50,125,200,333,600Ωとなっています。f特は30~20kHz(-2dB)というトランスです。

UTCのカタログを見ると,もとはクリスタルピックアップを600Ωラインにつなぐためのトランスです。

eBayで探しましたが,結構高く,何のことはない,日本のオーディオショップで見つけました。特殊なトランスなので,日本では売れないようです。2次側が50Ωという出力もあるので,通常のヘッドホンも使えそうです。

ただ.....,なんと取付ねじが付属していませんでした[雨][雨][雨]

こんなくらい,つけとけよ.....と思いました。ただでさえ,面倒なインチねじなのですから.....。中古品なので,何かの機器から取り外して売っているはずですが,取り外したときにねじを捨ててしまっているのでしょう。

仕方ないので,UTCのカタログを見ると,UTCのAシリーズのトランスはユニファイねじの#40-4という規格のねじを使っているようです。長さ5mmくらいのを買って取りつけました。amazonでも手に入ります。

UTC A-27.jpg ねじはUNC #40-4というねじです。

もっとも,こんな高級品使わなくても山水のST-14(500k:1k)なんかをつかったらどうか,と言う話もあるかとは思いますが......。

ということで,次回はこれらの部品を使って組み立てていきたいと思います。


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