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Panasonic AM/FMラジオ RF-626の調整 [ラジオ]

2018年6月24日の日記

Panasonic RF-626-1.jpg Panasonic RF-626 AM/FM radio

ディスクリートで,しかもゲルマニウムTrを使ったFMラジオを製作中ですが,泥沼の西部戦線で膠着状態に陥ってしまっているiruchanです.....(^^;)。

とりあえず,トラッキング調整が終わり,ちゃんと76~95MHzまでカバーしているのですが,まだ放送が入りません。原因調査中です。

ということで,膠着状態になってしまった西部戦線を打開すべく,新兵器を投入します。

その新兵器とは.....。

毒ガスでも戦車でも飛行船でもなく,PanasonicのトランジスタAM/FMラジオのRF-626です.......(^^;)。

Panasonicと謳っていることからもわかるとおり,松下電器の輸出用ブランドで,iruchanが持っているものも25年ほど前に米国人の友人に譲ってもらったものです。

松下電器がNationalのブランドを使い始めたのはwikiを見ると1927(昭和2)年のことのようです。銀座線が開業した年だな......。

ところが,戦後,米国向けに製品を輸出しようとしたところ,すでにNationalのブランドは商標登録されているため,Panasonicブランドを使用することとなりました。第1号はゲンコツこと,スピーカのコーン紙の真ん中に球形のイコライザがついた,8P-W1のようで,1955年のことのようです。iruchanもこの後継のEAS-20PW55を今も使っています。

このラジオは1970年代前半の製造のようです。もちろん,当時はまだICを使っておらず,フルディスクリート9石の回路になっています。日本ではほとんどの地域でFM局がNHKしかない状況がずっと続いていたし,まもなくICの時代が始まりますから,フルディスクリートのFMラジオ,というのは少ないと思います。

残念ながら,サービスマニュアルが入手できていないので,詳しい回路がわからないのですが,Trのラインナップは2SC429-2SC185-2SC184-2SC469×2-2SB173-2SB175-2SB172×2で9石となっています。

驚いたことに,NPNとPNPの混成であるばかりでなく,NPNはシリコン,PNPはゲルマニウムの構成になっています。

これ,よくあった話で,高周波部に性能がよいシリコンを使い,低周波部は安価なゲルマニウムという組み合わせのラジオが結構ありました。たぶん,シリコンTrは高かったのでしょう。それに,そもそも本機のシリコンTrは全部,NEC製なんですけど.....。ゲルマは松下製でしたけど。たぶん,高周波用シリコンTrはNECから買った方が安く,低周波のゲルマは自社製の方が安かったのでしょう。

ふたを開けてびっくり。

Panasonic RF-626'.jpg 内部

 バリコンの右と左にFM用のコイルがあります。トリマはマークがついていました。

まあ,本当によくこれだけ部品を詰め込んだな~と感心するぐらい,びっしりと部品が詰まっています。出力の2SB172なんて,とうとう居場所がなくてリード線を長く伸ばしたまま,OPTの上に寝かされている始末。ちょっとかわいそう~~。

それに,そもそもTrはどこ? って感じで,TO-1型の2SB172くらいしか見えません。高周波用の2SC184などはHEMTなどと同じマイクロディスク型のため,基板裏についているはずですが,探しても見つからないくらい密集して部品がはんだづけされています。どこかに隠れちゃってるんでしょうけど。

IFT類は7mm角のもので,小型になっています。すべて東光製でした。バリコンはミツミのようです。電解コンデンサやスピーカも松下電工のマークがついているし,本当に純粋の日本製で感心します。抵抗は立てて取りつけてありますし,これも居場所がなくてリード線が長く伸ばしてあったり,これじゃはんだづけするのは大変だったろうな~,という気がします。配線したおばちゃんお姉さんたちは大変だったことでしょう。

調整のためか,バリコンにはFOとか,MOとか書いてありますし,IFTのコア位置もちゃんと印がついていたりして,おばちゃんお姉さんたちの苦労がよくわかります。

さて,久しぶりにスイッチを入れてみて,やはり気になるのがボリウムのガリ。動かすたびにガリ,ガリ大きな音がするし,スイッチが入ったとたん,ガリッとひときわ大きな音がするのは特にいやですよね。

