デジタルアンプLepai LP-2020の改造~その3~ [オーディオ]
2015年4月18日の日記
今日は,前回まででやりのこした中国Lepai社製のLP-2020A+というデジタルアンプの周波数特性を改善したいと思います。
驚いたことに,本機の周波数特性が思いの外悪く,特に低域が200Hzくらいから大幅にレスポンスが下がり,昔の真空管アンプなみです。
Tripathのデータシートを見ても,カマデンや若松通商が出していたキットの説明書を見ても,低周波の特性は優秀で,20Hz付近でも-0.1~-0.2dBくらいです。元々デジタルアンプは出力にローパスフィルタが必須なので高周波は苦手ですが,低周波は得意なはずで,純粋なDCアンプにすることも可能なはずです。ただ,CDプレーヤやデジタル機器はDCを出力してしまうことがあるため,パワーアンプはACアンプとするのが常識となってしまっていて,デジタルアンプも途中にカップリングコンデンサを入れてDC分はカットしてしまいます。
こんなに低周波の特性が悪いのはLP-2020A+はどこかに設計ミスがあるはずで, 実際に中の回路を調べてみたいと思います。何か,デジタルアンプは高周波が苦手,と思っていたので思わぬところに伏兵がいた,という感じです。
まず,出力のTA2020の周辺を見てみますが,入力にカップリングコンデンサ2.2μFが入っています。その直後の抵抗は15kΩで,計算してみるとカットオフ周波数は4.8Hzですから問題ありません。Tripathの規格表でもR=20kΩですから,カットオフ周波数は3.6Hzと大差なく,問題ない値だと思います。
とすると,問題は前段のプリアンプ周辺です。
プリアンプはJRC(新日本無線)のNJM4558が使われています。デュアルのOPアンプとして定番のものですね。私もよく使いました。音も定評があり,このLP-2020もほかのOPアンプに差し替えてみてもよいかと思いますが,私は4558は結構気に入っているので取替はしません。オリジナルは米Raytheon社です。同社は真空管,半導体の名門でしたが,日本の電機メーカにやられ,1960年代から軍需産業に転身しました。おそらく,このOPアンプはミサイル制御用に開発されたものだと思います.....。おっかねぇ~。
ただ,本機は電源が12Vのみで,内部でもそのまま使われていますので,本来,4558は正負両電源(±15V)で使うのが正規ですが,12V単電源で使用されています。本来なら現在はNJM2904など,単電源専用のOPアンプが発売されているので,そういったICを使うべきなんでしょうが,コストの問題なのか昔ながらのOPアンプが使われています。
OPアンプを+側だけの電圧で使う場合,直流信号の場合は問題ないですが,オーディオなど,交流信号を扱う場合はマイナス側の振幅になっても増幅できるよう,入力端子を1/2Vccとしておく必要があるため,+側の入力端子に1/2Vccの電圧を加えます。▼の図で+側入力端子に入っている2個の10kΩはこのためです。Vccを分圧して半分の電圧がかかるようにしています。後で述べるLP-2020も同様です。そのため,回路が少しややこしくなっていますのでご注意下さい。
と言う次第で,このOPアンプの入出力部分を調べてみます。回路はこのようになっていました。
回路としてはOPアンプを使用した反転増幅回路になっています。詳細な全体回路図についてはhamlinさんが載せています。ぜひご覧下さい。
この場合,ゲインは
のとおりで,-がついているのは振幅が反対になるからです。また,入力抵抗RiはRsそのものとなります。
ん~,でも,どうも音量調整用のボリウムの使い方が変ですね。普通,こんな使い方はしません。
音量調整は普通はちゃんと入力の電圧を調整して行うもので,ボリウムはOPアンプの前段に設置します。本機の回路だとNF量を変化させてゲイン(音量)を調整しています。
まあ,確かにこの方法でも音量の調整は可能ですが,問題は入力抵抗Riまで変わってしまうことです。入力のカットオフ周波数は
で表されますが,本機のような使い方だとボリウムの位置でカットオフ周波数まで変わってしまいます。
