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6G-A4シングルパワーアンプの製作~その2・設計編~ [オーディオ]

2016年6月7日の日記
 

さて,今回は回路設計に入ります。まずは増幅部から。

6G-A4は戦後の球なので高感度で,前回の規格表を見てもバイアスが-18V程度ですから, 入力電圧としては1/(2√2)なので,6.4Vrmsで十分です。

こんな程度の出力電圧でよいのなら,まずはパワーアンプのトータルゲインは20dBくらいあれば十分ですから,NFBで+6dBと考えると,裸のゲインは26dBとなり,逆算していくと,出力トランスで√(8Ω/5kΩ)で0.04倍,終段の6G-A4のゲインが約8倍となるので,前段のゲインは36dB(62倍)あればOKです。

と言う次第で,ゲイン的には12AX7 (ECC83)1本で十分で,実際,12AX7 1本で済ましている方が多いと思います。前回の三栄無線のSA-523型の回路も同じです。6BX76G-A4は同じ特性なので,この回路で作っても問題ありません。ただ,前回も書いたように,6G-A4はプレート損失に余裕があるので,もう少しプレート電圧も高くてもよく,SA-523型の回路で6G-A4で使用するのは少しもったいない感じがします。もっとも,球の寿命,という点ではこちらの回路の方が優しいので,このまま作ってもよいと思います。

ただ,何事につけ天邪鬼で世の中斜めに見ているiruchanは,12AX7 1本という回路じゃおもしろくない,と思いました。6BQ56CA7などの高感度の多極管のドライブ回路と同じで,作ろうという気がしません。こんなんやからいつも会社じゃ冷や飯食ってんだな~~~orz。

と言う次第で,以前からずっと,この回路で行こう,と考えている回路がありました。 パワーアンプの設計と製作.jpg 武末数馬氏の "パワーアンプの設計と製作"

ずっと中学の頃から愛読している,武末数馬氏の "パワーアンプの設計と製作" の上巻に6G-A4シングルアンプの試作記事が載っています。

武末氏の記事は常に正確で技術的にも高度なものなので,この本で私も真空管のアンプやNFBなどの勉強をさせていただきました。 

武末6G-A4Sアンプ1.jpg この回路です。

前段は6AU6を使い,多重負帰還を施し,トータルで15dBの負帰還をかけています。いまじゃ数dB程度のNFBを軽くかけるくらいが普通ですし,無帰還のアンプの方が下手すると人気がある感がありますが,どうにも無帰還のアンプというのは気に入りません。

iruchanはアンプはやはり性能,と考えています。と言う次第で,性能重視の武末氏の考え方に共感しています。iruchanは性能の悪いアンプがいい音がするはずがないと考えています。無帰還アンプというのはせいぜい,直熱3極管で成立するくらいのものじゃないでしょうか。多極管でノンNFBなんてアンプはロクな音がしないはずですし,それじゃ,アンプじゃなくてラジオ,という気がします。最近出ている本の記事は無帰還のものばかりでとても作る気がしません。

と言う次第で,増幅部はこの本の記事を採用することにします。

ただ,武末氏は前段は6AU6ですが,せっかく6G-A4を使うのだから,ということで同特性のGT管,6SH7GTを起用することにしました。6SH76AU6同様,gmが4.9mSと高感度です。

う~~ん,なんか真空管でS(シーメンス)なんてしっくりきませんけどね~。やっぱ,記号はmho.jpgで,読み方はモー(mho)だと思うんですけどね。そもそも物理量の単位に何でもかんでも人の名前つけんなと思うのは私だけでしょうか.........(^^;)。

GT管だと6SJ7がポピュラーですが,こちらはgmが1.6mSと6SH7の1/3です。同じ負荷抵抗ならゲインは1/3となります。と言って,本機に使えないわけではありません。6SJ7の方がメーカの選択肢も多いので,たまに差し替えてみたいと思っています。 困ったことに6SH7は米国だとほとんどメタル管で,ガラス球が少ないのです。私の手持ちもメタル管ばかりでした。国産でもどうやらほとんどが通信用だったらしく,値段も高いし,数も少ないのです。と言う次第で,6SJ7の方が楽しみとしては多そうです。メーカも多いし,メタルやMG管もありますしね。おそらく,6SJ7は民生用として大量に生産されたものの,6SH7はハイgm管と言うことで通信用で,あまり民生用の機器には使われなかったと思われます。

東芝, NEC 6SH7GT.jpg NECと東芝の6SH7GT

手持ちの6SH7はメタル管ばっかりだったので,あわててガラス管を購入しました。出力管が国産なので,6SH7も国産を探しました。NECは通信用,東芝は通測用でした。 

ところで,通信用って???

