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ゲルマニウムトランジスタ スーパーヘテロダイン方式FMラジオの製作~その4・調整編~  [ラジオ]

2018年5月19日の日記

ようやく局発の動作に成功し,泥沼の西部戦線を脱してパリに向けて進撃中のiruchanです。

局発が動作するとスーパーのラジオは難所を越えています。もう90%完成,という感じなんですけどね。そろそろパリも砲撃する射程距離に入った....という感じなんですが....。

☆局発の動作確認

まずはスーパーのラジオだとAMもFMも局発が動作しているかどうかの確認が必要です。
 
やはりオシロが必要だと思いますが,AMの場合,局発が動作するとスピーカーからガーッと言うAM特有のノイズが聞こえますので,オシロがなくても割に簡単です。それに,AMの場合,配線間違いをしなければまず局発が動作しますしね。
 
AMの場合,たまにものすごい雑音がするか,何にも音がしない場合があります。これはIF段が発振している証拠で,これもオシロを検波のところのDiにつないでみるときれいな正弦波が見えるのですぐにわかります。
 
まあ,何にも音がしない,というのは高周波で発振しているわけなんですか,もちろん,配線ミスでIF段が動作していないということもあります....。
  
IF段が発振している場合,IFTのインピーダンスが高すぎ,IF段のゲインが高くなりすぎて発振しています。正攻法の対策はIF段のTrやIFTの交換なんですが,まあ,普通,そこまでする必要はなく,たいていはIFTの1次側に100kΩくらいの抵抗をつないでIFTのQを下げてやると発振が止まります。また,1次側の配線が逆だと発振する原因になります。
 
Trはインピーダンスが低いので整合を取るため,IFTの1次側の同調回路はタップが入っていて,Vccがそのタップに接続されるようになっています。IFTからコレクタにつながる側のピンを間違えるとインピーダンスの整合が取れず,発振しますのでご注意ください。
 
☆IFTの調整
 
さて,局発が動作したら調整に入ります。
 
ところが,またここで難敵に遭遇し,泥沼にはまってしまいました......orz。
 
局発が動作したらIFTのコアの調整をします。アンテナ入力にIF信号(AMだと455kHz,FMだと10.7MHz)の信号を入れて,検波後のオーディオ出力が最大になるよう,各IFTのコアを回します。信号発生器SG(蒸気発生器じゃありません。EF57やEF58じゃないってば。古~~っ!)には1kHzのAM変調がかけられますので,これでやるとスピーカーからピーッと言う音がするのでこの音が最大になるようにします。
 
そのあと,トラッキング調整をします。
 
FMでも実は同じで,リミッタがついているのでこの音は聞こえないはず.....と思ってもちゃんと聞こえるのでIFTの調整ができます。
 
ところが.....。
 
やっぱり,まだウンともスンとも言いません。
 
おっかし~~なぁ~~。
 
でも,よく考えてみるとFMラジオはAMと違って,高周波増幅段(RF)がついているので,アンテナ入力にIFを加えても同調しないので,音が聞こえてくるわけがありません。
 
なあんだ,考えてみれば当たり前のことなんですが,こんなことすら気づくまでに時間がかかりました。iruchanはいままで,ディスクリートのAMラジオは何度も作りましたが,FMは初めてですしね.....。もっとも,IC式のFMラジオは何度か作りましたが,これらはもちろん,RF段がついていますが,非同調増幅器なので,こういう問題はありません。
 
改めて局発の出力についているIFTに10.7MHzを注入します。IFTの1次側コイルにSGをつなぎます。局発が動作していると調整が面倒なので,▼のように局発のコイルを接地して局発の動作を停止させます。
 
FM IF&トラッキング調整箇所.jpg調整箇所です。
 
こうしてようやくIFTの調整ができました。スピーカーからピーッと言う音が聞こえるので,それが最大になるよう,IFTのコアを回します。
 
☆トラッキング調整
 
さて,ここまで来たらまた局発に戻って発振周波数の範囲を決めます。
 
AMだと上側ヘテロダインですから985~2055kHzで発振すれば,535~1605kHzをカバーできますが,実はかなり難しく,きちんとここまでできることは少ないと思います。やはり範囲が広すぎるんですよね~。どうやっても完全にカバーできないことがあります。
 
