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Pioneer C-21プリアンプの修理 [オーディオ]

2016年5月5日の日記

こどもの日ですね~。それで子供たちをどこかへ連れて行ってやろう,と言ったらしんどいから家にいる~っだって! 子供も大きくなっちゃうとダメですね~......orz。

しかたないのでiruchanは久しぶりに上京して黒田清輝展を見に行ってきました。切手にもなっていて教科書にも載っている "湖畔" や "智・感・情" がとても素晴らしかったです。 "智・感・情" は一見,貧弱な体格の女性の裸体画ですが,日本女性の体格見本という性格もあるらしく,等身大の日本女性を描いて西洋の伝統的な豊満な裸体画に対抗する意味合いもあったようです。

黒田清輝展.jpg 東京国立博物館にて

さて,上野の東京国立博物館から秋葉原へ。ここで部品をひと通り買って北陸へ帰りました。 

で,何の部品を買ってきたか,と言うと.....,

pioneer c-21.jpg Pioneer C-21 preamplifier

取りかえ部品.jpg 秋葉で買ってきた部品

最近入手したパイオニアのC-21プリアンプの修理をしたいと思います。

端正な薄型のデザインがとてもかっこよく,昔あこがれていたプリアンプです。値段も6万円と手頃で,小遣い貯めていつかは....と思っていました。 でも結局,入手したのはあれから30年も経っています。

調べてみると発売は1976年のようで,そんなに古いのか,と言う気もしますが,結構ロングセラーになったようです。

回路を見てみるとカレントミラー負荷差動2段+PPエミッタフォロア(SEPP)出力,と言う構成で,これって金田式DCアンプ? と言うくらい似ています。実際,中を開けてみると金田氏御用達の進工業の金属皮膜抵抗が使われていたり,結構,設計した人は金田式の影響を受けた,という感じがします。使用されているTrは初段2SA906(三菱),2段目2C1775A(日立)の組み合わせで差動2段アンプになっていて,出力は2SA8982SC1903(富士通)のコンプリです。 残念ながら初段はFETじゃないのでDCアンプじゃなく,ACアンプとなっています。2SA906はローノイズオーディオ用で,名石A726の後継品くらいの立場でしょうか。2SC1775もオーディオ用の名石ですね。

電源部は東芝のTO-220型パワーTrの2SB5962SD526を使ったリップルフィルタです。ツェナーDiも入っているので定電圧化されてはいますが, フィードバックループがないので非安定化電源です。まあ,プリアンプだし,全段A級アンプなので電流の変化はなく,これで問題ないと思います。

と言う次第で,回路は至ってシンプルで修理や改造に便利だと思います。初段をJ-FETの2SJ74なんかを使ってDCアンプにしてみたり,出力のエミッタフォロアにモールドの2SA8982SC1903じゃなく,TO-5型メタルキャンのNEC2SA6062SC959を使ってみようか.....などと言う誘惑に駆られますが,iruchanはオーディオも模型もオリジナルを尊重することにしているので,改造はしないことにします。

さて,さすがに製造から30年は経っていると思いますが,内部の部品の劣化や技術の進歩でもっとよい部品が手に入りますので,整備します。また,片ch.が鳴らない,とのことなのでこちらも併せて修理します。こんなの簡単に直っちゃいますので。

置き換えコンデンサ.jpg 

  30年の技術の進歩です。オリジナル新規取替部品です。

購入したC-21は届いてみるととても外観はきれいで,これならなかなかいい感じです。

でも.......。

ふたを開けてびっくり。おもわずウップ となってしまいました.....(>_<)。

もう,モーレツたばこ臭いのです。 

まあ,よくあることなんですけどね。さすがに修理するのにも耐えがたいので,中をばらばらにして基板も含め,すべて風呂場で洗っちゃいました。あとで十分乾燥すれば特に問題ありません。もちろん,数日間は通電禁止です。割に洗剤できれいに臭いが落ちます。

つまみ洗浄中.jpg つまみを洗います。

シャシー洗浄中.jpg  シャシーとパネルも洗いました。

さて,なんとか臭いも落ちたので気を取り直して修理します。

まず気がつくのは電源のフィルタ用電解コンデンサ。日ケミ製のものが使われています。どうも下部に茶色い液体状のものが.....。一瞬,軒並み液漏れと思ったのですが,接着剤のようです。電源用のサイズが大きなものなので長年の間に振動してリード線の根元が折れてしまうため,接着剤で固定しているようです。