昔から疑問なんですけど,一応,通信設備などに使用する信頼性の高い球のことですが,早い話,電電公社か郵政省納品のものではないか,と思っています。

通測用というのは通信用のさらに上で,測定器などに使用する目的で品質管理をして一定の品質基準を満たした上で,寿命試験を経たものです。

なお,電源部は新規にリップルフィルタ式のものを設計しました。iruchanはもはや重くて高いチョークコイルは使わないことにしています。

リップルフィルタはTr1石とコンデンサ1個で済む非常に簡単なものです。ですが,効果は絶大で,ハムは根絶できますし,追加のメリットとして,電圧の立ち上がりが非常に遅くなる,と言うメリットもあります。真空管に優しい回路ですね。

リップルフィルタ.jpg リップルフィルタ回路

通常はダイオードや整流管で整流したあとの脈流はコンデンサで平滑化します。このコンデンサの容量は大きいほどよいのですが,整流管を使う場合,ラッシュカレントの制限のせいでせいぜい47μFが限度です。直熱整流管だともっと厳しく,5Y3GT80だと10~20μFが限度です。古い球ほど,小さくしないといけません。

これではリップルが残っちゃうので,普通はこのあとにチョークコイルとコンデンサを用いたLC回路によるπ型フィルタを用います。 

ところが,出力管が3極管の場合,内部抵抗が低いので,このLC回路の時定数はかなり大きくしないといけません。チョークコイルのインダクタンスはiruchanは多極管で5H,3極管で10H以上,と思っています。

なぜかというと,OPTの1次側にリップル電圧が現れますが,出力管の内部抵抗とOPTの1次側インピーダンスにより分圧されるため,内部抵抗の小さな3極管は不利なのです。 

この点,Trを用いたリップルフィルタ回路は▲の図にある通り,等価的にコンデンサの容量がTrのhFE倍となるため,整流管を使うと47μFが最大容量ですが,リップルフィルタを使えばTrのhFEが50くらいだとすると2500μFもの大容量をつないだのと同じ効果を得られます。

出力電圧は下式で求められます。ベースに接続されているコンデンサには電流が流れませんので,

                 リップルフィルタ出力電圧計算.jpg

Trのベース~エミッタ間電圧VBEは常温で0.6~0.7Vと一定だし小さな値ですので,無視してもかまいません。上式からもわかる通り,出力電圧はRBの値で自由に決められます。Vinはトランスメーカが発表しているコンデンサインプット整流の特性図から求められます。

PH-100(S)整流特性.jpg タンゴPH-100の出力特性 

一方,電圧の立ち上がりはRBとCの時定数により決まるので,この時定数(RB×C)の値を大きくすれば,最大値まで達するのに数分かかる,と言うような回路も設計可能です。

では,Spiceで実際にシミュレーションしてみませう。

6G-A4シングルアンプ電源(π型フィルタ,10H).jpg

チョークコイルとして,インダクタンス10HのタンゴC-110を使います。結果はやはり10Hは必要,と言う結果になります。武末氏の記事もLUXの4110という10Hのチョークコイルを使っています。 

6G-A4シングルアンプ電源(π型フィルタ)結果.jpg こんな結果となります。

出力電圧の平均値は整流直後(コンデンサインプット電圧)で339.8Vですが,LCフィルタを出たあとだと311.5Vとなります。ところが,リップル電圧は34mVP-Pという結果になりました。これが問題か,と言うと...... 