FMの場合は世界的には周波数が88~108MHzだし,同じ上側ヘテロダインなので,局発は98.7~118.7MHzで発振させる,と言うことになりますが,日本は下側ヘテロダインなので,この記事の通り,65.3~79.3MHzで発振させます。もっとも,今はワイドFMやってますから,上限は84.3MHzにしたいと思います。こうすると76~95MHzがカバーできます。
 
ところが,ここまで来てiruchanのFMラジオはどうしてもトラッキングが取れません。
 
受信できる範囲は大体,60~75MHzと言ったところで,10MHzほど上でないといけません。
 
一応,▲の図にもあるとおり,局発の発振波形はt.p.と言うところにプローブをつなぐと見ることができますし,周波数カウンタをつなぐと周波数が確認できます。周波数を確認したらちゃんと65MHz以上で発振していましたから,ちゃんと76MHzから受信できるはずなんですが.....。
 
なお,FMはもちろん,AMでも局発の波形は局発コイルや局発のTrのコレクタにプローブをつなぐと観察できますが,プローブをつないだことにより発振周波数が変わるのでご注意ください。直列に数pFのコンデンサをつなぐと影響が軽減できますが,やはりどうしてもつなぐと周波数が変わってしまいます。本機も5pFを直列につなぐように基板上に配置しましたが,プローブをつけると1MHzほどずれました。
 
さて,今回のトラブルは局発の周波数が低いためと考えて,局発コイルをいろいろ変えてみてもダメ。何回トライしても受信範囲はこれくらいです。低いのはイメージを受信しているためのようだと思ったのですが.....。
 
ただ,局発コイルをインダクタンスの小さなものにすると下限が上がってくるのはわかりましたが,今度は上限がまったく変わらないどころか,そもそも受信できなくなってしまいます。
 
う~~ん,なんでこうなるのかわかりません......[雨][雨]
 
でも,よ~く考えてみるとやはりまずいのはFMはRFつきであること。さっきのIFTの調整と同じで,RF段がまずいのですね。RF段の同調周波数と局発の発振周波数がきちんと全帯域で10.7MHzだけずれていないといけないのですが,途中で外れてしまっているようです。
 
つまり,ディスクリートのFMラジオは同調式高周波増幅回路になっているため,当然,負荷が同調コイルになっています。ですから,この部分の同調周波数が一致していないとうまく受信できません。低い方は音がするのに,高い方が出てこない,というのはとりもなおさず,このRF段の同調周波数が上の方でずれているからです。
 
ようやく原因がわかりました。
 
とすると,怪しいのは▲の図のRF段の同調コイルかバリコンの調整が必要です。どちらかを交換しないとダメな感じです。
 
改めてここで使用しているバリコンの同調容量を調べてみました。使っているのは横浜のテーダブリュ電気製のもので,非常に出来がよいものです。背面にTWDと書いてあるものです。さすがは日本製,という感じでiruchanも愛用しているのですが,さすがに数が減ってきて入手困難になってきているのは残念です。
 
改めて容量を測ってみてびっくり。意外に大きいんです。
 
メーカ      型番              min.   max.
TWD   4.43 24.01
20.7 40.72
韓国 CBM-223 3.39 22.78
10.52 30.04
 
それぞれ,上段がトリマ最小,下段がトリマ最大のときの値です。TWD製は最大40pFと言うところで,iruchanはFM用のバリコンは最大20pFと思っていたので驚きです。エアバリコンのFM用のものや,ポリバリコンのミツミ製PVC-2FMなどは最大23pFですので,少しTWD製のは大きめのようです。特にトリマが16pFもあるのは大きいです。まあ,調整しろが大きい,と言うことなのでアマチュアには便利なんですが。
 