で,昔はどうだったのか,と思って調べてみると,たまごかけごはんさんのブログにLP-2020の回路が出ていました。基板のシリアル番号から見てもちょっと古めの回路のようです。お二人ともリンクのご許可をいただいたのでリンクを張らせていただきます。
初期版? のLP-2020だとプリアンプ周辺の回路はこうなっています。
こちらはOPアンプを使った非反転増幅器で,我々が通常作るオーディオアンプは普通非反転増幅器でつくりますからこれです。
LP-2020のプリアンプ回路はどこにもおかしな点はなく,ごく普通の回路です。ボリウムの使い方もこれが普通です。
ただ,ゲインは不足気味で,この式で計算してみたら10dBくらいしかありません。シミュレーションでも同じ結果が出ました。LP-2020はこのあとにCR形のトーンコントロールが入り,その挿入損失は20dBくらいあり,また,Tripathの規格表にあるとおりTA2020のゲインは12dBほどですから,アンプ全体のトータルゲインはほぼ0となってしまいます。
ということでこれを改善しようとLP-2020A+ではこの辺の回路が設計変更されたと思います。
早速,上記の2つの回路をspiceでシミュレーションしてみました。
使っているフリーのLTspiceは製作元のリニアテクノロジー社のモデルしか入っていなくて,4558もないので苦労しましたが,テキサスインスツルメンツがモデルを出していて,LTspiceに移植しました。一応,正規に4558のモデルでシミュレーションしています。
一番下がLP-2020のプリアンプの周波数特性です。やはり10dBくらいのゲインしかありません。ただ,非常にフラットで,低周波特性も満足すべきものです。
一方,上の2つはLP-2020A+のプリアンプの周波数特性で,やはりボリウムの位置で周波数特性が変わります。ゲインは最大26dBくらいですが,これくらいは必要だと思います。
ボリウムの位置を1/10(角度にして30゜)の場合とフルの場合(300゜)の場合を見ると,フルにボリウムを回すと周波数特性は75Hz~25kHz(-3dB)といった感じです。これじゃ低域のカットオフ周波数が高すぎます。
と言う次第で,この低域カットオフ周波数をせめて20Hzにしたいと思います。
要はこの部分の時定数を大きくすればよいので,手としてはカップリングコンデンサの容量upか,OPアンプ入力に使用されている10kΩの抵抗3つ(ステレオだと6つ)をもっと大きな値のものに交換するか,です。残念ながらチップ抵抗の交換は面倒ですので,コンデンサの交換にしました。
カップリングコンデンサを10μFと47μFに増量した結果を▲に示します。最低でも10μFは必要な感じです。高い方もなんとかしたいと思います。位相補正用の180pFが異様に大きい値で,これを小さくするか,OPアンプを交換すれば改善できます。基板はSSOP用の4558がついていますので,取替は面倒だし,4558は割に気に入っているOPアンプなのでやめました。元気のある方は試してみて下さい。
と言う次第で,カップリングコンデンサを増量することにしました。手持ちで日ケミのKMシリーズの16V 47μFがあったので交換しました。普通だったら10μFでも十分です。残念ながらこんな大容量のフィルムコンはないので,電解です。もし,タンタルコンデンサがあると高周波特性がよいのでよいと思います。
さすがに電解コンデンサをカップリングに使うことにしたのでフィルムコンをパラにしました。 なお,電解コンデンサには極性がありますので,ご注意下さい。入力のRCA端子側が-,OPアンプ側が+です。
カップリングコンデンサを取り替えるついでに,OPアンプの電源に入っていた470μFを,前回取り外した2200μFのものと交換し,大幅増量しました。
さて,周波数特性です。実測結果を示します。
ボリウム最大の時の状態です。大幅に低周波特性が改善されました。20Hzで-0.4dBです。まあ,こんなものではないでしょうか。
さて,つぎはいよいよ.....,お楽しみ......。音を聴いてみたいと思います。
某美人の科学者? に倣って画像を切り貼りして,最近,気に入っているNHKの "世界入りにくい居酒屋" 風にしてみました......(^^;)。
昨年,747のラストにあわせて沖縄に行ったときからすっかり気に入ってずっと泡盛を飲んでいます。おいし~!!