先に述べたように,OPTの2次側(スピーカ)に現れるリップル電圧は出力管の内部抵抗rpとOPTの1次側インピーダンスZpの比で決まりますので,OPTの2次側に現れるリップル電圧Vr_outは,

リップル電圧:OPT.jpg     リップル電圧出力.jpg

となります。√内はOPTの巻線比(インピーダンスの平方根に比例)です。

仮に6BQ5シングルのアンプだとすると内部抵抗は100kΩ,負荷抵抗は5kΩですから,B電圧のリップルが34mVの場合,スピーカ端子間のリップルは0.065mVP-Pとなり,全然問題じゃありませんが,6G-A4シングルだと内部抵抗は1.4kΩなので,リップルは1.1mVP-Pとなります。

まあ,これはいろいろとご意見があると思いますが,私はアンプの残留雑音は1mVrms以下が目標で,この場合,実効値だと0.39mVrmsですから合格ではありますが,やはり10Hものインダクタンスが必要なのか,という感じがします。やはり3極管は難しいと言うことがおわかりいただけるかと思います。

と言う次第で,3極管を用いたアンプの場合,電源のチョークコイルは10H以上必要ですが,巻数が多くなるので高いし,同じサイズだと電線径を細くしないといけないので許容電流値が小さくなります。結構,これ,困るんですよね。同じケースでインダクタンスの異なるチョークコイルが売られていましたが,10Hだと電流が足りなくてひとつ下にする,なんてことになりました。 

ちなみに5Hだとどうなるか,シミュレーションしてみました。

6G-A4シングルアンプ電源(π型フィルタ,5H)結果.jpg

やはりリップルが増え,69.8mVP-Pという結果になりました。 6BQ5だとSP端子間で0.13mVP-P6G-A4だと,2.2mVP-Pでした。

では,Trによるリップルフィルタはどうかというと,

6G-A4シングルアンプ電源(リップルフィルタ).jpg リップルフィルタ回路

結果は▼の通りです。なお,Spiceは日本製のTrのデータは少なく,松下製の2SD1350を使いました。 VCEO=400V, IC=0.5A, PC=1W, hFE=30です。Pcが小さいので,実際には使えませんけど。本機では損失は3Wを超えます。

6G-A4シングルアンプ電源(リップルフィルタ)結果.jpg 電圧の立ち上がりも遅いです。

ついでに,Spiceは制御Trの損失まで計算してくれます。最初,飛び上がっていますが,実際には相手は真空管なので,負荷は0からスタートしますので,問題ありません。損失は定常状態の平均で3.4Wの損失です。iruchanは大体,1W以上の熱が出る場合は放熱器が必要,と考えていますので放熱器をつけないといけません。 

リップル電圧は1.6mVP-Pとなります。LCのπ型フィルタに比べると1/20ですね。これだとスピーカに加わるリップル電圧は0.05mVP-Pとなり,無視できます。 

iruchanはすでに何台もリップルフィルタを採用したアンプを作っていますが,聴いてみた感想としてはやはり断然静かなアンプができます。どうしても真空管のアンプ,特に3極管のアンプはハムが出ますが,リップルフィルタを使うとほぼハムは根絶できますので,ぜひおすすめします。まあ,直熱3極管の場合はフィラメントによるハムもあるのですが,B電源からくるハムはなくなります。 

以上で設計した電源部を示します。整流はGT管で6G-A4と同サイズの6AX5GTにしました。5Y3GTの方がぴったり,と言う気もするのですが,直熱整流管は使っているとスイッチを入れるたびにフィラメントがパッと光り,あまり精神的によくないので,傍熱管にしました。もっとも,直熱整流管でもリップルフィルタを使うと,傍熱整流管みたいにB電圧の立ち上がりはゆっくりですので,出力管から見れば優しいです。

ところで,6AX5は整流直後のコンデンサ容量は10μFに制限されているようです。GEやTung Solの規格表にもこう書いてあります。ただ,ちょっとほんとかな~という気がします。古い直熱の80でも20μFですし,5AR4GZ34)や▲のタンゴの特性図に記載されている6CA4でも47μFはOKです。様子を見て47μFのままにしたいと思います。 

6G-A4シングルアンプ電源部.jpg 回路です。

リップルフィルタ用のTrは東芝の2SC3425にします。VCEO=400V, IC=0.8A, PC=10W, hFE=20~100と少し電流的には小さいですが,真空管用として最適です。hFEは大きいほどいいのですが,高圧TrはhFEは小さくなる傾向がありますから,こんなものです。フルモールドのTO-220パッケージなのも高圧を扱うのに適しています。コレクタが外被に接続されていると絶縁がやっかいですからね。

ちょっと長くなりすぎましたので,製作編は次回です。 


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