キャパシタンス測定.jpg 台湾DER社製のLCRメータDE-5000で測定中
 
秋月で売っている台湾製のLCRメータです。0.1μH程度のFM用の空芯コイルまで測定してくれるので便利です。 
 
最近入手可能なポリバリコンは黒い樹脂製の韓国製CBM-223というバリコンですが,これは少し容量が小さいです。
  
これに交換しようかとも思ったのですけど.....。
 
残念ながら,どう見ても作りがチャチ。ネットを見ると中の絶縁用のポリエチレン樹脂が破ける,と書いている人もいますし,ケースの樹脂も割れやすいポリスチレンのようですし,薄いです。iruchanのもトリマの羽根が傾いていて,間にポリエチレンが入っているのでちゃんと回転するんですけど,羽根が重なるときに樹脂を巻き込む感じなので,そのうち破れてしまうと思います。
 
と言う次第で,やはりTWDのものを使うことにします。
 
となると,調整すべきはコイル,と言うことになります。まずは前回,LTspiceでコンバータをシミュレーションしていますが,RF増幅回路もシミュレーションしてみました。
 
FM RF(2SA56+TWD).jpg 76MHz入力のとき
 
76MHzを受信するとき,必要なインダクタンスは0.085μHであることがわかります。
 
幸い,iruchanはRF段のコイルにはFCZ研究所製の10S144を使っています。これはコア入りのため,インダクタンスを可変できます。普通,FMは空芯コイルを使いますが,これだと調整が厄介だし,特にRF段と局発のコイルのインダクタンスが近いため,結合して発振することがあるので,このようにコア入りだとシールドケースに入っていて,結合しにくいのも便利です。
 
バリコンと同じように台湾製のLCRメータでインダクタンスを測ったら0.084~0.135μHでしたので,ギリギリ範囲に入る,と言うことがわかります。
 
同様に,局発もバリコンの容量が大きいと局発コイルのインダクタンスも変わるので調べておきます。 
 
FM局発(2SA56+TWD)1.jpg 最終的な定数です。
 
FM局発FFT.jpg 
 
  ちゃんと65MHzくらいで発振することがわかりました。
 
局発コイルL3のインダクタンスは0.116μHです。φ5.5mmの塩ビ棒にφ0.5mmのUEW線を6回巻いて作りました。これを伸び縮みしてインダクタンスを調整します。 
 
トラッキング調整.jpg トラッキング調整の様子
 
受信範囲の調整は局発コイルL4とバリコンのトリマCt OSCで行います。下限をL4のインダクタンスで決め,上限をCt OSCで調整します。このとき,SGの発振音が聞こえない場合はCt ANTをいじって聞こえるようにします。
 
ただ,RF段の調整は同様にL2とCt ANTで行います。下限はL2,上限をCt ANTで決めます。順番としては,局発のトラッキング調整の前にやるべきだと思いますが,今回は同時にやっちゃいました。
 
ようやくこれで76~95MHzで強力にSGの発振信号を捉えるようになりました。これで放送が入るはず.....です。
 
と言うことで,トラッキング調整もAMと違ってFMは非常に厄介です。
 
☆ディスクリ調整
 
次は周波数弁別器の調整です。ディスクリミネータというので,日本でもディスクリの調整なんて言うことが多いです。
 
今回,FM検波としてはフォスター・シーリー回路を採用しています。2次側に同調回路を持っていますが,同調曲線がS字状のカーブになるため,入力の周波数に比例した直流電圧(実際は音声信号で変調されているので交流になりますけど)を取り出すことができます。詳しくは前回をご覧ください。 
 
FM検波回路にはレシオ検波がよく使われましたが,フォスター・シーリー同様,コイルの1次側,2次側ともに同調回路になっているので,複同調となっています。
 
真空管のIFTだと複同調が当たり前ですが,Tr用はTrのインピーダンスが低いこともあってほとんどが単同調になっています。ところが,FM検波段だけ,複同調のためコアが2つ必要で,FM検波のIFTは2個使うか,それを1つのケースに収めて細長いケースになっています。後者だとすぐにどれがディスクリIFTかわかるので便利なのですが,前者だとなかなかどれがディスクリかわからないのでちょっと困るのですが,たいていはすぐ並んで配置されていますので,わかります。
 