これ,昔のトランジスタラジオによくありますよね~~。突然大きな音がするのでiruchanは大嫌いです。早速,修理したいと思います。

また,例によって米国で売られていたものなので,FMは88~108MHzとなっているので,修正したいと思います。

ところが.....。

おそらく,買ったときに調整したのだと思いますが,FMにしてみるとちゃんとNHK FMが入りますし,ワイドFMの局も入ります。

SGをつないで調べてみると下限が76MHzだし,上限は108MHzくらいになっています。

確か,買ったときにいろいろいじって調整した記憶がありますが,うまくいかなくて放ってあったように思います。でも,ちゃんとうまく調整してあったようで,日本の放送局がちゃんと入ります。

と言う次第で,調整はやめにしました。

というより,基板は▲▼のように,内部はびっしり部品がはんだづけされているので,下手にいじるとどこかの線を切ってしまったりしますから,やめた方がよさそうです。

Panasonic RF-626基板裏'.jpg 基板裏。裏も部品がびっしり。

ただ,バリコンの左側に疎な空芯コイルがあり,右側に密な空芯コイルがありますが,米国だと疎な方がOSCコイルのはずで,こちらをいじった跡がありました。どうやら,25年前にこちらをいじって調整したようです。

もし,米国製のラジオを国内バンドに調整したい,と言う方はこちらこちらをご参考にしてください。本機だと,バリコンのOSC側に10~15pFくらいのセラミックコンデンサをパラにする,前者の方法がよいと思います。

        ☆         ☆          ☆

さて,ボリウムのガリを直しておきましょう。

簡単にやるなら接点復活剤をプシューとしてやればいいのですが,iruchanはよほどのことがない限り,接点復活剤は使いません。

理由はスプレー式なので,いらんところにまでかかっちゃうのと,腐食性なので,プリント基板などを傷めちゃうからです。また,当然ながら導電性なので,バリコンにかかったら大変です。決して接点復活剤はバリコンにかけないでください。

じゃ,ど~~するんだよ,と言うことになりますが,iruchanは接点用グリスを使っています。これだと周囲にかからないし,腐食性もないのでいいと思います。

Panasonic RF-626VRガリ.jpg 接点グリスを塗布します。

ボリウムを分解し,摺動面に接点グリスを塗っておきます。使ったのはタミヤの接点グリスです。

結果は見事!!

スイッチをonにしたときも静かですし,ボリウムを回してもガリ,ガリ言いません。なかなか快適です。

その後,できれば電解コンデンサを交換したいと思います。特に,経年40年以上,と言ったところですからね.....。

真空管アンプだとリークが心配ですが,Trラジオだと容量抜けが心配です。どうにも音が小さい,というラジオはカップリングコンデンサの容量抜けが原因であることが多いです。

ただ,例によってあまりに部品が混んでいる上,裏側にもセラミックコンデンサなどが張り付いているし,簡単に電解コンを交換できません。しかたないので,取り外しやすいのだけ,交換しました。あと,FMの音がひずんでいるようなのでレシオ検波の出力にある,4.7μFの電解コンを交換しておきました。

        ☆         ☆          ☆

さて,鳴らしてみると快適。なかなか感度もよく,AMもFMもきれいに受信できます。ただ,やはりFMは感度不足で,現在のラジオに比べると遜色がありますが,まあ,とても40年以上前のラジオとは思えないくらいです。ワイドFMも入るので,プロ野球中継なども楽しめます。

AMは特筆もので,とても音もよく,感度も十分です。

ICも入っていないのに,非常に小型で,しかもTrラジオには珍しく横動式ダイヤル(本機は縦に動きますけどね......)を採用したのも高得点です。米国ではよく売れたようで,eBayなどでは結構な値段になりますし,人気があるようで,今も割に見かけます。小気味よいハイセンスな優れたデザインは米国人の心に訴えるものがあったのでしょう。よき時代の日本製のラジオを復活できてよかったです。