スピーカはこの前作ったバックロードホーンBW-800とFOSTEX FE87の組合せです。 とりあえず,パソコン用スピーカとして使っています。
やっぱ,最初に聴くのは "Let it go~ありのままで~" ですね~。松たか子さん,女の子ご出産おめでとうございます。私も最初の子を産んだ産まれたとき, とてもうれしかったのを覚えています。もうその子は中学生ですけどね....。
それにしてもうちの娘はなぜかキョーフのリケ女の道を歩んでいて,刺繍やビーズは興味ないくせになぜか電子工作に興味があるようです。秋葉でもなぜか娘さんが部品屋を継いだりしてますし,松たか子さんもそうですが,娘の方が父親の影響を受けるのでしょうか?
アンプの方は,それにしても音のよいことにびっくり。音がひずみがなく低音から高音まで透きとおっていて,解像度も高く,左右のセパレーションのよさも感心します。 なによりノイズが少ないのも驚きです。どうもアナログのアンプはどんなにS/Nのよいアンプでも背後でザワザワとノイズがしている気がしますが,このアンプはそんなことはありません。
オークレールのメンデルスゾーンVn協なんかも聴いてみましたが,古い録音なのにヴァイオリンの響きも美しく,ハッとするような響きがして驚くほどHiFiでした。
本当に恐ろしいほど音のよいアンプであることに驚きます。何十万円もするアナログのアンプに勝った,と言う評はあながち間違いでないことに感心させられました。それに,これでたったの3,000円ほどなんですから驚異です。
残念ながら電源がショボく,ACアダプタが家であまっているので,ACアダプタなしのを買いましたが,もう使っていないルータについていた12V 1Aのものを活用したので,ちゃんとした専用電源を作ってやろうかと思います。できればトランスと大容量ケミコンを使ったアナログ電源? にしてやりたいところです。
2015年6月14日追記
LP-2020A+の改造はこれでおしまい,のつもりでしたが,まだ改造しちゃいました。続きを読みたいという奇特な方はその4へ。
この記事を参考に、私が持っている3台のLP-2020のカップリングコンデンサの容量増を計画して秋月電子通商にコンデンサを注文致しました。情報ありがとうございました。
新たに購入したLP-2024は2020よりボリュームをかなり上げないと充分な音量になりません。仕様なのか入力オペアンプに問題があるのか不明ですが‥‥。これもカップリングコンデンサは追加する予定です。
by SKG (2015-06-15 11:32)
SKGさん。どうもコメントありがとうございます。
入力のコンデンサは10μF以上必要です。もっとも,本ブログのf特は音量のボリウム最大の状態で,f特的には最悪の状況です。実際に音楽を聴く場合はもっとボリウムを絞った状態ですから,こんなには悪くないのですけどね。
といって,アンプの設計者としてはボリウムの位置でf特が変わらないように設計するのは当然だと思うのですが.....。
なお,LP-2024A+はOPアンプは変わっていますが,その他の回路や定数は変わっていないし,デジタルアンプICもTA2020とTA2024では同じです。と言う次第で,ゲイン的にはLP-2020A+と同じはずですが,また調べてみます。
by iruchan (2015-06-15 21:26)
容量についてのご注意ありがとうございます。
私が購入したものは33μFのバイポーラ電解コンデンサで、今日、3台のLP-2020A+と1台のLP-2024のカップリングコンデンサを全て増量し終わりました。
2020の方はチップコンデンサなので並列に追加しましたが、2024の方は、普通のバイポーラが付いていて、これを取り除くのが結構厄介でしたが。
メインのスピーカ(FW225Kバスレフ+EAS5HH17G)をドライブしている一番新しいLP-2020A+は、電源コンデンサも3300μFに交換しました。
これも元もと付いていた2200μFを取り除くのにちょっと苦労しましたし、3300μFが大きくてスペースに収めるのにちょっと苦労しました。