ただ,外装のフィルムがすこし後退してしまっています。意外に温度も高いようです。 

電解コン液漏れ.jpg お漏らしじゃありません。

電源部.jpg Diとケミコンを取りかえました。 

小容量のものも容量変化が考えられますので,すべて電解コンデンサは取りかえます。また,基板がたばこ臭い,ということはボリウムやロータリースイッチの接点にもヤニがべったり,と考えられますので,これらは分解して洗浄用のガソリンで接点をきれいにしておきました。もっとも,使われていたAlpsのデテントボリウムや多点式のロータリーSWは密閉性が高いのか,内部はとてもきれいでした。

VR洗浄中.jpg 可変抵抗をホワイトガソリンで洗浄します。

また,例によって電源の整流用ダイオードはファーストリカバリに取りかえます。オリジナルは富士電機のSIB-01-02でした。規格は200V,1Aです。普通のシリコンDiですので,ノイズ抑制のため,パラに0.01μFのセラミックコンデンサが接続されていました。この前修理したPhilipsのCD104でも同じでした。これも古くさくて大きいので取りかえます。最近はセラミックコンデンサは大容量化が進み,10μFなんてのもありますが,オーディオ用としては向いていないのでフィルムに交換しています。

ただ,ここはダイオードが発生する逆向きの電流を吸収するところで,インダクタンス分と共振して周波数は数MHzにも及ぶのでやはりセラミックです。村田の積層セラミックに交換しました。

整流用Diはサンケン製のRG2Zに交換します。200V,1.2A,trr=100nsのウルトラファーストリカバリDiです。やはりオーディオ機器はファーストリカバリがよいです。  

電解コンデンサはニチコンのFine Goldシリーズに交換します。技術の進歩で同じ大きさだと大容量にできますので極力大きなものを入れました。一番大きな1000μF 50Vは3300μFに交換します。ただ,Fine Goldシリーズは50Vは1000μFまでなので,ひとつ下のオーディオ用標準品KW(M)にしました。残念ながら470μF 63Vは同じ大きさで1000μFにできますが,お店の在庫が品切れ。GWのため,問屋さんが休みで入ってこない,とのことであきらめました......orz。

次は,カップリングコンデンサ。

大きな1μFのチューブラ型フィルムコンが目につきます。ノーブル製のものです。

下側に茶色い液体が固まったようなものがついています。最初,液漏れかと思ったのですが,フィルムコンが液漏れするはずがありません。さっきの電解コンデンサ同様,接着剤のようです。

ただ,やはり古いので取りかえておきました。今だと積層フィルムで1μFのものが売られていて,非常に小型で便利なのはいいのですが,これだと小さすぎ,見た目あまりよくありません。

別に見た目が悪いだけでどうということはないんですが,一応,もっと大きなのはないかと秋葉をうろついてみますと独ERO製の大きな角形フィルムが目につきました。EROのフィルムコンはいつも真空管アンプで使っていますので,これにしようと思いました。MKT1841という250V耐圧のものです。 

ERO MKT1841.jpg カップリング用のフィルムコンです。EROの角形に交換します。

あと,EQアンプの出力はカップリングに電解コンが使われているんですが,フラットアンプへ行く方は22μFの2個直列,TAPE出力はタンタルコンデンサの3.3μFの2個直列となっています。 

C-21 equalizer amp.jpg 

      EQアンプ回路(サービスマニュアルから) 

2個直列というのは有極性の電解コンを無極性に変化させるためのもので,無極性のコンデンサが手に入らないときによくやる手です。+または-極同士をつないでやると無極性のコンデンサになります。 

これらはそれぞれ,合成容量は11μFと1.6μFとなりますので,なんとかフィルムコンの守備範囲となります。それぞれ,WIMAの10μFとニッセイの2.2μFの積層フィルムに置き換えました。タンタルコンは一時,高周波特性がよいのではやりましたが,どうにもiruchanは気に入らないので交換します。特にこいつはショートモードで故障するのがネックです。電源のデカップリングなんかに使われていたりすると電源のTrや,下手するとトランスの温度フューズを道連れにして壊れます。トランスの温度フューズはほとんどの場合,交換不能ですのでこれはほんとにとんでもないです。