ただ,日本では売れたのかどうか.....。そもそも日本ではFMの本放送がはじまったばかりだし,東名阪の3大都市圏以外は民放がなくてNHKしか入らない,という状況でしたし,当時,8,500円もしたようですから,新しもの好きのお金持ちが買っただけではないか,という気がします。

Panasonic RF-626 panel.jpg 今のPanasonicのロゴとは違いますけどね。

PANASONICと全角フォントで書いたようなロゴがちょっと笑っちゃえますけど。残念ながら,正面の赤いNのマークにPanasonicと書かれた小さなエンブレムは取れちゃっています。eBayのやつを見てもどれも取れちゃっているので,簡単に取れちゃうものだったのでしょう。

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6S19P(6C19P) DCパワーアンプの製作~その1・OTLアンプの出力の計算とトランスレス回路について~ [オーディオ]

2018年6月9日の日記

金田明彦氏設計のオールWE真空管式DCプリアンプを作っています。あと少し,と言うところまで来ました。

つづいて,パワーアンプを作りたいと思います。こうしてオール真空管DCアンプシステムにしたいと思います。

といって,DCパワーアンプですから,当然OTLアンプになってしまうわけですが,真空管でOTLというとやはり大変です。なんと言ってもOTLは大がかりだし,出力管がプレート損失を大幅にオーバーしてしまうなど,設計上も大変です。

ということですが,まずは,出力管を何にするか,と言うのがやはり大問題です。

ただ,さすがにプリがWEだからと言って,パワーアンプまでWEで揃えようとは思いません。実際,金田氏はMJ '01.12月号に,"WE 421Aパラpp DCパワーアンプ"(No.165)として発表しておられますが,WEの421Aなんて4本も買った日にゃ,球だけで10万円近く飛んで行ってしまいます。ついでに予備も......と考えるとガクガク,ブルブル~~~~。

まあ,WEの421AはRCAの6AS7-G6080と同特性ですから,これらの球で作れば安く作れますし,実際,iruchanは6080を持っているので,それで作ればいいんですけど,この球は扱いにくいことで有名で,過去,いろんな人が書いていますが,OTLを作ると調整で手間取るようです。発熱もすごいし,プレート電流が安定しすぎ? ていて,アイドリング電流の調整だけでも長時間かけてやらないといけないようです。

と言う次第ですが,iruchanは昔からOTLのアンプが好きで,いろいろと球を集めてあります。

多極管だと30KD640KG6AなどのTV水平偏向管が考えられます。ただ,これらはちょっと大きすぎるので,25E5とか,12G-B3Aなんかが昔からよく使われています。
とはいえ,OTLで多極管を使うと,スクリーングリッド用の電源も必要なので,とりあえず,3極管で考えます。

候補としてはNECの6R-A2でしょうか。これは正直,OTL用として作られた唯一の球だと思います。やはりとても使いやすく,いい球だと思います。

ほかにはレギュレータ用の6R-A312B4Aが考えられます。大型だと6336Aがありますね。LUXがOTLアンプを出していました。

実は,iruchanは全部持っているんですが,今回,6S19Pを起用することにしました。6R-A26R-A3は別のアンプにしたいと思います。

なお,金田氏も含め,昔からこの球は日本では6C19Pと表記されますが,ロシア文字の6С19Пという球はラテン文字では6S19Pですので,こう表記させていただきます。海外だとちゃんと6S19Pと書かれているので,日本は変だと思います。ちなみに,ロシア文字で6C19Pという球もあり,これはTVのダンパ管です。

6S19Pは昨年末,ウクライナからたくさん仕入れました。比較的,6R-A26R-A3はいまでも秋葉原で見かけますし,そんなに高いわけじゃないので入手可能ですが,OTLなので最低16本くらいは必要となるので,やはり安い球の方がよいです。

その点,6S19Pは今でも@1,000円くらいで購入できますし,iruchanのように海外に直接注文すると〒込みでも@200円くらいで買えます。

ということですが,金田氏も過去,いろいろ記事を発表しておられます。

一番古いのはNo.146(MJ '97.6)ですが,その後,No.193(MJ'07.7,8),No.201(MJ '09.5, 6)とあります。やはり小型で値段も安いし,使いやすい球なのでしょう。