今回,FCZ研究所の10.7MHz用IFTを2個使用します。1次側,2次側ともに10.7MHzに同調させればよいので,IFTの調整の時と同様,局発から10.7MHzを注入し,オシロで検波出力を観察して最大になるようにコアを回します。
 
       ☆         ☆         ☆
 
1918年3月,西部戦線に巨大な大砲が出現します。列車砲として知られた独クルップ社製の通称パリ砲(Paris Gun)です。その名の通り,パリを砲撃する目的がありました。ドイツ軍ではKaiser Wilhelmと名付けられていました。
 
口径210mm,砲身長21mの巨大砲で,106kgの砲弾を130kmも飛ばしました。最大射高は42000mにも達しました。
 
たぶん,ドイツ領内での試射の時の話だと思いますが,技術者や将校たちは射撃すると奇妙なことに気がつきました。仰角が45゜ではなく,50゜以上にした方が遠くに飛ぶ,と言うのです。実は,砲弾が成層圏に達していて,空気抵抗が減少するので,仰角が高い方が遠くまで飛びました。人類が作ったもので初めて成層圏に達したものとされています。
 
3月21日木曜日の朝7時18分,最初の砲弾が発射され,15分間隔で初日に21発が着弾しました。
 
当初,フランス軍はツェッペリン飛行船からの爆撃と考えたようですが,破片を分析した結果,砲弾であることが判明し,それも前線のはるか後方から発射されているらしいと判明して驚愕します。最初はベルギー・リエージュの12個の要塞をたった2週間で沈黙させた42cm榴弾砲かと考えられましたが,そもそも榴弾砲は迫撃砲の一種ですから砲身が短く,長距離は飛びませんから,何らかの巨大砲と考えられました。
 
パリ砲は8月までに320発以上を発射し,犠牲者は250人に上ったようです。すでにアメリカが参戦していましたが大部隊が到着する前に決着をつけようと,第1次世界大戦最後の大攻勢にあわせ,砲撃を開始しました。ただ,巨大砲弾と言っても中身は7kgのTNT火薬しかないため爆弾の威力としてはそれほど大きくなく,これなら第2次世界大戦中にB17爆撃機がドイツに雨あられと投下した1t爆弾の方が威力は大きいです。フランスを屈服させる新兵器,と言うよりはパリを砲撃して戦意をそぐという意味合いの方が濃かったようです。
 
第2次世界大戦ではさらに巨大なグスタフとドーラと名付けられた2門の巨大砲が作られますが,フランスが予想外に早く屈服したため,実際にパリに向けて砲撃することはありませんでした。
 
いよいよiruchanもゲルマニウムTrを使ったフルディスクリートのFMラジオが完成に近づきました。さあ,パリに向けて砲撃開始!!!!..........してはいけません!!

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ゲルマニウムトランジスタ スーパーヘテロダイン方式FMラジオの製作~その3・IFTとFM検波回路について~  [ラジオ]

2018年5月6日の日記

前回でようやく局発が動作するようになり,泥沼の西部戦線を脱してパリに向けて進撃中のiruchanです。今日から調整に入りました。

さて,ようやく本格的に調整,と行きたいところですが,まだ未設計の箇所があります。

実は,検波段をまだ設計していないのです。

というのも,第1回にも書きましたけど,まずはIFTが問題なのです。そもそも,今どきTrラジオ用のFM IFTを入手しようとすると手に入らないのも問題なのですけど,特に,FM用の場合,検波段用のIFTが特殊で,これを入手できないと組み立てられないのです。

ラジオ部品のお店でも,もう売ってはいないと思います。まだAM用は手に入るのですけどね。と言って,FM用は昔も簡単に手に入ったか,と言うと昔でも売っている店を見かけたことがありません。やはりFMは難しすぎて,作る人もいないので売っていなかったのだと思います。

