ACE 6石スーパートランジスタラジオキットAR-606~ゲルマニウムTr版~の音質改善 [ラジオ]
2019年2月10日の日記
今日は先日,完成したACEの6石トランジスタラジオの音質について書いてみたいと思います。
残念ながら,せっかく完成したのに,音質はキン,キンと高音ばかり出て,また,かなりひずんでいて,聞きにくい音質でした。
とはいえ,これはACEのラジオが悪いわけじゃなく,Trラジオ全般に言えることですよね。そりゃ,Trラジオは何より小型なのが最大のメリットで,そのため,スピーカが小さいし,また箱も小さいので低音なんて出るわけがなく,音が悪いのも当たり前,という気がします。
ただ,そうは思っていたのですけど.....。
実を言いますと,以前作った,英Mullard社の最初期のOC70などのガラス製ケースに入ったTrを使ったラジオの音質が意外にいいのです。
これ,作った本人がびっくりするくらい音がよく,低音も豊かだし,Trラジオ特有のひずみっぽいキン,キンという音じゃありません。
スピーカだってφ57mmのアルニコSPですし,ACEとほとんど同じ口径です。何か,MullardのTrを使ったラジオはいい点があるようです。とはいえ,ごく普通の6石スーパーで変わったところはありませんが,まあ,ひょっとして例のBlack Bulletと呼ばれるガラス封止の黒いTrのせいかな,と言う気もするのですが....。
とはいえ,ACEのAR-606もごく標準的な6石スーパーの回路で,何も変わったところはないのですけど.....。
ということで,チョッとACEのラジオのf特を調べてみました。
オーディオ初段の2SB175のベースにテストオシレータをつなぎ,また,SPの代わりに8.2Ωの抵抗をつないで,オシロで観察してみました。
すると....。
まずは驚いたのは100Hzの正弦波ですら満足に増幅していません。非常にひずんだ波形で,ACEの回路はごく標準的なものですから,標準の6石スーパーってこんなものなんでしょう。これじゃ,低音が出ないわけです。
で,これは何が原因かというとおそらくアイドリング電流が不足しているためと思います。もともと,Trラジオは電池で動くわけですから,電池の寿命を延ばすため,極端に電流を絞った設計となっています。
一番に疑うのはB級の出力段です。HiFiオーディオアンプでも出力段のアイドリング電流はきわめて重要なファクターで,iruchanは100mA以上流すことにしています。もっとも,ラジオじゃ,そんなに流せませんけどね.....。
ところが,今回は出力段じゃなく,ドライバ段のアイドリング不足でした。
オシロで,出力の2SB172およびドライバの2SB175のコレクタの波形を観察してみると,▲のように波形がひずんでいるのはドライバ段でした。
う~~ん,ちょっと意外。
確かに,出力段は1mA程度のアイドリング電流が流れていますが,なんと,ドライバ段は測ってみると0.038mAと極端に小さいです。もう少し電流を流してやらないとやはりひずんでしまいます。
ということで,ドライバ段のバイアス回路を変更し,アイドリングを少し増やしてやります。
ACEのAR-606に限らず,Trラジオは電流帰還型バイアス回路となっています。ゲルマの時代は特にそうで,本機もこの回路になっていますから,少しいじって電流を増やしてやります。
この30kΩを8.2kΩに減少させました。ドライバの2SB175のアイドル電流は1.32mAと大幅増量です。
おそらく,Trラジオは,電池の消耗を防ぐため,ギリギリまで電流を下げる設計がしてあるため,ひずみが生じやすいのだと思います。当時の電池は性能も低いですしね~。今はアルカリ電池もありますから,ある程度,電流を消費する回路でもいいと思います。
少しノイズが乗っちゃっていますが,きれいな正弦波になりました。ラジオなので,局発を止めて測定しないとこういう風に高周波のノイズが乗っかっちゃいます。
ここまで来て,f特を計り直してみます。
低周波部のf特です。1kHz=0dBとしました。
低周波が大幅に改善されて,3dBほど改善です。70Hzくらいまではフラットなので,まあ,こんなものかと思います。
ただ,やはり気になるのは2kHzからダダ下がりな特性ですね~。
それに,AMラジオの高音が出ず,HiFiじゃない,と言う問題は皆さんもご存じの通り,昔から議論されていて,それはIFTなど,高周波部分の通過帯域幅が狭く高音が出ない,と言う問題がもとからあるのですが,これは低周波回路のf特なので,高周波部分の問題じゃありません。
とりあえず,考えられるのはドライバのトランスのL分と,パラに入っているCが共振し,高周波にピークを持っていることですね。
実際,AR-606のOPT1次側には0.02μFのセラミックコンデンサが入っています。また,ドライバトランスにも同じ容量のコンデンサが入っています。
これは工藤利夫著 "初等トランジスタラジオ教科書" (オーム社,1971年)によると,高音の改善のためらしいです。ただ,本の図は20kHzくらいにピークがあるので,本機は低すぎます。
結局,これらのコンデンサを撤去しました。
若干,高音域が改善され,-3dBで高域カットオフが2.5kHzだったのが4kHzくらいとなりました。
これでもまだiruchanは不満で,もっと改善したいと思います。SP端で計測したらほぼ重なるので,高周波はドライバ段で決まっているようです。次なる手はドライバの2SB175を交換してみようかと考えています。CQ出版社のトランジスタ規格表にはfTの記載がないのですが,ネットには750kHzという値が出ています。もとはOC75なので,こんなはずはなく,もっと低いのでは,という気がします。
低域のピークも気になりますけど,まあ,こちらの方はスピーカが小さいので,低音の改善になるかと思います。
また,本機は感度がよすぎて,ボリウムを最小に絞っても結構な音量で鳴ります。夜中に1人で聞くには音が大きすぎ,という感じがしますので,▲の回路図のように,VRの前に2.7kΩを挿入して,音を小さくしました。
☆ ☆ ☆
それにしても,トランジスタラジオの周波数特性って,こんなものなのですね。これじゃ,音がよいわけありません。トランス結合増幅回路なのでしかたないか,と言う気もします。6dBくらいのNFBをかけてやればフラットになるのに,という気がしますが,一応,オリジナルを尊重してやめておきます。
まだつづきがあります。読んでみようという奇特な方はこちらへ.....。
2019-02-09 21:16
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