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ACE 6石スーパートランジスタラジオキットAR-606~ゲルマニウムTr版~の音質改善・NFBの利用 [ラジオ]

2019年4月6日の日記

先週,OPTを交換して高域のf特を改善しました。カットオフは2.5kHzから6kHzに改善でき,かなり音質もよくなりました。

もうひとがんばりして,高域を改善したいと思います。それに,低域も少し悪くなってしまったので,改善したいと思います。実際,聞いてみても,まだ音質は悪く,アナウンサーの声も少しひずんでいます。

もう,ドライバ段のトランスもOPTも交換してしまったので,あと,打つ手としてはNFBくらいしかありません。

前回,6dBほどのNFBをかけてやれば,80Hz~20kHz(-3dB)くらいになりそう,と予想したので,取り組んでみます。

☆LTspiceによるシミュレーション

まずは,回路シミュレーションソフトで確認してみたいと思います。

トランス類は今回使用したものをLCRメータで測定したインダクタンスなどを入力しました。残念ながら,ゲルマニウムTrのSpiceモデルは非常に少ないので,iruchanが以前作成した,2SB542SB56で代用します。

AM Tr super radio LF circuit.jpgNFBなし

f特はこんな風になりました。

AM Tr super radio LF f特 0NFB.jpg やはりかなり悪いです。

1kHzを基準として,帯域幅は-3dBで824Hz~1.34kHzと言ったところです。

OPTの2次側から,LFの2SB54のエミッタに帰還します。

AM Tr super radio LF circuit-1.jpgNFBをかけてみます。

AM Tr super radio LF f特 NFB.jpg かなり改善されます。

25dBものNFB量になってしまいますが,かなりf特は改善され,74Hz~5.4kHzとなります。

こんなに大量のNFBをかけることなんてできひんやろ,と思ったのですが,とりあえず,この定数で実験してみようと思いました。

☆実験結果

ただ,シミュレーションではちょっとNFB量が過大で,間に2つもトランスが入っているのに,こんな大量のNFBをかけることは実際には絶対無理,と思ったので,最初はもとのAR-606の回路のとおり,R5=1kΩのままとし,付加したNFループ内の抵抗はR10=1.6kΩ,R11=2.2kΩにしてみました。NFB量は▼から,7dBほどです。

ACE AR-606 NFB結果.jpg実測結果です。

かなりf特は改善され,-3dBで,180Hz~90kHzとなりました!!

ただ,残念ながら,SPの代わりに8.2Ωのダミー抵抗をつないで,両端の電圧をオシロで観測してみると,100Hz以下の周波数では▼のように発振しており,残念ながら,この定数はNGのようです。

低周波発振.jpg あちゃ~~[雨][雨]

こんな風に,100Hz以下の信号を入力すると,寄生発振しています。これだとNF量は過大で,減らさないといけません。

その後,いろいろ定数を変えて実験してみました。

やはり定数はかなりシビアで,驚いたことに,チューニング用のダイヤルを回すと所々で発振したり,放送を受信すると発振が止まったりする現象が出ます。それどころか,ボリウムを大きくすると発振する,なんて現象もあります。音量が小さいときはOKだけど,音量を大きくするとSPからビ~~ッと発振音が聞こえます.....。

また,実際に使用しているLFの2SB175のエミッタ抵抗は1kΩくらいでないとまずいようで,これまでの定数だと2kΩを超えるのですが,こうなるとコレクタ電流が小さすぎ,かなりひずむようです。

結局,あれやこれや変更してみて,ようやく▲のLTspiceの回路の定数としました。

ACE AR-606 NFB結果1.jpg最終f特です。

最終的に,このグラフで決着です。が実際の低周波部のゲインで, は1kHzを0dBとした相対レベルです。

NF量は5dBほどで,帯域幅は-3dBで300Hz~20kHzくらいとなりました。低周波の発振も消えましたし,今回はチューニングダイヤルの全帯域で発振するところはありません。まあ,40kHzにピークがありますが,やはりこのあたりの周波数は不安定のようですが,可聴帯域外なので問題ありません。

さて,実装の方は大変でした。AR-606は比較的基板も大きいし,部品も余裕をもって取り付けられているので楽そうなんですけど.....。ただ,低周波部は混み合っていて,CR類を取り付けるスペースはあまりありません。結局,基板の裏表を使い分けて実装しました。