ただ,問題は電源。OTLアンプは電源で手を焼いちゃいます。

なにより,OTLであると同時に,OCL(アウトプットコンデンサレス)なので,出力段は正負両電源になっちゃいます。さらに,高圧のドライバ段用電源も必要なので,電源の設計が大変です。特に,出力段は高圧(150~200Vくらい)で大電流なので,設計が大変だし,おまけに出力段は固定バイアスになっていることが多いので,バイアス用の巻線も必要で,トランス式だとトランスは間違いなく特注になっちゃうのでコスト高になっちゃいます。

実際,金田氏の初期のDCパワーアンプはトランス式で,Rコアタイプの特注電源トランスを使っています。

ただ,iruchanはRコアトランスはどうにも好きになれないんですよね~。あまりに大きいし,不格好なので.....。

普通のEIコアのトランスだと,シャシーの上に載せてもかっこうよいですが,さすがにRコアだとそんな気がしません。また,あまりに大きいので,別シャシーとなっています。これだとシャシー代も倍になっちゃうし,かなりお金がかかります。

そこで,金田氏はトランスレスとした回路を発表しておられます。6S19PだとNo.201がそうです。40KG6Aなどだと,No.207がそうです。

しかし!!

iruchanはトランスレスにする気は毛頭ありません。これだとトランスはいらないし,非常に軽くて低コストなアンプができます。また,柱上トランスの巻線抵抗が小さいので電源インピーダンスが低く,音もよいと書かれています。

でも,iruchanはやはり大変危険なのでトランスレスはやめにします。感電する危険性が非常に高いです。実際,iruchanはラジオマニアなので真空管のラジオもいじっていますが,やはりトランスレスのものは過去,何度もうっかり感電したことがあります。当然ですが,場合によっては死ぬこともあります。

トランスレス,というのは真空管の時代,トランスが非常に重くて,高価なので,よく採られた手法です。ラジオやTVでよくそういった回路が使われていました。問題となるヒータはIh=300mAとか(ラジオ),450mAや600mA(TV)で揃えておいて,全部直列にすると100Vになるような組み合わせにしてヒータもAC100Vから取るようになっています。ただ,全部の真空管のヒータの立ち上がり時間を揃えておかないと,ウォームアップ中に特定の球のヒータに高電圧がかかってヒータが切れちゃうので,ウォームアップ時間は日本では11秒と決められていました。とはいえ,実際に使ってみるとやはりばらつきがあるらしく,特に,AC100Vは電源のインピーダンスが低いのでラッシュカレントが流れて,特定の球のヒータが一瞬,電球みたいにパッと明るく光ることも多かったのでヒヤヒヤしましたが,この瞬間に電球みたいに切れる,と言うことはなかったと思います。

B電源は倍電圧整流にすることが多いです。ラジオはそのまま35W4で半波整流というのが多かったです。

もちろん,シャシーにはAC100Vの片側の線が接続されているので,シャシーに触れると感電します。たいていの場合は高抵抗が挟んであって,直接,シャシーに触れて感電しても電流が抑えられてはいましたが,心臓が止まるくらいの電流が流れてしまうこともあるので,大変危険です。

人体の抵抗はおおよそ数kΩでしかなく100Vがかかると数十mAもの電流が流れます。汗をかいていたり,濡れていたりすると1kΩを下回って,100mAを超える電流が流れます。この場合,心臓が停止します。100mA以上の電流が流れると死にます

とはいえ,ラジオやTVの場合は,シャシーはちゃんとキャビネットに収められ,ツマミ類もプラスチックでできていて,直接,加圧部分が人体に触れるようにはなっていなかったので,そうたいした問題にはなりませんでした。

ただ,アンプの場合はシャシーが金属製ですし,むき出しですからね~。おまけに信号ケーブルのシールド外被を通じてプリアンプもAC100Vの電位になることがあるので,パワーアンプじゃなく,プリアンプやCDプレーヤに触れても感電することがあります。