でも,熊本のFCZ研究所が最近まで10.7MHzのIFTを作っていました。iruchanも大変ありがたくそれを使わせていただいています。

ただ,このIFTは1種類しかありません。

厳密に言うと,IFTは4種類必要なのです。FMは特に,最後の検波段用が面倒で,専用のIFTが必要となります。また,前回も書きましたように,初段用は同調コンデンサがないので,これも特殊です。

そんなこと言うと,AM用も同じで,真空管で2種類,Tr用で3種類あるのです。

これらは使用する位置で決まっていて,AMだと変換管に使うものと,中間周波増幅管に使用するものの2種類があり,たいていはA,Bという記号がついています。Tr用は中間周波2段ですから,A, B, Cの3種類が必要です。コアに色がついていて,それぞれ,黒となっています。順番に,コンバータからこの色のコアのIFTを使います。

ついでに,局発コイルも同じ形状ですが,コアがに塗られています。もちろん,これはIFTじゃありませんが,2次巻線があるのが普通です。

だから,AMのTr用IFTは4種類セットで売られていることが多いです。

とはいえ,真空管もそうですが,今どき全種類のIFTを入手することは難しく,特に真空管だと455kHz用として1種類しか売られてないことも多いです。

で,これらを2ヶ所に使っても問題ないのか,ということですが,ほとんど問題ないと思います。Tr用だって,1種類しか手に入らなくて,全段に同じものを使っても問題になることはないと思います。

なんでこのように種類があるのかというと,微妙に使用するTrにあわせてインピーダンスが変えてあるためで,さらに検波段用の真空管のBとTr用のC(コアは黒)は2次側のインピーダンスも下げてあって,2極管やダイオードの低いインピーダンスに整合するようになっているからです。

ところが,FMの場合はそれだけじゃありません。

真空管用は2種類,Tr用は3~4種類あります。特に最後の検波段用が特殊で,AM用と違ってほかとまったく違う巻線構造になっているのでほかの色のコアのやつを流用することはできません。また,前回も書きましたように,初段(コンバータ)用は同調コンデンサがありません。

検波用が特殊なのは検波回路がAMと違って当たり前ですけどねいるためです。

FMはレシオ検波を使うことがほとんどですが,レシオ検波は巻線構造がほかと違い,3次巻線まで必要な特殊な巻線構造になっています。それに,そもそもTr用のIFTはAM用のも含めて,単同調になっているのが普通ですが,FMの検波段用だけ複同調になっているのでコアが2個必要です。これを1個の箱にまとめて,長方形になっているものもありますし,バラバラで2個になっているものも多いです。

       ☆        ☆        ☆

ということで,やはりFM用のIFTは大変なのです。

それと,もう一つ,iruchanには大きな疑問が.....。

FM用のIFTのコアの色がわからないのです。

確か,ピンクとか,とか,AMとは異なる色だったのですが,何色が何用なのか,わからないのです。

当然,AM/FMの2バンドラジオだと調整時に間違えると危険なため,AMとは違う色が使われているのですが,それが何を意味するのかわかりませんでした。

そこでいろいろ調べたのですが,わかりません。JISで決められているのかと "JIS C6421 放送受信機用中間周波変成器" を見ても色の規定はありません。

そこで,国内某2社にメールで問い合わせてみました。

1社は "型番を特定していただかないとお答えできません" の一点張り,もう1社は ”コアの材質によるものです” とのこと。どちらも答えになっていませんね。

特に前者はどうも若い人らしく,端末を叩いているだけの人のようでした。横のベテランのおじさんに一言聞くか,図書室で古いカタログでも見てくれれば,何かわかるんではないかと思ったのですけど.....。

世界的にどのIFTもこのような色が使われいるので,何か決まりがあるはずだと思ったのですけどね。

それにしても今,日本のメーカに何か問い合わせをしてみると,どこもこのような対応です。めんどくさいことを聞いてくれるな,と言わんばかりの応対ですし,完全に無視で返事が来ないこともきわめて多いです。この2社は答えが来ただけマシ35なのかもしれません。