カップリングコンデンサにはフィルムコンデンサをパラッた方が良さそうですが、追加するかどうかは未定です。
by SKG (2015-06-22 19:39)
訂正
誤:FE225WK
正:FF225WK
LP-2024のゲインが低い(実用上は寝室用でニアフィールド使用な
ので問題ない)原因は今のところ不明です。何か判りましたらよろしくご教示ください。
by SKG (2015-06-22 19:46)
SKGさん
カップリングコンデンサにフィルムコンをパラにするのは電解コンデンサの周波数特性が悪いからです。OSコンなど,高周波特性のよいコンデンサの場合は不要です。
また,電源に入っている電解コンデンサはフィルタで,リップルを取り除くためのものです。ACアダプタなど,スイッチング電源を使っている場合はリップルが高周波のため,容量はあまり大きくても意味がありません。
上記,どちらもちょっと私の知識が古いためで,昔の常識に基づいてやっているだけで,そんなに現在ではメリットはないと思います。
ゲインについては現在,ちょっと忙しいので調べられません。いずれどちらも歪率計で出力を調べようと思っているので,そのときまでお待ちください。
by iruchan (2015-06-23 04:37)
iruchan 様
詳しいご説明ありがとうございます。
> OSコンなど,高周波特性のよいコンデンサの場合は不要です。
33μFはニチコンのMUSE-ES 25V 85℃ のバイポーラです。
「カップリングコンデンサ」と言っても、負帰還回路に絡むので位相特性が悪いとまずいのかも知れませんが付けていません。
> ACアダプタなど,スイッチング電源を使っている場合はリップルが高周波のため,容量はあまり大きくても意味がありません。
使っているスイッチング電源の応答速度が判らないので気休めみたいなものですね。聴いても効果は判らないし面倒なので他の3台は交換する予定はありません。
by SKG (2015-06-23 09:44)
iruchan 様
ゲインの件はもしかしたら単にボリュームのカーブがAカーブより更に初期上昇が少ないDカーブに近くなっているのかも知れません。
by SKG (2015-06-23 20:13)
SKGさん
ボリウムは昔はCカーブがありましたが,今はほとんどA(対数型)かB(直線型)です。
小音量時に調整がしやすいAカーブが音量調整に使われ,単に比例して電圧が変化するBカーブは計測に使われます。
LP-2020の初期型にはBカーブが使われていたようですが,LP-2020A+もLP-2024A+もAカーブのようです。
ゲインについては,歪率計で調べるまでお待ちください。
by iruchan (2015-06-23 21:24)
> LP-2020の初期型にはBカーブが使われていたよう
> ですが,LP-2020A+もLP-2024A+もAカーブのよ
> うです。
我が家の3台のLP-2020A+の内、先に買った2台は
Bカーブで、電源を切った時のポップノイズも大き
いです。最後に買った1台はAカーブで電源を切っ
てもポップノイズは出ません。
3台持っている Sony TA-F222ESJ はネットオーク
ションに放出する予定です。
by SKG (2015-09-21 00:39)
高域の改善については何も書かれていませんが、周波数特性(実測)では改善が見られます。C2の180Pを小さくす良いよいのでしょうか?
by audiomaniajp3 (2018-03-05 17:03)
高域については20kHzまでフラットなので問題ないと考えています。
ここはアナログ部分じゃなく,PWM方式のスイッチング周波数(約1MHz)をカットするため,アンプの出力部分に入っているLPFで周波数の上限が決まってしまいます。
ですから,ご指摘の通り,180pFを小さくすればアナログ部分は改善されるのですが,パワーアンプ全体としては出力のLPFで制限されるので変わりません。
by iruchan (2018-03-05 21:15)