と言う次第で,やはり電源側に絶縁トランスを入れることを考えたいと思います。


☆日本の家庭内配線について

ちょっと,ここで日本のAC100Vの配線について調べておきましょう。電柱から一般家庭への配線は次のようになっています。クリックすると拡大します。

AC100V配線.jpg 

        日本の家庭内の配線

電柱の上に載っている柱上トランスが三相AC6600Vを単相200Vに変換します。V結線と言って,三相の単相に変換しています。単相に変換しています。なお,柱上トランスの2次側は安全のため,中点が接地されています。

柱上変圧器1.jpg 柱上変圧器です。

うちの近所の柱上変圧器です。なぜか,1個赤くなっていました。なんで赤いのか,ちょっとわからないのですが,詳しい方教えてください。

高圧の6600Vは三相なので,太いケーブルが3本入っています。一番上に架空地線と呼ばれる接地線があり,避雷線となっています。低圧線が200Vの単相3線として各家庭につながっています。各家庭では,接地線を挟んだ2本の電線のうち,どちらか1本を使って100Vを受電するようになっています。

とすると,どうしても1次側が三相不平衡になるんじゃ.....,と思ってしまうのですが,その辺は大して問題ないそうです。

接地線.jpg 接地線が配線されています。

よく見ると電柱の根元の方まで接地線が伸びていて,接地されていることがわかります。

実を言うと,このせいで,AC100Vの電線は対地電圧をもってしまい,対地電圧100Vの方に触れてしまうと,感電します。

それだったら,中点を接地しなければいいんじゃないのか? 

そうしておけば,2つの線を同時に触らない限り,感電しねぇんじゃないのか!

って,思っちゃいますよね。

でも,これはダメなのです。

なんでか,と言うと,もし,柱上トランスが落雷などで絶縁不良になってしまうと,2次側に6600Vが現れてしまうから,です。さすがに対地電圧が6600Vになってしまうと危険なことはおわかりいただけると思います。

日本の一般家庭の電圧は100Vなので,柱上トランスから出てくる,3本の電線のうち,2本を使って100Vを取り出しています。単相だし,電線が3本あるので単相三線式と言います。普通のご家庭の電力量計のところに,3本電線が来ていると思います。場合によっては2本しかない場合もあり,その場合は単相2線式と言います。

まあ,どっちでもいいのですが,どちらにしろ,AC100Vの電線は片方が接地線で,対地電圧は0Vです。こっちがシャシーにつながっていれば感電しないので,金田氏もこのようにするよう推奨されています。

ところが.....。

いつ,誰がプラグを逆向きに差すとは限らないし,こうなると,電圧線(対地電圧100V)がシャシーに接続されているので,感電します。せめて,英国みたいに接地極のついたプラグを使って,強制的にシャシーが接地されているような構造なら,仮にアンプ内で逆に配線してあってもブレーカが飛ぶだけだし,逆配線じゃなくても,絶縁不良などでシャシーに漏電してもシャシーは接地されているので安全なんですけどね....。もっとも,日本の家は木造だし,畳が敷いてあったりするので,絶縁性が高く,おかげで感電しないこともあって,今まで日本の家庭用配線は安全が軽視されてきたように感じます。とはいえ,iruchanは何度もトランスレスのラジオをいじっていて感電したことがあるので,油断してはいけません。

米国のように,せめてプラグの左右の金属の幅を変更し,逆向きに差せないようにしてあれば,つねに接地線側に差すこともでき,比較的安全ですが,日本はまだプラグがそのようになっていませんし,そもそも,コンセントの配線が逆になっていることも多く,▲の図のように,縦に長い方が普通は接地線なんですけど,たまに電気工事屋さんが間違えて逆になっていることがあります。屋内配線は接地線が白で,電圧線が黒になっているので,普通,黒=GNDなので,間違えちゃうんでしょうか。それとも,どうせ線間電圧は100Vですから,別に逆にしたってちゃんと電灯はつくし,TVなども動くので,問題はねぇ~よな,といい加減に考えちゃったのでしょうか。

実を言うと,うちの職場で最近,LED式の照明に代わったのですが,灯具を交換中,配線が1ヶ所,そうなっていたようで,漏電ブレーカが飛びました......[雨][雨]