それどころか,半導体などの規格表をダウンロードしようとしたらいちいち登録しないとダウンロードできないのはもちろん,JIS規格や特許など公的な資料を調べようと思ってもネットには出ていません。JISや公開特許公報くらいはPDFでダウンロードできないといけないと思うのですが,実際,米国特許庁USPTOだと1790年からの公報が見られます。どうやら,日本の場合,これらの資料を販売している業者さんがいるので,無料でPDFで公開できない,と言うことらしいのですが,一体何だかな~って感じです。これじゃ,日本でビジネスをしてみたい,と言う外国企業は日本をパスしてしまうと思います。

ちょっと脱線しちゃいました。

結局,いつも大変お世話になっている河童さんに伺ったところ,1971年発行の東光のカタログをいただきました。

ようやく,FMのIFTはオレンジの順でIF1,IF2となっていて,レシオ検波用のは2個あって,入力側がピンク,出力側がと言うことがわかりました。また,前回も書きましたとおり,はコンバータ用で,これには同調コンデンサが接続されていません。ほかにシリコン用はIF段共通で黒色のものがあるようです。それと,おそらく後述のクォドラチャ検波用のコイルもあるはずで,それはまた別の色に塗られているはずですが,そこまではわかりませんでした。

これでようやく謎が解けました。部品屋さんで見つけたり,ジャンク基板から取り出す際などにご参考にしてください。

ただ,これは必ずしも全社統一されていたわけではなさそうで,検波段はという組み合わせもあるようです。と言う次第で,下手すると今どきディスクリートでFMラジオを作ろうとすると,ジャンクのFMラジオの基板から取り外した方が早い,と言うことなのかもしれません。

       ☆        ☆        ☆

さて,ここまで来たところで,やはり問題は検波段用のIFT。ピンクのコアのIFTが入手できればレシオ検波ができるのですけれど.......。

eBayや海外の部品屋さんやサープラスショップも探してみましたが,無理なようです。

といって,iruchanは実はレシオ検波用のIFTの入手が無理なのは先刻承知で,別の方法を考えていました。

ひとまず,FMの検波についておさらいしておきましょう。

最初のFM検波回路はスロープ検波でしょう。

中心周波数をIFとは少しずらしたIFTを用意します。その中心からずれたところの傾斜したカーブを利用し,その領域にIF信号を通すと周波数に応じて振幅の変わる波に変化します。これをAMみたいにDiで整流してやれば周波数に比例した直流が得られることになりますね。これがスロープ検波です。以後のFM検波はこの方式を踏襲して,やはりFM波を周波数に比例したAM波に変換するのが目的です。周波数弁別器なんていかめしい日本語がありますが,英語ではdiscriminatorで,日本語でもディスクリなんて言ったりします。

スロープ検波の場合,やはり傾斜したカーブが非線形なのでどうしてもひずみが発生するのでHiFi向きじゃありません。

次に考えられたのが,IFTの2次側に2つ,やはり中心周波数のずれた同調回路を設けるものです。複同調検波回路とか,発明者の名前を取ってトラビス回路とか言います。

これも2つの中心周波数がうまく配置されていないとひずみを生じますのですぐに廃れました。

本格的なHiFiのFM用としてはRCAのFosterとSeeleyが発明した,フォスター・シーリー回路が有名です。

ひずみも少なく,本格的なFM用として普及しますが,残念ながら,AM妨害に弱く,どうしてもリミッタが必要なため,この点を改良したのがやはりRCAが開発したレシオ検波です。

これはリミッタ作用があり,安価なセットではリミッタを省略しています。

このレシオ検波はFM検波の主流となり,真空管の時代からTrの時代になっても,さらにはICの時代が来るまで主役でした。チューナーもソニーの名機ST-5000Fがレシオ検波です。このチューナー,Marantzの真空管式10Bを凌駕する,という触れ込みがありました。1971年開発なのでICをまったく使っていないフルディスクリートのチューナーで,とてもあこがれました。う~~ん,昔はよかったな~。