EQアンプ出力.jpg 左:オリジナル,右:改良後

ところがここでiruchanははまっちゃいました。ここで気づけばよかったんですが......。

フラットアンプの出力は220μFの電解コンと1μFのフィルムがパラになっています。電解の方は2個直列じゃありません。フィルムコンデンサは電解が高周波ではインピーダンスが上昇してくるのでそれを抑えるためのものです。

C-21 flat amp.jpg フラットアンプ回路

   カップリングコンはミスプリです。220μFはもう1個ないとおかしいです。 

回路図にはこうなっているんですが, この回路はあり得ないです。このままだとこのカップリングコンデンサは+の電圧しかかけられません。

さっきも書きました通り,C-21はプッシュプルのエミッタフォロア(SEPP)だし,電源は±2電源となっているので,出力の電位はほぼ0Vです。ただ,実際には+か,-かどちらかにずれるし(オフセット電圧と言います),パイオニアの設計はオフセット調整回路をつけていないので,もとからどちらかにずれているので出力のカップリングコンデンサは無極性でないとまずいのです。フィルムコンだと問題ありませんが,電解だと無極性タイプが必要です。

実際,基板はちゃんとEQアンプ同様,2個の有極性電解コンを背中合わせに直列にしていました。回路図が違うんですね~......orz。

前回のPhilipsのCD104でもトランスの図が違っていましたけど,サービスマニュアルや回路図は信用しちゃいけません。 

ここはさすがに合成容量でも110μFともなり,とてもフィルムじゃ手に負えないので音のよいOSコンにしようと220μFを買っておきましたが,おかげでiruchanは回路図だけを見て購入する部品のリストを作ったので,220μFのOSコンが足りません。最初にフラットアンプをいじっていたので回路図が間違っていることに気づきませんでした。くそ~~~っ!。

ただ,それにしても110μFもの大容量がなぜ必要なのか.....。パワーアンプの入力インピーダンスは半導体アンプの場合,10kΩ程度と低いので大容量のカップリングコンデンサが必要ですが,ここまで大きい必要はないのでは,と思います。10μFくらいのフィルムコンに置き換えたいところです。これでも10kΩの入力インピーダンスに対し,カットオフ周波数は1.6Hzですので十分です。 

しかたないので,また次の機会とすることにし,修理を完了します。

なお,Trの脚は2SA9062SC1775Aなどは真っ黒!! これはたばこの煙じゃなく,空気中の硫黄分と表面にメッキされた銀とが反応して硫化銀となっているためです。 工場地帯などで亜硫酸ガスが多いとか,石油ストーブを使っているとこうなる可能性があります。金メッキだったら問題なかったのですが,金は高いので銀にしたのでしょう。東芝の2SC372みたいな汎用品でも昔は金メッキでしたけどね。スズメッキだとウィスカを生じて隣の電極とショートするし,むしろ,こんなになるんだったらストッキングはかずにナマ脚でよかったんじゃないかと....(^^;)。

キサゲ.jpg キサゲ刷毛できれいにします。

   もちろん,こんなこと通電中にやっちゃいけません!! 

キサゲ1.jpg 

     やっぱ,ナマ脚 だよな~~....。ゾク~っ!!

硫化銀自体はリード線表面にとどまっている分には見た目が悪いだけですが,どうやらモールドの中にまで入り込むらしく,その上,非導電性のため,チップとの接合部まで入り込むと断線するし,その前にノイズを発生するようです。最近だとチップ抵抗の電極部に銀が使われていて,硫化銀のせいで断線することがあり,問題になっているようです。

三菱製のTrに多く,オーディ用の名石である2SA726やソニーのBCLラジオに多用されている2SC710も同じ現象で故障の原因となっています。今回の2段目や定電流回路に使われている日立製2SA8722SC1775も同様でした。ちなみに,日立のこれらのTrの脚が銀メッキされているのは一番古いバージョンだそうです。日立はこの問題に気がついたのか,単にケチっただけなのか,すぐに銀メッキはやめちゃったようで,あとの2SC1775などはスズメッキです。スズメッキだとウィスカの問題が出ますけど,鉛を添加すると止まるそうです。でもこの手も今は例のRoHS指令のせいで使えなくなっています。なお,電極がECBと書かれている2SC1775などは古いタイプです。ドライバ用の2SD756にもECBと書かれたものがありますね。