だから,少なくともPTLの機器を接続するときはコンセントの極性を検電ドライバーで確認する必要があります。

コンセント極性チェック.jpg 検電ドライバーで極性を確認しませう。左側が接地線です。

コンセントは通常,縦に長い方が接地線で,短い方は電圧線です。わが家は正しく配線されていました[晴れ]

その意味で,パワーアンプなんだから,ノイズは大して問題ないのでシャシーとは絶縁しておけばよい,と言う考え方もあり,実際,金田氏も "パワーアンプのGNDはシャシーから浮かせて配線すると感電しない" と書かれていますが,確かに,これだとパワーアンプに触っても感電しないのですが,プリアンプやCDプレーヤなどは信号のRCAケーブルの外被(コールド)がアンプのGNDとシャシーにつながっているので,パワーアンプのプラグの極性によってはプリアンプのボリウムに触れたとたん,感電する,と言うことになりますのでやはりダメです。と言う次第で,トランスレスは大変危険です。

アンプGND配線.jpgアンプ内のGND配線

ただ,安全のため,3Pプラグで電源コードを作っておけば,シャシーはコンセントを通じて強制的に接地されますので安全です。洗濯機や電子レンジに接地線がついていて,接地しないといけないのはこのためです。残念ながら,日本の一般家庭ではほとんど3Pコンセントになっていないのが問題なんですが.....。

どうも日本の家庭用の電化配線は電圧が100Vしかなくて貧弱だし,感電防止の観点からも電化製品の筐体を強制的に接地する構造になっていなくて,安全軽視だと思います。

以上の観点から,iruchanはトランスつきで作ることにします。

となると,次なる問題は,トランスの容量をいくらにするか,と言うことです。これは結構大問題です。


☆出力段の設計

トランスの容量を決めるために,まずは出力段の最大所要電流を求める必要があります。

ここでようやくロードラインが出てきます。OTLのアンプの最大出力を求めるとともに,そのときの最大プレート電流を求めます。

残念ながら,金田氏は出力については事前に計算した結果を載せておられますが,最大のプレート電流については記述がないので,特性曲線から求める必要があります。

ついでに,金田氏は6S19PのDCパワーアンプについて,4パラで15.13W(8Ω)と報告しておられます。この点についても確認したいと思います。

さて,まずは特性曲線ですね.....。

と思ったら,なんと,ロシア語で書かれた6S19Pの規格表にある特性曲線は驚いたことに,EC=0Vの線がありません!!...........(爆)

これじゃ,最大出力は計算できません。

確かに,EC=0Vの曲線のところはひずみが多いので,昔のアンプの教科書なんかを見ると,電圧増幅回路だとひずみ重視のため,最大出力電圧はEC=-0.5Vくらいのところで計算したりしているのですが,まあ,出力段は普通は0Vの線で評価するので,この線がないと困ってしまいます。

6S19P特性曲線.jpg 6S19Pのプレート特性曲線

困っちゃったのですが,OTLのアンプの出力を求める場合,規格表に載っている特性曲線を大幅にはみ出しちゃうので,いずれにしろ,規格表のデータをそのまま使うことはあまりないんですけどね.....。

実測することも考えたのですが,かなり面倒だし,結局,LTspiceでシミュレーションしてEC=0Vの曲線を求めました。

幸い,6S19PのモデルはAyumi氏が発表しておられるので,ありがたく使わせていただきます。

6S19P ロードライン(8Ω,16Ω)-1.jpgLTSpiceで求めた特性曲線です。

線がLTSpiceで求めたEC=0Vのデータの近似曲線で,それ以外の,などはロシアの真空管規格表のデータです。大体,よいところに来ていると思います。

ロードラインは スピーカのインピーダンス×出力管パラ数 で引きます。8ΩのSPで2パラ出力段だと16Ωで引くことになります。▲の図ではSP 8Ωの線は実際には16Ωで引いてあります。