一方,周波数弁別器と異なる原理に基づいたFM検波方式も開発されています。

有名なのはゲーテッドビーム管の6BN6ですね。位相検波と言われます。一種の5極管ですが,グリッドが2種類あり,スクリーングリッドに相当するG2にIFに同調したタンク回路を接続すると,そこに主搬送波と90゜位相がずれた信号が発生し,G1に加えられたIFと積を取ると位相のずれに比例した直流がプレートに出る,と言うものです。

おまけに6BN6はリミッタ作用もあり,また出力電圧は数Vと大きいため,直接出力管をドライブできることもあって,TVで普及しました。TVではトランスレス用の3BN6がよく使われました。ほかにも,6DT6FM1000などの専用管も開発されていますね。ただ,ひずみが多いので,HiFi用としては用いられませんが,リミッタ作用は強力なので米Scott社のチューナにリミッタとして用いられています。

ICの時代になると,同様の乗算器をIC内部に作り,クォドラチャ検波として多用されることになります。今でもラジオ用のICはこのクォドラチャ検波を採用しているものが多いです。なにより,セラミックディスクリミネータが開発されると,これはLCのタンク回路と違って単なるセラミック共振子ですから調整不要というメリットもあり,現在は主流となっています。レシオ検波はコイルを使っている関係上,どうしても調整が必要で,調整をするおばちゃんかどうかしらないけどの人件費がもったいないと言うよりおばちゃんは怖い,というわけです.......。

ほかにも,ICの時代にはPLLが簡単に実用化できるようになり,PLL検波というのもあります。これはIFに追随したVCO(電圧制御発振器)を作り,その制御電圧が音声そのものとなる性質を利用したものです。

そのほか,通信機で用いられたパルスカウント検波なんてのもあります。

これは,IF信号を一定幅のパルス列に置き換え,そのパルスを積分することにより音声信号を取り出すものです。

1980年代に入ると郵政省が各県に1局,民放の設置を許可するようになり,多局化が進められるとにわかにFMブームとなり,チューナーも売れたので,昔から高周波の得意なトリオがチューナーに採用しました。いかにも高級そうだし,音もよさそうなのでiruchanもとてもあこがれました。KT-9900とかL-02Tなんて,いまでも中古価格が10万円を超えるくらいだし,大変な高級チューナーでしたよね。

ただ,パルスカウント検波はそのまま10.7MHzのパルスでやることはほとんどなく,もっと低い周波数に変換してからやるのが普通です。

その1980年代は各社,差別化を図るため,このように検波方式もバラバラで,競っていました。そんな中,関西の某大手家電メーカがレシオ検波をHiFiにぴったりだと売り出して笑っちゃったことがあります。ラジオはともかく,もう当時すでに使われることはない技術だと思いましたけどね......。

さて,こうやってFMの検波にはいろんな方式があるのですけど,ディスクリート回路に使えて,しかも簡単な方式でレシオ検波以外,と言うことだとフォスター・シーリーだと思います。しかも,フォスター・シーリーだと特殊はIFTは不要で,段間用のIFTを流用できるんです。また,昔からフォスター・シーリーの方が直線性がよく,音がよいとされています。確か,80年代のチューナーブームの時もどこかが出したような.....。

       ☆        ☆        ☆

さっそく設計してみたいと思います。

でも,レシオ検波もそうですが,フォスター・シーリー検波の詳しい設計法を書いた資料が見つかりません。原理を書いた本は一杯あるのですけど,具体的に各定数をどうやって決めるか,書いた本がないのです。

