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ハイfTトランジスタを用いた高速アンプの製作~その1~ [オーディオ]

2015年8月2日の日記
 

1970年代末から80年代に入る頃,オーディオブームと言うべき状況で,各社ともアンプの高性能化を競っていました。出力は100Wは当たり前,ひずみ率もコンマ以下0がいくつ並ぶか,周波数特性(f特)もできるだけ広いことを競っていました。 そんな世の中でネックになったのがパワーTrのfTが低いことで,従来のパワーTrはfTが数MHzくらいしかなく,100kHzくらいまでフラットのアンプを作ろうとするとどうしてもfTが低いのが邪魔をし,アンプの販売上でも高性能をうたうアンプとしてf特というのは非常に目立つ項目なので,もっと高速なパワーTrを,と言う要求がありました。近いうちにCDも発売されるし,いよいよデジタル時代が来る,と言うこともあったと思います。

そういう要求に応えて,各社でハイfTトランジスタが開発されました。NECのEBT(Emitter Ballast Transistor)や富士通のRET(Ring Emitter Transistor),サンケンのLAPT(Linear Amplified Power Transistor)が有名ですね。松下やソニー,東芝,日立も出していましたが,単にハイfTトランジスタというような名前で固有の名前はなかったように思いますが, 各社,オーディオ用にfTの高いTrを開発して自社のアンプなどに搭載していました。サンケンは今もLAPTの名前で製造していて,とてもいいですね。よそさんはみんなやめちゃいましたから......。

いずれも1チップで大電流を扱う従来のパワーTrと違って,高周波特性のよい小信号用TrのチップをIC技術を用いて多数並べた構造になっていて,大電流と高周波性能の両立を図ったパワーTrのシリーズでした。 

日本の半導体がとても元気で世界をリードしていた時代だったし,オーディオのことも最優先で考えていてくれた時代でよかったな~と思います。 

各社の代表的な素子のスペックを並べておきます。木塚茂著 ”新しいオーディオ・アンプ” (ラジオ技術社1979)を修正・追記しました。

    メーカ    VCEO(V)   IC(A)  PC(W) fT(MHz)

2SA10072SC2337 NEC 130 10 100 50/70

2SA10022SC2322 富士電 120 12 120 40/60

2SA10722SC2522 富士通 120 12 100 60/80 

2SA10672SC2492 サンケン 120 10 100 40/60

2SA10642SC2488 松下 150  8 100 50/50

2SA10282SC2398 ソニー 100 10  95 60/80

2SA10502SC2460 東芝 140 12 100 70/70

2SA10512SC2461 東芝 150 15 150 60/80 

なんか,連番か? と思わせるほど各社の番号が近いのに驚きます。各社一斉に開発したのでしょうけど,こういうところいかにも日本のメーカーだな~と思わせます。どれもfTが50MHzくらいになっていて高速です。PNPの方が遅いのはキャリアが電子よりはるかに重い正孔だからでしょうね。形状はいずれもパワーTrらしく,TO-3型なのも魅力。なお,富士通やソニー,松下はモールドタイプもあります。富士通のは2SA1075/2SC2525がモールドタイプです。有名なNECのA-10アンプに使われていた2SA1227/C2987もモールドですね。ちなみにソニーのはTA-N86に使われています。ソニーのTA-N86についてはこちらで修理記事を書いていますので,よろしければご覧ください。

いずれもfTが40~60MHzくらいあり,NECの定番の素子である2SA627/D188が10MHzであることを考えるとかなりfTがUPしていることがわかります。

もっとも,金田式アンプでは音が悪いとされ,これらのハイfTrが出力の石として用いられることはなかった,と思っていたのですが,調べてみるとDCアンプシリーズNo.28(MJ '78.3号)でRET2SA1002/2SC2322が登場しているようです。この号は持っていないのですが,その後,一度も登場していないのでやはりDCアンプの主役になることはなかったようです。確かに,入力容量も大きく,小さなチップを多数並列にする,というのは複数の音が重なってそうで,音が良さそうにない,と思えるのは確かです。実際,終段がパラPPのアンプでさえ,いやがる人が多いですからね。MOS-FETも同じ構造で,実際,私も何台もMOS-FETのアンプを作りましたが,どれも音が眠く,音のよいアンプとは思えませんでした。

それに,これらのTrは高かったので,当時,買うことができませんでした。手持ちのMJ '84.2号の某通商会社? の広告を見ると2SA1007A/2SC2337Aのコンプリが1,900円,富士通の2SC1072/2SC2552が1,500円ですが,2SA1028/2SC2398だとなんと5,800円もします。その割にこのTrはfTが高いかわりVCEOが低く,100W級のアンプに使うには安全を考慮してパラ接続が必要です。どうもこの会社の製品はどれも性能はいいけど,値段が高いし使いにくい,ということがありますね......(^^;)。

ちなみに2SA627/2SD188だと半額以下の700円です。これじゃ買えんわけだな~。 むしろ,ハイfTのパワーTrは音が悪い,なんて書いてあるとホッとした記憶があります。

と言うわけですが,私はどうもハイfTrに惹かれます。やはり技術の粋を尽くした最後のオーディオ用素子だからでしょうか。それとも高くて買えなかった悔しさからでしょうか。これらの素子はMOS-FETが普及してくると消えていきます。MOS-FET自体は最初はとても値段が高かったですが,回路的にはバイポーラTrよりドライバ回路が簡単になるし,熱的にも安定なのでバイポーラTrのような温度補償回路を必要としなかったりするので,ほかの部分でコストダウンができることからオーディオでもMOS-FETが幅をきかせるようになりました。特にモータ制御にMOS-FETが使われるようになると量産効果で素子もどんどん安くなり,生産数が圧倒的に少ないオーディオ用ではかえってコストがかかってしまう,と言うのが消えていった理由だと思います。今じゃMOS-FETはとても安いですからね。でもモータ回してるやつじゃろくな音がしないと思いますので,いまだにMOS-FETや最近だとUHC-MOSだとか,SiC MOSなんかは興味ありません。