ACE AR-606 NFB回路実装.jpg NFB回路の実装状況

ACE AR-606 NFB回路実装1.jpg 基板の表側です。

 写真では,抵抗は1.6kΩですが,あとで470Ωに交換しています。

OPT2次側から負帰還しますが,OPTの接続によっては正帰還になって,思いっきり発振しちゃいますので,気をつけないといけません。

残念ながら,オリジナルのOPTの接続状態では正帰還となってしまい,SPをつないでスイッチオンしたら,大音量でビ~~ッと発振しちゃいました。

慌てず落ち着いて,OPTの2次側の配線を逆にします。OPTの2次側のGNDを逆に配線しないといけないので,パターンを切って,▲の写真のように,ジャンパ線で2次側の配線を逆にしました。もちろん,2次側の電線を入れ替えてハンダ付けしてもOKです。

こうして発振音もせず,きれいに放送が聞こえればまずは成功です。▲の写真のチューブラ電解コンデンサ100μFをつけたり外したりしてみて,つけたときにSPの音量が小さくなれば,NFBがかかっています。オシロがあると,実際に波形が小さくなるのを観測できれば,ひとまず成功です。

あとはf特を測って検証しますが,今回,iruchanはチューニングダイヤルやボリウムの位置によっては発振したりしたので,その点も注意してチェックします。

1kHz(NFB 5dB).jpg1kHzの波形です。

低周波~高周波で全帯域に渡って発振しなければOKです。ひずみも改善され,きれいな正弦波が観測できました。

なお,NFBをかけると低周波部のゲインがその分,低下し,音量が小さくなります。AR-606は低周波のゲインには余裕があり,ボリウムを一番小さく絞ってもかなりの音量なので,前回まで,アッテネータ抵抗を入れていたくらいですから,NFBをかけても十分なゲインがありました。今回,その抵抗を撤去しましたが,一番絞っても音が聞こえないくらいになったので,逆に使いやすくなったと思っています。

         ☆          ☆          ☆

やはり,SPをつないでみると,非常に自然な音になり,HiFiとなりました。さすがにSPの口径が小さいので,低音があまり出ないので,やはりAMラジオだな,という音ではありますが,非常に音がよくなりました。オリジナルの状態とは劇的に改善され,聞きやすいです。いくら小型ラジオとは言っても,少なくともこれくらいの音質でなきゃ,という感じです。これなら長時間聞いていても疲れないし,自然な音で聞きやすいと思います。

小型Trスーパーラジオの音質改善にはやはりNFBが有効であると実感できます。今後,iruchanが作るTrラジオにはNFBをかけることにしたいと思います。

実際,AMラジオでも低周波部にNFBを使う,というのは古くからあり,iruchanが持っている,奥沢清吉著 "新しいトランジスタ製作集" (誠文堂新光社'67.3)では,7石スーパーの回路にNFBをかけています。TrラジオではNFBを使った記事は少ないようで,iruchanが持っている資料でもNFをかけたラジオの製作記事は見たことがありません。そもそも,Trのスーパーの製作記事はほとんどないし,あってもキットの製作記事であることが多いので,なかなか資料探しも大変なんですけどね。

そのほか,真空管時代のラジオもLPレコードが登場してHiFiがキーワードとなる1950年代末にはNFBをかけることが盛んに行われました。もっとも,5球スーパーでは検波に6Z-DH3A6AV6と言った球を使うのですが,これらは2極部と3極部のカソードが共通になっていて,NFBをかけると2極部の動作点が変わってひずみを生じてまずいので,これらのカソードを独立させた,6W-DH3S6AV6Sが発売されています。6Wとなっているのはカソードを分離してピンが1本増えてためですが,Sってなんや? という気がしますけど......。separateの略でしょうか? A電池の消耗を減らすため,フィラメント電流を小さくした,電池管の1T4-SFなどのSFも昔からイミフなんですが....。こちらのほうは,save filamentの略のようです。

もう,大昔の話ですし,こんなこと知っている人も少ないと思いますけどね.....。

    ☆          ☆          ☆

最後に,ACEのAR-606形トランジスタラジオキットの回路を載せておきます。残念ながら,オクで入手したAR-606キットは未組み立て品でしたけど,説明書がなかったので,回路は推定です。標準的な6石スーパーの回路なので簡単です。