ということでやはり困ったときのSpice頼みで回路シミュレータで設計します。

まず,FM変調波は通常の電圧源voltageから変調を選択できますので楽です。

FM変調設定.jpg SSFMを選択します。

Foster Seeley(10S10.7).jpg回路はこうです。

IFTは3個の巻線が必要です。しかも,トランスとして使うので,いずれも結合してないといけません。

これについては,LTspiceの一番右上にあるdirectiveの設定が必要です。

Spice Directive.jpg Spice Directiveボタンはここです。

これをクリックして,

  K L1 L2 L3 結合係数

と記述すると3つのコイルが結合します。回路中に複数のトランスがある場合はK1,K2....と記述すればOKです。

なお,2次側の51pFはIFに同調しないといけないのですが,L2,L3はもちろん,この結合係数によっても同調周波数が変わるので,▼のSカーブを調べて,ちゃんと中心に10.7MHzが来るように決定する必要があります。

また,シリーズにつながっている2個のコイルは本当は1個で,センタータップが出ているだけなので,向きを合わせないと電圧を打ち消しちゃいますので,コイルの記号を右クリックして,show phase dotをチェックして向きを揃えておきます。

なお,L4は単なる独立のインダクタでいいので,結合の設定は必要ありません。レシオ検波だとこれまで結合しないといけなくて,このせいでIFTが特殊な巻線となってしまいます。

IFTはFCZ研究所の10.7MHzのものを使います。

ただ,問題はこのコイル,同調側の真ん中のピンがセンタータップではありません。

これはTr用のIFTには共通のことで,AM用も普通,センターではなく,ずれたところからタップが出ています。

これは接続するTrが低インピーダンスなので,それにあわせて整合を取っているからですが,FM検波に使うには不都合です。

どうしようか迷ったのですが,とりあえず,Spiceでテストしてみてどうするか決めたいと思います。

FCZのIFTの同調コイルの巻数は4Tと6Tなので,インダクタンスとしてはこの2乗に比例しますので,16:36になるようにインダクタンスを決めます。っていうか,4:9だろ。

結果は.....。

Foster Seeley output(10kHz).jpg10kHzが出てくるのがわかります。

10kHzで変調していますので,10kHzが出てこないといけませんが,ちゃんと出てきます。輝線? が太いのは10.7MHzのIFが漏れているからですが,これは簡単なフィルタで消えますので問題ありません。

また,さっきの独立インダクタは100μHくらいないとダメな感じです。意外におおきなのが必要なんですね。

ただ,実を言うと,教科書にはフォスター・シーリー検波だとここがコイルになっていますが,普通の抵抗でもよく,メーカ製のセットだと抵抗で代用している場合があります。LTspiceでシミュレーションしたところ,50~100kΩでよさそうです。

さて,さっきの2次側非平衡の問題ですが,

S curve.jpg Sカーブです。

IFをスイープして2次側の電圧を見てみますとこんな感じでした。いわゆる,Sカーブが出ていますね。この曲線を利用して,IFからずれた周波数に比例したAM波に変換します。

そんなにひずんでいる感じではないし,しょせん,小さなスピーカをつないで鳴らすだけだし,これで十分ではないかと思います。こんな小さなラジオだとスロープ検波でもいいくらいだし,これでいいんじゃない,と思います。

       ☆        ☆        ☆

ついでに,レシオ検波もシミュレーションしてみました。

ratio FM discriminator.jpeg こんな感じです。

レシオ検波は2次側のコイルは3つ(実物は2個で,1個は真ん中にタップがあるんですけどね)必要で,いずれも結合が必要です。

2つあるDiはフォスター・シーリーと違って逆向きで,また,Diの出力に大容量のケミコンがつながっているのがレシオ検波の特徴です。このコンデンサのおかげでリミッタ作用があります。

出力波形はフォスター・シーリーも同様で,起動後しばらくは▲のようにマイナス側に大きく振れます。ちゃんと出力に10kHzが出てくることがわかりますね。

残念ながら,FM用のレシオ検波用IFTを入手することは古いFMラジオを解体でもしない限り,難しいかと思います。

ただ,問題になる3次巻線はやはりFMなので,ほんの数Tの巻数でよいはずだし,FCZのIFTを改造して作ることもできるのではないかと考えています。

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