と言う次第で,これらのハイfTトランジスタを使ったパワーアンプを前から作ってみようと思っていました。電源もトロイダルトランスが安く手に入りますし,ちょっと作ってみようと思いました。

先日,YAHOO!で富士通のハイfTrを落札したので,今日は掃除です。誰も今時このようなTrに注目していないので放熱器つきのを安く落札できました。放熱器も高いですからね。これからこのパワーTrを用いてアンプを作ろうと思っています。

2SA1072, 2SC2322放熱器.jpg ヤフオクで落札した2SA1002C2322

ところが届いてみてびっくり。メーカが富士通じゃなく,富士電機じゃ,あ~りませんか! 富士通だとF のマークですが,富士電機は古河電気工業とシーメンスが合弁で作った会社なので,f  と を組み合わせたマークになっています。 なお,このマークは富士電機のwebを見ると1978年まで使われていたらしいので,このTrもその頃までの製造でしょう。私は中坊だな~。その頃にゃもうMJ(もちろん当時は "無線と実験" でしたけどね)読んでたのでませたガキだな~。

CQ出版の規格表にも上記の本にも富士通と書いてあったので,ちょっと驚きました。

2SA1072, 2SC2322.jpg 富士通製2SA1072と並べてみました。

違いはマークのみですね~。 おそらく富士電機と富士通は親子の関係なので,半導体の製造は一部,分業していたのではないでしょうか。たぶん,親会社の富士電機の方はディスクリートが得意なので,TO-3型のパワーTrは富士電機の製造で,一部をOEMで富士通のブランドで売っていたのでは,と推測しています。

有名なパイオニアのM-25パワーアンプはMN25/MP25という変わった型番のTrが使われています。 fのマークが入っているので,富士電機製です。▲のうちのどれかだと思っています。

白いシリコングリスがべったりと放熱器についていて,みっともないし,放熱器も少し汚れていたので清掃しました。それにシリコングリスも古くなって乾燥してしまうと熱伝導率が下がるので,このように中古の素子を使うときは一度,きれいに洗い流した方がよいと思います。

白ガソリン.jpg 間違っても頭からかぶって火をつけたりしてはいけません......。

このように油関係で汚れたものの洗浄にはホワイトガソリンが便利です。白ガソリンとか洗浄用ガソリンと呼ばれます。

でもなかなか売っていなくて手に入りません。一部のガソリンスタンドで売っている,という話もあるのですが。ホームセンターで売っているガソリンは草刈り機用のやつで,エンジンオイルが混じった2サイクルエンジン用のものなのでこれも使えません。結局,アマゾンで買いました。ガレージゼロと言うお店の商品です。1リットルで〒込み999円でした。

やはり見事にシリコンオイルが洗浄できます。Trもピカピカになりました。

さて,次は放熱器を加工します。▲の写真をご覧になっておわかりになると思いますが,なぜか片方の放熱器が薄紫色をしていて,色がおかしいです。それに,シャシーの上に放熱器を置くつもりですが,角が取っていなくて,このままじゃケガします。おまけに,なぜかパワーTrの取付位置が真ん中じゃなくて,下の方になっています。TO-3P形のモールドパワーTrを基板に直づけするときなどはこうしますけど,TO-3形の場合はちょっと変です。穴を開け直してパワーTrを真ん中につけたいと思います。

色については,おそらく,アルマイト加工するときに色をつけたのだと思います。また,角を細かい目のやすりで削りました。こうするとアルミの地金が出てしまいますので,アルマイト加工の色を消すとともにアルミ地金に塗装をするのでつや消し黒で塗装しました。 なお,アルミの塗装の前には必ずプライマーの塗布が必要です。専門家はウォシュプライマーを使いますが,これは2液性で有毒らしいので,アマチュアは市販のスプレーでいいと思います。私はいつもミッチャクロンを使っています。まあ,ウォッシュプライマーほどじゃないですけど,塗膜もはがれにくくなり,アルミの塗装には必須です。

放熱器再塗装.jpg 塗装中です。

放熱器再塗装1.jpg パワーTrを取り付けました。 

これから部品をそろえて製作に取りかかります。 つづきはこちらへ......。


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コメント 2

ks

往時の高ftのTRは魅力的ですね。
私も以下の3種をため込んでます。
2SA1007 2SC2337 日電
2SA1041 2SC2431 富士通
2SA1227A 2SC2987A 日電
続編を楽しみにしてます。
by ks (2015-09-17 00:52) 

iruchan

ksさん,どうもコメントありがとうございます。

日電の2SA1227Aのコンプリをお持ちとはうらやましいです。名石ですね。富士通の2SA1041のコンプリは知りませんでした。どうもご教示ありがとうございました。

あと,ソニーファンなので2SA1028のコンプリがほしいですが,ソニーの石は無理ですね~。

残念ながら,部品集めで止まっています。ドライバは2SA606/C959にするつもりですが,実家に置いてあるので.....。

それにトランスが問題で,トロイダルにしようかと思ったら今売っているやつは2次側が電圧が1種類しかなく,ドライバ段どうすんだよ~って感じです。タンゴが廃業してトランジスタ用のトランスがなくなってしまったのが痛いです。

何とか来月にはプリント基板を作って報告したいと思います。
by iruchan (2015-09-17 08:05) 

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