ACE AR-606トランジスタラジオキット回路.jpgAR-606回路

丁寧に2段あるIFに中和がしてあるのに感心します。後期のTrラジオは中和してないことが多いのですが,本機は中学の技術家庭の教材としても使われることが多かったため,中学生が組み立てても,無事に動作するように設計されているのだと思います。

赤字部分が今回の改造部分です。オリジナルを尊重するのがiruchanの主義なんですけど,今回は大幅に改造しちゃいました.....(^^;)。

アンテナコイルとバリコンに直列に挿入されている5.6ΩはQダンプ用です。こうするとHiFiになりますし,同調もやりやすくなります。逆に,感度が下がってしまうので,低感度のラジオじゃNGですが,ACEのキットはとても高感度なので,十分利用できます。


以上で,ACEの6石スーパートランジスタラジオキットAR-606の記事は終わりです。どうもありがとうございました。


☆おまけ‥‥‥‥LTspiceによるトランスのシミュレーション

LTspiceにはトランスという部品はありません。

トランスのシミュレーションには,2つのコイルを用い,インダクタンスを設定するとともに,2つのコイル間の結合係数を追加します。結合係数は,LTspiceでは,ツールバーのEditメニューから,Textを選択すると追加できます。

1次巻線が発生した磁束が漏れることなく,2次側コイルに入れば結合係数は1です。実際には漏れや損失がありますので,若干小さくします。

と言うことなんですけど.....。

iruchanは今回ドはまりでした.......orz。

今回,NFBの効果を見ようかと,6石スーパーの低周波回路をシミュレーションしようとしたのですが,何度シミュレーションをチェックしても,出力は0です。

最初は初段のLFの2SB54の定数が悪くてカットオフしちゃって出力が0なのかと思いましたが,そうでもないし,いくら調べても原因がわかりません。

困ったな......。

結局,原因がわかるのに2ヶ月もかかっちゃいました。なんでそんなにかかるのか!

頭にきて,トランス単体にして,AC電圧源をつないでみて気がつきました。

やっぱり出力は0なのです....。

結合係数の設定・誤.jpg Commentになっていました。

ようやく,トランスの結合係数をきめる,コメントがフツーに,Commentとなっていて,単なるメモになっちゃってて,LTspiceは結合係数とは理解していないため,と言うことに気がつきました。なぁんだ,という原因なんですけど....。

結合係数の設定・誤1.jpg 出力は0です。

まるでこれじゃ,心停止!! 出力は直線のままです......。

先ほどの,結合係数の定義のテキストをCommentから,SPICE directiveに変更します。

トランステスト回路.jpg ようやく成功です。

ちゃんと,高校の物理でならったように,2次側は90゜位相のずれた波形が表示されればOKです。

こういうミスのないよう,最初から,ちゃんとトランスの部品が用意してあれば,問題なかったと思います。

こんなことに気がつくのに,かなり時間がかかっちゃいました。皆さんお気をつけてください。


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8045G/6240G

奥沢清吉氏、泉弘志氏、両氏にはゲルマニウムラジオにはじまり1,2石ラジオ、6BM8単球ラジオ、、、、半世紀以上昔、小、中学生の頃「子供の科学」、「初歩のラジオ」実体図頼りに大変お世話になりました。当時作成したラジオの部品が(アルプス電気の単連バリコン、トリオの並四コイル、SELの電源トランス、2SA49、2SB49、SD46、ST-11、ST-32、、、)まだ手元に残っているのでラジオでも作ろうかな。当時の愛読書「初ラ」も「ラ製」も絶滅してしまいました。こちらは、先週数センチ雪が積もりました。
※6CA10(50CA10),6AU6,ST-220,U-808を使ったシングルアンプの製作記事「シンプルなデザインと回路 6C-A10シングルメイン・アンプの製作(清水源一氏、安部保氏)」実体図付きで保管してあります。ご興味ありましたらご連絡下さい。
by 8045G/6240G (2019-04-09 00:58) 

iruchan

どうもコメントをありがとうございました。

残念ながら,iruchanは杉本さんはお世話になりませんでした。本については大人になってから知りました。"現役" だったのは奥沢さんだけですが,すでにアンプだけの本を書いておられました。ラジオ関係の本も古本屋で買ったりしたものです。

ぜひラジオも作ってください。2028年には不要になるかもしれませんが。

残念ながら,50C-A10は手持ちがありますが,シングルのアンプは興味がないので記事は不要です。どうもお気遣いありがとうございます。


by iruchan (2019-04-09 20:55) 

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