なお,真空管のプレート電流は0バイアスの時はプレート電圧の1.5乗に比例するのですが,やはり多少ずれていて,Excelで近似曲線を求めると▲の式となりました。

6S19P ロードライン(8Ω).jpgロードラインを引きます。

今度はすべてSpiceのデータをExcelでプロットして曲線を引きました。

金田氏の6S19P DCパワーアンプはトランスレスのものは4パラ,Ebb=135Vで動作しますが,iruchanは初期のNo.146同様,2パラで作ることにしました。No.146ではEbb=160V,出力8.4Wと報告されていますが,iruchanはNo.201と同じ回路で作りたいと思っていますので,Ebb=135Vとなりますが,出力段は2パラにします。

出力はまずは135Vのところから線を引きます。縦軸の交点は135÷(8×2)となります。×2は2パラだからで,出力管1本あたりの負荷抵抗は倍の16Ωとなります。

そうすると......。

なんと,8.4375Aのところが交点となっちゃいます!ひぇ~~~っ!!

そんなところまでプレート特性曲線は描いていないので,結局,やはりExcelで引くことになっちゃいます。

昔はEC=0Vの曲線を手読みしたあと,両対数のグラフにプロットしてその線を延長して遠く離れた位置のプレート電流,電圧を読んで再びもとの特性曲線にプロットする,なんてやっていましたが,いまはExcelでできちゃうので便利な時代になりました。

さて,いよいよ最大出力などを計算していきます。OTLアンプはB級ですので,半導体のパワーアンプの設計と同じです。

よく,▲のロードラインとEC=0Vの線の交点から下ろした線で構成される三角形の面積として説明されています。実際,結論としてはそうなんですけど,

          最大出力.jpg 最大出力の計算式です。

本来は電圧と電流の実効値の積が出力なので,正弦波の場合,波高値の1/√2が実効値ですから,最大出力は

          最大出力1.jpg 

ということで,結局は一番上の式になっちゃうんですけどね。

ちなみに,Eb_min=126V,Ib_max=630.9mAと求められましたから,出力は上式から,2.8Wと求められます。2パラですからこの倍で,片ch.で最大5.7Wが出ることになります。

まあ,この5.7Wという出力をどう考えるか,なんですが.....。

NECの6R-A2の規格表にはEbb=150V,16Ω動作時に6.2Wの動作例が載っています。8Ωの場合はもっと小さくなりますし,6R-A2は150Vでの動作例ですから,6S19Pの方が大出力になると思います。

No.146のようにB電圧を上げて,160Vにしてやると8Wを超えるんですが,球の寿命の問題もありますので,B電圧は135Vのままとしたいと思います。

続いて,球の最大プレート電流および最大プレート損失について求めます。

最大プレート電流は正弦波の半波のピーク値がIb_maxということですが直流電流としては、平均値ですので、

    最大プレート電流.jpg 最大プレート電流です。

積分まで出てきますけど,何のことはない,最大プレート電流は Ib_max÷πです。

なお,最大プレート損失はスピーカへの出力の半分を引くことができますので,

         最大プレート損失.jpg 最大プレート損失です。

一応,プレート供給電圧Ebbはこの最大プレート損失も考慮して決めたいと思います。

結局,iruchanはこれらの計算を何回もやるのはめんどくさいので,Excelのマクロで一発で計算できるようにしました.......(^^:)。

OTLアンプ出力計算マクロ.jpg Excelの出力計算マクロです。

負荷抵抗とパラ数,プレート供給電圧を入力すると,ボタン一発で上記の計算をしてくれます。

結果です。

負荷抵抗8Ωの時は,

6S19P 出力(8Ω).jpgRL=8Ω

Ebb=135Vのときは先ほどの計算どおり,5.7Wですが,Ebb=160Vのときは9W以上出ることがわかります。金田氏の計測結果どおりです。4パラだと18.5Wとなります。

160Vの時を計算してなくて申し訳ありません。各計算値などは使用する予定の絶縁トランスの端子電圧からもとめたB電圧の値です。

ただ,プレート損失はEbb=135Vのときは25.7Wですが,Ebb=160Vのときは40W近くになっちゃいます。6S19Pのプレート損失は11Wなので,4倍近い値になっちゃってちょっとかわいそう,という気がします。135Vの時だと2倍強という範囲で収まりそうです。