それと,整流用のDiもよくこうなります。古いDiは必ずこうなっています。なにか,温度によるものもあるのでしょう。今回のSIB01もこうなっていました。こちらはFRDに交換しました。 

Trはiruchanもどうしようかと思いましたが,特にノイズが出ていなければ古いTrがもったいないのでピンを磨いてきれいにしただけとしました。もし,ノイズが出たり,音が出なくなったら交換です。

eq基板(整備後).jpg 整備後のEQアンプ基板です。

フラットアンプ基板(整備後).jpg 同じくフラットアンプ基板です。 

基板上は小さなスチコンが多用されています。スチコンはもう日本では製造されていません。昔は正確なコンデンサというとマイカかスチコンでした。EQ回路なんかに使いましたね。マイカは高いのでもっぱらiruchanはスチコンでした。スチコンはスチロール樹脂でがっちり固められていますので,長期的な安定性も十分です。そこですべてのスチコンはそのままとしました。2個,フラットアンプの位相補正用に4pFのセラミックが使われていたので,3.3pFのディップマイカと交換しました。 また,フラットアンプ▲の写真の下の方に並んでいる電解コンは汎用品です。ここはミューティングリレーの制御回路で,オーディオ用にする必要はありません。

交換部品.jpg これだけ部品を交換しました。疲れた~~。

さて,ここまで来たら片ch.の音が出ない,と言う問題に取り組みます。この場合,たいていは信号経路がどこかで切れているのが原因です。Trが死んでいる,と言うこともありますが,まあ,きちんとしたメーカ製の製品で通常の使い方をしているのならば故障することはないと思います。

一応,基板の状態で各Trが生きていることを確認しておきました。テスターをダイオードチェックモードにしてP-N接合の電圧を測ります。正常なら0.6V前後になるはずです。本来ならTrをハンダから外してやらないといけませんが,たいていは基板にはんだづけしたままの状態でも調べられます。出力段はSEPP回路なので反対の極性のTrがつながっていて難しいですけど,ステレオなので反対側の正常なチャンネルと同じ電圧になればまず大丈夫と考えられます。 

Trチェック.jpg Trをチェックします。すべて正常でした。

次は信号経路がつながっていることを確認していきます。結局,出力部のカップリングコンデンサからゲイン調整のボリウムへ行くところの導通がないことがわかりました。ジャンパー線をはんだづけして修理完了です。やっぱり簡単で,30分ほどで原因判明で修理完了でした。 

ジャンパ線.jpg フラットアンプ出力のジャンパー線 

あとはRCA端子をピカールで磨いたりして再度,組み立てて完了です。 

Pioneer C-21-1.jpg 完成しました!

pilot lamp.jpg パイロットランプは切れてなかったのでそのままです。

電球色LEDにしようかと思いましたけど,ランプの寿命が来るまでこのままにしました。 

さて,ここまで来たら通電して性能を測定しておきます。

【イコライザアンプ】 

C-21 eq特性.jpgEQカーブ

RIAA偏差は最大で0.2dBと優秀でした。左右のレベル差もほとんどありません。耐入力特性も431mV(1kHz)と優秀です。本機は容量負荷と抵抗負荷を切り替えられるようになっていますし,レコードの再生には非常に適していると思います。よほどレコード好きな人が設計したのだと思います。

【フラットアンプ】 

C-21 flat特性.jpg 出力電圧1Vのとき。

こちらはもっと驚き。なんと100kHzまでフラットです。1MHzでもゲインがあるくらいなので,送信塔の近くだとAMラジオが聞こえるかもしれません。たまに回路のパターンがアンテナになって初段のTrで検波され,AMラジオが聞こえることがあります。

若干,左右でレベル差がありますが,それはこのアンプにはゲイン調整があるので十分対応できます。耐入力は1.9Vくらいで,現在のCDプレーヤなどデジタル機器の最大出力には対応しきれません。フルビットだとサチってしまいますが,古い機器はこんなものです。 

こういう具合ですが,長年探していた機種を入手できて喜んでいます。今度の週末は久しぶりにレコードを聴いてみましょう。 


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コメント 2

gpw

接着剤(G17)です、ひどい場合はカーボン化し絶縁不良になります(発熱部品が近くにある場合)
by gpw (2019-07-01 19:31) 

iruchan

どうもご教示ありがとうございました。
by iruchan (2019-07-01 20:30) 

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