ちなみに,スピーカのインピーダンスが16Ωの時はこうなります。

6S19P 出力(16Ω).jpgRL=16Ω

Ebb=135Vでも出力は10Wも得られて十分です。

スピーカの公称インピーダンスが8Ωになってから久しいですし,最近では6Ωや4Ωのスピーカも普通になってきていますが,真空管のOTLのアンプは16Ωで設計することが多く,最後の方で,"スピーカが8Ωだと○○Wになる" と言う風に書いてありました。やはり,16Ωだと8Ωの時より大きな出力が得られますし,プレート損失も少ないので,スピーカは16Ωの方がいいですね~。

さて,と言うことで,結局はやはりEbb=135Vで考えることとしました。やはり,ちょっと160Vじゃ,出力管がかわいそう,という感じがします。

さて,と言うことからいよいよ所要のトランス容量ですが.....。

確かに,プレートの最大電流×プレート電圧(W)×2(正負電源)×パラ数(今回は2)×チャンネル(2)と言うことになろうかと思いますが,このままだとトランスの容量が大きくなりすぎます。まあ,音の余裕,と言う観点からは大きい方がよいのですが,シャシーの大きさやコストの問題もありますからね~。

真っ正直にこの考え方で計算すると6S19Pのアンプは最大出力時に両ch.で約280Wの電力を消費します。とすると,力率100%と考えて280VAのトランスが必要になってくるのですが......。

A級アンプの場合は最大出力時でも無信号時でも消費電力は同じなので,やはり280VAのものが必要ですが,OTLのアンプはB級なので,同じ容量でなくてもOKです。まさか,正弦波で連続最大出力を出すわけじゃありませんしね。

この記事でも書きましたように,トランジスタ技術'03.8号に,デジタルアンプの電源容量について解説があり,デジタルアンプの場合は最大出力の1/3が必要,と書かれています。一方,AB級のアナログアンプの場合は1/8でよいとあります。もちろん,オーディオのアンプは正弦波で連続出力するわけじゃないので,最大出力分の容量が必要なわけではないからです。

ということで,本機では余裕を見て最大プレート電流の1/3を確保することにしました。もちろん,A級動作部分(アイドリング電流)と,前段の電圧増幅部はA級アンプなので,この部分は最低限,絶対に確保しておかないとトランスが焼けますので注意が必要です。

本機では,A級部分は240mA必要で,前段をステレオで20mA程度と考えると最大容量は大体130VAくらいになります。

ただ,タンゴの半導体用電源トランスPB-80Sの規格表を見ると,AB級20~50Wステレオ用と書かれていて,容量は19V×2×2.3Aですから,87.4VAです。合計の最大出力100Wのアンプにこれだけの容量ですから,かなり贅沢なトランスだと言うことがわかります。やはりタンゴのトランスはよかったな~と思います。

ちなみにA級15W用のA-35Sだと152VAです。改めて計算してびっくり。PB-80Sより容量が大きいのか~。やっぱ,A級は大変ですね。

さて,こうして電源と出力段の設計も終わったので部品を手配することにします。

電源用のトランスはトロイダルにします。トランスレスアンプの絶縁用ですから,電圧は1種類だし,EIコアやRコアで特注しなくても,という感じです。それに,最近はRSコンポーネンツなどでトロイダルトランスが安く手に入りますからね。

AC100Vを絶縁するだけでよいので,1次:2次が115Vの仕様のものでOKです。これだと完全な汎用品なので安いです。選んだのはMOUSERで売っている,Triad Magnetics製の553-VPT230-700という型番で115V:115Vで160VAのものです。これで5,000円ほどなのですから驚きです。大きさはφ103mm×H48mmと小型です。

実を言うと,▲の計算通り,Ebb=160Vにして出力10Wというのを考えたのですが,トランスがいいものがなく,これだと1次100V,2次120Vのものが必要です。実際,Plitronなどでこういうトランスもありますし,Triadのも医療用のものにこういう巻線のものがありました。ただ,B電圧が高すぎて6S19Pの損失が大きくなりすぎるので今回はあきらめました。いずれ,6R-A212B4AのOTLを作ろうと思っていますが,そのときにこういうトランスを使おうと思います。

次回はB電源回路ほかの設計です。


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